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そして時は動き出す
そして時は動き出す 第15話
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「貴方がとても優しく私に接してくれるから……それだけ『辛い』って思うの…だって、…大切な人とわたしを重ねて見ているでしょう…?」
リムが以前話した『友人が同じ目に遭った』と言う事実から、ミルクはリムが自分に優しく接してくれるのが辛いと感じると告げる。
私を通して、誰を見ているの…?と。
「ミルク……」
「そんなに、大切な人だったの…?」
忘れられないほど、大切な人だから、苦しい。
誰よりも自分を愛してくれた母と姉を、何時も一緒に居た親友を、護りたかった…。未だに闇に自分を引き込む昔の自分を、切り離せない…。
「…俺は………彼女の家は、何処にでもある極平凡な家庭だった。戦闘力は皆無だったけど、笑顔の耐えない幸せな家庭だった」
静かに語りだすリムの言葉を、ミルクは黙って聞いていた。
「まだ俺が何も知らなかった頃、彼女の家に二人組みの野盗が押し入ってきたんだ。…目的は知らない。…でも、奴等は彼女の父を目の前で殺し、その屍の横で、…彼女は犯された……。俺が病院に駆けつけた頃には、すっかり変わり果てた姿の彼女がベッドに横たわっていて…。夜毎、涙を零しながら笑って叫ぶ彼女を見て、俺は『あぁ…壊れてしまったんだ…』って、納得できないまま…その光景を離れて見守る事しか出来なかったんだ……」
それは、大切な親友の事ではなく、自分の事。
リム本人の事を、彼女はまるで他人事のように客観的に話していた。湧き上がってくる言い表しようのない負の感情に飲まれそうになりながらも、大丈夫と自分に言い聞かせ、ミルクに過去の話をしてやったのだった。
「…それから…何年後だったんだろう…奴等は、再び現れた…」
今度出会うことがあったのならば、必ずフレアとスタンを殺してやると心に誓いその日を夢見てただひたすらに剣を振るったあの日々…。それが、無駄なことだと知らなかったあの頃の自分が、愚かで、哀れで、涙が目頭を熱くする…。
無意識のまま、またお守りの十字架を握り締めているリム。
ミルクはただ何も言わず、言葉の続きを待った。
「…彼女の姉を攫いにやって来たんだ…。その時に…今度は…彼女の母を嬲り殺し……彼女を…攫っていった…。俺はその場にいたのに……彼女を…護れなかった……」
泣き叫ぶヘレナの顔を、今でも鮮明に思い出せる。
母の弱々しい息遣いを、感じることが出来る…。
男の笑い声が、まだ、聞こえる…。
逃げたいと思ったことは一度や二度じゃない。死にたいとも願った。でも、逃げられなかった。死ねなかった。
「だから…わたしを、護ってくれるの…?」
「…違うよ……護るんじゃない。…生きて欲しいんだ」
生きる屍ではなく、ありのままのミルクと言う一人の少女として、これからの日々を歩んで欲しいと、リムは静かに笑ったのだった…。
小鳥のさえずりがベランダから聞こえてくる。変わらない日々の朝…。
どれほど、打ちのめされ、堕とされたとしても、決して変わる事無く、訪れる朝と夜。
「時の流れと共に、癒される傷なら良かったんだけどな…」
癒すどころか、酷くなる一方だ。無理やり塞ごうとした傷は膿み、腐り、身体全てを侵食してくる。時の流れが、リムの傷を癒してくれることはない。自分で塞ぐしか道はないのだから。
「…《ベリオーズ》…今でも、彼女を…探しているの…?」
ミルクの手が、震えながらも自分の手に重なる。小さな、子供程の大きさの手が、リムのスラリと伸びた美しい手に重なって…。
探し、続けているの?と涙目で尋ねられる。
「あぁ。…探しているよ。……彼女を攫った奴が、"伝説の石"を集めていることだけが…手がかりなんだ…」
スタンとフレアについて分かっていることは、古の惨劇を引き起こそうとしていることだけ…。そして、その為に必要なものが…"伝説の石"と呼ばれる13個の魔石。
男達の行方を追っても、足取りを掠ることも無く、過ぎていった日々の中でようやく掴んだたった一筋の光。それが…"マーメイドの涙"と呼ばれる奴等が探す"伝説の石"…。
「だから、ここに…?」
「そうだ。…怒るか?」
隠すことは出来ない。偽ることも、自分が許せない。彼女を裏切ってしまう結果しか、残らないから…。せめて…何故自分がここにいるかという事を知っていて欲しかった…。
罵られる事は覚悟の上。屋敷を追い出されてしまうのなら、不本意ではあるが、盗むという強行手段をとることも考えてある。
しかし、リムの覚悟に、ミルクは静かに口を開いた。ただ、淋しげな笑みを浮かべて…。
「…まさか………話してくれて、ありがとう……」
「ミルク…?」
「……もう少し……もう少しだけ、傍にいて…。わたしが、…笑える日が来るまで…もう少しだけ…私のボディーガードでいて…?」
それは、一体どういう意味なのだろう?
