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そして時は動き出す
そして時は動き出す 第23話
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「さすがに昨日の今日じゃ警備の数が違うな…うじゃうじゃいるぞ…」
陽も傾き、空がオレンジ色に姿を変える夕暮れをバックに、街でも背の高い時計塔にの上に佇み、隣の女に声をかけると、予想していたと冷静な声が返ってきた。女の美しい赤髪が、陽の光を浴びて血色から赤燈に輝きをかえて風に靡く。
「ジェイクと氷華はそろそろ潜入した頃かな…?」
視線を下にずらせば、行き交う人々と、カスター卿の屋敷の前に集まる人だかりが目に付いた。
噂では、"DEATH-SQUAD"が出動したとかしないとか色々飛び交っているが、他を圧倒するほど強い戦闘力を感じないことから、実際には"DEATH-SQUAD"は来ていないようだ。
「そうだな…しかし、ダンナはいいとして、氷華のやつ、大丈夫か?」
「何言ってるんだよ。私より付き合いの長い烈火の方が氷華のこと分かってるんだろ?わざわざそんなこと聞かなくても、信じてるくせに…じゃなきゃ、自分が行くって言うだろ?お前は」
自分と似てるから、そうだろ?っと笑うリムに、烈火が言葉を失ってしまうのは、まさしくその通りだから。誰よりも、氷華の戦闘力をの高さを知っているからこそ、ジェイクと共に潜入を任せたのだ。
「夜が来たら…作戦開始、だな」
「あぁ…」
闇が訪れたら、屋敷に潜入したジェイク、氷華が館の電気全てをを一時絶つ。その隙にリムと烈火が侵入し、ミルクが何時も肌身離さず持つ"伝説の石"の一つ、"マーメイドの涙"をイミテーションとすり替えるというなんとも大胆な作戦が決行される。
リムが今一度陽の位置を確認すると、今まさに、海へと吸い込まれるように消えてゆく瞬間だった……。
光が絶たれ、辺りには一瞬にして殺気を乗せた空気が流れ出す。…光を嫌う闇の生物が、目を覚ましたのだと分かる夜風が髪を攫う…。
「そろそろだな…」
カスター卿の屋敷から漏れる温かな光と、怪盗・《ルナ》を警戒したまばゆい光を発するライトの数々。これら全ての電気の供給を絶つとなると、相当な労力を必要とするだろうが、氷華がいればなんて事はないだろうと烈火。
「氷華を行かせたのはその為ってのもあるし」
彼女の魔法力と、氷系統の魔法センスがあれば、電力を供給している元を凍らせる事が出来るということらしい。一定時間だけ、凍らせて、その後は元に戻すことが可能だと言っていた氷華を思い出すと、その自信に満ち溢れていた表情に彼女のプライドを垣間見た気がした。氷女の名にかけて、水、氷系統の呪文は絶対に誰にも負けないと笑っていたから…。
沈黙が辺りを支配する。鼻に付く血の匂いに何故か興奮する身体に、リムはただ、空を見上げていた…。
「!リム、時間だ。行くぞ!」
烈火の声に目をやれば、明かりと言う明かりが消えて暗闇に包まれたカスター卿の屋敷が視界に入った。明かりを求める怒声が耳に届く…。カスター卿の館には闇系生物よりも光系生物のボディーガードが多いことは今までの潜入捜査で分かっていること。つまり、彼等は今、ほとんど視界が聞かない状況。
闇に目が慣れるまでの数分の間に、リムと烈火は屋敷に潜入しなくてはならないのだが…。
「"マーメイドの涙"は渡さない!」
リムは決意の言葉と共に、空にその身を刻む。それに烈火も続いて…。
(これから、…私の本当の戦いが始まる…)
それは、予感ではなく、直感…。ここから、何かが動き出すという…本能……。
*
「氷華、もういいいぞ」
遠くに聞こえる男達の話し声に、氷華はジェイクのマントから顔を出すと、小声でここは何処かと尋ねてみる。彼女も随分長い間使用人として働いていたが、屋敷にこんな場所があったとは知らなかったらしい。
薄暗い室内と、耳に届く水音。そして、鼻に付くカビの臭い…。一体ここは何処なのだろう?おそらく、地下だという事は分かるのだが、ここに続く道が何処にあったのだろう…?
