34 / 54
LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN.
LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN. 第33話
しおりを挟む
悠栖がそれに後ろを振り返れば、怒りと困惑、そして恐怖といった様々な表情が入り混じった顔で立ち尽くしている那鳥の姿がそこにあった。
そしてその隣には唯哉の姿があって、悠栖はクラスメイトに覚えていた怒りとは別の、もっとドロドロした何かが身体を巡る感覚を覚えた。
「あ、あの、これは、その―――」
シンと静まり返った教室に響くのは噂を吹聴したクラスメイトの狼狽えた声。
必死に言い訳を考えているのだろうが、言葉はまともに紡がれることは無かった。
聞こえる賑やかな声は廊下を通る他の生徒のものや隣の教室のものだけ。
今自分達の教室には緊迫した空気が流れていて息苦しさを覚えた。
しかし、この緊張感は長く続かなかった。
那鳥の隣にいた唯哉が固まったままの彼の名前を呼んだことにより、時は再び動き出す。
「姫神、大丈夫か……?」
唯哉の手が那鳥の肩に触れた瞬間、那鳥は弾かれた様に唯哉を振り返り、そして、泣きそうに顔を歪めた。
その表情がすべてを物語っていて、『噂』は『真実』だったと皆に伝えた。
那鳥は唯哉の手を振り払うとそのまま踵を返して教室から、クラスメイトの好奇の目から逃げるように走り去ってしまった。
「! 姫神っ!!」
逃げた那鳥の名前を呼ぶ唯哉の声が、響く。
唯哉は那鳥を追いかけようとしたが、その前にどうしてもやらなければならない事があると教室にいた全員に蔑みの声を放った。
「お前ら、サイテーだなっ……!」
唯哉の口から出た言葉はたったそれだけ。
しかし、それ以上に感情は伝わった。
反論のしようがないと言葉を失うクラスメイト達。
唯哉は軽蔑の眼差しを残し、那鳥を追いかけるように走り去った。
二人が居なくなって数秒後、漸く教室に音が戻った。しかしそれは良い音とは言えないもので……。
「び、ビビったぁ……。タイミング悪すぎだろ……」
「いや、むしろタイミング良すぎじゃねぇ?」
「確かにな。でも姫神のあの顔、あれは『マジ』の奴だよな?」
騒めきを取り戻す教室には那鳥の過去の推測や憶測が飛び交っていて、それらは全て『好奇』と『悪意』に満ちているように感じた。
聞き苦しい『噂話』の数々。悠栖はぐるぐると腹を蠢く感情に吐き気を覚えた。
好き勝手に喋るクラスメイト達の話題は那鳥の家庭の話だけに留まらず、彼の内面にまで飛躍する。
そして、自分達を蔑んだ唯哉に対する苛立ちをそれに交え、下世話な話題へと内容を変化させて―――。
「……那鳥君、ご両親のことでずっとからかわれてたみたいだよ……」
「え?」
苛立ちを募らせていた悠栖の耳に届くのは、葵の声。
それはクラスメイト達には聞こえないようにトーンの落とされたもので、悠栖はどうして葵が先程明らかになった那鳥の『秘密』の詳細を知っているのかと視線を向けた。
「葵、知ってたの?」
「うん。ほら、僕の周りって心配性な人が多いでしょ? 友達ができたって那鳥君の話をした二日後には色々調べつくされちゃってて……」
そう苦笑いを浮かべる葵は、だから先の話の全容はもちろん、それまで公立の学校に通っていた那鳥がクライストに編入するに至った経緯も全部知っていると力なく頷いた。
慶史がそれらについて尋ねる言葉を口にしたが、葵は那鳥が言いたくない事は言わないと首を振って話すことを拒否する。
でも、知っておいて欲しいことは喋ると言った葵。
朋喜が『知っておいて欲しいこと』とは何か話を促した。
「那鳥君は信じていた友達全員に一度裏切られてる。でも、それでももう一度友達を信じようって僕達に心を開いてくれた。……僕達に必要なのって、那鳥君の『過去』じゃなくて『そういうところ』だよね?」
家とか家族とか、そういったものも必要ない。自分達にとって重要なのは、那鳥が自分達をどう思っているかだけ。
そう尋ねてくる葵に悠栖は慶史と朋喜と視線を交え、そして頷いた。それ以外に大切なモノなんてないよ。と。
葵は答えに笑顔を見せ「よかった」と安堵する。
悠栖はそんな葵の笑顔に心が浄化されたような気がした。
そして浄化された心には余裕が生まれ、行動を起こす力も生み出してくれる。
「どこ行くの?」
「チカ、探してくる。たぶん今の姫神には全員『同じ』に見えるだろうから」
ノートをまだ写し終えていないのに片づけを始める悠栖に朋喜が訝しげな声を掛けてくる。
それに悠栖は呑気にノートを写している場合じゃないと言葉を返した。
那鳥が過去自分を蔑んだ連中と唯哉を同一視して、傷つく前に傷つけようと攻撃に転じないとは言い切れない。