悲しそうな少女の笑い顔に、胸が締め付けられる。…大切に、思う気持ちは偽りではないのだけれど…。
「…そのときは……貴方に、あげる…この石を…」
「!?え…?」
「だから、…触れないように、気をつけてね…?」
リムを男と信じきっているミルクの言葉に何故か胸が痛くなった…。
*
「…らしくない……」
まさかミルクに自分の過去を話すと思っていなかったリムは、部屋に戻るや否や、床に膝ま付くと、ぐったりと項垂れてしまう。
結果的に、いずれ"マーメイドの涙"を手に入れられる事にはなったのだが、自分の傷を他人に露呈するとは、なんとも間抜けな話だ。
ミルクが人の傷に付け込んで何か企んでいるとは、全く思わないが、それでも、誰かに自分の傷を見せるという行為はしたくなかった。
まぁ、お嬢様は、リムが男だと完全に信じ込んでいて、自分の話を曲げる事無く信じているから、しっかりと過去を知られたわけじゃないからいいのだが…。
「あぁ…でも、本当にらしくない……」
のそのそと身体を起こし、何時も身に付けているグレーのロングコートを脱ぎ捨てると、服を脱ぎ、胸を抑えつけるプロテクターを外した。
(無駄に育つなよ…)
最近プロテクターを装着すると息苦しいと感じてしまうリムは恨めしそうに、視線を胸の隆起に落すとため息を付く。今の状況からしてあまり女性としての成長は喜べたものじゃないから…。
タオルを片手に、陰鬱な気持ちを洗い流す為にバスルームへと消えるリム。
「…髪、また切らないと…」
髪が伸びると、やはりどう頑張っても男に見えない自分。明日にでも氷華に切ってもらおうと思いながら髪を掻き揚げると、今日の疲れを落すべく、熱いシャワーで汗を流すのだった。
(今日は烈火もいないし……久しぶりに一人の夜を過ごすんだな…)
思えば、出会って一日、二日しか経ってない連中とよく一緒に入れたものだと苦笑してしまう。しかも、男と。
(烈火はいても苦にならないんだよな~不思議と。…やっぱり似てるからか?)
不本意ながら、そう思ってしまう。彼の言動は自分とよく似ていて、ジェイクからも、氷華にまでも似ていると言われた。
気を使って無いように見えて、きちんと自分を女扱いする烈火。きっと彼の中では無意識なのだろうが…。
「女嫌いのクセに、以外にフェミニストなところがあるよな、あいつ」
笑いながら、シャワーを止めると、持って入ったタオルで身体を丁寧に拭いてゆく。
男と偽るには細すぎる腕と腰。普段身に着けているコートで隠されている身体のラインも色香のある女性のもの。何時、女とばれてもおかしくないリムだが、運良く『ミルクお嬢様のお気に入り』というポストで事なきを過ごしているのだが、後どれくらいこの屋敷で過ごすのだろう…?