「いや、以前屋敷を見回っていたとき偶然発見してね。随分昔に塞がれたみたいだ。…まさか、こうやって役に立つとは思わなかった」
急ごう。と人気のない空間を歩き出すジェイクを慌てて追う。時間の分かるものを持ってこなかったから後どれぐらいで夕暮れか分からない。それでも、もう間もなくだということだけは分かるから、氷華もジェイクに続いて走り出す。
さすがにこんな地下から誰かが潜入するとは思ってもいないのだろう。二人は大した苦労も無く目的の場所近くまでたどり着くことが出来た。
光の無い地下を照らすのはジェイクの放つ魔法力。氷華はジェイクが呪文を唱える事無くこの光を作り出した事実にある種の感動を覚えてしまう。詠唱無で呪文を唱える事が出来るという事は、それだけ魔道センスが高い証拠だから。
(ジェイク、支配者級なんだ…すごい…)
詠唱とは、精霊への語りかけ。それをせずに、精霊達の力を借りると言う事は、精霊達を従わせる程の魔法センスがあると言う事となり、更に、呪文の名を口にせず魔法を発することができると言う事は、精霊達を完全に支配している支配者級だという証。
ジェイクは、詠唱も、呪文の名も口にする事無く、光魔法を使用している。つまり、エレメント・光を司る精霊を支配している事になるのだ。
「…凄いね、ジェイク」
「?何がだ?」
いきなり何を言うんだと言いたげなジェイクに氷華は「だって」と言葉を続ける。
「支配するのが最も難しいエレメント・光の支配者級って事は、他の属性の魔法も詠唱無も呪文も無で使えるってことでしょ?だから」
星に宿る精霊には火、水、土などの属性が存在し、その中でも、闇と光の2つの属性は扱いが難しく、普通に詠唱して魔法を唱える事ですら困難とされている。その光属性の魔法を、詠唱も無し、呪文も無しで使う事など氷華は自分でも無理だと笑う。
「魔法力が倍削られて滅多に使わないけど、水と氷系なら、出来るんだけどな~」
「伊達に長生きしてないってだけだよ」
「長生きって言っても、そんなに変わらないじゃない!ジェイク、226歳でしょ?」
たかだか100年そこらで変わるわけ無いじゃないと氷華。
「そうだな。でも、光系で無音で使えるのはライティングだけだぞ?」
それでも凄い、と氷華。ライティングは光系呪文の基礎中の基礎だが、それでも、光の最下級呪文を支配するのは生半可な魔法センスじゃ無理らしい。
「ホント、痛感しちゃうなぁ…『ジェイク』の名前を名乗るだけはあるって」
「ははは…」
笑顔で自分を凄いと褒め称える彼女に、ジェイクは苦笑いを浮かべて返すと、前を向いて再び意識を周囲に戻す。
辺りには地下道を走る音が響き、「オレはいい迷惑だけどな」というジェイクの呟きは氷華の耳に届く事は無かった…。
「ねぇ、そろそろ夕暮れだよね?早く屋敷内の電気を止めないと…」
「!しっ…」
今どの辺?と首を傾げる氷華を抱きすくめるように黒のマントで覆うジェイク。突然の事に驚くが、耳に入る足音と話し声に誰かが近くにいる事を理解する。氷華は息を押し殺し、ギュッとジェイクの服にしがみ付く。
それでも、見つかったらどうしよう…等と言う不安は一切無い。それは彼女がジェイクを信頼しているから。
(本当に凄い…ジェイクってば、使えない魔法なんて無いんじゃないの?)
今、ジェイクのマントにかけられている魔法は光系統の魔法で屈折率を変化させて自分を他者から不可視の状態に出来るという上級魔術。視覚から完全に消えるこの魔法でジェイクと氷華は屋敷の庭にある抜け道から潜入したのだ。
近くなる足音に、息を呑む。
「…まずいな…」
「なに?」
ジェイクの呟きに、氷華の顔に不安がよぎった。まさか、彼の戦闘力を持ってしても倒せな相手が近くに?
「屋敷の電気がすでに落されてるらしい。…氷華、動くなよ?」
え?と戸惑う彼女にマントを被せると、ジェイクは気配を絶ちながら近付く足音の主達の前に姿を見せた。一瞬、視界に入った男の姿に、悲鳴を上げそうになるのは見回りに来たボディーガードの男二人。しかし、叫ばれると面倒だと分かっているジェイクは目で追いきれないスピードで背後に回り、その首に手刀をくれてやる。
「氷華」
グッタリと気を失ってうな垂れる男達を床に寝かしつけ、自分のマントに身を隠している少女の名前を呼ぶと、ヒョッコリと顔だけが中に浮いたように視界に入った。リアルホラーだ。
「どういうこと?」
「ん?あぁ。どうやら何者かに先を越されたらしい」
今気を失っている男達の話によれば、突然屋敷中の電気が消えてしまったらしい。しかも、発電機自体を壊されたようで電力の復旧は今夜中には無理だと言う。
「凄い聴力ね。さすがヴァンパイア」
「ありがとう。でも、こうやってうかうかしてられないな。急いでリムと烈火に合流しよう」
立ち上がると、彼女の手からマントを受け取ると、そのまま魔法のかかっていない面を外に向けて身に付ける。急ぐと言ったジェイクの言葉に、氷華が素直に頷くのは、リム達がすでに屋敷に潜入したと思われるから。
(電気が消えたら潜入するって手筈だもの…大変!!)
一体誰が電力を落したのだろうか?まさか、怪盗・《ルナ》がすでに潜入しているのか?
不安に駆られながらも、ジェイクと氷華は急ぎ屋敷へと走るのだった。
*
「真っ暗だね」
何も見えないや。と笑うシーザの声だけが耳に届く。屋敷の外から中から聞こえる怒声と足音に小刻みに震える身体を抱きしめるのは、ミルク。
「大丈夫だよ。オイラが傍に居るから」
手探りで、ミルクの震える手を探して握り締めると、「ありがとう」と小さな声が返ってきた。
「オプト…」
「大丈夫です。ミルク様。ここにいます」
布のずれる音が耳に届き、空気の流れが誰かが傍に来たことを知らせる。鼻に届く、男のにおい…。
「カーテンを開けましょうか?」
「…そうだな。帝、頼む」
閉ざされた空間に月明かりが差し込み、闇に慣らされた視界には十分な灯りが空間を照らし出す。
ミルクは傍に跪いているオプトと、手を握ってくれているシーザの存在を確認すると安心したように笑って見せた。わたしは大丈夫と言うかのように。それにはオプトも思わず笑みを零し、光を運ぶ窓に視線を移した。
「…!帝!!窓から離れろ!!」
窓から差し込む光が、部分的にかけて見える事に違和感を覚え、オプトは声を張り上げた。影の部分が徐々に広がる…。
(影は2つ…《ルナ》!?)
オプトはミルクを背に剣を抜き、帝も彼の声に反応して窓からすばやく離れると脇にさした刀を鞘から抜き、構えた。形を認識することはできても、はっきりと人物の容貌はつかめない…。敵か、それとも……。
「リム……」
シーザの声が、空間に響く。その音に意識が一瞬後ろへと向いた男二人を襲うのは、散々するガラス片。
月明かりが赤い光を視界に届けた。
「《ベリオーズ》!!」
反応の遅れたオプトと帝を押しのけて、侵入者に近づこうとするのは屋敷の主の愛娘、ミルク。しかし、それを止めるのは…。
「帝!ミルクを護れ!!烈火!来るぞ!!」
少し高い女の声。…リムの、声だった。
部屋にいた4人は一体何が今起こっているのか分からない。
部屋に窓をブチ破って潜入してきたのは女にしては長身な赤髪を持つリムと、子供の姿から元の姿に戻った烈火だった。普通それだけをみればリムと烈火が侵入者であり、ここで殺されても文句は言えないはず。それなのに、その侵入者が何を偉そうに指示しているのだ?!
