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そして時は動き出す
そして時は動き出す 第3話
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「生き延びたかったら、師匠を殺す手伝いをしろって…?」
冗談じゃない。確かに、姉を救い、親友を助ける為に出来るなら生き延びたいと願うし、生き延びる事が師との約束でもある。
だが、無理なものは無理なのだ。もう二度と、師に迷惑を掛けたくないから、誰よりも、何よりも尊敬している人だから、自分なりに護りたいと思う。護るために、目の前の敵に屈する真似は絶対にできない。
(…弱いくせに無理するなって言われそう…)
自分ごときが師を守るだなんて、とんだ思い上がりだと言う事は百も承知。分かっているが、想いを変える事なんて出来ないから…。
リムは腰に携えた剣を抜き、女に向き合うと笑った。「殺せよ」と言葉を零しながら。
「…頭の悪い奴。望み通り、屍をフェンデル・ケイに届けてやる」
一気に間合いを詰められ、信じられないほど重い一撃が振り下ろされた。何とか剣でソレを受け止めるが、柄を握っていた手が耐え切れずに痺れ、力が抜けてくる…。
ただで殺られるものかともう片方の手で剣を支えて全力で女の斬撃を弾いてやると、ニヤリと笑われた。思った以上にやるね。と言うかのように…。
剣を片手に、女は笑みを浮かべて詠唱を唱えだす。空いた手に集う魔法力にリムは急いで身をガードする。
「空を駆け抜く大地の吐息よ、空を切り裂く雷鳴の姿よ、汝の力を今我に」
風系に属する雷属性を身に纏い、敵が放つであろう呪文に備えるリムに「そういうところはさすが、ね」と女は笑った。
同属性を身に纏うことでダメージを軽減しようなんて思ってもそう簡単に出来るものでない。普通の修行じゃ身に付かない技術だから。強者と呼ばれる生物ですら出来ない者もいるぐらい、優れた魔法技術が必要となる同属性によるガード。
「でも、もう少し強ければソレも役に立ったのに…残念ね、力の差がありすぎるわ」
そんなこと言われなくても分かっている。分かっているが、魔法のダメージを軽減する方法は今のところこれが最も効果的だから仕方が無いのだ。
「ディグ・ボルト【風系落雷呪文。雷を呼び出し、強力な電撃攻撃。上級レベルの魔法】」
掲げられた手の平に集う魔法力が暗雲を呼び、雷がリムを目掛けて落ちてくる。
「!!……」
(…あれ…?)
衝撃がこない。…何故?
不思議そうに目を開けると、女とリムのちょうど真ん中に、一本の槍が雷を受け電気を帯びながら大地にささっていた…。
(!…まさか……)
自分のピンチに駆けつけてくれる人といったら、あの人しかいない。
リムは緊張と喜びに震えながらもその姿を探した…。師の姿を…。
「間一髪だったなぁ…」
「え…?」
視界に入るのは鮮やかなショッキングピンクではなく、漆黒の黒髪…。声も想像していたものと違い少し高めの少年の声。
リムは落胆を隠せないでいた。…師が、帰ってきたと思ったから…。
「でも、思わず助けたけど、よかったのか?」
「馬鹿烈火!いいに決まってるでしょ!どう見てもあの子が襲われてる側じゃない!」
佇むのは少年と少女と長身の男。リムは何処かで見たことがある…と顔をしかめた。
新たな敵か?それとも…。
「Aクラスの戦闘力か…烈火、氷華、あの子を」
優しく笑いながら二人を下がらすのは黒に近い灰色の髪をした男・ジェイクだった。烈火も氷華もその言葉に従いリムの基へ走るが、ソレを女がすんなり許すわけも無い。
「邪魔するな!」
魔力が小さく形となり、彼女の身体から無数の刃となって放たれた。もちろん、リムにもソレは襲い掛かり…。
(…くそっ)
反射的に剣を片手に立ち向かおうとするリム。しかし、実体の無い魔力に剣で立ち向かおうなど無謀もいいところだ。
「ファイアー・ウォール【上級レベルの防壁呪文。炎系の呪文なら無効化することが出来る】!」
突如リムの目の前に現れたのは燃え盛る炎の壁。それに驚いて呆然としているリムに空色髪の少女が「大丈夫?」と心配そうに駆け寄ってきた。烈火は大地に突き刺さったままの槍を引き抜いて、「ダンナ~、もういいぜ~」と手を振ると、ジェイクが分かったと頷いて見せる。
リムには三人が一体何者なのか分からないが、無謀にもあの女と戦おうとしているのは分かる。弱者しかいないこの地域の生物があの女と戦うなんて無茶だとリムは彼らを止めようとした。が…。
「死にたくなければ二度とここに近寄らない事だ」
「…あんたは…まさか……」
大剣を片手に凍りついたように冷たい眼光を放つジェイクは表情を消し、ゆっくりと女に近づきながら「去れ」と命じた。そして、女は、何か恐ろしいものを見たかのように震えだし、「死にたくない!」と姿を消してしまったのだった…。
(…どうなってる……?)
「危ないところだったね」
状況が飲み込めていないリムに優しく微笑むのは氷華だった。頭にクエッションマークを大量に発生させているその表情に烈火は笑う。
「あんた達は…?」
「え、あぁ、忘れ物を届けにきただけだよ。でも、そしたら、なんだか物騒な空気が流れてて驚いちゃった」
ニコニコ笑いながら自分達がこの場にいる理由を話しながら、リムの腕に刺さった短剣に手をかけ、「ちょっと我慢しててね」と言うとソレを引き抜き回復呪文をかけてくれる。
烈火はこちらに歩み寄るジェイクを見ながら、槍を片手にリムが先程まで必死に探していたものを持ってきたと告げた。
「!!本当!?」
「嘘付いてどうするんだよ。お前がダンナにぶつかった時にチェーンが切れたんだろ?ダンナが持ってるぜ、お前のネームプレート」
「銀の十字架は?!押してないよな!?」
必死になって尋ねてくる彼女に今度は烈火が不思議そうな顔をする。ネームプレートより一緒についてたチェーントップの心配をするってどうだよ?と意味が分からないといった感じだ。
押してる押してないといわれても、烈火と氷華は何の事だか分からない。ただ、ジェイクだけがその意味を知っているように笑っていた。
「押してないよ。…大事なものだろう?もう落とすなよ」
歩み寄り、預かっていたよと彼女の手に銀色のネームプレートと同色の十字架の通されたチェーンを渡してやると、リムは、良かった…とだけ零し、その場にしゃがみこんでしまった。
その様子によほど大事なものだったんだろうと氷華は届けてよかったと笑顔になる。烈火も、ぶつくさ文句を言っていたわりには、良かったなと声をかけている。
「本当に、ありがとう…」
頭を下げる彼女に、烈火はやめろよとまた笑った。氷華もジェイク笑っていて、和やかな雰囲気が流れていて…。しかし、顔を上げるリムに、ジェイクの動きが止まった。不自然なその動きに、リムも氷華も烈火もどうしたのかと首を傾げてしまう。
「…私の顔に何か付いてるのか…?」
彼は驚いたように自分の顔をジッと見ているから、戸惑ってしまう。そして、震える唇から、小さく「…ユナ…」と言葉が零れた…。それは、誰にも聞こえない小さな声…。
「え?」
「…!あ、いや、なんでもないよ…あまりにも綺麗な赤い目だったんで驚いただけだ」
慌てて笑顔になるのに不自然さを覚えさせないのがすごい所だ。
リムは、ありがとうと笑った。
「ねぇ、…何時もあんなのに狙われてるの?」
「あ、…いや、違うよ…初めて、だよ」
戸惑うのは、狙われた理由を聞かれたくないから。思い出したのは弟の言葉。
―――この星では出会って浅い連中を信じると死に繋がるよ。
もしかしたら、この三人も師を狙ってきた人物かもしれない…信用させて、師を襲うチャンスをうかがっているのかもしれない…。そんな考えが浮かんでは消えていった。
「あ~…もしかして、あたし達のこと、疑ってる?」
相変わらず顔に感情が出やすいらしい。リムは思い切り疑っていますと言う目で三人を見てしまっていたとその言葉に気がついた。
「無理ないだろ。"TITLE"持ちだし、あんな連中に狙われるのなんて日常茶飯事なんじゃねーの?」
「あ、そっか…大変だね~三賢者の意志を継ぐって」
むしろ疑わない方がおかしいからと苦笑する烈火にそれもそうだねと笑う氷華。呑気な二人だと思ってしまう。
その様子にはリムもあっけに取られてしまう。
「…ね~、リムは一人でそんな連中と戦ってるの?」
「いや、仲間は一人いるよ…」
「一人…でも、今一人で戦ってたところを見た限り、そのもう一人ってのは戦力にならないってわけだ」
鋭いところを付いてくる烈火に口ごもってしまうのはそれが事実だから。シーザは今のところ戦えるほど戦闘力があるわけではない。
氷華と烈火の言葉に、リムは仕方ないだろというかのように笑って見せた。
冗談じゃない。確かに、姉を救い、親友を助ける為に出来るなら生き延びたいと願うし、生き延びる事が師との約束でもある。
だが、無理なものは無理なのだ。もう二度と、師に迷惑を掛けたくないから、誰よりも、何よりも尊敬している人だから、自分なりに護りたいと思う。護るために、目の前の敵に屈する真似は絶対にできない。
