特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第150話

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 優しい虎君に僕は小さく唸り声をあげ、そのまま椅子からずり落ちるように虎君の胸に飛び込んでしまう。折角用意してもらったお昼ご飯が冷めちゃうかもしれないけど、今は虎君の傍にいたかったから。
 虎君はそんな僕をしっかり抱き留め、笑う。幸せ過ぎて夢を見てるみたいだ。なんて言いながら。
「虎君、ごめんね。本当に、本当にごめんねっ」
 ぎゅーっと力いっぱい抱き着く僕は、ちゃんと愛し合えなかったのに『幸せ』と言ってくれてありがとうと伝える。
 僕も今凄く幸せだよ。そう涙声を続ければ、虎君は僕の全てを包み込むように抱き締め、髪に口づけを落としてきた。
「そんなに謝らなくていいよ。もし葵が眠らなくても、きっとあれ以上進めなかったと思うから……」
「え……? な、なんで……?」
 むしろ寝落ちてくれてよかったと笑う虎君に、僕の眉は下がってしまう。
(なんで『進めなかった』なんて言いうの? 僕のこと、愛してるって言ってくれてたのに、どうして……?)
 愛を疑っているわけじゃない。本当、虎君の愛はこれ以上ないほど伝わってる。でも、でも―――。
「虎君……。僕と愛し合いたくないなら、はっきり言ってね……?」
 抱きしめてくれる腕のぬくもりを、力強さを感じるから、分からなくなる。
 『愛してる』とこんなにも伝えてくれているのに、どうして僕を『欲しい』と想ってくれないの……?
「こら。また変な勘違いしてグルグルしてるな?」
「! とりゃくん、にゃにしゅりゅの」
 僕のほっぺたに手を添えると、虎君はこれでもかとほっぺたを押し潰してくる。これじゃ、なんでこんなことするの? って質問をぶつけようにもうまく喋れなくて全然伝えられない。
 案の定、虎君は何を言っているか分からないとくしゃっと破顔して笑っていて……。
(酷い! 虎君が喋り辛くしてるのに!)
 楽しげに笑う虎君は僕のほっぺたを放すどころか掌を動かしぐりぐりと押し揉んでくる。
 おかげで僕はますます喋り辛くなって、不満を伝えることを諦め虎君の気が済むまで僕を苛めるその手に身を任せることにした。
 するとすぐに反応を返さなくなった僕に気づいたのか、虎君は僕のほっぺたを弄る手を止めるとそのまま頬っぺたを押し潰されているせいで突き出されたままの唇にチュッとキスしてきた。
「……俺だってできることなら今すぐにでも葵とセックスしたいよ」
「! でも、『出来ない』って……」
「『出来ない』なんて言ってないだろ? 俺は『進めなかった』って言ったんだよ?」
 俺はこんなに葵が欲しいのに、酷い勘違いだな。
 虎君は苦笑交じりにもう一度僕を胸に引き寄せると、今だって勃ちそうでヤバいんだからな? なんて言ってくる。
「う、嘘……?」
「嘘なわけないだろ? ほら、な?」
 腰に添えられた手は僕の身体を引き寄せ、自身に密着させてくる。すると、伝わってくるのは虎君の興奮で……。
(こ、これ、虎君の……)
 言葉だけじゃなく身体で伝えられた欲情に顔が熱くなる。
 狼狽えながらも顔を上げれば、「嘘じゃないだろ?」と少し照れくさそうに笑う虎君の顔がすぐ傍に。
 僕は無言のまま頷き、虎君の胸に顔を埋める。
「今まではこうやって抱きしめても我慢出来てたんだけど、昨日の葵が忘れられなくてこれから暫くは触るだけでも勃ちそうだ」
 虎君の腕は僕を抱きしめたまま、笑う。
 でも、その朗らかな声とは裏腹に物凄く我慢しているってことは、その胸に顔を埋めているからちゃんと理解できた。
(虎君、凄くドキドキしてる……)
 伝わってくる鼓動。そして、いつもより熱い体温。
 昨夜の出来事を思い出したことも相まって、僕まで口から心臓が飛び出そうなほどドキドキしてきちゃった。
(まだお昼だけど、でも、でも虎君と愛し合いたい……)
 昨日は寝落ちちゃったけど、今は起きたばかりだからその心配もないはず。
 だから、虎君が求めてくれるなら、僕は今直ぐに虎君のものになりたい……。
「と、虎君、あの、あのねーーー」
「ダメ。その先は言わないで」
「! ど、して……?」
 今から愛し合おう? って誘いの言葉を口にしようとしたら言葉を遮るように抱きしめられる。
 蘇る不安。でもさっきも頭を過った可能性は『違う』と否定されているから、僕は答えを求めて虎君を呼んだ。
「葵を傷つけたくない」
「? 傷ついてなんかないよ……?」
 むしろ拒まれる方が傷つくよ? って言いたかったけど、虎君の頼りない声を聞いたらその言葉は口には出せなかった。
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