そうなればどちらも傷を負うことになるから、その前に止めないと。
そう言って悠栖は午後の授業では潔く怒られると笑ってノートを閉じると教室を後にした。
そしてその隣には唯哉の姿があって、悠栖はクラスメイトに覚えていた怒りとは別の、もっとドロドロした何かが身体を巡る感覚を覚えた。
「あ、あの、これは、その―――」
シンと静まり返った教室に響くのは噂を吹聴したクラスメイトの狼狽えた声。
必死に言い訳を考えているのだろうが、言葉はまともに紡がれることは無かった。
聞こえる賑やかな声は廊下を通る他の生徒のものや隣の教室のものだけ。
今自分達の教室には緊迫した空気が流れていて息苦しさを覚えた。
しかし、この緊張感は長く続かなかった。
那鳥の隣にいた唯哉が固まったままの彼の名前を呼んだことにより、時は再び動き出す。
「姫神、大丈夫か……?」
唯哉の手が那鳥の肩に触れた瞬間、那鳥は弾かれた様に唯哉を振り返り、そして、泣きそうに顔を歪めた。
その表情がすべてを物語っていて、『噂』は『真実』だったと皆に伝えた。
那鳥は唯哉の手を振り払うとそのまま踵を返して教室から、クラスメイトの好奇の目から逃げるように走り去ってしまった。
「! 姫神っ!!」
逃げた那鳥の名前を呼ぶ唯哉の声が、響く。
唯哉は那鳥を追いかけようとしたが、その前にどうしてもやらなければならない事があると教室にいた全員に蔑みの声を放った。
「お前ら、サイテーだなっ……!」
唯哉の口から出た言葉はたったそれだけ。
しかし、それ以上に感情は伝わった。
反論のしようがないと言葉を失うクラスメイト達。
唯哉は軽蔑の眼差しを残し、那鳥を追いかけるように走り去った。
二人が居なくなって数秒後、漸く教室に音が戻った。しかしそれは良い音とは言えないもので……。
「び、ビビったぁ……。タイミング悪すぎだろ……」
「いや、むしろタイミング良すぎじゃねぇ?」
「確かにな。でも姫神のあの顔、あれは『マジ』の奴だよな?」
騒めきを取り戻す教室には那鳥の過去の推測や憶測が飛び交っていて、それらは全て『好奇』と『悪意』に満ちているように感じた。
聞き苦しい『噂話』の数々。悠栖はぐるぐると腹を蠢く感情に吐き気を覚えた。
好き勝手に喋るクラスメイト達の話題は那鳥の家庭の話だけに留まらず、彼の内面にまで飛躍する。
そして、自分達を蔑んだ唯哉に対する苛立ちをそれに交え、下世話な話題へと内容を変化させて―――。
「……那鳥君、ご両親のことでずっとからかわれてたみたいだよ……」
「え?」
苛立ちを募らせていた悠栖の耳に届くのは、葵の声。
それはクラスメイト達には聞こえないようにトーンの落とされたもので、悠栖はどうして葵が先程明らかになった那鳥の『秘密』の詳細を知っているのかと視線を向けた。
「葵、知ってたの?」
「うん。ほら、僕の周りって心配性な人が多いでしょ? 友達ができたって那鳥君の話をした二日後には色々調べつくされちゃってて……」
そう苦笑いを浮かべる葵は、だから先の話の全容はもちろん、それまで公立の学校に通っていた那鳥がクライストに編入するに至った経緯も全部知っていると力なく頷いた。
慶史がそれらについて尋ねる言葉を口にしたが、葵は那鳥が言いたくない事は言わないと首を振って話すことを拒否する。
でも、知っておいて欲しいことは喋ると言った葵。
朋喜が『知っておいて欲しいこと』とは何か話を促した。
「那鳥君は信じていた友達全員に一度裏切られてる。でも、それでももう一度友達を信じようって僕達に心を開いてくれた。……僕達に必要なのって、那鳥君の『過去』じゃなくて『そういうところ』だよね?」
家とか家族とか、そういったものも必要ない。自分達にとって重要なのは、那鳥が自分達をどう思っているかだけ。
そう尋ねてくる葵に悠栖は慶史と朋喜と視線を交え、そして頷いた。それ以外に大切なモノなんてないよ。と。
葵は答えに笑顔を見せ「よかった」と安堵する。
悠栖はそんな葵の笑顔に心が浄化されたような気がした。
そして浄化された心には余裕が生まれ、行動を起こす力も生み出してくれる。
「どこ行くの?」
「チカ、探してくる。たぶん今の姫神には全員『同じ』に見えるだろうから」
ノートをまだ写し終えていないのに片づけを始める悠栖に朋喜が訝しげな声を掛けてくる。
それに悠栖は呑気にノートを写している場合じゃないと言葉を返した。
那鳥が過去自分を蔑んだ連中と唯哉を同一視して、傷つく前に傷つけようと攻撃に転じないとは言い切れない。
そうなればどちらも傷を負うことになるから、その前に止めないと。
そう言って悠栖は午後の授業では潔く怒られると笑ってノートを閉じると教室を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる