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初めての人
初めての人 第40話
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「いってぇ! 何すんだ!?」
一瞬星が飛んだと額を抑えて慶史の暴力に非難の声を上げる悠栖だけど、慶史はその怒声を無視して悠栖の胸倉をつかむと右手を振り上げていた。
「ちょ、慶史! ストップ! ストップ!!」
目を見開いた慶史の表情は無に近くて、きっと渾身の力で悠栖を殴ろうとしているに違いない。
そう直感した僕はさっきまでの怒りを忘れて慶史の右腕に掴みかかって暴力を止めた。
「なんで止めるんだ? こいつの脳は死んでるんだからひと思いに息の根も止めてやるだけだ」
抑揚のない声を返す慶史の腕はなおも悠栖を殴ろうと力が入っていて、僕の力では動きを制することはできなかった。
明らかに常軌を逸した慶史の様子に悠栖は「とりあえず落ち着け! な?」と、冷静さを取り戻すよう求めている。でも、きっと慶史がどうしてこんなに怒っているのかは理解できていない気がした。
頼むからこれ以上余計なことを言わないでと悠栖の野生の勘に期待する僕。でも、自分が危機的状況にあると分かっていないのか、悠栖は失言を重ねてしまって……。
「お前の気持ち勝手に暴露したのは悪かったけど、でも、こういうのは隠しとく方が後々めんどくさくなるじゃん!?」
悠栖は、自分の想像が間違っていると全く疑っていないようだ。
慶史の怒りを曲解し、なおも虎君のことが好きだと決めつけて話を進める悠栖。
慶史の怒りが更にヒートアップしたことは、言わなくても分かるだろう。
殴りかかろうとしている腕を抑えつけていた僕を力任せに振り払うと、慶史は今度こそ息の根を止めると再び手を振り上げた。
「け、慶史! ダメだってば!」
「おーい! 邪魔するぞ!」
どんな理由があろうとも暴力はダメだよ!
そう叫ぶ僕の声にかかるのは、ドアが開く音。と、ちーちゃんの朗らかな声。
まさか今此処にちーちゃんが来ると思っていなかったのは僕だけじゃなかったようで、予想外の出来事に慶史は振り上げた手をそのままに「千景君……?」と目を丸くしてドアへと視線を向けていた。
「お? なんだ? 喧嘩か? いいねぇ。俺も混ぜろよ!」
あっけにとられる僕達を他所に、悠栖の胸倉をつかんだままの慶史の姿にちーちゃんの目がキラキラと輝いた。
袖をまくり上げ、「バトルロイヤルか? それともタイマンか?」と嬉々として尋ねてくるちーちゃん。これじゃ話がややこしくなる一方だ。
「ち、ちーちゃん、これはそういうんじゃないから、ね?」
「あれ? なんでまーが此処にいるんだ? 来栖君はどうしたんだよ?」
その表情は、僕がいることに今気づいたと言わんばかり。
喧嘩する気満々のちーちゃんは僕に対して、こういうのに参加するのは感心しないぞ。と窘めてくる。
ちーちゃんが思ってるようなことは一切ないけど、訂正しても疲れるだけだと思った僕は空笑いを返すだけに留めた。
「ねぇ千景君、部屋に入る時はノックしてって何回も言ったでしょ……」
「? したけど?」
「俺は返事してないよ」
「でも声聞こえてたし」
ああ、ダメだ。会話にならない。
慶史もそれに同感なのか、毒気が抜かれたと悠栖から手を放して元居た場所に戻って大きなため息をついて脱力していた。
「あれ? 喧嘩しねぇの?」
「しないよ。そもそも喧嘩じゃなくて、調教だから」
「ん? 天野は慶史のペットか何かなのか?」
「ちげーっすよ。俺が慶史の失恋暴露したから殴られそうになってただけっす」
