ロイヤルの騎士たち

夢末 虹

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第一話 悪夢を見た憂鬱な朝

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「だぁぁぁああああ」

 威勢のいい叫びと共に、最後の力を振り絞る。全神経を集中させた右腕は、一本のつるぎを踊らせた。
 見事にターゲットを捉える。毛皮を被ったモンスターを裂く感触が、右手に伝わってきた。
 その直後、モンスターは悲鳴を上げたかと思うと、強烈な光を放って蒸発した。

「終わった……」

 集中力を切らした俺は、へなりとその場に座り込む。
 時間差で襲ってきた喪失感。その重さにねた心は、次第に黒く染まっていく。
 視界がぼやける。頬を伝うのは悲しみの結晶。

「おい、帰るぞ」

 背後から聞こえた声。それに反応することはできず、こらえていた感情が一気に爆発した。
 滴り落ちる無数の涙。何度も目を拭うが、溢れ出しては止まらない。

「もうここに、ルナはいない」

 無情にも突きつけられた現実。振り返ると、一人の女性が立っていた。わずかに俯いている。

「私だって……守りたかった」

 震えている唇。握り締めた拳。奥歯を噛んで、悔しさを滲ませていた。

 悲劇の夜を過ごした俺の心は、完全に光を閉ざしてしまった。





 朝、窓から差し込む太陽の光で目を覚ました。
 壁に掛かった時計は、午前八時を指している。

「朝か……」

 眠たい目を擦りながら、ベッドから起き上がった。いつもなら二度寝をしているところだが、今日は起きる気分になった。
 あくびを漏らす。洗面所の鏡に映った自分の姿は、なんともみすぼらしいものだった。

「そういやあれから動いてねえもんな」

 鏡に顔を近づける。微かに目元が腫れている。

「またあの夢か……」

 二年前、調査に向かった地で出会ったのは大型のモンスター。まとっていたのは毛皮で、熊のような体格をしていた。当然、戦闘を避けることもできなかった。
 当時俺は、六人で構成されたパーティの切り込み隊長を務めていた。十六歳という若さにして、ギルドでも屈指の騎士であった。
 しかし、こいつにだけは歯が立たなかった。物理攻撃も簡単にはねのけられ、スキルは回避されるという始末。しまいには、武器を折られてしまった。一瞬の攻防に予備の武器を取り出す余裕はない。
 す術もなく、絶体絶命のピンチだった。高く掲げた右腕を振り下ろされたその時、横から飛び出して俺をかばったのは、ルナだった。
 ルナというのは、俺が思いを寄せていたパーティメンバー。美しい顔立ちに、薄紫うすむらさき色の肩まである髪。華奢な体は、騎士とは思えない程のものだった。
 そんな小さな体に守られた俺は、未だに後悔が残っている。
 直接見たわけではないものの、それを最後にルナは視界から消えた。

 そんな悪夢のような出来事からもう二年。時間が経つのは実に早い。

「散歩でも行くか」

 朝から憂鬱になった俺は、気分を晴らす為にも外の空気を吸うことにした。


 繁華街を南の方向へ歩いていくと、憩いの広場があった。先ほどまで賑わっていた街とは裏腹に、穏やかな空気が流れている。
 広場の中心にある樹の下に腰を掛け、俺は上空を見上げた。
 青く澄んだ空には、鬱憤うっぷんを吹き飛ばす力を持っている。
 元気になった俺は、伸びをするように立ち上がった。周囲には、一組のカップルらしき者がいるだけで、他に人影はない。

「アヤノのとこ行くか」

 そう呟いた俺は、来た道を引き返すことにした。


 何事もなくアヤノの家へ到着した。
 丁寧にインターフォンを鳴らす。しかし、二十秒待っても誰も出ない。

「困ったな」

 これでは予定が崩れる。せっかく晴れた気分なので、誰かと一緒に居たいのだ。
 もう一度インターフォンを鳴らすと、ガチャという音が聞こえた。恐らく鍵が開けられる音。
 期待を裏切らない早さでドアが開いた。そのドアから顔を出しているのは、アヤノだ。

「なに?」
「暇か?」
「まあ……」
「なら、どっか行かね?」
「えっ!?」

 露骨に驚いた反応を見せるアヤノ。少し顔が赤くなっている。熱でもあるのだろうか。

「い、いいよ」

 一瞬だけ間を空けて、了承の返事をいただく。

「んじゃ、決まりだな」

 俺はそう言うと、アヤノの準備が終わるまで家の外で時間を潰した。
 十分ほどしてから、

「お待たせ~」

 と、白のワンピースに着替えたアヤノが家から出てきた。茶髪のショートカットを揺らして、俺のところまで駆けてくる。

「どこ行くの?」
「まあ、どっか」
「……決めてないの?」
「いいじゃん? たまには」
「まあいいけど」

 若干不満そうなに唇を尖らせていたが、すぐに元通りの表情へと変化させる。
 肩を並べて、俺とアヤノは繁華街の中央へと向かった。

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