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初めての人
初めての人 第18話
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「慶史、また身長、伸びた……?」
「え? 身長? さぁ? 最近測ってないから分からないけど、伸びてるんじゃない?」
「そ、そっか……」
「もしかして、不調の原因ってそれ??」
嘘でしょ? って言いたげな声で尋ねられたら肯定し辛いから止めてもらいたい。
僕は俯き、小さな声で自分が一番身長が低い気がしてショックを受けたことを伝えた。慶史から返ってくるのは呆れたと言わんばかりの溜め息だ。
「別に身長なんてどうでも良くない?」
「! 良くない!!」
「なんで? どうして背が高くなりたいの?」
「なんでって、そりゃ僕だって男だし……」
「男は身長高くないとダメなの? 身長低い男は男じゃないの?」
「それは―――、そんなことは、ないけど……」
ぶつけられる疑問に口籠ってしまう。どうして身長を気にするのかと改めて尋ねられたら明確な答えが自分の中に無いと言うことに気付かされた。
そもそも僕が背が高くなりたいと思ったのは、自分が思い描く男性像があるから。でも、そもそもどうしてその男性像が理想なのかと尋ねられたら、『なんとなく』としか答えられない。
(昔は確かに『虎君みたいになりたい』って思ってたけど……)
虎君は僕の理想であり憧れ。ずっとそう思っていたけど、自分の想いを自覚してからそもそもその理想と憧れがズレていたと思う。
僕が『虎君みたいになりたい』と願ったのは、『大好きな虎君とずっと一緒にいたい』という想いが根底にあったから。いつか別々の道を歩むと思っていたから、せめて離れていても虎君を傍に感じて安心したかった。だから『虎君みたいになりたい』と思っていたんだ。
それが今じゃそんな虎君とこの先ずっと一緒にいようって約束してる。だから僕は以前ほど『虎君のようになりたい』と思わなくなった。
でも、長年思い描いた『理想像』だけは自分の中に残っていて、それが僕に『背が高くなりたい』と思わせていた。
「まぁ『背が低い』って気にする気持ちは分かるけどさ、正直、気にしたところで自分の力じゃどうにもならないんだし、気にし続けてもナンセンスじゃない?」
「う……、それはそうだけど……」
「そもそも『背が高い』イコール『かっこいい』とか、メディアに毒され過ぎ。俺から言わせてもらえば本当のカッコよさなんて外見的なものじゃなくて内面的なものだしね」
背が高かろうが低かろうが内面がカッコよくなかったらそれは絶対にカッコイイとは言えない。
言い切った慶史は僕に合わせてしゃがみ込むと、「そもそも身長を伸ばして『カッコイイ男』になって何がしたいの? ありていに女子にモテたいとか?」と尋ねてきた。
「そういう理由なら、仕方ないけど落ち込んでもいいよ。確かに世の中の大半の女子は高身長の男が好きだろうからね」
可愛い彼女が欲しいならそう言ってよ! なんて、意地悪な笑顔。僕はほっぺたをぷくっと膨らませて「そんなわけないでしょ」って慶史を睨んだ。
女の子にもてたいなんて正直今まで考えたことなんてないし、『彼女』が欲しいと思ったことすらない。僕には虎君がいるし、これから先も虎君以外欲しくない。
絶対それを分かってて言ってるだろう慶史は、「なんだ。違うのか」って笑ってる。
「意地悪!」
「はは。ごめんごめん。でも、俺のおかげで気づけたでしょ? 身長が伸びなくても落ち込む必要なんてないんだって」
「! 知らないっ!」
からかいを含んだ物言いにその通りだと認めるのは悔しい。だからついつい悪態を吐いてしまう。
慶史は楽しげな声をあげて笑うと、体調が悪いわけじゃないなら教室に戻ろうと立ち上がった。
「お前ら何してんだ? ……葵? 気分でも悪いのか?」
「あ。モンペ候補に見つかったじゃない」
早く立ってと促されたのに子供染みた反抗心でしゃがみこんだままだった僕にかけられるのは、那鳥君の心配そうな声。
慶史は苦笑いを浮かべると心配してくれている那鳥君に「ただの反抗期だから気にすんな」なんて言うから本当、意地悪だと思ってしまう。
「なんだ? また慶史に苛められたのか?」
「俺は苛めてませーん。葵の自滅でーす」
そうやって憶測で人を悪者にするのは良くないと思いまーす。
そう言って慶史は僕達を残し、歩き出してしまった。
既に体育館の人の姿はまばらになりかけていて、教室に戻るだろう人はしゃがみ込んだ僕の姿に何事かと一度こちらに視線を向けてくる。僕は慌てて立ち上がると心配してくれる那鳥君に何でもないと空笑いを返し、教室に戻ろうと促した。
僕の様子を気にしながらも隣を歩く那鳥君は先を歩く慶史を呼び、自分の目の届く範囲にいるよう命令口調で言った。
「那鳥君、夏休みに何があったの? 始業式の前、教室で言ったよね? 慶史が『先輩達に迷惑をかけた』って」
「あー……、それなぁ……」
那鳥君は今聞いてくるかと苦笑を漏らし、少し考えた後、慶史に聞くよう言ってきた。それに僕はどうして教えてくれないのかと眉を顰めてしまう。
一体慶史は何に巻き込まれたのだろうか。そして、それを知る那鳥君に何を言って口止めをしたのだろうか……。
「慶史に何を言われた?」
「鋭いな」
「だって那鳥君らしくないもの。『慶史に聞いてくれ』って、それって何があったか知ってるけど言えないってことでしょ? 何があったか知らないわけじゃないのにそう言うってことは慶史が無茶苦茶言って口止めしたから以外考えられないよ」