早く、奴等の動きを追わなくては…。ヘレナを、見つけなくては…。
焦る気持ちを何とか押さえつけ、乱暴に髪をタオルで拭く。
(焦っても、何も良いことは無いから…………師匠……)
物事を一度悪い方へ考えてしまったら、そのまま負の方向へ突っ走ってしまうリムを、師は良く叩いてきたものだった。今を考えろと叱咤され、大丈夫だからと宥められ…。
(…逢いたいです……師匠…何処にいるんですか…?)
タオルを体に巻き、壁に肩を預けると、そのままズルズル座り込んでしまう。
どんなに強く振舞っていても、やはり、自分は弱いと痛感してしまう。肉体も、精神も。
逢って、抱きしめて欲しい…。いつもみたいに、「餓鬼」と笑いながら、頭を撫でて欲しい…。弱くなってしまうのは、仕方がないと言い聞かせる事は出来ても、逢いたいと願う気持ちまで、抑えることは出来ない…。
「……しっかりしろ!…生きていれば、何時か出会えるんだから…」
よし!っと気合を入れて、立ち上がると、そのままの勢いでバスルームのドアを開ける。
すると、そこには……。
「あ、やっぱりシャワーを浴びてらしたんですね……って………」
「!み、帝!?」
そこには、何故か、帝の姿。ソファーに座り、本を読みながらくつろいでいるではないか!!
確か、鍵はしっかりとかけたはずだと、驚いているリムの姿に、帝は顔を真っ赤にして指をさして口をパクパクさせている。
一体何が?と、思うリムはあることに気がついた。
「!!う、うわぁぁぁぁあぁあああーーーーー!!!」
思わずその場にしゃがみこんでしまうのは、自分がタオル一枚しか身に付けていない状態だと思い出したから。
物思いにふけってしまって、すっかり忘れていた。リムの白い肌の大部分が露出され、シャワーで高揚した身体から微かに上る湯気に、髪から時折滴る水滴に、女の色香が隠せない。
(しまったしまったしまったぁああ!!武器も何も持ってない!!どうしよう!!!)
男の前でこんな無防備な姿を晒すことなど今まで無かったリムはパニック状態だ。ただ、身体を抱きしめ、恐怖にカタカタ震えることしか出来ない…。
(怖い怖い怖い怖い…師匠…助けて…)
目尻に涙が浮かぶ。視界が暗くなることから、帝の影が自分を覆ったのが分かった。それにギュッと目を閉じてしまうのは、これから自分の身の上に降りかかるであろう出来事を想定して…。
「全く、もう……女性だって事、自覚してください!」
ふわっと何かが肩に掛けられる。呆れたと言う感情と、怒りが入り混じった声。それに、「えっ…?」と怯えたように顔を上げれば、同じ視線に帝の顔があった。
顔は真っ赤なまま、困ったように視線を外すと、
「いきなり尋ねてきてすみません…」
と、謝る帝。一体何が怒ったのか把握するまで時間がかかってしまう。
「な…」
(何で、何もしてこない…?)
男のほとんどが、フレアみたいな連中だとは思っていない。でも、疑問に思ってしまうのは、仕方がない。
「…早く、服を着てください。目のやり場に困ります……。大した用じゃありませんし、僕はこれで失礼しますから…」
なんで自分より帝の方が顔を真っ赤にしているのだろう?
