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my treasure
my treasure 第14話
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「俺が悩むのは葵のことだけだ」
「私の優しさを踏みにじるのやめてよね」
葵のこと以外で悩んだ覚えがないと伝えれば、桔梗から返ってくるのは美人も台無しと言える表情。
大きな青い瞳を半分にして呆れ顔の妹に虎は眉を顰め、「お前の『優しさ』?」と言葉の意味が分からないと言わんばかりだ。
すると桔梗はそんな兄にわざとらしく大きなため息を吐くと彼女の『優しさ』を明言した。
「あんたが葵馬鹿だってことは嫌って程知ってる。でも一応あんたの人間性を信じて葵がらみ以外の悩みもあるって言ってあげたの。それなのに自分から肯定するのやめてよ」
「ああ、なるほど。そういう意味か」
「ちょっとは否定してよ」
「俺が否定して、お前信じるか?」
「信じるわけないじゃない」
「なら否定するだけ無駄だろ」
時間と労力が無駄だと分かっていることをわざわざする意味は何処にあるのか。
そう言いたげな虎の言葉に桔梗はまた盛大な溜め息を零した。
「本当、一切ブレないわね。基本即断即決な上煩わしければ即切り捨てなのに葵が絡むととことんポンコツ」
「大切な人のことはきちんと考えたいだけだ。……まぁ、嫌われたくないから優柔不断になってる所は認めるけどな」
「はぁ? 葵があんたのこと嫌うってよっぽどのことよ? それこそ浮気とか葵を裏切るような真似さえしなければあの子はむしろ――――」
愛してるからこそ臆病になってしまう。それが情けないと自嘲を漏らす虎に、桔梗はすぐさま『そもそも臆病になる理由がありえない』と一刀両断する。
しかし、懸念が杞憂であると言いながらも不自然に途切れる言葉はむしろ虎に不安を覚えさせる。
葵は何か不安を覚えているのか? と、自分の振る舞いに葵が嫌悪を抱いているのか? と桔梗に詰め寄る虎の表情にいつもの余裕はまったくない。
本当に葵のことになると冷静になれない兄の姿に桔梗は「怖い!」と距離をとるように父の元へと逃げてしまう。
「葵が何を不安に感じているか、俺のどんなところが嫌だと思っているのか、頼むから教えてくれ」
必死の形相で懇願する虎。
桔梗はその姿に言葉を詰まらせる。別に虎が思っているような理由で言葉を止めたわけじゃなかったから。
「なんだ? 葵が虎のことを嫌いだと言っていたのか?」
父を盾にするように身を隠す桔梗の耳に届くのは父の驚いたと言わんばかりの声。
視線を上げれば『初耳だ』と言いたげな表情で自分を見下ろす父の眼差しとぶつかって、桔梗は慌てて「違う!」と否定する。
言葉を止めたのはその言葉があまりにも盲目で恐ろしいものだったからだ。
桔梗は二人が想い合っていることは理解してるし、二人が幸せであるというのならそれでいいと思っている。
だが、愛し合っていても許してはいけないラインもあると思っているから言葉を噤んだのだ。
「どういうことだ?」
「私はただ、私の感じていることが事実だったら怖いと思っただけ」
「ん? つまりはどういうことだ?」
桔梗は説明しているつもりだろうが、彼女が何を言いたいのか理解できない。
そしてそれは虎だけでなく彼女の父も同じだったようで、もっと分かり易く言ってくれないかと苦笑を漏らしていた。
「葵はきっと虎が犯罪者になっても虎のことを嫌いにはならないんじゃないかって思って……。でもそれを口にしたら本当になりそうで怖かったの」
「いや、流石に罪を犯したら葵の気持ちだって変わるだろう?」
「本当にそうかな? 葵は『何か事情があるはず』って最後まで虎のこと信じそうじゃない?」
「それは普通のことじゃないかしら? お母さんは愛してる人を最後まで信じる気持ちはわかるけど、桔梗はそうじゃないの?」
「どんな事情があれど、犯罪は犯罪でしょ? 私はどんな事情があれど罪を犯したことを正当化するのは違うと思う」
難しい顔をする桔梗に彼女の両親は顔を見合わせ苦笑を漏らす。
正義感が強い子に育ってくれて嬉しい反面、心配も覚えた。彼女の『正義』はもしかするといつか他の人だけではなく彼女自身も傷つけてしまうかもしれないから。
二人は顰め面のまま考え込む娘に何と声をかけようか迷っているようだ。
虎はそんな二人の様子に助け舟、というわけではないが口を挟むことにした。
「桔梗の言いたいことは分かった。でも、勝手に犯罪者にしないでくれ」
「私がしてるのは可能性の話よ」
「想像力豊かなのは良いが、想像上の未来で俺を犯罪者にした挙句葵の倫理観を疑うのはどうかと思うぞ」
葵に嫌われていないと分かって安心したからか、虎は呆れ口調で桔梗を窘める。お前が言ってることは最愛の弟の人となりを否定しているようなものだ。と。
「自分を傷つけた相手にすら慈悲を持てる優しい性格の葵のことだ、俺が誰かを傷つけるような真似をすればきっと軽蔑する」
事実、過去に怒りに身を任せて最愛の人を傷つけた男に報復しようとした虎を葵は良しとしなかった。恐ろしい思いをしたはずなのに、深く傷つけられたはずなのに、涙に潤んだ眼差しと震える手で『そんなことしないで』と訴えてきた。
