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初めての人
初めての人 第31話
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「だから、あの時はマジで悪かったって言ってるだろうが! 何回謝れば許してくれるんだよっ」
「いや、別に怒ってないぞ? 好きな相手が奪われるかもしれないって焦ってるんだろうなって思ってただけだし」
「! ちがっ! いや、違わないけど!!」
「あの時のお前は微笑ましかったよ。唯哉もな。……今は鬱陶しいただの猿だけどな」
楽しげな笑顔から一転して遠い目をする那鳥君に、悠栖は顔を赤くして「猿って言うな!」って反論。
それを適当にあしらいながらも那鳥君は僕達に向き直り、
「そういうわけで、唯哉はなにも悪くないからそこんところよろしく」
「そういう理由なら、まぁ……」
「納得しといてやるよ。一応な」
全然納得してない感じだけど、慶史と朋喜はそもそも悪口じゃなったけどもう汐君を『卑怯』だとか『姑息』だとか言わないと二人に約束する。
那鳥君は機嫌を直すよう悠栖の頭をまたぐしゃぐしゃと撫でて笑っていて、その笑顔がとても楽しげでちょっとだけ心が温かくなる。だって悠栖ってばすごく嫌そうなのに黙ってされるがままなんだもん。
(なんかものすごく『青春』って感じだよね)
「……なぁ、頼むからそんな顔で見んなよ……すげぇハズい……」
「ごめん。でも二人がすごく仲良くなってて嬉しいなぁって思ったらつい見ちゃってた」
悠栖が那鳥君のことを大好きになってよかった!
そう笑えば、居た堪れないと悠栖は蹲ってしまった。素直に自分の気持ちを伝えただけなのにダメだったのかと那鳥君達に視線を向ければ、那鳥君は赤い顔をして咳払いをして平静を装おうとしているし、朋喜は苦笑いを浮かべているし、慶史にいたっては半目になって呆れ顔を見せていた。
みんなの様子に今度は僕が焦る番で、変な空気にしてごめん……と思わず俯いてしまった。
「本当、葵ってピュアだよね。あの欲塗れの獣の恋人とは思えない」
「! もう! 呼吸するように悪口言わないでよ! 僕には言わないって約束してくれたでしょ?」
僕のことをバカにするのはいいけど、その為に虎君を巻き込まないで欲しい。いや、そもそも僕のこともバカにしてほしくないんだけど。
不満を訴える僕に、慶史は肩を竦ませて「だって事実だし」と悪びれない。本当、意地悪だ。
僕がほっぺたを膨らませて不機嫌をあらわにすると、朋喜が慶史のフォローを入れてくれる。ヤキモチだから気にしないで。と。
「お兄さんが葵君のことを本当に本当に大切にしてるんだなってこの夏休み中教えられてたから、ね?」
「それは関係ないし」
苦笑交じりの朋喜の言葉にそっぽを向く慶史。言葉では否定しているけど、態度と表情は肯定を物語っていた。
僕はそんな二人に『夏休み中』に『誰に』、『何』を『教えられてた』と言うのかと疑問をぶつけた。
僕と虎君のことを知っている共通の知り合いなんて瑛大ぐらいしか思い当たらない。けど、瑛大が慶史達と楽しく談笑している姿がどうしても想像できなくて、困惑してしまう。
「千景先輩からだよ。先輩、お盆休み明けから入寮してほぼ毎日慶史君の部屋に遊びに来てたから」
「! そうだ! ちーちゃん! なんでちーちゃんが寮に入ってるの? 家から通ってたよね?」
「そーだよ。葵と一緒で全寮制の男子校の規則無視して実家から通ってたよ。1学期はね」
