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my treasure
my treasure 第30話
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葵への執着が異常だということは以前から自覚していたが、自分が恐れていた通り、一線を越えたことでそれは更に悪化してしまった。
今までなら海音の軽口もそれなりに受け流せていたのだが、増幅した独占欲のせいでそれすらも許せない。
狭量が過ぎると分かっているのだが、どうしても我慢が効かなかった。
「お前さ、彼氏がいればそれでいいって本気で思ってるわけ?」
理不尽だと非難されても当然だった虎の振る舞いにも、自分が悪かったと言って一切責めることのなかった海音は先程「腹が減った!」とコンビニに食料の買い出しに行った。
海音が出て行ってすぐ虎の眼前に仁王立ちしているのは部屋の主である雲英で、不快感を露わに問いかけてきた。
「……思ってたらどうだって言うんだ」
「思ってるなら、頭お花畑のバカだって言ってやる」
「学部のトップを掴まえてバカとは言ってくれるな」
「学力的な意味じゃねぇーよ。絶対分かってて言ってるだろ、お前」
人間的な意味で馬鹿だと言っていると呆れ顔で見下ろしてくる雲英。
虎はそんな彼に自嘲気味に笑い、「自覚してる」と小さな声を漏らした。
「海音は良い奴だよ。本当に」
「! お前……、お前本当に虎か? え? もしかしてこの部屋事故物件なわけ? マジ?」
憑りつかれたのかと青褪める雲英は明らかに怯えた様子。
失礼な奴だなと嘲笑を漏らす虎は、雲英の貞操観念の低さはともかく、人を見る目は確かだと信頼を示した。
「えぇ……マジで、どうしたんだ?」
「どうもしていない」
憎まれ口が飛んでこないことが怖いと言いたげな雲英は、怯えた表情のまま尤もな疑問を投げかけてきた。
「海音を良い奴だって思ってるなら、なんであんな邪険にするんだよ」
「良い奴でもうざいことはうざいからな」
海音のことは常々鬱陶しいと思っている。それは事実だ。だが虎にとっては彼への信頼の裏返しでもある。
雲英は顰め面を見せ、『理解できない』と訴えてくる。虎は苦笑を漏らし海音はある意味自分の理想だと彼に伝えた。
海音のような明るく穏やかで思いやりにあふれた性格であれば葵を傷つけることなく『兄として』愛せたのではないかと思ったことは1度や2度じゃなかった。と。
「いや、お前の彼氏はお前のことめちゃくちゃ好きなんだろ? なんでそういう感じになるわけ?」
「それは葵が俺を愛してくれたから俺は俺で良かったってだけで『結果論』だな」
「んん?」
「海音みたいな性格でありたかったってのは、葵が俺を『兄貴みたいな幼馴染』としか思ってなかった頃の話だよ。……あの頃の俺は、どんなに頑張っても『兄』にはなれなかった。どれほど努力しようとも海音みたいに大切な弟妹達を想う『兄貴』にはなれなかったんだ」
物憂げに笑う虎にはいつもの人を小馬鹿にした雰囲気はなく、純粋に過去を懐かしんでいるようだ。
昔から愛しくて堪らなかった存在の為に自分ができる努力を全てしてきた虎には、たった一つだけ成し得なかったことがある。
それが先程彼が言った『兄』になることだった。葵を『兄』として愛し、慈しみ、守りたかった。
だが、何度自分に暗示をかけても、『兄』になることはできなかった。
『兄』としてではなく、一人の男として葵を愛し、慈しみ、守り続けた。
兄になれなかった『男』は守るべき人に穢れた劣情を覚え、時に他者に醜い嫉妬を抱き、狂気にも似た恋慕に焦がれた。
いつか大切な人を傷つけてしまうかもしれない。
そんな恐怖を覚える虎の隣には彼がなりたかった『兄』としての立ち居振る舞いを見せる海音が居て、羨望のあまり度々理不尽な八つ当たりをしてしまったと思う。
普通なら愛想を尽かして当然だと思える振る舞いも多かっただろう。
だが海音はそれらすべてを笑って赦し、あまつさえ『親友』だと今もなお虎を呼ぶ。
その広すぎる懐に、羨望するのも飽きるぐらいだと薄い笑みを浮かべた。
「男のツンデレとか、止めろよ。キツイぞ」
「同感だな。だから俺は海音に優しくするつもりは微塵もない」
「いやいやいや、そういう理由なわけ? あの最悪な態度って」
どういう理由だよ!?
