特別な人

鏡由良

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初めての人

初めての人 第71話

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 拗ねる僕に虎君はもう一度キスを落としてくると「恥ずかしいって泣いても止めないからな」って苦笑を見せた。
「『恥ずかしい』……? 『痛い』じゃないの?」
「間違えてないよ。……ほら、ちゃんと足開いて?」
 極力痛い思いをさせたくないからもっとちゃんと慣らさないと。
 そう言った虎君はもう一度キスをくれると漸く痛みが引いてきた箇所に手を添えてきた。
 舌を絡めとる深いキスを受け取る僕は、普通なら人に触れることのない箇所を優しく撫でるように触れられて反射的に身体がビクッと跳ねてしまった。
 きっとさっきの痛みを身体が覚えているからだろう。自分の身体なのに思うように制御できないことが凄くもどかしかった。
 優しい虎君がまた手を止めてしまったらどうしよう。
 そんな不安が胸を掠めたけれど、虎君はキスも触れる手も止めず僕を求めてくれるから、安心。
(虎君、好き……、大好き……)
 何度も何度も心の中で想いを反芻してしまうのは、途切れないキスで言葉に出せないから。
 どれほど『大好き』か伝えたいと思いながらも、もっと深いキスが欲しいから、ありったけの想いを込めて虎君からのキスに応えた。
 キスに夢中になる僕の身体の中に入ってくる異物は、虎君の指。
 今まで何度も内側から僕に触れてきた虎君の指に、身体は痛みよりも快楽を僕に届けてくれる。
 緊張して強張っていた身体からはいつの間にか力が抜け、今はただ与えられる快楽だけを追い求めることができる。
 体内で動かされる指が生み出す快楽は身体を蕩けさせ、もっと触れて欲しいと僕を浅ましくした。
「……痛くない?」
「きもちぃ……、とらく、もっと、もっとぉ……」
 キスを止めた虎君が投げかけてくるのは僕を気遣う言葉。それに僕は『平気』と返すよりも止められたキスを求めて甘えた声を出してしまう。
 虎君はそんな僕を見下ろし、笑う。
 近づいてくるかっこいい顔にキスしてもらえるとトキメキを覚える僕。でも虎君はキスじゃなくて僕の耳元に唇を寄せると低い声で囁いてきた。
「腰が揺れてる」
 と。
 エッチだと耳元で笑う虎君。僕はその声と言葉にすら感じてしまって堪らなくなる。
 恥ずかしいと感じる余裕もなく虎君を求めてぎゅっと抱き着いてしまう僕に、煽らないでと虎君はキスをくれる。
「葵が欲しくて限界なんだからな」
「僕も……、とらく、ほしぃ……」
 ついさっき痛いと泣いて虎君を困らせたくせに、それを忘れて虎君を求めてしまう。
 虎君と愛し合いたいと身体をくねらせ二人の距離を限りなくゼロに近づければ、虎君の喉元からごくりと息を呑む音が聞こえた。
「っ、……はぁ、……、くそっ」
「とらくん……?」
「可愛いのも大概にしてくれ……、勃ちすぎて痛い」
「! んぁあ! と、らくっ! やっ、やぁあっ!」
 突然激しくなる指の動きに翻弄され、悲鳴のような声が漏れる。
 反射的に身体が虎君の手から逃げるように動いてしまうけれど、虎君はそれを許さないと言わんばかりに僕を抱き寄せ、乱暴に僕の身体を拓いてゆく。
 こんな荒々しい手で触れられるなんて初めてで、少し怖い。でも、この手が他でもなく虎君のものだと分かっているから、怖さも堪えることができた。
(虎君、虎君、僕のこと、欲しいって言って……、僕のこと、全部欲しいって……)
 優しい虎君。いつだって大事にしてくれた虎君。大切な宝物だからと言ってまるで少し乱暴に触れれば壊れてしまうガラス細工のように僕に触っていた、僕の大好きな人。
 そんな虎君が今こんな乱暴な手で僕に触れている。その理由を考えれば、恐怖なんて無くなるに決まっている。
(虎君、虎君……)
「とらく、らいすきっ、らいすきぃ……」
「葵っ―――、愛してる、愛してるよっ」
 乱暴な手で攻め立てられているのに、僕の声はどんどん甘えたものに変わっていってしまう。まるでずっとこんな風に触って欲しかったと言わんばかりに。
 善がる僕の姿を虎君は一体どんな顔で見ているのだろう?
 そんなことを一瞬考えるも、すぐに霧散する理性。
 刹那刹那でしか正気を保てない程快楽に追い立てられ、淫らなまでに虎君を求める僕は腰を揺らしてもっと奥に―――虎君の指でも届かない程奥深くに触れて欲しいと願い、想像する。虎君のあの太くて硬いモノで貫かれたら……。と。
 虎君に身も心も丸ごと愛される様を想像したせいか、身体が素直に反応してしまった。僕自身はそれに気づかなかったんだけど、僕に触れている虎君にはすぐにわかったみたいだ。
 眉間に皺を刻んだ何処か苦し気な笑みを浮かべる虎君は、何を考えたんだと僕に尋ねてくる。何故そんなことを聞かれるのか分からない僕は、喘ぎながらも何のことか分からないと身悶えた。
「嘘を吐いてもすぐ分かるぞ。葵は身体も素直なんだからな」
 そう言って虎君は僕の中を弄っていた手である一点を押し撫でてきた。その手の動きは僕の身体に例えようもない程の快楽を与え、鮮明な快感に背中が仰け反ってしまった。
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