しまったと言いたげな顔をして、立ち上がると、そのままドアへと歩いてゆく。
「いくら部屋に一人だからって、無用心ですよ。今度からはきちんと衣服を身に着けて出てきてください」
「ご、ごめ…」
「それでは、おやすみなさい」
一度も振り返ることも無く、帝は部屋を後にする。それにはリムは呆然としてしまって…。
ただ、帝が出て行ったドアを微動だにせず見つめてしまう。この空間に残っているのは、リム一人…。
「早く鍵、して下さい!!」
ドアの向こうから怒鳴り声。どうやら、彼女が鍵をかけることを確認するまで待っているつもりみたいだ。
慌てて、ドアに駆け寄ると、急いで鍵をかけるリム。それに、「早く服を着てくださいね」と呟くと、帝は遠ざかる足音だけを残し、立ち去ったのだった…。
リムが以前話した『友人が同じ目に遭った』と言う事実から、ミルクはリムが自分に優しく接してくれるのが辛いと感じると告げる。
私を通して、誰を見ているの…?と。
「ミルク……」
「そんなに、大切な人だったの…?」
忘れられないほど、大切な人だから、苦しい。
誰よりも自分を愛してくれた母と姉を、何時も一緒に居た親友を、護りたかった…。未だに闇に自分を引き込む昔の自分を、切り離せない…。
「…俺は………彼女の家は、何処にでもある極平凡な家庭だった。戦闘力は皆無だったけど、笑顔の耐えない幸せな家庭だった」
静かに語りだすリムの言葉を、ミルクは黙って聞いていた。
「まだ俺が何も知らなかった頃、彼女の家に二人組みの野盗が押し入ってきたんだ。…目的は知らない。…でも、奴等は彼女の父を目の前で殺し、その屍の横で、…彼女は犯された……。俺が病院に駆けつけた頃には、すっかり変わり果てた姿の彼女がベッドに横たわっていて…。夜毎、涙を零しながら笑って叫ぶ彼女を見て、俺は『あぁ…壊れてしまったんだ…』って、納得できないまま…その光景を離れて見守る事しか出来なかったんだ……」
それは、大切な親友の事ではなく、自分の事。
リム本人の事を、彼女はまるで他人事のように客観的に話していた。湧き上がってくる言い表しようのない負の感情に飲まれそうになりながらも、大丈夫と自分に言い聞かせ、ミルクに過去の話をしてやったのだった。
「…それから…何年後だったんだろう…奴等は、再び現れた…」
今度出会うことがあったのならば、必ずフレアとスタンを殺してやると心に誓いその日を夢見てただひたすらに剣を振るったあの日々…。それが、無駄なことだと知らなかったあの頃の自分が、愚かで、哀れで、涙が目頭を熱くする…。
無意識のまま、またお守りの十字架を握り締めているリム。
ミルクはただ何も言わず、言葉の続きを待った。
「…彼女の姉を攫いにやって来たんだ…。その時に…今度は…彼女の母を嬲り殺し……彼女を…攫っていった…。俺はその場にいたのに……彼女を…護れなかった……」
泣き叫ぶヘレナの顔を、今でも鮮明に思い出せる。
母の弱々しい息遣いを、感じることが出来る…。
男の笑い声が、まだ、聞こえる…。
逃げたいと思ったことは一度や二度じゃない。死にたいとも願った。でも、逃げられなかった。死ねなかった。
「だから…わたしを、護ってくれるの…?」
「…違うよ……護るんじゃない。…生きて欲しいんだ」
生きる屍ではなく、ありのままのミルクと言う一人の少女として、これからの日々を歩んで欲しいと、リムは静かに笑ったのだった…。
小鳥のさえずりがベランダから聞こえてくる。変わらない日々の朝…。
どれほど、打ちのめされ、堕とされたとしても、決して変わる事無く、訪れる朝と夜。
「時の流れと共に、癒される傷なら良かったんだけどな…」
癒すどころか、酷くなる一方だ。無理やり塞ごうとした傷は膿み、腐り、身体全てを侵食してくる。時の流れが、リムの傷を癒してくれることはない。自分で塞ぐしか道はないのだから。
「…《ベリオーズ》…今でも、彼女を…探しているの…?」
ミルクの手が、震えながらも自分の手に重なる。小さな、子供程の大きさの手が、リムのスラリと伸びた美しい手に重なって…。