「《ベリオーズ》さん!?一体なんですか?!貴方達は犯罪者なんですよ!?」
「グダグダ言うな!!《ルナ》だ!!」
今にも切りかかってきそうなのは、声を荒げる帝ではなくオプト。彼にそれどころじゃないと静止するリムに、呪文の詠唱を始めている烈火と、空気は一変して緊迫したものへと変わる。
「何だと!?」
「一人しかいないけど」
烈火の言葉に続いて、《ルナ》は二人組みだろ?と外を睨みつけたままリムが問えば、まだ頭が状況についてきてない帝は「そうですけど…」と混乱気味。
「戦ったのか!?」
「真っ最中」
陽も傾き、空がオレンジ色に姿を変える夕暮れをバックに、街でも背の高い時計塔にの上に佇み、隣の女に声をかけると、予想していたと冷静な声が返ってきた。女の美しい赤髪が、陽の光を浴びて血色から赤燈に輝きをかえて風に靡く。
「ジェイクと氷華はそろそろ潜入した頃かな…?」
視線を下にずらせば、行き交う人々と、カスター卿の屋敷の前に集まる人だかりが目に付いた。
噂では、"DEATH-SQUAD"が出動したとかしないとか色々飛び交っているが、他を圧倒するほど強い戦闘力を感じないことから、実際には"DEATH-SQUAD"は来ていないようだ。
「そうだな…しかし、ダンナはいいとして、氷華のやつ、大丈夫か?」
「何言ってるんだよ。私より付き合いの長い烈火の方が氷華のこと分かってるんだろ?わざわざそんなこと聞かなくても、信じてるくせに…じゃなきゃ、自分が行くって言うだろ?お前は」
自分と似てるから、そうだろ?っと笑うリムに、烈火が言葉を失ってしまうのは、まさしくその通りだから。誰よりも、氷華の戦闘力をの高さを知っているからこそ、ジェイクと共に潜入を任せたのだ。
「夜が来たら…作戦開始、だな」
「あぁ…」
闇が訪れたら、屋敷に潜入したジェイク、氷華が館の電気全てをを一時絶つ。その隙にリムと烈火が侵入し、ミルクが何時も肌身離さず持つ"伝説の石"の一つ、"マーメイドの涙"をイミテーションとすり替えるというなんとも大胆な作戦が決行される。
リムが今一度陽の位置を確認すると、今まさに、海へと吸い込まれるように消えてゆく瞬間だった……。
光が絶たれ、辺りには一瞬にして殺気を乗せた空気が流れ出す。…光を嫌う闇の生物が、目を覚ましたのだと分かる夜風が髪を攫う…。
「そろそろだな…」
カスター卿の屋敷から漏れる温かな光と、怪盗・《ルナ》を警戒したまばゆい光を発するライトの数々。これら全ての電気の供給を絶つとなると、相当な労力を必要とするだろうが、氷華がいればなんて事はないだろうと烈火。
「氷華を行かせたのはその為ってのもあるし」
彼女の魔法力と、氷系統の魔法センスがあれば、電力を供給している元を凍らせる事が出来るということらしい。一定時間だけ、凍らせて、その後は元に戻すことが可能だと言っていた氷華を思い出すと、その自信に満ち溢れていた表情に彼女のプライドを垣間見た気がした。氷女の名にかけて、水、氷系統の呪文は絶対に誰にも負けないと笑っていたから…。
沈黙が辺りを支配する。鼻に付く血の匂いに何故か興奮する身体に、リムはただ、空を見上げていた…。
「!リム、時間だ。行くぞ!」
烈火の声に目をやれば、明かりと言う明かりが消えて暗闇に包まれたカスター卿の屋敷が視界に入った。明かりを求める怒声が耳に届く…。カスター卿の館には闇系生物よりも光系生物のボディーガードが多いことは今までの潜入捜査で分かっていること。つまり、彼等は今、ほとんど視界が聞かない状況。
闇に目が慣れるまでの数分の間に、リムと烈火は屋敷に潜入しなくてはならないのだが…。
「"マーメイドの涙"は渡さない!」
リムは決意の言葉と共に、空にその身を刻む。それに烈火も続いて…。
(これから、…私の本当の戦いが始まる…)
それは、予感ではなく、直感…。ここから、何かが動き出すという…本能……。
*
「氷華、もういいいぞ」
遠くに聞こえる男達の話し声に、氷華はジェイクのマントから顔を出すと、小声でここは何処かと尋ねてみる。彼女も随分長い間使用人として働いていたが、屋敷にこんな場所があったとは知らなかったらしい。
薄暗い室内と、耳に届く水音。そして、鼻に付くカビの臭い…。一体ここは何処なのだろう?おそらく、地下だという事は分かるのだが、ここに続く道が何処にあったのだろう…?
