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初めての人
初めての人 第30話
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「それ、どういうこと……?」
「葵君、汐君が那鳥君に気がある振りをしてたの、気づかなかった?」
「! そ、そうだったの?」
全然気づかなかったと言葉を零してしまうのは、汐君が誰を見ていたか知っているからだ。
(た、確かに那鳥君と最初から仲良さそうだったけど、でも汐君、ずっと悠栖のこと気にしてたよね?)
何故か突然お昼ご飯を一緒に食べることになった悠栖の親友であり今は恋人の汐君は、確かに初めから那鳥君とよく話していた。
でもそれを間近で見ていても『那鳥君のことが好きなのかな?』なんて疑問は全く抱かなかった。だって汐君、ずっと悠栖を気にしていたから。
だから那鳥君と仲良くなっても気が合ったんだろうなって思っただけ。那鳥君と喋りながらもずっと僕達と喋っていた悠栖を気にかけていた汐君に、特に深く考えることもなく『悠栖のことが好きなんだなぁ』って思っていただけ。
そして同時に『想いを伝えられないって辛いよね』と、同情すら抱いたものだ。
それをそのまま伝えたら、那鳥君は「誰の目から見ても唯哉の好意が誰に向いてたかなんて明らかだったよな」と笑って汐君も悠栖が鈍かったことを感謝しているはずだと言った。もし悠栖が聡ければ計画は成り立たなかったから。と。
「唯哉、俺に気がある振りをして悠栖に嫉妬させたかったんだとよ。なんか、『可能性を感じたからそれに縋った』って言ってた。……まぁ、嫉妬どころか普段と何も変わらなかったら気持ちを伝える気はなかったみたいだけど」
「朋喜じゃないけど、俺も汐のやり方は姑息だと思うかなぁ。悠栖が相手なら仕方ないとも思うけど」
「なんだよそれ。どういう意味だよ」
「お前、汐に真正面から『好きだ』って言われたら絶対フってただろ? 上野にしたみたいに」
慶史が言うには、悠栖が最初に抱いていたのは『恋心』ではなく『親友をとられたくない』という子供じみた独占欲で、親友が色恋に目覚めて自分から離れるかもしれないと焦ってようやく想いが育ち始めたということらしい。
それには僕と朋喜も同意して、「そうだね」と深く頷きを返す。僕は正直、悠栖が汐君を恋愛的な意味で好きになるとは思ってなかったしね。
「そっか。だから『卑怯』とか『姑息』になるんだね」
「なんでマモまで納得してんの? つーか駆け引きなんて普通のことだろ!?」
人の恋人を悪く言うなと僕達を睨んでくる悠栖。
怒っている悠栖には悪いけど、汐君のことが大好きで堪らないんだろうなって微笑ましくなってしまってついつい笑ってしまう。
もちろん、なんで笑うんだ! って更に怒らせることになっちゃうんだけど。
「ごめんね、悠栖。そんなに怒らないでよ」
「慶史と朋喜は性格的に仕方ねぇーけど、まさかマモまでこいつらと一緒とかすげぇショックなんだけど!」
「ちょっと。山ほど迷惑かけておいてなんなのその言い草」
「うるせぇ! 俺が迷惑かけたことは悪かったと思うけど、でもそれがチカのことを悪く言っていい理由にはなんねーだろうが!」
自分に対する暴言は流せるけど、大好きな恋人に対するそれは絶対に許せない。
そう言いたげに強いまなざしでにらむ悠栖に、慶史は「認めたらここまで開き直れるのか」と笑う。笑って、改めて暴言とは違うことを悠栖に伝えた。
「嘘つけ! 明らかに貶してるじゃねーか!」
「貶すために言ったんじゃなくて、客観的事実を述べたまでだよ」
「だからなんでそんな事実になるんだよ!?」
肩を竦ませる朋喜に詰め寄る悠栖。
朋喜は「恋は盲目とはよく言ったものだよね」とため息を吐くと汐君を『ズルい』と言った理由を悠栖に伝えた。