「え? 暴露するも何もまーが来栖君と付き合うことになった時点で分かり切ってたことだろ?」
「そうなんすけど、本人が認めずマモに絡むから」
慶史が虎君を好きだと勘違いしたままの悠栖がちーちゃんに話せば、ちーちゃんは『何を今更』なんて笑ってる。
僕は勘違いして笑いあってる二人に頭を抱えながら慶史を見れば、慶史もバカな発言にイライラすると耳を塞いでいた。
悠栖だけなら絶対また殴りかかっていただろうが、さすがにちーちゃん相手にそれをすると自分が痛い目に遭うと分かっているから堪えるしかない様子だ。
「うまく言えないけどあの二人が噛み合ってない気がするのは俺だけか?」
「僕も微妙にずれてる気がしてるよ。どうしてかは説明できないけど」
「だよな。なんか、ズレてる気がするよな……」
和気藹々と語りあってるちーちゃんと悠栖を横目に那鳥君と朋喜は慶史に対して「これ以上誤解を深めたくなかったら今後は態度を改めた方がいい」と、今までの過ぎる嫌悪に苦言を呈していた。
「葵」
「! な、何?」
「正門まで送るから、先輩に連絡入れて」
お説教は聞きたくないと慶史は立ち上がると、僕の荷物を手にして自室から出て行こうとする。
突然のことに僕は慌ててまだ帰るわけにはいかないと声を上げるんだけど、予期せぬちーちゃんの訪問にこれ以上まともに話ができるわけがないだろうと止める間もなく部屋を出て行ってしまった。
「まー、帰るのか? 来栖君、迎えに来たのか?」
「! もう! ちーちゃんのバカ! もう少し空気読んでよ!」
久々に全力で身体を動かしたいと言いながら身体を伸ばし始めるちーちゃんに、このままだと僕についてきて虎君に喧嘩を吹っ掛けかねない。
一番聞きたかった慶史の話が聞けなくなったしまった僕はちーちゃんに思い切り八つ当たりをして慶史を追いかけることにした。
後ろからちーちゃんの怒ったような声が聞こえたけど、みんなが何とかしてくれるって信じてその声を無視した。
一瞬星が飛んだと額を抑えて慶史の暴力に非難の声を上げる悠栖だけど、慶史はその怒声を無視して悠栖の胸倉をつかむと右手を振り上げていた。
「ちょ、慶史! ストップ! ストップ!!」
目を見開いた慶史の表情は無に近くて、きっと渾身の力で悠栖を殴ろうとしているに違いない。
そう直感した僕はさっきまでの怒りを忘れて慶史の右腕に掴みかかって暴力を止めた。
「なんで止めるんだ? こいつの脳は死んでるんだからひと思いに息の根も止めてやるだけだ」
抑揚のない声を返す慶史の腕はなおも悠栖を殴ろうと力が入っていて、僕の力では動きを制することはできなかった。
明らかに常軌を逸した慶史の様子に悠栖は「とりあえず落ち着け! な?」と、冷静さを取り戻すよう求めている。でも、きっと慶史がどうしてこんなに怒っているのかは理解できていない気がした。
頼むからこれ以上余計なことを言わないでと悠栖の野生の勘に期待する僕。でも、自分が危機的状況にあると分かっていないのか、悠栖は失言を重ねてしまって……。
「お前の気持ち勝手に暴露したのは悪かったけど、でも、こういうのは隠しとく方が後々めんどくさくなるじゃん!?」
悠栖は、自分の想像が間違っていると全く疑っていないようだ。
慶史の怒りを曲解し、なおも虎君のことが好きだと決めつけて話を進める悠栖。
慶史の怒りが更にヒートアップしたことは、言わなくても分かるだろう。
殴りかかろうとしている腕を抑えつけていた僕を力任せに振り払うと、慶史は今度こそ息の根を止めると再び手を振り上げた。
「け、慶史! ダメだってば!」
「おーい! 邪魔するぞ!」
どんな理由があろうとも暴力はダメだよ!