探し、続けているの?と涙目で尋ねられる。
「あぁ。…探しているよ。……彼女を攫った奴が、"伝説の石"を集めていることだけが…手がかりなんだ…」
スタンとフレアについて分かっていることは、古の惨劇を引き起こそうとしていることだけ…。そして、その為に必要なものが…"伝説の石"と呼ばれる13個の魔石。
男達の行方を追っても、足取りを掠ることも無く、過ぎていった日々の中でようやく掴んだたった一筋の光。それが…"マーメイドの涙"と呼ばれる奴等が探す"伝説の石"…。
「だから、ここに…?」
「そうだ。…怒るか?」
隠すことは出来ない。偽ることも、自分が許せない。彼女を裏切ってしまう結果しか、残らないから…。せめて…何故自分がここにいるかという事を知っていて欲しかった…。
罵られる事は覚悟の上。屋敷を追い出されてしまうのなら、不本意ではあるが、盗むという強行手段をとることも考えてある。
しかし、リムの覚悟に、ミルクは静かに口を開いた。ただ、淋しげな笑みを浮かべて…。
「…まさか………話してくれて、ありがとう……」
「ミルク…?」
「……もう少し……もう少しだけ、傍にいて…。わたしが、…笑える日が来るまで…もう少しだけ…私のボディーガードでいて…?」
それは、一体どういう意味なのだろう?
悲しそうな少女の笑い顔に、胸が締め付けられる。…大切に、思う気持ちは偽りではないのだけれど…。
「…そのときは……貴方に、あげる…この石を…」
「!?え…?」
「だから、…触れないように、気をつけてね…?」
リムを男と信じきっているミルクの言葉に何故か胸が痛くなった…。
*
「…らしくない……」
まさかミルクに自分の過去を話すと思っていなかったリムは、部屋に戻るや否や、床に膝ま付くと、ぐったりと項垂れてしまう。
結果的に、いずれ"マーメイドの涙"を手に入れられる事にはなったのだが、自分の傷を他人に露呈するとは、なんとも間抜けな話だ。
ミルクが人の傷に付け込んで何か企んでいるとは、全く思わないが、それでも、誰かに自分の傷を見せるという行為はしたくなかった。
まぁ、お嬢様は、リムが男だと完全に信じ込んでいて、自分の話を曲げる事無く信じているから、しっかりと過去を知られたわけじゃないからいいのだが…。
「あぁ…でも、本当にらしくない……」
のそのそと身体を起こし、何時も身に付けているグレーのロングコートを脱ぎ捨てると、服を脱ぎ、胸を抑えつけるプロテクターを外した。
(無駄に育つなよ…)
最近プロテクターを装着すると息苦しいと感じてしまうリムは恨めしそうに、視線を胸の隆起に落すとため息を付く。今の状況からしてあまり女性としての成長は喜べたものじゃないから…。
タオルを片手に、陰鬱な気持ちを洗い流す為にバスルームへと消えるリム。
「…髪、また切らないと…」
髪が伸びると、やはりどう頑張っても男に見えない自分。明日にでも氷華に切ってもらおうと思いながら髪を掻き揚げると、今日の疲れを落すべく、熱いシャワーで汗を流すのだった。
(今日は烈火もいないし……久しぶりに一人の夜を過ごすんだな…)
思えば、出会って一日、二日しか経ってない連中とよく一緒に入れたものだと苦笑してしまう。しかも、男と。
(烈火はいても苦にならないんだよな~不思議と。…やっぱり似てるからか?)
不本意ながら、そう思ってしまう。彼の言動は自分とよく似ていて、ジェイクからも、氷華にまでも似ていると言われた。
気を使って無いように見えて、きちんと自分を女扱いする烈火。きっと彼の中では無意識なのだろうが…。
「女嫌いのクセに、以外にフェミニストなところがあるよな、あいつ」
笑いながら、シャワーを止めると、持って入ったタオルで身体を丁寧に拭いてゆく。
男と偽るには細すぎる腕と腰。普段身に着けているコートで隠されている身体のラインも色香のある女性のもの。何時、女とばれてもおかしくないリムだが、運良く『ミルクお嬢様のお気に入り』というポストで事なきを過ごしているのだが、後どれくらいこの屋敷で過ごすのだろう…?
