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初めての人
初めての人 第53話
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「わ、分かった! 陽琥さんごめん! めのう見ててもらっていい?」
僕の思いとは裏腹に、気が動転している虎君と姉さんは普段の落ち着きが嘘のように慌てふためいている。
このままでは本当に病院に連れて行かれると焦って身体を動かそうとするんだけど、それを察した虎君に安静にするよう力づくで押さえつけられてしまった。
(い、痛いよ、虎君)
分かってる。今の虎君が全然冷静じゃないことはちゃんと理解してる。でも、それでも怪我人相手にする力加減じゃないと思う。
僕はおしりの痛みに加えて抑えつけられた肩にも痛みを覚えてしまう。
「二人とも少し落ち着け」
きっと僕はこの後病院に運ばれてただの打ち身で大袈裟だとお医者さんに呆れられるんだ……。
そう諦めそうになっていたら、耳に届くのは陽琥さんの声。その声はいつも通りで、慌てる虎君達のおかげでその冷静さが際立って感じた。
「虎、退け。邪魔だ」
「陽琥さんっ!?」
「黙れ」
押さえつけていた力強さがふっと無くなり、身体が軽くなる。目の前には虎君ではなく陽琥さんがいて、陽琥さんの背後には押し退けられた虎君の姿が。
強制的に僕と引き離された虎君はそれに抗い、何するんですか!? と声を荒げる。
他の人ならきっとその剣幕に気圧されるだろう。でも、相手は陽琥さん。虎君の『先生』のような人。静かな声で発せられたった一言で虎君の動きを封じてしまう。
「葵、少しでも違和感を覚えたら言うんだぞ?」
「わ、分かった」
陽琥さんは僕の身体を触り、頭を打っていないか、骨に異常がないか、細かくチェックしてくる。
触れられた箇所に違和感も痛み感じないことを伝える僕に陽琥さんは安心したように笑う。
そして最後の確認だと言うと、「痛いぞ」と警告しておしり辺りをぐっと押してきた。
返事を待つことなく押された箇所。生じるのは痛み。僕はその瞬間情けない声を上げ、陽琥さんにしがみついてしまった。
「打ち身だけだな」
「ひどい……今の、わざとでしょ……」
「俺が何のためにそんな嫌がらせみたいな真似をするって言うんだ。なんだ? 病院に行きたかったのか?」
病院に運ばれて恥をかかないように気を使ったつもりだったんだが、余計なお世話だったか?
そう尋ねてくる陽琥さんに僕が返すのは恨めしそうな眼差しだけ。どうせ文句を言っても言い負かされるだけだし……。
陽琥さんは反論しない僕の意思を察したのか、今回は落ち方が良かっただけだから気を付けるよう注意を促して自分の仕事に戻るために立ち上がった。
「今のは医療行為の一環だ。そんな目をするな」
「分かってます」
「『分かってる』って顔じゃないぞ」
何の話をしているのか分からないけど、陽琥さんが肩を竦ませて見せたから呆れているってことは分かった。
僕の前から陽琥さんが居なくなると同時に物凄く心配そうな顔をした虎君が駆け寄ってきて、本当に大丈夫かと重ねて尋ねられた。
心配で堪らないと言わんばかりのその様子に、不謹慎だと知りつつも嬉しいと感じるのは仕方ない。
痛みはさっきよりも随分マシになっていて、そのせいでついつい顔が緩んでしまう。
「こら。心配かけてそんな顔しない」
「ごめんなさい。でも、嬉しいんだもん」
「ったく……。俺が怒れないって分かっててやってるな?」
「そんなことないよ。ただ嬉しいだけだもん」
立てる? と差し出される手を取って立ち上がれば、やっぱり少し痛い。
よろけそうになる僕を支えてくれる虎君は、そのまま僕を軽々と抱き上げてしまう。こうなることはなんとなく予想はしていたけど、いざされるとやっぱり恥ずかしい。
「とら、ちゃいにぃ、いたいの? ひーしゃん、だいじょうぶっていってたよ?」
「大丈夫だよ、めのうちゃん。でも、またこけたら大変だろ?」
「! そっかぁ! ちゃいにぃ、あわてんぼさんだもんね!」
「本当、あわてんぼうの困ったお兄ちゃんよね。これで怪我でもしてたらママが泣いちゃってたわよ?」
「うぅ……本当、ごめん……」
めのうの目に自分がどう映っているか分かってショックを受ける僕に追い打ちをかけるのは姉さん。
今回はほぼ無傷だったからよかったものの、もし怪我をしていたら母さんに心配をかけてしまうに決まってる。そして、打ち所が悪かったら死んでいたかもしれないと大泣きされただろう。
……いや、無傷でも一緒だ。階段から落ちた事実は変わらないんだから。
「このこと、母さんには秘密にしてくれる?」
「私はいいけど、無理じゃない?」
「だよね……」
期待を込めて口止めをしてみるけど、姉さんは視線を自分が抱っこしているめのうに落とした。幼い妹が『秘密』の意味を理解できるとは思えない。と。
僕の思いとは裏腹に、気が動転している虎君と姉さんは普段の落ち着きが嘘のように慌てふためいている。
このままでは本当に病院に連れて行かれると焦って身体を動かそうとするんだけど、それを察した虎君に安静にするよう力づくで押さえつけられてしまった。
(い、痛いよ、虎君)
分かってる。今の虎君が全然冷静じゃないことはちゃんと理解してる。でも、それでも怪我人相手にする力加減じゃないと思う。
僕はおしりの痛みに加えて抑えつけられた肩にも痛みを覚えてしまう。
「二人とも少し落ち着け」
きっと僕はこの後病院に運ばれてただの打ち身で大袈裟だとお医者さんに呆れられるんだ……。
そう諦めそうになっていたら、耳に届くのは陽琥さんの声。その声はいつも通りで、慌てる虎君達のおかげでその冷静さが際立って感じた。
「虎、退け。邪魔だ」
「陽琥さんっ!?」
「黙れ」
押さえつけていた力強さがふっと無くなり、身体が軽くなる。目の前には虎君ではなく陽琥さんがいて、陽琥さんの背後には押し退けられた虎君の姿が。
強制的に僕と引き離された虎君はそれに抗い、何するんですか!? と声を荒げる。
他の人ならきっとその剣幕に気圧されるだろう。でも、相手は陽琥さん。虎君の『先生』のような人。静かな声で発せられたった一言で虎君の動きを封じてしまう。
「葵、少しでも違和感を覚えたら言うんだぞ?」
「わ、分かった」
陽琥さんは僕の身体を触り、頭を打っていないか、骨に異常がないか、細かくチェックしてくる。
触れられた箇所に違和感も痛み感じないことを伝える僕に陽琥さんは安心したように笑う。
そして最後の確認だと言うと、「痛いぞ」と警告しておしり辺りをぐっと押してきた。
返事を待つことなく押された箇所。生じるのは痛み。僕はその瞬間情けない声を上げ、陽琥さんにしがみついてしまった。
「打ち身だけだな」
「ひどい……今の、わざとでしょ……」
「俺が何のためにそんな嫌がらせみたいな真似をするって言うんだ。なんだ? 病院に行きたかったのか?」
病院に運ばれて恥をかかないように気を使ったつもりだったんだが、余計なお世話だったか?
そう尋ねてくる陽琥さんに僕が返すのは恨めしそうな眼差しだけ。どうせ文句を言っても言い負かされるだけだし……。
陽琥さんは反論しない僕の意思を察したのか、今回は落ち方が良かっただけだから気を付けるよう注意を促して自分の仕事に戻るために立ち上がった。
「今のは医療行為の一環だ。そんな目をするな」
「分かってます」
「『分かってる』って顔じゃないぞ」
何の話をしているのか分からないけど、陽琥さんが肩を竦ませて見せたから呆れているってことは分かった。
僕の前から陽琥さんが居なくなると同時に物凄く心配そうな顔をした虎君が駆け寄ってきて、本当に大丈夫かと重ねて尋ねられた。
心配で堪らないと言わんばかりのその様子に、不謹慎だと知りつつも嬉しいと感じるのは仕方ない。
痛みはさっきよりも随分マシになっていて、そのせいでついつい顔が緩んでしまう。
「こら。心配かけてそんな顔しない」
「ごめんなさい。でも、嬉しいんだもん」
「ったく……。俺が怒れないって分かっててやってるな?」
「そんなことないよ。ただ嬉しいだけだもん」
立てる? と差し出される手を取って立ち上がれば、やっぱり少し痛い。
よろけそうになる僕を支えてくれる虎君は、そのまま僕を軽々と抱き上げてしまう。こうなることはなんとなく予想はしていたけど、いざされるとやっぱり恥ずかしい。
「とら、ちゃいにぃ、いたいの? ひーしゃん、だいじょうぶっていってたよ?」
「大丈夫だよ、めのうちゃん。でも、またこけたら大変だろ?」
「! そっかぁ! ちゃいにぃ、あわてんぼさんだもんね!」
「本当、あわてんぼうの困ったお兄ちゃんよね。これで怪我でもしてたらママが泣いちゃってたわよ?」
「うぅ……本当、ごめん……」
めのうの目に自分がどう映っているか分かってショックを受ける僕に追い打ちをかけるのは姉さん。
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……いや、無傷でも一緒だ。階段から落ちた事実は変わらないんだから。
「このこと、母さんには秘密にしてくれる?」
「私はいいけど、無理じゃない?」
「だよね……」
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