「家から通ってるのは母さんが許してくれなかったからで、僕だってできるなら寮に入りたかったんだからね?」
僕だって好きで家から通っているわけじゃないと訴えるのは、周囲から『MITANI』はやっぱり特別扱いされると言われていると知っているから。
母さんと姉さんが反対しなければ僕だってみんなと一緒に寮に入っていたと訴えれば、今も同じ気持ちかと意地悪な質問をされてしまった。
「千景君と一緒ならおばさん達、説得できるんじゃない?」
「! そ、それは、そうかもしれないけど、でも、でも……」
確かにちーちゃんがいれば、僕が入寮したいとさえ言ったら寮生になれる気がする。
でも、3年前と違って僕は『入寮したい』とどうしても言えない。言いたくない。
だって、言ったら虎君に茂斗のような想いをさせてしまうから。ううん。虎君だけじゃない。僕も同じだ。
(虎君に逢えないなんて、絶対ヤダ……)
毎日逢いたいのに、できることならずっと一緒にいたいのに、寮に入ったら月に1度逢えるかどうかも怪しくなる。
そんなの、絶対我慢できない。寂しくて恋しくて堪らなくなってしまうに決まっている。
口を噤んだ僕の耳に聞こえるのは盛大なため息で、「冗談だからそんなに落ち込まないでよ」と誰かの手がぽんっと頭に乗せられた。
「慶史、ごめんね……」
「なんで謝るの? 大体、千景君がいるから寮に入っていいって言ってくれるなら、おばさんと桔梗姉はとっくにそう言ってるでしょ。言われてないってことは、千景君がいてもダメってことだよ」
「そ、そうかもしれないけど、でも、違う気がするもん……」
「違わないよ。千景君も言ってたけど、本家と分家じゃ扱いに差があるのは当然なんだし」
跡取りじゃなくとも本家の次男坊に万が一のことがあったら大問題を通り越しちゃうからね。
そう言った慶史は「意地悪してごめん」と苦笑交じりに謝ってきた。
「ぶっちゃけ千景君の入寮は結構揉めたみたいだし、葵は家から通うのが正解なんだよ」
「マジで? ちー先輩、寮に入っちゃダメだったのか?」
僕が後ろめたさを感じる必要はないと言ってくれる慶史。そんな慶史の言葉に反応するのは悠栖で、入寮の時に揉めた記憶がないと首をかしげていた。
「いや、別に怒ってないぞ? 好きな相手が奪われるかもしれないって焦ってるんだろうなって思ってただけだし」
「! ちがっ! いや、違わないけど!!」
「あの時のお前は微笑ましかったよ。唯哉もな。……今は鬱陶しいただの猿だけどな」
楽しげな笑顔から一転して遠い目をする那鳥君に、悠栖は顔を赤くして「猿って言うな!」って反論。
それを適当にあしらいながらも那鳥君は僕達に向き直り、
「そういうわけで、唯哉はなにも悪くないからそこんところよろしく」
「そういう理由なら、まぁ……」
「納得しといてやるよ。一応な」
全然納得してない感じだけど、慶史と朋喜はそもそも悪口じゃなったけどもう汐君を『卑怯』だとか『姑息』だとか言わないと二人に約束する。
那鳥君は機嫌を直すよう悠栖の頭をまたぐしゃぐしゃと撫でて笑っていて、その笑顔がとても楽しげでちょっとだけ心が温かくなる。だって悠栖ってばすごく嫌そうなのに黙ってされるがままなんだもん。
(なんかものすごく『青春』って感じだよね)
「……なぁ、頼むからそんな顔で見んなよ……すげぇハズい……」
「ごめん。でも二人がすごく仲良くなってて嬉しいなぁって思ったらつい見ちゃってた」
悠栖が那鳥君のことを大好きになってよかった!