早く、奴等の動きを追わなくては…。ヘレナを、見つけなくては…。
焦る気持ちを何とか押さえつけ、乱暴に髪をタオルで拭く。
(焦っても、何も良いことは無いから…………師匠……)
物事を一度悪い方へ考えてしまったら、そのまま負の方向へ突っ走ってしまうリムを、師は良く叩いてきたものだった。今を考えろと叱咤され、大丈夫だからと宥められ…。
(…逢いたいです……師匠…何処にいるんですか…?)
タオルを体に巻き、壁に肩を預けると、そのままズルズル座り込んでしまう。
どんなに強く振舞っていても、やはり、自分は弱いと痛感してしまう。肉体も、精神も。
逢って、抱きしめて欲しい…。いつもみたいに、「餓鬼」と笑いながら、頭を撫でて欲しい…。弱くなってしまうのは、仕方がないと言い聞かせる事は出来ても、逢いたいと願う気持ちまで、抑えることは出来ない…。
「……しっかりしろ!…生きていれば、何時か出会えるんだから…」
よし!っと気合を入れて、立ち上がると、そのままの勢いでバスルームのドアを開ける。
すると、そこには……。
「あ、やっぱりシャワーを浴びてらしたんですね……って………」
「!み、帝!?」
そこには、何故か、帝の姿。ソファーに座り、本を読みながらくつろいでいるではないか!!
確か、鍵はしっかりとかけたはずだと、驚いているリムの姿に、帝は顔を真っ赤にして指をさして口をパクパクさせている。
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「!!う、うわぁぁぁぁあぁあああーーーーー!!!」
思わずその場にしゃがみこんでしまうのは、自分がタオル一枚しか身に付けていない状態だと思い出したから。
物思いにふけってしまって、すっかり忘れていた。リムの白い肌の大部分が露出され、シャワーで高揚した身体から微かに上る湯気に、髪から時折滴る水滴に、女の色香が隠せない。
(しまったしまったしまったぁああ!!武器も何も持ってない!!どうしよう!!!)
男の前でこんな無防備な姿を晒すことなど今まで無かったリムはパニック状態だ。ただ、身体を抱きしめ、恐怖にカタカタ震えることしか出来ない…。
(怖い怖い怖い怖い…師匠…助けて…)
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「全く、もう……女性だって事、自覚してください!」
ふわっと何かが肩に掛けられる。呆れたと言う感情と、怒りが入り混じった声。それに、「えっ…?」と怯えたように顔を上げれば、同じ視線に帝の顔があった。
顔は真っ赤なまま、困ったように視線を外すと、
「いきなり尋ねてきてすみません…」
と、謝る帝。一体何が怒ったのか把握するまで時間がかかってしまう。
「な…」
(何で、何もしてこない…?)
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「…早く、服を着てください。目のやり場に困ります……。大した用じゃありませんし、僕はこれで失礼しますから…」
なんで自分より帝の方が顔を真っ赤にしているのだろう?
しまったと言いたげな顔をして、立ち上がると、そのままドアへと歩いてゆく。
「いくら部屋に一人だからって、無用心ですよ。今度からはきちんと衣服を身に着けて出てきてください」
「ご、ごめ…」
「それでは、おやすみなさい」
一度も振り返ることも無く、帝は部屋を後にする。それにはリムは呆然としてしまって…。
ただ、帝が出て行ったドアを微動だにせず見つめてしまう。この空間に残っているのは、リム一人…。
「早く鍵、して下さい!!」
ドアの向こうから怒鳴り声。どうやら、彼女が鍵をかけることを確認するまで待っているつもりみたいだ。
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