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初めての人
初めての人 第70話
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虎君とのエッチにうっとりと惚けていた意識が一瞬で覚醒するのは、痛みから。
何か月もかけてエッチの準備をしてきたのに、さっきお風呂で丁寧過ぎる程慣らしてもらったのに、どうしてこんなに痛いのか理解できない。
痛みのあまり身体が縮こまり、息が止まってしまう。身体が股から裂かれるような痛みに目尻からは無意識に涙が零れていた。
「葵、息、止めないでっ」
キスを拒むつもりは全くない。でも、痛みを堪えるために唇を噛みしめてしまう。
そんな僕に虎君は何度も何度も謝りながら、ゆっくりでいいから呼吸をするよう促してくる。
「と、とらくっ、とらくん、いたい、いたいよぉ……」
「ああ、分かってる。ごめん。……ごめんな……」
目尻に、鼻先に、口角にキスをくれる虎君の声はとても辛そうで心まで痛くなる。
少しでも安心したくて虎君を探す僕だけど、ぎゅっと閉じてしまっていた目を開けて見えたその苦し気な表情にボロボロと涙が零れてきてしまった。
「泣かないで、葵。……無理させてごめんな?」
涙を拭うように目尻にキスを落としてくる虎君は、「すぐに抜くから」って腰を引いた。
痛みの余韻はまだ残るものの、身体を裂かれるような明確な痛みはすぐに無くなってくれる。
それに身体的には安心したけれど、心がどうしようもなく不安で、気が付けば僕は声をあげて泣いていた。
「葵、ごめんな……。痛かったよな……」
本当にごめん。そう辛そうな声で謝る虎君は、ぎゅっと抱きしめてくれる。僕はそんな虎君に抱き着き返し、嫌だと泣き声を上げた。
「や、だ、やだぁ、やめないでよぉ」
痛いのは嫌だ。
でも、それよりも虎君にこんな顔をさせてしまったことの方が辛かった。『ごめん』と言わせてしまったことが苦しかった。
「泣かないで、葵。……セックスなんてできなくても俺は幸せだから、な?」
無理をしなくていいと言う虎君は、こうやって抱き合っているだけでも十分だと言う。葵が傍にいることが、葵が腕の中にいることが大切なんだ。ただそれだけで満たされるから。なんて、そんな悲しいことを言う虎君。
僕はそんな寂しいことを言わないでと泣きじゃくってしまう。虎君とエッチしたいから、虎君と愛し合いたいから、だからそんな優しい恋人にならないで。と。
虎君は我儘を言う僕を宥める様に抱きしめ背中をポンポンと叩き、分かっていると言ってくれる。でも、今日はもうやめておこうと言って優しく笑う。
「虎君全然分かってないっ! 僕、エッチしたいって言ってるのに! 今日エッチしたいって、言ってるのにぃ……」
虎君が優しいって分かっているのに痛がってしまったのは僕。
恋人が痛がっていると知りながら無理強いをする人じゃないって誰よりも理解しているはずなのに、僕は目先の痛みに耐えることができなかった。
きっと虎君はこれから先暫く―――いや、当分僕とエッチしたいと思ってくれないだろう。
僕が強請れば触ってはくれるだろうけど、きっと虎君からそういうふれあいは無くなってしまうに違いない。
それが分かっているから、僕は今日虎君に抱かれたいと泣いてしまうのだ。
理性的にならないで。と、無理矢理でもいいから奪いたいと思ってよ。と、そんな無茶苦茶な望みを口にしてしまう。
「でも、痛かっただろ? セックスをするってことは、あれ以上の痛みに堪えるってことなんだぞ?」
「痛かったけど、痛かったけど僕、止めてなんて言ってないもん」
だからエッチしたいと喚きながらぎゅーって抱きつく僕に、虎君は「ダメだ」って怒ったような低い声で拒否を示した。
怒られたことも拒否されたことも辛くて、僕はますます泣きじゃくってしまう。
「虎君が好きなのに、こんなに大好きなのにどうしてダメなんて言うの? どうして僕のこと抱いてくれないのぉ……」
「っ、だからっ! ……だから、痛い思いをさせたくないんだって分かってくれ。頼むから」
「やだ! 虎君がくれるなら痛いのも辛いのも平気だもんっ!」
だから、お願いだからもう一度だけ僕にチャンスを頂戴。
そう言って必死にしがみつく僕に虎君が返すのは深いため息。そして、「この上ない拷問なんだぞ」って言いながら優しく抱きしめてきた。
「俺だって葵とセックスしたいよ。本当、めちゃくちゃしたい」
「なら―――」
「でもそのためには葵が痛いって泣いてるところを見ないといけない。それが俺にとってどれほど苦痛か、ちゃんとわかってる?」
眉を下げて僕を見つめる虎君の眼差しは優しいけれど何処か頼りない。
本当に何よりも大切だからこそ、辛い思いをさせたくない。痛い思いをさせたくない。
そう伝えてくれる虎君。でも、僕はそんな虎君に抱き着き、抱いてくれない方が辛いし心が痛いと訴えた。
「葵……」
「虎君、お願い。僕のこと、愛して……」
虎君で満たされたいと必死に伝えれば、思いが通じたのか唇にチュッとキスが落ちてくる。
「分かったよ。一緒に我慢してあげる」
