特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第136話

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「俺の葵は相変わらず思い込みが激しいな」
「そ、れは……、ごめ、ってば……」
「聞こえないよ」
「んっ、いじわ、いわな、で……ちょ、と、とらくっ」
 クスクス笑いながら啄むキスを沢山くれる虎君は、なんだかちょっぴり意地悪。だって僕が喋ろうとするたびに言葉を遮るようにキスしてくるんだもん。
 僕は喋らせてと横を向いたりして虎君からのキスから逃げようと思うんだけど、顎を掴まれ強制的に虎君の方に顔を戻されてしまう。
 喋れないと訴える僕。でも、虎君はじゃれ合いのようなキスを止めてくれない。
「とらくっ、んっ、ね、ねぇ、ちょ、おねが、ま、て」
「ダメ。約束を破った罰だから我慢して」
 軽いキスの雨は全然止まない。それどころか下唇を甘噛みして焦らすようなキスが時折混じって、それが色情をまた目覚めさせてしまって……。
 僕は喋ることを諦めて……というか、喋ることよりも愛し合いたい気持ちが強くなって虎君からのキスに身を任せるように甘いキスに夢中になる。
 でも、舌を絡める深いキスが欲しいと願っても一向にそれは貰えなくて、心も身体も焦れてしまう。
「触るよ……?」
「ん……早く……」
 さっきまでの子猫のじゃれ合いの雰囲気は消え、恋人としての時間が流れる。
 僕はドキドキと鼓動する自身の心臓の音が身体中に響くのを感じながら、さっきもらった快楽への期待に胸を高鳴らせた。
「! んぁ」
 情けないほど上擦った声が寝室に響く。自分の耳にも鮮明に届いたその音は、今更ながら酷い羞恥を僕に与えた。
 思わず両手で自分の口を塞いでしまう僕。キスしていた虎君はそれにちょっぴり驚いた顔してみせる。
「こら。何してるんだ」
「だ、だって……」
 驚いた顔が破願して愛しげに目を細められる。その眼差しがあまりにも愛しみに満ちていて、心臓が更にドキドキしてしまう。本当、これ以上ドキドキしたら死んじゃいそうだ。
 僕は口を手で塞いだままくぐもった声で「変な声出たから……」と言い訳の言葉を口にしたけど、虎君は僕の手にキスを落としてそれを退けるよう言ってきた。
「で、でも……」
「葵の可愛い声、俺はもっと聞きたい」
「か、わいくなんてないよっ」
「可愛いよ。本当、凄く可愛い……」
 それに凄く興奮する。
 そう耳に唇を寄せて囁く虎君はきっとわざと吐息がかかるように囁いたに違いない。
 耳から虎君の愛が身体に浸透してゆくのを感じる僕は、全身から力が抜けてしまう。
 口を塞いでいた自分の手を握り締め、甘ったるい声をまた発してしまった。まぁそれに気づいたのは虎君が嬉しそうに笑って僕を見下ろしていたからなんだけど……。
「本当に感じやすいな」
「そ、そんなこと言われても分かんないっ」
 そもそも、それって誰と比べてるの?
 恋人とエッチしてる時に他の人と比べるようなことを言うのはマナー違反だよね?
 経験がないから分かんないと虎君を涙目ながらも睨めば、自分の失言に気づいたのかごめんと謝られた。
「ひどいっ! 僕だけって言ったの、嘘だったのっ?」
「! 違う! そうじゃなくてっ! そういう意味の『ごめん』じゃなくて―――」
「ならどういう意味なのっ? なんで他の人のこと知ってるのっ?」
「それは、その、調べてた時にAVも見たりしたから……」
 何故僕が感じやすいと思ったか説明してくれる虎君は、失言を重ねたと僕の肩に頭を預け、ぎゅっと抱きしめてきた。
 他の人と比べる言葉は失言だけど、今のそれの何処が失言なのか僕にはわからない。むしろ僕とエッチするために調べていたと言われたら嬉しいとさえ感じるのに。
「そういう動画見てやっぱり女の人の方が良いって一瞬でも思っちゃった……?」
 さっきの言葉が『失言』になる可能性は何か考えて真っ先に出てきたのは男同士で愛し合うことへの抵抗感を感じたと言うものだった。
 僕が『違うよね?』と願いを込めて尋ねれば、虎君は『当たり前だ』と言わんばかり。
「まさか。……そもそも俺が見てたのはゲイビ……男同士の動画だから女の人は出てきてない」
「そ、なんだ……」
 あくまでもヤリ方を知るために見ただけで浮気心は一切なかったって真顔で弁解する虎君。だけど、折角弁解してくれたのに申し訳ないけど僕の心にはヤキモチを妬くような不安は欠片も存在しなかった。
 だって、虎君が見てるのは、想ってるのは僕だけだって言葉以上に伝わったから……。
「僕とエッチしたいから見てたの……?」
「そうだよ。……って、これじゃヤル気満々みたいだな。いや、まぁ、実際そうなんだけど……」
 今の俺、めちゃくちゃカッコ悪いな……。
 そう項垂れる虎君だけど、全然カッコ悪くなんかない。むしろ僕のことを心から愛してくれてる虎君は本当に世界一カッコいいんだから。
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