ロイヤルの騎士たち

夢末 虹

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第ニ話 いつもとは違う昼

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 白、赤、黄、青など、多彩なレンガで彩られた建物が数多く存在する。
 それがここ、≪ビギニング≫の街並みだ。
 その名前には、『全ての始まり』という意味が込められているらしい。


 現在の時刻は午後一時頃。そんなビギニングの繁華街を歩きながら昼飯をどこで食べようかと迷っていた時、新オープンの喫茶店が目に留まった。
 俺が注文したのは、トーストにサラダ、それにコンソメスープ、コーヒーといったヘルシーなランチ。今はそれを食べ終えたところだった。

「ねーねー」

 ハンバーグを頬張ったアヤノに声をかけられる。皿には何も残っていないので、最後の一切れだったみたい。

「ん?」
「ちょっと待って、まだ口の中に……」
「なら食い終わってから喋れよ」

 アヤノが言い終える前に、そうさえぎる。パーの形に広げた右手を顔の前に突き出しながら、口が動いている。この手が下りたら喋れということなのだろう。
 アヤノは、俺の小さい頃からの大切な友人だ。近所にいた唯一の同い年ということで、すぐに仲良くなることができた。以前までは同じパーティのメンバーでもあった。そのパーティもここ二年は活動していないのだが……。

「よし、もういいよ!」

 元気よくそう言ったアヤノ。口の中は空っぽになったようだ。突き出していた右手も下りている。

「おう」
「うん」
「……」

 先に声をかけてきたのはアヤノだ。それなのに、一向に口を開く気配がない。

「なんだよ」
「あ、先に言ったの私だった」

 まるで思い出したかのように、そう言ってきた。これは天然なのか、はたまた間抜けなだけなのか。

「シュウってさ、最近働いてなさそうだけどお金あるの?」
「金?」
「うん」

 確かに最近は何の仕事もしていない。そのことをアヤノに伝えた覚えはない。なぜ知っているのか、不思議だ。
 あと、シュウというのは俺の名前だ。

「まあ結構稼いでたから、普通の生活をする分には問題ない」
「えー、羨ましいなあ……」
「アヤノもそうだろ?」
「そんなわけあるか!」

 予想に反する言葉に、耳を疑った。騎士はみんな稼げると思っていたのだが……。

「嘘つけ」
「ほんとだって!」
「でも騎士だぞ?」
「シュウは騎士の中でも上だったからでしょ」
「ま、天才って感じだったよな」
「うわ……」

 アヤノは素で引いている。俺としては、当然冗談のつもり。今の俺には過去の面影すらないし、自信なんてものも早々に消えてしまったのだから。そう……残ったのは、魂の抜けた肉体のみ。
 そんな自虐を心の中で行っていたが、アヤノの視線に気がついた。何か聞きたそうにしている。

「なんだ?」
「え? えっと……」
「遠慮せずなんでも聞けよ、長い付き合いなんだから」

 残っていたコーヒーのカップに口をつけた。

「もう一度、パーティに戻らない?」
「は?」

 思わずコーヒーを吹き出しそうになる。ちゃんと飲み終えてから返事をした。

「なんでまた?」

 率直に気になった疑問をぶつける。それに、パーティを離れているのは俺だけではない。俺を連れ戻したところで再開できるかは未定のはず。

「そのさ、私も別のパーティでやってたんだけどね、やっぱりあの頃みたいに楽しくできないんだ。それは他のメンバーも一緒みたいで、もう一回組まないかって話になって……」
「ほーん」

 どうやら俺の知らないところで色々な話があったみたいだ。

「でも、俺は戻る気なんてないぞ」

 これは紛れもない本音だ。二年前に植えつけられたトラウマは、未だに俺の心を苦しめる。そんな状態で戦場に立てるはずがない。

「まあそう言うと思った」

 最初から期待してなかったと言わんばかりに、アヤノはつまらなさそうな顔をしている。

「ま、明日はギルドで集まる約束だからね」
「え?」
「話し合わなきゃ何も決まらないでしょ?」
「ちょっと待て、俺も行く前提なのか?」
「当たり前じゃん、もうメンバーには伝えてあるから安心して」

 なんとも強引な奴め。そう思ったが、口に出すのは面倒なのでやめておいた。

「あ、もうこんな時間!」

 時計を見ると、午後二時になっていた。これからも予定のない俺は、特に急ぐ必要はない。でもアヤノは違うみたいだ。

「今日なんかあんの?」
「そ、今のパーティで最後の調査があるの」
「いつ?」
「えーと、八時くらい」
「へー……てか最後?」
「うん、パーティは一つしか所属できないから」
「もう戻る気満々じゃねえか……」

 相変わらず準備だけはいい。昔からそうだ。まだ決まってもいないのに……。

「てことだから、私行くね!」
「じゃあ俺も帰る」

 食事も終えて、話相手がいなくなるのなら、これ以上滞在する理由がない。
 会計を済ませて、店を出る。そこでアヤノとは別れた。

「さーて……どうすっかな」

 とりあえず、自宅に向かって足を運んだ。

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