特別な人

鏡由良

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初めての人

初めての人 第72話

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 まるで弓矢のように反る身体は必死に快楽を逃がそうとするんだけれど、虎君は器用に指を動かして同じところをトントンと押すように触れてきて、逃がしきれない快楽におなかの奥底が一層切なくなってしまう。
 今までとは比べ物にならない快楽。叫び声に近い声が漏れ、せりあがってくる何かに僕はシーツを握りしめ限界を訴えた。
 あと少し、もう少しで意識が遠退きそうになったその時、僕を攻め立てていた鮮明な快楽がふっと無くなった。
 何が起こったのかと呂律の回らない口調で虎君を呼べば、虎君は僕の唇を塞ぎ、蕩けるようなキスをくれる。
 口内を愛撫するように動く舌の動きに翻弄され、上顎をなぞられるとぞわぞわとした何かが背筋を這って下半身へと降りてくる。這い降りてきた何か―――『快楽』はおなかの奥を切なくして、虎君が欲しいと言う卑しい欲を増幅させた。
「ごめんな? でもイったら葵が余計辛くなるから少し我慢、な?」
「はや、くぅ……とりゃく、おなか、さみしぃよぉ……」
 唇が離れた時にはもう虎君と繋がることしか考えられなくなっていて、瞼にキスを落としてくる虎君が何を言っているのか全然理解できなかった。
 解放されたおしりはひくひくしていて、早く中に虎君をちょうだいって主張してるみたいだ。
 僕は欲に浮かされた思考のまま涙声で強請ってしまう。いれて。って。虎君が欲しい。って……。
「っ―――、もう少しだけ我慢して? いい子だから」
「やだ……、とらく、ぼくのこと、あいしてよぉ……」
 今すぐ虎君と繋がりたいと我侭を押し通すその姿は、聞き分けのない子供だと思われてもしかたないだろう。
 いつもなら『虎君を困らせる』と躊躇うところ。でも今はそんな気を回すことなんてできないぐらい虎君に焦がれていた。
 ぎゅっと抱き着いて密着すれば、肌から直接感じる虎君のぬくもりに余計におなかが切なくなってしまった。
 左右に大きく開いた足を虎君に絡めれば、僕に欲情してくれてるって分かる。
 固く猛ったものが僕のそれと擦れるように触れていたせいか、無意識に腰が揺れてしまう。
 虎君に吐息交じりの苦し気な声で名前を呼ばれてその痴態に気づいたわけだけど、恥ずかしいとか思う余裕はもう無いから、擦れて生まれる柔い快楽に惚けながら虎君の名前を何度も何度も呼んだ。
 僕は優しい虎君が大好き。自分よりも僕を優先しちゃうぐらい僕を大切にしてくれる虎君が、本当に大好きで堪らない。
 けど、エッチの時はその優しさがむしろ腹立たしい。だって僕は痛くてもいいから早く繋がりたいから……。
「後からもうセックスしないって言っても、聞かないからなっ」
「いわないもん!」
 腰を振って僅かな快楽を追い求めていた僕から離れるように身体を起こす虎君はこれ以上ないほど苦しそうな表情で凄んで来る。
 僕はその脅しに、むしろ今すぐ挿れてくれないならもうエッチしない! なんて喚いてしまう。もしも虎君が『それでいい』って言ったら困るくせに。
 8つに割れた腹筋にくっつくぐらい反り勃ったモノが欲しくて堪らない僕は、甘えた声で虎君を呼ぶ。
 痛くてもいい。苦しくてもいい。ただただ、虎君がどれほど僕のことを愛しているか全身で感じたい……。
 そんな必死の訴えが通じたのか、虎君は苦し気な表情を更に歪めながらも僕の両足を抱えあげてきた。
「もう止まれないからなっ」
 虎君が欲しくてもどかしかったおしりにあたる熱に、心臓が物凄くドキドキしてる。
 これは紛れもない期待で、触れただけなのに気持ちよくて蕩けてしまった。
「とらくん、はやくぅ……」
 早く中に来てとひくひくしてるおしりに押し入ってくる熱。それは蕩けた身体を目覚めさせる痛みを生んだけど、でもさっきよりもずっとずっとマシだった。
「っ……、いっ!」
 さっきの教訓から『痛い』なんて絶対言わないつもりだったけど、漏れる声。最後まで口にしないよう堪えたけど、虎君が気づかないわけがない。
 動きを止める虎君。僕は同じことの繰り返しになってしまうと涙声で虎君を呼んで手を広げた。止めないで。僕の全部を愛して。そんなことを願いながら。
「そんな顔しなくても止まれないって、言っただろ?」
 眉間に皺を作ったまま笑う虎君は、息を止めないでと言うと腰を押し出して僕の望み通り僕を愛すために続けてくれた。
 言われた通り息を止めない様に頑張る僕。でも、痛みを感じると身体は強張るし息は止まるしで思うようにいかない。
「葵っ、頼むから息して」
「んっごめ、ごめっ」
 分かってるのに、身体を裂かれるような痛みと内臓を押し上げられている圧迫感に口をパクパクと動かすだけで碌に息ができない。
 苦しさを堪えるためか反射的に目を閉じていた僕は、縋る思いで大好きな人の姿を探す。涙で歪んだ視界の先に見つけた虎君は、苦しさを堪えるように深く息を吐いていた。
 その姿に、僕は痛いのは自分だけじゃないと漸く理解する。辛そうなその姿に、僕は顔を歪ませごめんなさいと謝った。
 虎君のためにも何とか息をしたいのに全然うまくできなくて、わけが分からなくなった僕の目からはボロボロと涙が零れてきて、これじゃ虎君をますます困らせてしまうだけだろう。
「葵、大丈夫だから落ち着いて」
「でも、でもっ」
「いいから、俺を見て?」
 伸びてくる手は僕のほっぺたに触れ、優しく撫でてくれる。
 僕は鼻を啜りながらも言われた通り虎君を見つめた。虎君の眉間にはやっぱり皺があったけど、それでも僕を見つめ笑ってくれていた。
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