「いや、以前屋敷を見回っていたとき偶然発見してね。随分昔に塞がれたみたいだ。…まさか、こうやって役に立つとは思わなかった」
急ごう。と人気のない空間を歩き出すジェイクを慌てて追う。時間の分かるものを持ってこなかったから後どれぐらいで夕暮れか分からない。それでも、もう間もなくだということだけは分かるから、氷華もジェイクに続いて走り出す。
さすがにこんな地下から誰かが潜入するとは思ってもいないのだろう。二人は大した苦労も無く目的の場所近くまでたどり着くことが出来た。
光の無い地下を照らすのはジェイクの放つ魔法力。氷華はジェイクが呪文を唱える事無くこの光を作り出した事実にある種の感動を覚えてしまう。詠唱無で呪文を唱える事が出来るという事は、それだけ魔道センスが高い証拠だから。
(ジェイク、支配者級なんだ…すごい…)
詠唱とは、精霊への語りかけ。それをせずに、精霊達の力を借りると言う事は、精霊達を従わせる程の魔法センスがあると言う事となり、更に、呪文の名を口にせず魔法を発することができると言う事は、精霊達を完全に支配している支配者級だという証。
ジェイクは、詠唱も、呪文の名も口にする事無く、光魔法を使用している。つまり、エレメント・光を司る精霊を支配している事になるのだ。
「…凄いね、ジェイク」
「?何がだ?」
いきなり何を言うんだと言いたげなジェイクに氷華は「だって」と言葉を続ける。
「支配するのが最も難しいエレメント・光の支配者級って事は、他の属性の魔法も詠唱無も呪文も無で使えるってことでしょ?だから」
星に宿る精霊には火、水、土などの属性が存在し、その中でも、闇と光の2つの属性は扱いが難しく、普通に詠唱して魔法を唱える事ですら困難とされている。その光属性の魔法を、詠唱も無し、呪文も無しで使う事など氷華は自分でも無理だと笑う。
「魔法力が倍削られて滅多に使わないけど、水と氷系なら、出来るんだけどな~」
「伊達に長生きしてないってだけだよ」
「長生きって言っても、そんなに変わらないじゃない!ジェイク、226歳でしょ?」
たかだか100年そこらで変わるわけ無いじゃないと氷華。
「そうだな。でも、光系で無音で使えるのはライティングだけだぞ?」
それでも凄い、と氷華。ライティングは光系呪文の基礎中の基礎だが、それでも、光の最下級呪文を支配するのは生半可な魔法センスじゃ無理らしい。
「ホント、痛感しちゃうなぁ…『ジェイク』の名前を名乗るだけはあるって」
「ははは…」
笑顔で自分を凄いと褒め称える彼女に、ジェイクは苦笑いを浮かべて返すと、前を向いて再び意識を周囲に戻す。
辺りには地下道を走る音が響き、「オレはいい迷惑だけどな」というジェイクの呟きは氷華の耳に届く事は無かった…。
「ねぇ、そろそろ夕暮れだよね?早く屋敷内の電気を止めないと…」
「!しっ…」
今どの辺?と首を傾げる氷華を抱きすくめるように黒のマントで覆うジェイク。突然の事に驚くが、耳に入る足音と話し声に誰かが近くにいる事を理解する。氷華は息を押し殺し、ギュッとジェイクの服にしがみ付く。
それでも、見つかったらどうしよう…等と言う不安は一切無い。それは彼女がジェイクを信頼しているから。
(本当に凄い…ジェイクってば、使えない魔法なんて無いんじゃないの?)