(…弱いくせに無理するなって言われそう…)
自分ごときが師を守るだなんて、とんだ思い上がりだと言う事は百も承知。分かっているが、想いを変える事なんて出来ないから…。
リムは腰に携えた剣を抜き、女に向き合うと笑った。「殺せよ」と言葉を零しながら。
「…頭の悪い奴。望み通り、屍をフェンデル・ケイに届けてやる」
一気に間合いを詰められ、信じられないほど重い一撃が振り下ろされた。何とか剣でソレを受け止めるが、柄を握っていた手が耐え切れずに痺れ、力が抜けてくる…。
ただで殺られるものかともう片方の手で剣を支えて全力で女の斬撃を弾いてやると、ニヤリと笑われた。思った以上にやるね。と言うかのように…。
剣を片手に、女は笑みを浮かべて詠唱を唱えだす。空いた手に集う魔法力にリムは急いで身をガードする。
「空を駆け抜く大地の吐息よ、空を切り裂く雷鳴の姿よ、汝の力を今我に」
風系に属する雷属性を身に纏い、敵が放つであろう呪文に備えるリムに「そういうところはさすが、ね」と女は笑った。
同属性を身に纏うことでダメージを軽減しようなんて思ってもそう簡単に出来るものでない。普通の修行じゃ身に付かない技術だから。強者と呼ばれる生物ですら出来ない者もいるぐらい、優れた魔法技術が必要となる同属性によるガード。
「でも、もう少し強ければソレも役に立ったのに…残念ね、力の差がありすぎるわ」
そんなこと言われなくても分かっている。分かっているが、魔法のダメージを軽減する方法は今のところこれが最も効果的だから仕方が無いのだ。
「ディグ・ボルト【風系落雷呪文。雷を呼び出し、強力な電撃攻撃。上級レベルの魔法】」
掲げられた手の平に集う魔法力が暗雲を呼び、雷がリムを目掛けて落ちてくる。
「!!……」
(…あれ…?)
衝撃がこない。…何故?
不思議そうに目を開けると、女とリムのちょうど真ん中に、一本の槍が雷を受け電気を帯びながら大地にささっていた…。
(!…まさか……)
自分のピンチに駆けつけてくれる人といったら、あの人しかいない。
リムは緊張と喜びに震えながらもその姿を探した…。師の姿を…。
「間一髪だったなぁ…」
「え…?」
視界に入るのは鮮やかなショッキングピンクではなく、漆黒の黒髪…。声も想像していたものと違い少し高めの少年の声。
リムは落胆を隠せないでいた。…師が、帰ってきたと思ったから…。
「でも、思わず助けたけど、よかったのか?」
「馬鹿烈火!いいに決まってるでしょ!どう見てもあの子が襲われてる側じゃない!」
佇むのは少年と少女と長身の男。リムは何処かで見たことがある…と顔をしかめた。
新たな敵か?それとも…。
「Aクラスの戦闘力か…烈火、氷華、あの子を」
優しく笑いながら二人を下がらすのは黒に近い灰色の髪をした男・ジェイクだった。烈火も氷華もその言葉に従いリムの基へ走るが、ソレを女がすんなり許すわけも無い。
「邪魔するな!」
魔力が小さく形となり、彼女の身体から無数の刃となって放たれた。もちろん、リムにもソレは襲い掛かり…。
(…くそっ)
反射的に剣を片手に立ち向かおうとするリム。しかし、実体の無い魔力に剣で立ち向かおうなど無謀もいいところだ。
「ファイアー・ウォール【上級レベルの防壁呪文。炎系の呪文なら無効化することが出来る】!」
突如リムの目の前に現れたのは燃え盛る炎の壁。それに驚いて呆然としているリムに空色髪の少女が「大丈夫?」と心配そうに駆け寄ってきた。烈火は大地に突き刺さったままの槍を引き抜いて、「ダンナ~、もういいぜ~」と手を振ると、ジェイクが分かったと頷いて見せる。
リムには三人が一体何者なのか分からないが、無謀にもあの女と戦おうとしているのは分かる。弱者しかいないこの地域の生物があの女と戦うなんて無茶だとリムは彼らを止めようとした。が…。
「死にたくなければ二度とここに近寄らない事だ」
「…あんたは…まさか……」
大剣を片手に凍りついたように冷たい眼光を放つジェイクは表情を消し、ゆっくりと女に近づきながら「去れ」と命じた。そして、女は、何か恐ろしいものを見たかのように震えだし、「死にたくない!」と姿を消してしまったのだった…。
(…どうなってる……?)
