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初めての人
初めての人 第50話
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「あれ? もう帰ってきたの?」
家に帰ってきた僕たちが手を繋いでリビングのドアを開ければ、聞こえてきたのは『おかえり』という声ではなくて『どうして帰ってきたの?』と言いたげな声。
声の主である姉さんは驚いた顔をしていて、こんな早い帰宅を想像していなかったと言わんばかりだ。
今日は始業式だけだって知ってるはず。それなのに、早い帰宅を『どうして?』と聞くのはどういうことなのか。
学校から真っ直ぐ家に帰って来ただけなのにそんな風に言われたらまるで帰ってこなくていいと言われているように感じてしまう。
「帰ってきたらダメだったの?」
「そうじゃなくて、虎の家に寄ると思ってたのよ」
不機嫌が声に表れ、突っかかるような言い方をしてしまう僕。
姉さんはそれに気づいて慌てたように弁解する。離れて過ごすのは久しぶりだったでしょ? と。
「俺がバイトの時はもっと長い時間会えてないぞ」
「そうだけど、家にいるのと学校にいるのじゃ違うでしょ?」
「桔梗」
「慶ちゃんと一緒にいるってだけで昔から死にそうな顔するし」
「おい」
「夏休み明けの登校初日なんてそれこそ凄いストレスだろうし」
「おい!」
「絶対葵のこと離さないって思うのも当然じゃない?」
「おい!!」
虎君の声を無視して自分の言いたいことを言い切った姉さんは「何?」と、漸く虎君の怒号に耳を傾ける。
隣から聞こえる「このクソアマ……」って押し殺した声の呟きに僕は繋いでいた手にきゅっと力を込めて『気づいて』とアピールしてみる。
すると、怒りの形相から一転、困ったような照れたような笑みを浮かべて視線をくれる虎君。どうした? と。
「虎君のヤキモチ、僕は嬉しいからね?」
「! それでもこんな格好悪いところは隠させてくれよ」
「えぇ? 姉さんや他の人が知ってるのに僕には秘密なの?」
「そんな可愛いこと言ってもダメ。好きな人には格好つけたい男心は葵にも分かるだろ?」
「分かるけど、でも格好悪いなんて思わないよ?」
ヤキモチ妬きな虎君もカッコいいし、それ以上に可愛い。だからもっといろんな虎君を知りたい。
そう伝えれば、虎君は苦笑を深くして「敵わないな」って抱き寄せて髪にチュッとキスをくれる。年上の矜持で格好をつけたいところなのに全部見せたくなる。そんな言葉を言いながら。
「ちょっと。私、此処にいるんだけど」
「そんなこと言われなくても分かってる」
「分かってて見せつけてるわけ? 腹立つわね」
ムッとした姉さんの声に顔を上げれば、姉さんはそっぽを向いてしまっていた。
(あ……。違う。陽琥さんのこと見てるんだ……)
機嫌を損ねた姉さんの視界の先に居るのは、この家を守るボディーガードの陽琥さん。
陽琥さんはいつもと同じようにリビングの片隅に立ち、窓の外を眺めていた。時折インカムで連絡が入るのか何か話しているみたいだけど、その声は聞こえなかった。
姉さんの恋心を思い出した僕は虎君から離れるように姉さんに駆け寄る。
「何? どうしたの?」
「えっと、あの、し、げと、茂斗、帰ってきてないのかな? って思って……」
考えなしで駆け寄った僕に向けられるのは不思議そうな顔。そのきょとんとした表情を見て、姉さんはなんて強い人なんだろうって思った。僕は姉さんのように他の人の幸せを喜ぶことができなかったから。
(妬んで八つ当たりするとか、本当に僕って子供だな……)
虎君が姉さんを好きだと勘違いしてしまった時、僕は他人の幸せが憎くて仕方なかった。優しくされると憐れまれていると卑屈になってしまった。
全ては僕の勘違いだったけど、姉さんは違う。報われることのない想いをずっとたった一人に向けている。
それなのに、僕と虎君を見ても姉さんは朗らかに笑ってくれる。僕が、虎君が幸せで良かったと祝福してくれる。偶に意地悪を言ったりからかったりもするけど、この幸せがずっと続くよう願ってくれている……。
そんな姉さんにかける言葉が、僕はどうしても見つけることができなかった。
咄嗟に口から出た双子の片割れの名前に辻褄を合わせるよう言葉を続ければ、姉さんは苦笑交じりに「まだ帰ってきてないわよ」と答えてくれた。
「そうなんだ? 茂斗が寄り道とか珍しいね」
「寄り道じゃなくて、凪ちゃんに会いに行くんだって。凪ちゃんに『お友達』ができたから相手を見定めに行くとか言ってたわ」
「えぇ? それ、凄く迷惑じゃない? 折角できた友達に難癖付けるとか心配通り越して迷惑だよ?」
引っ込み思案な凪ちゃんは人付き合いがとても苦手で今までずっと友達作りに苦戦していた。そんな凪ちゃんにできた『友達』。
茂斗からすればただ凪ちゃんが心配なだけだろうけど、威圧感を纏って牽制したら折角できた『友達』が居なくなってしまうかもしれない。
僕は、凪ちゃんのためにも茂斗が帰ってきたら注意しないとと呆れてしまう。
家に帰ってきた僕たちが手を繋いでリビングのドアを開ければ、聞こえてきたのは『おかえり』という声ではなくて『どうして帰ってきたの?』と言いたげな声。
声の主である姉さんは驚いた顔をしていて、こんな早い帰宅を想像していなかったと言わんばかりだ。
今日は始業式だけだって知ってるはず。それなのに、早い帰宅を『どうして?』と聞くのはどういうことなのか。
学校から真っ直ぐ家に帰って来ただけなのにそんな風に言われたらまるで帰ってこなくていいと言われているように感じてしまう。
「帰ってきたらダメだったの?」
「そうじゃなくて、虎の家に寄ると思ってたのよ」
不機嫌が声に表れ、突っかかるような言い方をしてしまう僕。
姉さんはそれに気づいて慌てたように弁解する。離れて過ごすのは久しぶりだったでしょ? と。
「俺がバイトの時はもっと長い時間会えてないぞ」
「そうだけど、家にいるのと学校にいるのじゃ違うでしょ?」
「桔梗」
「慶ちゃんと一緒にいるってだけで昔から死にそうな顔するし」
「おい」
「夏休み明けの登校初日なんてそれこそ凄いストレスだろうし」
「おい!」
「絶対葵のこと離さないって思うのも当然じゃない?」
「おい!!」
虎君の声を無視して自分の言いたいことを言い切った姉さんは「何?」と、漸く虎君の怒号に耳を傾ける。
隣から聞こえる「このクソアマ……」って押し殺した声の呟きに僕は繋いでいた手にきゅっと力を込めて『気づいて』とアピールしてみる。
すると、怒りの形相から一転、困ったような照れたような笑みを浮かべて視線をくれる虎君。どうした? と。
「虎君のヤキモチ、僕は嬉しいからね?」
「! それでもこんな格好悪いところは隠させてくれよ」
「えぇ? 姉さんや他の人が知ってるのに僕には秘密なの?」
「そんな可愛いこと言ってもダメ。好きな人には格好つけたい男心は葵にも分かるだろ?」
「分かるけど、でも格好悪いなんて思わないよ?」
ヤキモチ妬きな虎君もカッコいいし、それ以上に可愛い。だからもっといろんな虎君を知りたい。
そう伝えれば、虎君は苦笑を深くして「敵わないな」って抱き寄せて髪にチュッとキスをくれる。年上の矜持で格好をつけたいところなのに全部見せたくなる。そんな言葉を言いながら。
「ちょっと。私、此処にいるんだけど」
「そんなこと言われなくても分かってる」
「分かってて見せつけてるわけ? 腹立つわね」
ムッとした姉さんの声に顔を上げれば、姉さんはそっぽを向いてしまっていた。
(あ……。違う。陽琥さんのこと見てるんだ……)
機嫌を損ねた姉さんの視界の先に居るのは、この家を守るボディーガードの陽琥さん。
陽琥さんはいつもと同じようにリビングの片隅に立ち、窓の外を眺めていた。時折インカムで連絡が入るのか何か話しているみたいだけど、その声は聞こえなかった。
姉さんの恋心を思い出した僕は虎君から離れるように姉さんに駆け寄る。
「何? どうしたの?」
「えっと、あの、し、げと、茂斗、帰ってきてないのかな? って思って……」
考えなしで駆け寄った僕に向けられるのは不思議そうな顔。そのきょとんとした表情を見て、姉さんはなんて強い人なんだろうって思った。僕は姉さんのように他の人の幸せを喜ぶことができなかったから。
(妬んで八つ当たりするとか、本当に僕って子供だな……)
虎君が姉さんを好きだと勘違いしてしまった時、僕は他人の幸せが憎くて仕方なかった。優しくされると憐れまれていると卑屈になってしまった。
全ては僕の勘違いだったけど、姉さんは違う。報われることのない想いをずっとたった一人に向けている。
それなのに、僕と虎君を見ても姉さんは朗らかに笑ってくれる。僕が、虎君が幸せで良かったと祝福してくれる。偶に意地悪を言ったりからかったりもするけど、この幸せがずっと続くよう願ってくれている……。
そんな姉さんにかける言葉が、僕はどうしても見つけることができなかった。
咄嗟に口から出た双子の片割れの名前に辻褄を合わせるよう言葉を続ければ、姉さんは苦笑交じりに「まだ帰ってきてないわよ」と答えてくれた。
「そうなんだ? 茂斗が寄り道とか珍しいね」
「寄り道じゃなくて、凪ちゃんに会いに行くんだって。凪ちゃんに『お友達』ができたから相手を見定めに行くとか言ってたわ」
「えぇ? それ、凄く迷惑じゃない? 折角できた友達に難癖付けるとか心配通り越して迷惑だよ?」
引っ込み思案な凪ちゃんは人付き合いがとても苦手で今までずっと友達作りに苦戦していた。そんな凪ちゃんにできた『友達』。
茂斗からすればただ凪ちゃんが心配なだけだろうけど、威圧感を纏って牽制したら折角できた『友達』が居なくなってしまうかもしれない。
僕は、凪ちゃんのためにも茂斗が帰ってきたら注意しないとと呆れてしまう。
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