今、ジェイクのマントにかけられている魔法は光系統の魔法で屈折率を変化させて自分を他者から不可視の状態に出来るという上級魔術。視覚から完全に消えるこの魔法でジェイクと氷華は屋敷の庭にある抜け道から潜入したのだ。
近くなる足音に、息を呑む。
「…まずいな…」
「なに?」
ジェイクの呟きに、氷華の顔に不安がよぎった。まさか、彼の戦闘力を持ってしても倒せな相手が近くに?
「屋敷の電気がすでに落されてるらしい。…氷華、動くなよ?」
え?と戸惑う彼女にマントを被せると、ジェイクは気配を絶ちながら近付く足音の主達の前に姿を見せた。一瞬、視界に入った男の姿に、悲鳴を上げそうになるのは見回りに来たボディーガードの男二人。しかし、叫ばれると面倒だと分かっているジェイクは目で追いきれないスピードで背後に回り、その首に手刀をくれてやる。
「氷華」
グッタリと気を失ってうな垂れる男達を床に寝かしつけ、自分のマントに身を隠している少女の名前を呼ぶと、ヒョッコリと顔だけが中に浮いたように視界に入った。リアルホラーだ。
「どういうこと?」
「ん?あぁ。どうやら何者かに先を越されたらしい」
今気を失っている男達の話によれば、突然屋敷中の電気が消えてしまったらしい。しかも、発電機自体を壊されたようで電力の復旧は今夜中には無理だと言う。
「凄い聴力ね。さすがヴァンパイア」
「ありがとう。でも、こうやってうかうかしてられないな。急いでリムと烈火に合流しよう」
立ち上がると、彼女の手からマントを受け取ると、そのまま魔法のかかっていない面を外に向けて身に付ける。急ぐと言ったジェイクの言葉に、氷華が素直に頷くのは、リム達がすでに屋敷に潜入したと思われるから。
(電気が消えたら潜入するって手筈だもの…大変!!)
一体誰が電力を落したのだろうか?まさか、怪盗・《ルナ》がすでに潜入しているのか?
不安に駆られながらも、ジェイクと氷華は急ぎ屋敷へと走るのだった。
*
「真っ暗だね」
何も見えないや。と笑うシーザの声だけが耳に届く。屋敷の外から中から聞こえる怒声と足音に小刻みに震える身体を抱きしめるのは、ミルク。
「大丈夫だよ。オイラが傍に居るから」
手探りで、ミルクの震える手を探して握り締めると、「ありがとう」と小さな声が返ってきた。
「オプト…」
「大丈夫です。ミルク様。ここにいます」
布のずれる音が耳に届き、空気の流れが誰かが傍に来たことを知らせる。鼻に届く、男のにおい…。
「カーテンを開けましょうか?」
「…そうだな。帝、頼む」
閉ざされた空間に月明かりが差し込み、闇に慣らされた視界には十分な灯りが空間を照らし出す。
ミルクは傍に跪いているオプトと、手を握ってくれているシーザの存在を確認すると安心したように笑って見せた。わたしは大丈夫と言うかのように。それにはオプトも思わず笑みを零し、光を運ぶ窓に視線を移した。
「…!帝!!窓から離れろ!!」
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「リム……」
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少し高い女の声。…リムの、声だった。
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今にも切りかかってきそうなのは、声を荒げる帝ではなくオプト。彼にそれどころじゃないと静止するリムに、呪文の詠唱を始めている烈火と、空気は一変して緊迫したものへと変わる。
「何だと!?」
「一人しかいないけど」
烈火の言葉に続いて、《ルナ》は二人組みだろ?と外を睨みつけたままリムが問えば、まだ頭が状況についてきてない帝は「そうですけど…」と混乱気味。
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