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初めての人
初めての人 第68話
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早く虎君と愛し合いたいと想いを馳せていたら、聞こえるのはドアが開く音。僕はベッドに預けていた身体を起こして大好きな人の姿を探した。
部屋の入口には腰にバスタオルを巻いた上半身裸の虎君が居て、予想外の姿に心臓が飛び跳ねてしまう。
「眠い?」
「へ、平気っ!」
ベッドに横になっていたからか、ドアを閉めながら苦笑交じりに尋ねてくる虎君。そんな虎君に見惚れていた僕はその問いかけに我に返って勢いよくベッドから起き上がって眠くないことをアピールする。
虎君は僕のもとへと歩いてきて、隣に腰を下ろすとほっぺたに手を伸ばしてきた。
「良かった。……まぁ、眠いって言われても寝かせてやれないけど」
優しい手でほっぺたを撫でながら薄く笑う虎君はそのままキスをしてくる。
甘いキスを受け取りながら、僕は恥ずかしさを堪えて瞳を伏せた。
「葵?」
「眠くはないけど、凄く、凄くドキドキしてる……」
「! そんな可愛いこと言わないでくれ。せっかく取り戻した理性が無くなる」
鼻先に落ちてくるキスに虎君を見つめれば、唇が重なる。
そのまま舌を絡ませキスに夢中になっていれば、気づけばベッドに押し倒されていた。
「虎君……」
「愛してるよ、葵」
離れた唇から無意識に零れたのは大好きな人の名前。僕を見下ろす熱の籠った視線に息をすることも忘れてしまいそうだった。
僕に触れる手は何処までも優しくて、指先からも感じる『想い』に胸がいっぱいで思わず涙ぐんじゃった。
いつもの虎君なら、僕が泣きだそうものなら青褪めた顔で触れる手を離して謝っていただろう。
でも今日の虎君は手を止めることはなく、愛し気に微笑んでくれる。僕が触れる手を止めて欲しくないと望んでいるってちゃんと理解しているから。
やっぱり虎君は僕の一番の理解者だ。
僕はこみ上がってくる愛しさのままに虎君の首に手を伸ばし、言葉にできない想いを全身で伝えるべくしがみついた。
虎君はそんな僕を抱きしめ、髪を撫で、こめかみにキスをくれる。
「ごめん。……嫌なら殴って止めて」
落ち着くまで待ってあげたいけど、我慢できない。
そう囁く虎君は僕の上着に手を侵入させ、素肌に触れる。
待ち望んでいた僕が嫌だと思うわけがない。でも、嫌じゃなくても恥ずかしくて、ちゃんと自分の想いを伝えることができなかった。
「可愛いよ、葵。本当に、可愛くて堪らない……」
虎君は僕の身体を撫でながら耳元で甘く低い声で囁いてきて、それだけでももう堪らない気持ちになってしまう。
恥ずかしさと緊張、それに期待のせいでドキドキが止まらない僕は身体を震わせながらも必死に虎君にしがみついた。
「そんなに強く抱きつかないで。ほら、触れないだろ?」
「ご、ごめんなさ―――んっ」
受けた注意にどうすればいいか分からず僕は謝りながらその手を放そうとした。けど、僕達が離れることはなかった。
それどころか引き寄せるように抱き寄せキスされて、あっという間に僕の思考は惚けてしまう。
舌を絡めとられ、口の中から愛されているような感覚に陥るのは仕方ない。
「葵、葵……、あぁ、早く葵の中に入りたい……、葵の全部、俺のモノにしたい……」
(虎君っ)
荒々しいキスの合間に囁かれる言葉にドキドキは酷くなる一方。そして、期待にどうしようもない程おなかの奥が疼いてしまう……。
キスに夢中になっている僕には理性なんて無いに等しくて、さっきまでの恥ずかしさなんて嘘のようにありのままを伝えてしまう。それが必死に自分を抑えている虎君を煽ることになるとは考えずに。
「とりゃ、く……、はやく……、おなか、さみしぃよぉ……」
「! こら、煽るなって言ってるだろっ?」
「らってぇ……も、がまん、やらぁ……」
甘いキスに心も体も蕩けきってる僕の言葉は舌足らずで、まるで小さな子供みたいだ。
聞き取り辛いだろうその言葉に虎君は苦しそうに顔を歪め息を呑むと、深く息を吐き出した。まるで冷静になろうとしているようだ。
愛し合っている最中のはずなのに、どうして理性的になろうとするの? 僕はこんなに虎君を求めているのに……。
虎君はいつもそうだ。言葉では理性が無くなるとか言いながら、実際は今まで一度もそうなったところなんて見たことがない。
それは僕のことを本当に大切にしてくれているからだって分かっているけれど、何度も続くと疑ってしまう。本当は僕じゃ虎君を夢中にさせることなんてできないんじゃないか。って……。
思い至った考えを打ち消せないのは、思考が溶けてしまっているせいだ。だってそうでもなきゃ虎君を困らせるようなことを言わないはずだから。
「なんで……、なんで僕、虎君のこと夢中にできないのぉ……」
自分の魅力の無さを棚に上げて責めるような言い方をしてしまった。
驚いたような虎君の顔にすぐに後悔したけれど、もう取り消せない。
部屋の入口には腰にバスタオルを巻いた上半身裸の虎君が居て、予想外の姿に心臓が飛び跳ねてしまう。
「眠い?」
「へ、平気っ!」
ベッドに横になっていたからか、ドアを閉めながら苦笑交じりに尋ねてくる虎君。そんな虎君に見惚れていた僕はその問いかけに我に返って勢いよくベッドから起き上がって眠くないことをアピールする。
虎君は僕のもとへと歩いてきて、隣に腰を下ろすとほっぺたに手を伸ばしてきた。
「良かった。……まぁ、眠いって言われても寝かせてやれないけど」
優しい手でほっぺたを撫でながら薄く笑う虎君はそのままキスをしてくる。
甘いキスを受け取りながら、僕は恥ずかしさを堪えて瞳を伏せた。
「葵?」
「眠くはないけど、凄く、凄くドキドキしてる……」
「! そんな可愛いこと言わないでくれ。せっかく取り戻した理性が無くなる」
鼻先に落ちてくるキスに虎君を見つめれば、唇が重なる。
そのまま舌を絡ませキスに夢中になっていれば、気づけばベッドに押し倒されていた。
「虎君……」
「愛してるよ、葵」
離れた唇から無意識に零れたのは大好きな人の名前。僕を見下ろす熱の籠った視線に息をすることも忘れてしまいそうだった。
僕に触れる手は何処までも優しくて、指先からも感じる『想い』に胸がいっぱいで思わず涙ぐんじゃった。
いつもの虎君なら、僕が泣きだそうものなら青褪めた顔で触れる手を離して謝っていただろう。
でも今日の虎君は手を止めることはなく、愛し気に微笑んでくれる。僕が触れる手を止めて欲しくないと望んでいるってちゃんと理解しているから。
やっぱり虎君は僕の一番の理解者だ。
僕はこみ上がってくる愛しさのままに虎君の首に手を伸ばし、言葉にできない想いを全身で伝えるべくしがみついた。
虎君はそんな僕を抱きしめ、髪を撫で、こめかみにキスをくれる。
「ごめん。……嫌なら殴って止めて」
落ち着くまで待ってあげたいけど、我慢できない。
そう囁く虎君は僕の上着に手を侵入させ、素肌に触れる。
待ち望んでいた僕が嫌だと思うわけがない。でも、嫌じゃなくても恥ずかしくて、ちゃんと自分の想いを伝えることができなかった。
「可愛いよ、葵。本当に、可愛くて堪らない……」
虎君は僕の身体を撫でながら耳元で甘く低い声で囁いてきて、それだけでももう堪らない気持ちになってしまう。
恥ずかしさと緊張、それに期待のせいでドキドキが止まらない僕は身体を震わせながらも必死に虎君にしがみついた。
「そんなに強く抱きつかないで。ほら、触れないだろ?」
「ご、ごめんなさ―――んっ」
受けた注意にどうすればいいか分からず僕は謝りながらその手を放そうとした。けど、僕達が離れることはなかった。
それどころか引き寄せるように抱き寄せキスされて、あっという間に僕の思考は惚けてしまう。
舌を絡めとられ、口の中から愛されているような感覚に陥るのは仕方ない。
「葵、葵……、あぁ、早く葵の中に入りたい……、葵の全部、俺のモノにしたい……」
(虎君っ)
荒々しいキスの合間に囁かれる言葉にドキドキは酷くなる一方。そして、期待にどうしようもない程おなかの奥が疼いてしまう……。
キスに夢中になっている僕には理性なんて無いに等しくて、さっきまでの恥ずかしさなんて嘘のようにありのままを伝えてしまう。それが必死に自分を抑えている虎君を煽ることになるとは考えずに。
「とりゃ、く……、はやく……、おなか、さみしぃよぉ……」
「! こら、煽るなって言ってるだろっ?」
「らってぇ……も、がまん、やらぁ……」
甘いキスに心も体も蕩けきってる僕の言葉は舌足らずで、まるで小さな子供みたいだ。
聞き取り辛いだろうその言葉に虎君は苦しそうに顔を歪め息を呑むと、深く息を吐き出した。まるで冷静になろうとしているようだ。
愛し合っている最中のはずなのに、どうして理性的になろうとするの? 僕はこんなに虎君を求めているのに……。
虎君はいつもそうだ。言葉では理性が無くなるとか言いながら、実際は今まで一度もそうなったところなんて見たことがない。
それは僕のことを本当に大切にしてくれているからだって分かっているけれど、何度も続くと疑ってしまう。本当は僕じゃ虎君を夢中にさせることなんてできないんじゃないか。って……。
思い至った考えを打ち消せないのは、思考が溶けてしまっているせいだ。だってそうでもなきゃ虎君を困らせるようなことを言わないはずだから。
「なんで……、なんで僕、虎君のこと夢中にできないのぉ……」
自分の魅力の無さを棚に上げて責めるような言い方をしてしまった。
驚いたような虎君の顔にすぐに後悔したけれど、もう取り消せない。
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