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【 2 】
しおりを挟むドミナントは、早川のおばあさんがただ一人の家族だった旦那さんに先立たれてふさぎがちになったのを心配する昔の知り合いから贈られた、アルヘンティーノス・リグヘアードという珍しい品種の真っ白な猫だ。 アルゼンチン南部が原産の大型種で、いかにも寒冷地の猫らしくふわふわした長めの巻き毛が全身を覆っている。
子猫の時に村にやって来たドミナントは新しい家族として早川のおばあさんの日常に笑顔を取り戻し、飼い主と猫のどちらも幸せに暮らし始めた。 ところが何の問題もなく二年ほど飼われてから、最近になってそのドミナントに謎の脱走ぐせがついてしまった。
特に目当ても無さそうなのに、気まぐれにふっと外に出掛けてしまうのだ。 そして村の色々な所をつまらなそうにぶらついて、最後には飽きて、そこがどこだろうとやる気を無くしたその場に寝転がってしまう。 理由は誰にも分からなかった。
「 では早速ドミナントくんを探しに行ってきます。 大丈夫、軽く村の周りを一周すればすぐに見つかりますよ 」
大森巡査は 『 ただいま巡回中 』 と書かれた無人札を派出所の入口にぶら下げると、先生に軽く請けあってからパトカーに乗り込んだ。
丁寧な仕草でお辞儀をする早川のおばあさんを後に、車を村道に出した大森巡査は車内の無線を入れて、要領良く消防団や営林所、青年会の詰め所に連絡を取っていく。
拡声スピーカーを利用できる村内放送を使えば手っ取り早いが、災害が起きたわけではないし緊急事態という程でもないから控えた方が良さそうだ。
それに、初めてドミナントが逃げ出した折に放送で村の人々に猫探しへの協力を呼び掛けたところ、自分自身でもその放送を耳にした早川のおばあさんは保護された猫を受け取る時に、見ていて気の毒になるほど恐縮してしまった。
もう、ああいう気まずい思いをさせるわけには行かないな。 なるべく大ごとに見えないようにしないと。 なあに、猫の一匹ぐらい、すぐに捕まえられるさ ……。
だが大森巡査の楽観的な見通しは、残念ながら外れてしまう。
◇
結局、猫が無事に見つかったのは午後もずっと遅くなって、陽が傾きかけた頃の事だった。
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