そう叫ぶ僕の声にかかるのは、ドアが開く音。と、ちーちゃんの朗らかな声。
まさか今此処にちーちゃんが来ると思っていなかったのは僕だけじゃなかったようで、予想外の出来事に慶史は振り上げた手をそのままに「千景君……?」と目を丸くしてドアへと視線を向けていた。
「お? なんだ? 喧嘩か? いいねぇ。俺も混ぜろよ!」
あっけにとられる僕達を他所に、悠栖の胸倉をつかんだままの慶史の姿にちーちゃんの目がキラキラと輝いた。
袖をまくり上げ、「バトルロイヤルか? それともタイマンか?」と嬉々として尋ねてくるちーちゃん。これじゃ話がややこしくなる一方だ。
「ち、ちーちゃん、これはそういうんじゃないから、ね?」
「あれ? なんでまーが此処にいるんだ? 来栖君はどうしたんだよ?」
その表情は、僕がいることに今気づいたと言わんばかり。
喧嘩する気満々のちーちゃんは僕に対して、こういうのに参加するのは感心しないぞ。と窘めてくる。
ちーちゃんが思ってるようなことは一切ないけど、訂正しても疲れるだけだと思った僕は空笑いを返すだけに留めた。
「ねぇ千景君、部屋に入る時はノックしてって何回も言ったでしょ……」
「? したけど?」
「俺は返事してないよ」
「でも声聞こえてたし」
ああ、ダメだ。会話にならない。
慶史もそれに同感なのか、毒気が抜かれたと悠栖から手を放して元居た場所に戻って大きなため息をついて脱力していた。
「あれ? 喧嘩しねぇの?」
「しないよ。そもそも喧嘩じゃなくて、調教だから」
「ん? 天野は慶史のペットか何かなのか?」
「ちげーっすよ。俺が慶史の失恋暴露したから殴られそうになってただけっす」
「え? 暴露するも何もまーが来栖君と付き合うことになった時点で分かり切ってたことだろ?」
「そうなんすけど、本人が認めずマモに絡むから」
慶史が虎君を好きだと勘違いしたままの悠栖がちーちゃんに話せば、ちーちゃんは『何を今更』なんて笑ってる。
僕は勘違いして笑いあってる二人に頭を抱えながら慶史を見れば、慶史もバカな発言にイライラすると耳を塞いでいた。
悠栖だけなら絶対また殴りかかっていただろうが、さすがにちーちゃん相手にそれをすると自分が痛い目に遭うと分かっているから堪えるしかない様子だ。
「うまく言えないけどあの二人が噛み合ってない気がするのは俺だけか?」
「僕も微妙にずれてる気がしてるよ。どうしてかは説明できないけど」
「だよな。なんか、ズレてる気がするよな……」
和気藹々と語りあってるちーちゃんと悠栖を横目に那鳥君と朋喜は慶史に対して「これ以上誤解を深めたくなかったら今後は態度を改めた方がいい」と、今までの過ぎる嫌悪に苦言を呈していた。
「葵」
「! な、何?」
「正門まで送るから、先輩に連絡入れて」
お説教は聞きたくないと慶史は立ち上がると、僕の荷物を手にして自室から出て行こうとする。
突然のことに僕は慌ててまだ帰るわけにはいかないと声を上げるんだけど、予期せぬちーちゃんの訪問にこれ以上まともに話ができるわけがないだろうと止める間もなく部屋を出て行ってしまった。
「まー、帰るのか? 来栖君、迎えに来たのか?」
「! もう! ちーちゃんのバカ! もう少し空気読んでよ!」
久々に全力で身体を動かしたいと言いながら身体を伸ばし始めるちーちゃんに、このままだと僕についてきて虎君に喧嘩を吹っ掛けかねない。
一番聞きたかった慶史の話が聞けなくなったしまった僕はちーちゃんに思い切り八つ当たりをして慶史を追いかけることにした。
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