訴えかけるように見上げれば、返ってきたのは困ったと言わんばかりの苦笑いだった。
「え? 身長? さぁ? 最近測ってないから分からないけど、伸びてるんじゃない?」
「そ、そっか……」
「もしかして、不調の原因ってそれ??」
嘘でしょ? って言いたげな声で尋ねられたら肯定し辛いから止めてもらいたい。
僕は俯き、小さな声で自分が一番身長が低い気がしてショックを受けたことを伝えた。慶史から返ってくるのは呆れたと言わんばかりの溜め息だ。
「別に身長なんてどうでも良くない?」
「! 良くない!!」
「なんで? どうして背が高くなりたいの?」
「なんでって、そりゃ僕だって男だし……」
「男は身長高くないとダメなの? 身長低い男は男じゃないの?」
「それは―――、そんなことは、ないけど……」
ぶつけられる疑問に口籠ってしまう。どうして身長を気にするのかと改めて尋ねられたら明確な答えが自分の中に無いと言うことに気付かされた。
そもそも僕が背が高くなりたいと思ったのは、自分が思い描く男性像があるから。でも、そもそもどうしてその男性像が理想なのかと尋ねられたら、『なんとなく』としか答えられない。
(昔は確かに『虎君みたいになりたい』って思ってたけど……)
虎君は僕の理想であり憧れ。ずっとそう思っていたけど、自分の想いを自覚してからそもそもその理想と憧れがズレていたと思う。
僕が『虎君みたいになりたい』と願ったのは、『大好きな虎君とずっと一緒にいたい』という想いが根底にあったから。いつか別々の道を歩むと思っていたから、せめて離れていても虎君を傍に感じて安心したかった。だから『虎君みたいになりたい』と思っていたんだ。
それが今じゃそんな虎君とこの先ずっと一緒にいようって約束してる。だから僕は以前ほど『虎君のようになりたい』と思わなくなった。
でも、長年思い描いた『理想像』だけは自分の中に残っていて、それが僕に『背が高くなりたい』と思わせていた。
「まぁ『背が低い』って気にする気持ちは分かるけどさ、正直、気にしたところで自分の力じゃどうにもならないんだし、気にし続けてもナンセンスじゃない?」
「う……、それはそうだけど……」
「そもそも『背が高い』イコール『かっこいい』とか、メディアに毒され過ぎ。俺から言わせてもらえば本当のカッコよさなんて外見的なものじゃなくて内面的なものだしね」
背が高かろうが低かろうが内面がカッコよくなかったらそれは絶対にカッコイイとは言えない。
言い切った慶史は僕に合わせてしゃがみ込むと、「そもそも身長を伸ばして『カッコイイ男』になって何がしたいの? ありていに女子にモテたいとか?」と尋ねてきた。
「そういう理由なら、仕方ないけど落ち込んでもいいよ。確かに世の中の大半の女子は高身長の男が好きだろうからね」
可愛い彼女が欲しいならそう言ってよ! なんて、意地悪な笑顔。僕はほっぺたをぷくっと膨らませて「そんなわけないでしょ」って慶史を睨んだ。
女の子にもてたいなんて正直今まで考えたことなんてないし、『彼女』が欲しいと思ったことすらない。僕には虎君がいるし、これから先も虎君以外欲しくない。
絶対それを分かってて言ってるだろう慶史は、「なんだ。違うのか」って笑ってる。
「意地悪!」
「はは。ごめんごめん。でも、俺のおかげで気づけたでしょ? 身長が伸びなくても落ち込む必要なんてないんだって」
「! 知らないっ!」
からかいを含んだ物言いにその通りだと認めるのは悔しい。だからついつい悪態を吐いてしまう。
慶史は楽しげな声をあげて笑うと、体調が悪いわけじゃないなら教室に戻ろうと立ち上がった。
「お前ら何してんだ? ……葵? 気分でも悪いのか?」
「あ。モンペ候補に見つかったじゃない」
早く立ってと促されたのに子供染みた反抗心でしゃがみこんだままだった僕にかけられるのは、那鳥君の心配そうな声。
慶史は苦笑いを浮かべると心配してくれている那鳥君に「ただの反抗期だから気にすんな」なんて言うから本当、意地悪だと思ってしまう。
「なんだ? また慶史に苛められたのか?」
「俺は苛めてませーん。葵の自滅でーす」
そうやって憶測で人を悪者にするのは良くないと思いまーす。
そう言って慶史は僕達を残し、歩き出してしまった。
既に体育館の人の姿はまばらになりかけていて、教室に戻るだろう人はしゃがみ込んだ僕の姿に何事かと一度こちらに視線を向けてくる。僕は慌てて立ち上がると心配してくれる那鳥君に何でもないと空笑いを返し、教室に戻ろうと促した。
僕の様子を気にしながらも隣を歩く那鳥君は先を歩く慶史を呼び、自分の目の届く範囲にいるよう命令口調で言った。
「那鳥君、夏休みに何があったの? 始業式の前、教室で言ったよね? 慶史が『先輩達に迷惑をかけた』って」
「あー……、それなぁ……」
那鳥君は今聞いてくるかと苦笑を漏らし、少し考えた後、慶史に聞くよう言ってきた。それに僕はどうして教えてくれないのかと眉を顰めてしまう。
一体慶史は何に巻き込まれたのだろうか。そして、それを知る那鳥君に何を言って口止めをしたのだろうか……。
「慶史に何を言われた?」
「鋭いな」
「だって那鳥君らしくないもの。『慶史に聞いてくれ』って、それって何があったか知ってるけど言えないってことでしょ? 何があったか知らないわけじゃないのにそう言うってことは慶史が無茶苦茶言って口止めしたから以外考えられないよ」
訴えかけるように見上げれば、返ってきたのは困ったと言わんばかりの苦笑いだった。
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