特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第137話

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「虎君大好き……」
 僕を見下ろす虎君の頬に手を添え、胸が苦しいほどの想いを伝える。『好き』って気持ちが大きくなりすぎて胸が破裂しそう。と。
 すると虎君はおもむろに顔を近づけてきて、そのままチュッと吸い付くようなキスをくれた。
 一度、二度、唇を啄むキス。触れるだけのキスなのに心が蕩けてしまうのはきっと『大好き』という想いのせいだ。
「どうすれば『愛してる』って想いがすべて伝えられるんだろうな……」
「もう十分伝わってるよ……?」
 額を小突き合わせてくる虎君が呟いた言葉に、僕はちゃんと想いはすべて伝わってると笑った。
 でも虎君はそんな僕に苦笑を見せ、「残念だけど」と言葉を続けた。
「10分の1も伝わってないよ。絶対に」
「! そんなことないでしょ? 虎君の想いはちゃんと伝わってるもん」
 虎君が僕をとても大切に想ってくれているって分かってるのに、伝わっていないと言われるのは心外だ。その上『10分の1も伝わってない』なんて、流石に大げさすぎ。
 僕が不満を口にすれば、虎君はご機嫌をとるようにキスしてくる。
 もちろんキスしてくれるのは嬉しいけど、でも誤魔化されてる感が否めないから僕はついつい唇を尖らせてしまうのだ。
「拗ねた顔も可愛い」
「……『可愛い』は好きじゃない……」
「知ってる。でも、俺からだったら好きだろ?」
 尖らせた唇に落ちてくるキス。虎君は『違わないよな?』と僕を見下ろす。
 僕のことを僕以上に知っている人にはなんでもお見通し。だから隠し事なんてできるわけがない。
 僕はまだちょっぴり不満を残しながらも違わないから虎君の首に腕をまわし、もっとキスしてと強請った。
「もっと僕のこと触って……?」
「言われなくても」
 虎君がくれるキスが好き。愛しげに触れる手も、大好き。
 胸に触れる掌からきっとこのドキドキは伝わっているはず。そして触れられることに期待している身体も、きっと全部知られている。
 虎君の手が僕の胸を撫でるたび、指が乳首を捏ねるたび、キスをしている唇から漏れる声は『もっと』と期待が籠ったもので恥ずかしい。
 きっと普段なら恥ずかしすぎて逃げ出していただろう。でも、今は愛し合っている最中だから羞恥も我慢できた。
 嘘。『我慢』なんて必要ない。だって、羞恥心なんて感じる暇がないほど虎君に夢中だから……。
「気持ちいい……?」
「ん……、きもちぃ……」
 放された唇に投げかけられた質問。僕はトロンと蕩けた思考のまま頷き、虎君に触れるのが気持ちいいと素直に伝えた。
 虎君は僕の答えに満足したのか嬉しそうに笑ってもっと気持ちよくなって欲しいともう一度だけ唇にキスを落とすとそのまま唇を首筋にはわせ、吸い付くように何度もキスを落としてきた。
 首筋に吸い付くキスはくすぐったい。けど、くすぐったいだけじゃなくて、快楽もちゃんと僕の身体に届けてくれる。
「あっ……、んっ……、と、らく……、くすぐ、たい……」
 時折強く吸われ、皮膚にピリッとした痛みを覚える。もちろんそれは痛いだけじゃなくて、下肢にもどかしい快楽を生んで身体がより強い刺激を求めるようになった。
 虎君は僕の身体のそんな変化を知ってか、唇を更に下に這わせ、さっきまで手で触れていた胸に首筋にしたようなキスを何度も落としてきた。
(やだ……、かって身体が動いちゃう……)
 虎君が胸元に吸い付くようなキスを落とす度、下肢がもどかしくて足をくねらせてしまう。でも、より強い快楽を求める身体の反射的な動きはそれだけじゃなくて……。
「腰が揺れてるぞ?」
「ふぇ……?」
「それに、さっき出したばかりなのにまた勃ってる」
 僕の胸元で顔を上げる虎君は胸を触っていた手を再び反応を見せる僕の下半身に伸ばし、そしてそれを包み込んだ。
「! ん―――っ、あぁんっ、あ、あっ、っ……、とらく、ま、まって、まってぇっ」
「俺は触ってるだけだよ? ……腰を動かしてるのは葵だよ?」
 下肢が燃えるように熱くなっていると訴える僕は、虎君にこの快楽の制止を求めた。
 だけど虎君は自分は手を動かしていないと笑い、僕自身が快楽を追い求めているんだと胸を、乳首を甘く噛んできた。
「! あぁっ! とらく、だめっ、だ、めぇっ……」
 自分の想像を遥かに超えた過ぎる快楽に身体が仰け反る。
 必死に頭に流れ込む快感を逃がそうと無意識に身体が反応するんだけど、反応する動きが更なる快楽を生んで『気持ちいい』と『怖い』で思考はぐちゃぐちゃになる。
 嬌声交じりに虎君に助けを求める僕。すると虎君は僕の下肢に触れていた手を放し、舌の先で舐めていた僕の乳首から唇を離した。
 頭が真っ白になるぐらい強烈な快楽は次の瞬間一気に引いて、火照った身体だけが残された。
 荒い呼吸を繰り返す僕。虎君はないも言わずただ黙ってそんな僕を見つめていた。
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