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しおりを挟む嫌です、か ─── いつか自分はその言葉を本気で使う事になるのだろうか、と嶺鹿は今の会話を思い出しながら想像してみる。
嫌です。
例えば、部族のために見ず知らずの誰かの元へ嫁ぐ取り決めを拒絶したい時に。
嫌です。
例えば、部族の血脈に中原の権威を加えるためだけの、愛情が生まれるかどうかも予測できない誰かとの婚姻を拒絶したい時に。
…… この髪結いさんは、私に望まない結婚の予定がある事を見抜いたのだろうか …… 本当にどうしても嫌な事であれば断ってしまえばいいのだ、と助言したのだろうか。 なんだか複雑な表情をしていた。
遠くの国に行って知らない誰かと結婚するなんて、嫌です。
そんな言い分を聞いたら、父は怒るかもしれない。 きっと部族の長として怒るだろう。 中原の一国と血縁を持つというのは、諸部族のひしめく北域では存在感を示す際の大きな名分となる。 単なる権威付けに留まらず、おそらく新たな富強をももたらすに違いない。 遼俄族のためには慶事なのだ。
でも …… 。
でもこちらが泣き出すくらいの勢いで強く、しつこく、断固な態度で言い張れば、最後には優しい父親の顔を見せて我儘を許してくれるだろう。
そして、その時を考えることが決して嫌ではなくなっている、 という言葉遊びに気付くと、あらためて一人くすくすと笑った。
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