そんな葵を知るからこそ、虎は葵を悲しませないために他者を傷つけることはしないと桔梗に伝えた。
「私の優しさを踏みにじるのやめてよね」
葵のこと以外で悩んだ覚えがないと伝えれば、桔梗から返ってくるのは美人も台無しと言える表情。
大きな青い瞳を半分にして呆れ顔の妹に虎は眉を顰め、「お前の『優しさ』?」と言葉の意味が分からないと言わんばかりだ。
すると桔梗はそんな兄にわざとらしく大きなため息を吐くと彼女の『優しさ』を明言した。
「あんたが葵馬鹿だってことは嫌って程知ってる。でも一応あんたの人間性を信じて葵がらみ以外の悩みもあるって言ってあげたの。それなのに自分から肯定するのやめてよ」
「ああ、なるほど。そういう意味か」
「ちょっとは否定してよ」
「俺が否定して、お前信じるか?」
「信じるわけないじゃない」
「なら否定するだけ無駄だろ」
時間と労力が無駄だと分かっていることをわざわざする意味は何処にあるのか。
そう言いたげな虎の言葉に桔梗はまた盛大な溜め息を零した。
「本当、一切ブレないわね。基本即断即決な上煩わしければ即切り捨てなのに葵が絡むととことんポンコツ」
「大切な人のことはきちんと考えたいだけだ。……まぁ、嫌われたくないから優柔不断になってる所は認めるけどな」
「はぁ? 葵があんたのこと嫌うってよっぽどのことよ? それこそ浮気とか葵を裏切るような真似さえしなければあの子はむしろ――――」
愛してるからこそ臆病になってしまう。それが情けないと自嘲を漏らす虎に、桔梗はすぐさま『そもそも臆病になる理由がありえない』と一刀両断する。
しかし、懸念が杞憂であると言いながらも不自然に途切れる言葉はむしろ虎に不安を覚えさせる。
葵は何か不安を覚えているのか? と、自分の振る舞いに葵が嫌悪を抱いているのか? と桔梗に詰め寄る虎の表情にいつもの余裕はまったくない。
本当に葵のことになると冷静になれない兄の姿に桔梗は「怖い!」と距離をとるように父の元へと逃げてしまう。
「葵が何を不安に感じているか、俺のどんなところが嫌だと思っているのか、頼むから教えてくれ」
必死の形相で懇願する虎。
桔梗はその姿に言葉を詰まらせる。別に虎が思っているような理由で言葉を止めたわけじゃなかったから。
「なんだ? 葵が虎のことを嫌いだと言っていたのか?」
父を盾にするように身を隠す桔梗の耳に届くのは父の驚いたと言わんばかりの声。
視線を上げれば『初耳だ』と言いたげな表情で自分を見下ろす父の眼差しとぶつかって、桔梗は慌てて「違う!」と否定する。
言葉を止めたのはその言葉があまりにも盲目で恐ろしいものだったからだ。
桔梗は二人が想い合っていることは理解してるし、二人が幸せであるというのならそれでいいと思っている。
だが、愛し合っていても許してはいけないラインもあると思っているから言葉を噤んだのだ。
「どういうことだ?」
「私はただ、私の感じていることが事実だったら怖いと思っただけ」
「ん? つまりはどういうことだ?」
桔梗は説明しているつもりだろうが、彼女が何を言いたいのか理解できない。
そしてそれは虎だけでなく彼女の父も同じだったようで、もっと分かり易く言ってくれないかと苦笑を漏らしていた。
「葵はきっと虎が犯罪者になっても虎のことを嫌いにはならないんじゃないかって思って……。でもそれを口にしたら本当になりそうで怖かったの」
「いや、流石に罪を犯したら葵の気持ちだって変わるだろう?」
「本当にそうかな? 葵は『何か事情があるはず』って最後まで虎のこと信じそうじゃない?」
「それは普通のことじゃないかしら? お母さんは愛してる人を最後まで信じる気持ちはわかるけど、桔梗はそうじゃないの?」
「どんな事情があれど、犯罪は犯罪でしょ? 私はどんな事情があれど罪を犯したことを正当化するのは違うと思う」
難しい顔をする桔梗に彼女の両親は顔を見合わせ苦笑を漏らす。
正義感が強い子に育ってくれて嬉しい反面、心配も覚えた。彼女の『正義』はもしかするといつか他の人だけではなく彼女自身も傷つけてしまうかもしれないから。
二人は顰め面のまま考え込む娘に何と声をかけようか迷っているようだ。
虎はそんな二人の様子に助け舟、というわけではないが口を挟むことにした。
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葵に嫌われていないと分かって安心したからか、虎は呆れ口調で桔梗を窘める。お前が言ってることは最愛の弟の人となりを否定しているようなものだ。と。
「自分を傷つけた相手にすら慈悲を持てる優しい性格の葵のことだ、俺が誰かを傷つけるような真似をすればきっと軽蔑する」
事実、過去に怒りに身を任せて最愛の人を傷つけた男に報復しようとした虎を葵は良しとしなかった。恐ろしい思いをしたはずなのに、深く傷つけられたはずなのに、涙に潤んだ眼差しと震える手で『そんなことしないで』と訴えてきた。
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