「汐君がとった方法って、上野君が先に告白して玉砕したのを間近で見ていたからこそ思いついたものでしょ?」
「そーそ。正攻法でぶつかってダメだった上野がいたからこその成功だよな?」
「悠栖、言ったよね? 最近上野君の機嫌が悪いって。汐君にやたらと絡んでくるって。きっと上野君も同じことを思ってるからじゃないかな?」
苦笑交じりに『客観的事実』を伝える朋喜と慶史に、悠栖は思うところがあるのか反論せず眉を下げて口を閉ざした。
拗ねているような傷ついているようなその表情に、助け舟を出すのは那鳥君だった。
「そうか。そういう理屈なら『姑息』で『卑怯』なのは俺だな。俺が唯哉にそう振舞うように言ったんだから」
「! ど、どうして? なんでそんなことを言ったの?」
「俺は唯哉が悠栖に惚れてることも悠栖が唯哉に惚れてることもすぐにピンときたからだよ」
「はぁ? 何言ってんの? 悠栖は最初は汐に恋愛感情なんて持ってなかったからな?」
「それは慶史の見解だろうが。俺の見解はそうじゃないってだけだから突っかかるなよ」
自分の考えを否定された気がしたのかムッとする慶史。
それに那鳥君は苦笑を漏らし、知り合って日が浅いからこそわかる真実があると教えてくれた。
相手を知れば知るほど鮮明になる真実もあれば、相手を知れば知るほど見えなくなる真実もある。そう言いながら。
「この中で悠栖だけだったんだよ。俺に壁作ってたの。……いや、壁っていうかむしろ警戒されてたって感じかな?」
「『警戒』? この悠栖が?」
「おう。なんつーか、態度がよそよそしいくせにじっと観察するように見られてる感覚っていうのかな。まぁ、好意的じゃなかったってことは確かだったな」
立ち上がる那鳥君は笑いながら悠栖の頭をポンポンと叩く。
悠栖はバツが悪そうに不貞腐れながらもその手に抵抗はしなかった。思い当たることがあるのだろうか?
慶史は何か言いたげな顔をしていたけど那鳥君に反発することなく、「悠栖が警戒とか想像できない」と背もたれに身を預けて深く息を吐いた。僕も朋喜も慶史に完全に同意だ。
「葵君、汐君が那鳥君に気がある振りをしてたの、気づかなかった?」
「! そ、そうだったの?」
全然気づかなかったと言葉を零してしまうのは、汐君が誰を見ていたか知っているからだ。
(た、確かに那鳥君と最初から仲良さそうだったけど、でも汐君、ずっと悠栖のこと気にしてたよね?)
何故か突然お昼ご飯を一緒に食べることになった悠栖の親友であり今は恋人の汐君は、確かに初めから那鳥君とよく話していた。
でもそれを間近で見ていても『那鳥君のことが好きなのかな?』なんて疑問は全く抱かなかった。だって汐君、ずっと悠栖を気にしていたから。
だから那鳥君と仲良くなっても気が合ったんだろうなって思っただけ。那鳥君と喋りながらもずっと僕達と喋っていた悠栖を気にかけていた汐君に、特に深く考えることもなく『悠栖のことが好きなんだなぁ』って思っていただけ。
そして同時に『想いを伝えられないって辛いよね』と、同情すら抱いたものだ。
それをそのまま伝えたら、那鳥君は「誰の目から見ても唯哉の好意が誰に向いてたかなんて明らかだったよな」と笑って汐君も悠栖が鈍かったことを感謝しているはずだと言った。もし悠栖が聡ければ計画は成り立たなかったから。と。
「唯哉、俺に気がある振りをして悠栖に嫉妬させたかったんだとよ。なんか、『可能性を感じたからそれに縋った』って言ってた。……まぁ、嫉妬どころか普段と何も変わらなかったら気持ちを伝える気はなかったみたいだけど」
「朋喜じゃないけど、俺も汐のやり方は姑息だと思うかなぁ。悠栖が相手なら仕方ないとも思うけど」
「なんだよそれ。どういう意味だよ」
「お前、汐に真正面から『好きだ』って言われたら絶対フってただろ? 上野にしたみたいに」