そう笑えば、居た堪れないと悠栖は蹲ってしまった。素直に自分の気持ちを伝えただけなのにダメだったのかと那鳥君達に視線を向ければ、那鳥君は赤い顔をして咳払いをして平静を装おうとしているし、朋喜は苦笑いを浮かべているし、慶史にいたっては半目になって呆れ顔を見せていた。
みんなの様子に今度は僕が焦る番で、変な空気にしてごめん……と思わず俯いてしまった。
「本当、葵ってピュアだよね。あの欲塗れの獣の恋人とは思えない」
「! もう! 呼吸するように悪口言わないでよ! 僕には言わないって約束してくれたでしょ?」
僕のことをバカにするのはいいけど、その為に虎君を巻き込まないで欲しい。いや、そもそも僕のこともバカにしてほしくないんだけど。
不満を訴える僕に、慶史は肩を竦ませて「だって事実だし」と悪びれない。本当、意地悪だ。
僕がほっぺたを膨らませて不機嫌をあらわにすると、朋喜が慶史のフォローを入れてくれる。ヤキモチだから気にしないで。と。
「お兄さんが葵君のことを本当に本当に大切にしてるんだなってこの夏休み中教えられてたから、ね?」
「それは関係ないし」
苦笑交じりの朋喜の言葉にそっぽを向く慶史。言葉では否定しているけど、態度と表情は肯定を物語っていた。
僕はそんな二人に『夏休み中』に『誰に』、『何』を『教えられてた』と言うのかと疑問をぶつけた。
僕と虎君のことを知っている共通の知り合いなんて瑛大ぐらいしか思い当たらない。けど、瑛大が慶史達と楽しく談笑している姿がどうしても想像できなくて、困惑してしまう。
「千景先輩からだよ。先輩、お盆休み明けから入寮してほぼ毎日慶史君の部屋に遊びに来てたから」
「! そうだ! ちーちゃん! なんでちーちゃんが寮に入ってるの? 家から通ってたよね?」
「そーだよ。葵と一緒で全寮制の男子校の規則無視して実家から通ってたよ。1学期はね」
「家から通ってるのは母さんが許してくれなかったからで、僕だってできるなら寮に入りたかったんだからね?」
僕だって好きで家から通っているわけじゃないと訴えるのは、周囲から『MITANI』はやっぱり特別扱いされると言われていると知っているから。
母さんと姉さんが反対しなければ僕だってみんなと一緒に寮に入っていたと訴えれば、今も同じ気持ちかと意地悪な質問をされてしまった。
「千景君と一緒ならおばさん達、説得できるんじゃない?」
「! そ、それは、そうかもしれないけど、でも、でも……」
確かにちーちゃんがいれば、僕が入寮したいとさえ言ったら寮生になれる気がする。
でも、3年前と違って僕は『入寮したい』とどうしても言えない。言いたくない。
だって、言ったら虎君に茂斗のような想いをさせてしまうから。ううん。虎君だけじゃない。僕も同じだ。
(虎君に逢えないなんて、絶対ヤダ……)
毎日逢いたいのに、できることならずっと一緒にいたいのに、寮に入ったら月に1度逢えるかどうかも怪しくなる。
そんなの、絶対我慢できない。寂しくて恋しくて堪らなくなってしまうに決まっている。
口を噤んだ僕の耳に聞こえるのは盛大なため息で、「冗談だからそんなに落ち込まないでよ」と誰かの手がぽんっと頭に乗せられた。
「慶史、ごめんね……」
「なんで謝るの? 大体、千景君がいるから寮に入っていいって言ってくれるなら、おばさんと桔梗姉はとっくにそう言ってるでしょ。言われてないってことは、千景君がいてもダメってことだよ」
「そ、そうかもしれないけど、でも、違う気がするもん……」
「違わないよ。千景君も言ってたけど、本家と分家じゃ扱いに差があるのは当然なんだし」
跡取りじゃなくとも本家の次男坊に万が一のことがあったら大問題を通り越しちゃうからね。
そう言った慶史は「意地悪してごめん」と苦笑交じりに謝ってきた。
「ぶっちゃけ千景君の入寮は結構揉めたみたいだし、葵は家から通うのが正解なんだよ」
「マジで? ちー先輩、寮に入っちゃダメだったのか?」
僕が後ろめたさを感じる必要はないと言ってくれる慶史。そんな慶史の言葉に反応するのは悠栖で、入寮の時に揉めた記憶がないと首をかしげていた。
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