「危ないところだったね」
状況が飲み込めていないリムに優しく微笑むのは氷華だった。頭にクエッションマークを大量に発生させているその表情に烈火は笑う。
「あんた達は…?」
「え、あぁ、忘れ物を届けにきただけだよ。でも、そしたら、なんだか物騒な空気が流れてて驚いちゃった」
ニコニコ笑いながら自分達がこの場にいる理由を話しながら、リムの腕に刺さった短剣に手をかけ、「ちょっと我慢しててね」と言うとソレを引き抜き回復呪文をかけてくれる。
烈火はこちらに歩み寄るジェイクを見ながら、槍を片手にリムが先程まで必死に探していたものを持ってきたと告げた。
「!!本当!?」
「嘘付いてどうするんだよ。お前がダンナにぶつかった時にチェーンが切れたんだろ?ダンナが持ってるぜ、お前のネームプレート」
「銀の十字架は?!押してないよな!?」
必死になって尋ねてくる彼女に今度は烈火が不思議そうな顔をする。ネームプレートより一緒についてたチェーントップの心配をするってどうだよ?と意味が分からないといった感じだ。
押してる押してないといわれても、烈火と氷華は何の事だか分からない。ただ、ジェイクだけがその意味を知っているように笑っていた。
「押してないよ。…大事なものだろう?もう落とすなよ」
歩み寄り、預かっていたよと彼女の手に銀色のネームプレートと同色の十字架の通されたチェーンを渡してやると、リムは、良かった…とだけ零し、その場にしゃがみこんでしまった。
その様子によほど大事なものだったんだろうと氷華は届けてよかったと笑顔になる。烈火も、ぶつくさ文句を言っていたわりには、良かったなと声をかけている。
「本当に、ありがとう…」
頭を下げる彼女に、烈火はやめろよとまた笑った。氷華もジェイク笑っていて、和やかな雰囲気が流れていて…。しかし、顔を上げるリムに、ジェイクの動きが止まった。不自然なその動きに、リムも氷華も烈火もどうしたのかと首を傾げてしまう。
「…私の顔に何か付いてるのか…?」
彼は驚いたように自分の顔をジッと見ているから、戸惑ってしまう。そして、震える唇から、小さく「…ユナ…」と言葉が零れた…。それは、誰にも聞こえない小さな声…。
「え?」
「…!あ、いや、なんでもないよ…あまりにも綺麗な赤い目だったんで驚いただけだ」
慌てて笑顔になるのに不自然さを覚えさせないのがすごい所だ。
リムは、ありがとうと笑った。
「ねぇ、…何時もあんなのに狙われてるの?」
「あ、…いや、違うよ…初めて、だよ」
戸惑うのは、狙われた理由を聞かれたくないから。思い出したのは弟の言葉。
―――この星では出会って浅い連中を信じると死に繋がるよ。
もしかしたら、この三人も師を狙ってきた人物かもしれない…信用させて、師を襲うチャンスをうかがっているのかもしれない…。そんな考えが浮かんでは消えていった。
「あ~…もしかして、あたし達のこと、疑ってる?」
相変わらず顔に感情が出やすいらしい。リムは思い切り疑っていますと言う目で三人を見てしまっていたとその言葉に気がついた。
「無理ないだろ。"TITLE"持ちだし、あんな連中に狙われるのなんて日常茶飯事なんじゃねーの?」
「あ、そっか…大変だね~三賢者の意志を継ぐって」
むしろ疑わない方がおかしいからと苦笑する烈火にそれもそうだねと笑う氷華。呑気な二人だと思ってしまう。
その様子にはリムもあっけに取られてしまう。
「…ね~、リムは一人でそんな連中と戦ってるの?」
「いや、仲間は一人いるよ…」
「一人…でも、今一人で戦ってたところを見た限り、そのもう一人ってのは戦力にならないってわけだ」
鋭いところを付いてくる烈火に口ごもってしまうのはそれが事実だから。シーザは今のところ戦えるほど戦闘力があるわけではない。
氷華と烈火の言葉に、リムは仕方ないだろというかのように笑って見せた。
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