慶史が言うには、悠栖が最初に抱いていたのは『恋心』ではなく『親友をとられたくない』という子供じみた独占欲で、親友が色恋に目覚めて自分から離れるかもしれないと焦ってようやく想いが育ち始めたということらしい。
それには僕と朋喜も同意して、「そうだね」と深く頷きを返す。僕は正直、悠栖が汐君を恋愛的な意味で好きになるとは思ってなかったしね。
「そっか。だから『卑怯』とか『姑息』になるんだね」
「なんでマモまで納得してんの? つーか駆け引きなんて普通のことだろ!?」
人の恋人を悪く言うなと僕達を睨んでくる悠栖。
怒っている悠栖には悪いけど、汐君のことが大好きで堪らないんだろうなって微笑ましくなってしまってついつい笑ってしまう。
もちろん、なんで笑うんだ! って更に怒らせることになっちゃうんだけど。
「ごめんね、悠栖。そんなに怒らないでよ」
「慶史と朋喜は性格的に仕方ねぇーけど、まさかマモまでこいつらと一緒とかすげぇショックなんだけど!」
「ちょっと。山ほど迷惑かけておいてなんなのその言い草」
「うるせぇ! 俺が迷惑かけたことは悪かったと思うけど、でもそれがチカのことを悪く言っていい理由にはなんねーだろうが!」
自分に対する暴言は流せるけど、大好きな恋人に対するそれは絶対に許せない。
そう言いたげに強いまなざしでにらむ悠栖に、慶史は「認めたらここまで開き直れるのか」と笑う。笑って、改めて暴言とは違うことを悠栖に伝えた。
「嘘つけ! 明らかに貶してるじゃねーか!」
「貶すために言ったんじゃなくて、客観的事実を述べたまでだよ」
「だからなんでそんな事実になるんだよ!?」
肩を竦ませる朋喜に詰め寄る悠栖。
朋喜は「恋は盲目とはよく言ったものだよね」とため息を吐くと汐君を『ズルい』と言った理由を悠栖に伝えた。
「汐君がとった方法って、上野君が先に告白して玉砕したのを間近で見ていたからこそ思いついたものでしょ?」
「そーそ。正攻法でぶつかってダメだった上野がいたからこその成功だよな?」
「悠栖、言ったよね? 最近上野君の機嫌が悪いって。汐君にやたらと絡んでくるって。きっと上野君も同じことを思ってるからじゃないかな?」
苦笑交じりに『客観的事実』を伝える朋喜と慶史に、悠栖は思うところがあるのか反論せず眉を下げて口を閉ざした。
拗ねているような傷ついているようなその表情に、助け舟を出すのは那鳥君だった。
「そうか。そういう理屈なら『姑息』で『卑怯』なのは俺だな。俺が唯哉にそう振舞うように言ったんだから」
「! ど、どうして? なんでそんなことを言ったの?」
「俺は唯哉が悠栖に惚れてることも悠栖が唯哉に惚れてることもすぐにピンときたからだよ」
「はぁ? 何言ってんの? 悠栖は最初は汐に恋愛感情なんて持ってなかったからな?」
「それは慶史の見解だろうが。俺の見解はそうじゃないってだけだから突っかかるなよ」
自分の考えを否定された気がしたのかムッとする慶史。
それに那鳥君は苦笑を漏らし、知り合って日が浅いからこそわかる真実があると教えてくれた。
相手を知れば知るほど鮮明になる真実もあれば、相手を知れば知るほど見えなくなる真実もある。そう言いながら。
「この中で悠栖だけだったんだよ。俺に壁作ってたの。……いや、壁っていうかむしろ警戒されてたって感じかな?」
「『警戒』? この悠栖が?」
「おう。なんつーか、態度がよそよそしいくせにじっと観察するように見られてる感覚っていうのかな。まぁ、好意的じゃなかったってことは確かだったな」
立ち上がる那鳥君は笑いながら悠栖の頭をポンポンと叩く。
悠栖はバツが悪そうに不貞腐れながらもその手に抵抗はしなかった。思い当たることがあるのだろうか?
慶史は何か言いたげな顔をしていたけど那鳥君に反発することなく、「悠栖が警戒とか想像できない」と背もたれに身を預けて深く息を吐いた。僕も朋喜も慶史に完全に同意だ。
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