苦笑交じりにそんなことを言う虎君は意地悪だ。仕方ないから。って言葉が聞こえそうな言い方だと思うものの、実際に無理強いしたことは間違いじゃないから不満を返せない。
何か月もかけてエッチの準備をしてきたのに、さっきお風呂で丁寧過ぎる程慣らしてもらったのに、どうしてこんなに痛いのか理解できない。
痛みのあまり身体が縮こまり、息が止まってしまう。身体が股から裂かれるような痛みに目尻からは無意識に涙が零れていた。
「葵、息、止めないでっ」
キスを拒むつもりは全くない。でも、痛みを堪えるために唇を噛みしめてしまう。
そんな僕に虎君は何度も何度も謝りながら、ゆっくりでいいから呼吸をするよう促してくる。
「と、とらくっ、とらくん、いたい、いたいよぉ……」
「ああ、分かってる。ごめん。……ごめんな……」
目尻に、鼻先に、口角にキスをくれる虎君の声はとても辛そうで心まで痛くなる。
少しでも安心したくて虎君を探す僕だけど、ぎゅっと閉じてしまっていた目を開けて見えたその苦し気な表情にボロボロと涙が零れてきてしまった。
「泣かないで、葵。……無理させてごめんな?」
涙を拭うように目尻にキスを落としてくる虎君は、「すぐに抜くから」って腰を引いた。
痛みの余韻はまだ残るものの、身体を裂かれるような明確な痛みはすぐに無くなってくれる。
それに身体的には安心したけれど、心がどうしようもなく不安で、気が付けば僕は声をあげて泣いていた。
「葵、ごめんな……。痛かったよな……」
本当にごめん。そう辛そうな声で謝る虎君は、ぎゅっと抱きしめてくれる。僕はそんな虎君に抱き着き返し、嫌だと泣き声を上げた。
「や、だ、やだぁ、やめないでよぉ」
痛いのは嫌だ。
でも、それよりも虎君にこんな顔をさせてしまったことの方が辛かった。『ごめん』と言わせてしまったことが苦しかった。
「泣かないで、葵。……セックスなんてできなくても俺は幸せだから、な?」
無理をしなくていいと言う虎君は、こうやって抱き合っているだけでも十分だと言う。葵が傍にいることが、葵が腕の中にいることが大切なんだ。ただそれだけで満たされるから。なんて、そんな悲しいことを言う虎君。
僕はそんな寂しいことを言わないでと泣きじゃくってしまう。虎君とエッチしたいから、虎君と愛し合いたいから、だからそんな優しい恋人にならないで。と。
虎君は我儘を言う僕を宥める様に抱きしめ背中をポンポンと叩き、分かっていると言ってくれる。でも、今日はもうやめておこうと言って優しく笑う。
「虎君全然分かってないっ! 僕、エッチしたいって言ってるのに! 今日エッチしたいって、言ってるのにぃ……」
虎君が優しいって分かっているのに痛がってしまったのは僕。
恋人が痛がっていると知りながら無理強いをする人じゃないって誰よりも理解しているはずなのに、僕は目先の痛みに耐えることができなかった。
きっと虎君はこれから先暫く―――いや、当分僕とエッチしたいと思ってくれないだろう。
僕が強請れば触ってはくれるだろうけど、きっと虎君からそういうふれあいは無くなってしまうに違いない。
それが分かっているから、僕は今日虎君に抱かれたいと泣いてしまうのだ。
理性的にならないで。と、無理矢理でもいいから奪いたいと思ってよ。と、そんな無茶苦茶な望みを口にしてしまう。
「でも、痛かっただろ? セックスをするってことは、あれ以上の痛みに堪えるってことなんだぞ?」
「痛かったけど、痛かったけど僕、止めてなんて言ってないもん」
だからエッチしたいと喚きながらぎゅーって抱きつく僕に、虎君は「ダメだ」って怒ったような低い声で拒否を示した。
怒られたことも拒否されたことも辛くて、僕はますます泣きじゃくってしまう。
「虎君が好きなのに、こんなに大好きなのにどうしてダメなんて言うの? どうして僕のこと抱いてくれないのぉ……」
「っ、だからっ! ……だから、痛い思いをさせたくないんだって分かってくれ。頼むから」
「やだ! 虎君がくれるなら痛いのも辛いのも平気だもんっ!」
だから、お願いだからもう一度だけ僕にチャンスを頂戴。
そう言って必死にしがみつく僕に虎君が返すのは深いため息。そして、「この上ない拷問なんだぞ」って言いながら優しく抱きしめてきた。
「俺だって葵とセックスしたいよ。本当、めちゃくちゃしたい」
「なら―――」
「でもそのためには葵が痛いって泣いてるところを見ないといけない。それが俺にとってどれほど苦痛か、ちゃんとわかってる?」
眉を下げて僕を見つめる虎君の眼差しは優しいけれど何処か頼りない。
本当に何よりも大切だからこそ、辛い思いをさせたくない。痛い思いをさせたくない。
そう伝えてくれる虎君。でも、僕はそんな虎君に抱き着き、抱いてくれない方が辛いし心が痛いと訴えた。
「葵……」
「虎君、お願い。僕のこと、愛して……」
虎君で満たされたいと必死に伝えれば、思いが通じたのか唇にチュッとキスが落ちてくる。
「分かったよ。一緒に我慢してあげる」
苦笑交じりにそんなことを言う虎君は意地悪だ。仕方ないから。って言葉が聞こえそうな言い方だと思うものの、実際に無理強いしたことは間違いじゃないから不満を返せない。
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