そう呆れる雲英に、虎は肩を竦ませ「葵に注意されたら改める」と一切ブレることのない考えを示した。
「一回ぐらい言われたことあるだろ?」
「いや、無い。これが普通だと思ってるから」
「あれが普通って、お前の彼氏の頭もバグってるのか?」
「おい、葵を悪く言うなら容赦しないぞ」
葵が物心つく頃には既に今の関係性が出来上がっていた。
だから葵が虎に『海音君に優しくして』と注意することは今までなく、きっとこれからもないだろう。
何故なら葵は今海音を自身の『ライバル』だと思っているから。
今までなら海音の軽口もそれなりに受け流せていたのだが、増幅した独占欲のせいでそれすらも許せない。
狭量が過ぎると分かっているのだが、どうしても我慢が効かなかった。
「お前さ、彼氏がいればそれでいいって本気で思ってるわけ?」
理不尽だと非難されても当然だった虎の振る舞いにも、自分が悪かったと言って一切責めることのなかった海音は先程「腹が減った!」とコンビニに食料の買い出しに行った。
海音が出て行ってすぐ虎の眼前に仁王立ちしているのは部屋の主である雲英で、不快感を露わに問いかけてきた。
「……思ってたらどうだって言うんだ」
「思ってるなら、頭お花畑のバカだって言ってやる」
「学部のトップを掴まえてバカとは言ってくれるな」
「学力的な意味じゃねぇーよ。絶対分かってて言ってるだろ、お前」
人間的な意味で馬鹿だと言っていると呆れ顔で見下ろしてくる雲英。
虎はそんな彼に自嘲気味に笑い、「自覚してる」と小さな声を漏らした。
「海音は良い奴だよ。本当に」
「! お前……、お前本当に虎か? え? もしかしてこの部屋事故物件なわけ? マジ?」
憑りつかれたのかと青褪める雲英は明らかに怯えた様子。
失礼な奴だなと嘲笑を漏らす虎は、雲英の貞操観念の低さはともかく、人を見る目は確かだと信頼を示した。
「えぇ……マジで、どうしたんだ?」
「どうもしていない」
憎まれ口が飛んでこないことが怖いと言いたげな雲英は、怯えた表情のまま尤もな疑問を投げかけてきた。
「海音を良い奴だって思ってるなら、なんであんな邪険にするんだよ」
「良い奴でもうざいことはうざいからな」
海音のことは常々鬱陶しいと思っている。それは事実だ。だが虎にとっては彼への信頼の裏返しでもある。
雲英は顰め面を見せ、『理解できない』と訴えてくる。虎は苦笑を漏らし海音はある意味自分の理想だと彼に伝えた。
海音のような明るく穏やかで思いやりにあふれた性格であれば葵を傷つけることなく『兄として』愛せたのではないかと思ったことは1度や2度じゃなかった。と。
「いや、お前の彼氏はお前のことめちゃくちゃ好きなんだろ? なんでそういう感じになるわけ?」
「それは葵が俺を愛してくれたから俺は俺で良かったってだけで『結果論』だな」
「んん?」
「海音みたいな性格でありたかったってのは、葵が俺を『兄貴みたいな幼馴染』としか思ってなかった頃の話だよ。……あの頃の俺は、どんなに頑張っても『兄』にはなれなかった。どれほど努力しようとも海音みたいに大切な弟妹達を想う『兄貴』にはなれなかったんだ」
物憂げに笑う虎にはいつもの人を小馬鹿にした雰囲気はなく、純粋に過去を懐かしんでいるようだ。
昔から愛しくて堪らなかった存在の為に自分ができる努力を全てしてきた虎には、たった一つだけ成し得なかったことがある。
それが先程彼が言った『兄』になることだった。葵を『兄』として愛し、慈しみ、守りたかった。
だが、何度自分に暗示をかけても、『兄』になることはできなかった。
『兄』としてではなく、一人の男として葵を愛し、慈しみ、守り続けた。
兄になれなかった『男』は守るべき人に穢れた劣情を覚え、時に他者に醜い嫉妬を抱き、狂気にも似た恋慕に焦がれた。
いつか大切な人を傷つけてしまうかもしれない。
そんな恐怖を覚える虎の隣には彼がなりたかった『兄』としての立ち居振る舞いを見せる海音が居て、羨望のあまり度々理不尽な八つ当たりをしてしまったと思う。
普通なら愛想を尽かして当然だと思える振る舞いも多かっただろう。
だが海音はそれらすべてを笑って赦し、あまつさえ『親友』だと今もなお虎を呼ぶ。
その広すぎる懐に、羨望するのも飽きるぐらいだと薄い笑みを浮かべた。
「男のツンデレとか、止めろよ。キツイぞ」
「同感だな。だから俺は海音に優しくするつもりは微塵もない」
「いやいやいや、そういう理由なわけ? あの最悪な態度って」
どういう理由だよ!?
そう呆れる雲英に、虎は肩を竦ませ「葵に注意されたら改める」と一切ブレることのない考えを示した。
「一回ぐらい言われたことあるだろ?」
「いや、無い。これが普通だと思ってるから」
「あれが普通って、お前の彼氏の頭もバグってるのか?」
「おい、葵を悪く言うなら容赦しないぞ」
葵が物心つく頃には既に今の関係性が出来上がっていた。
だから葵が虎に『海音君に優しくして』と注意することは今までなく、きっとこれからもないだろう。
何故なら葵は今海音を自身の『ライバル』だと思っているから。
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