ロイヤルの騎士たち

夢末 虹

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第三話 恩師との再開

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 家に着いたのはいいものの、本当にやることがなかった。
 ベッドに寝転んで、時間が経つのを待つ状態。戦うことをやめてから、こういう日が増えた気がする。それだけ俺にとって、騎士というのはやりがいのある職だったんだ。
 仰向けのまま、首だけ回して部屋を眺めた。六畳程度の決して広くない空間だが、あるのはベッドと椅子、それにテーブルくらい。家具が少ない分、圧迫感は感じない。この何もない部屋は、自分の心の様子そのものだと思う時がある。

「はあ……」

 思わずため息を吐いた。顔を戻して天井を見つめる。

「スキルを確認」

 合言葉を唱えると、視界の中に文章が表示された。その文章には、スキルの詳細が記されている。

『スキル なし』

 虚しいことに、覚えていたスキルは消滅。もう一つ気になったものも確認する。

「剣術を確認」

 単語を変えて唱えると、今度は文章に違った項目が表記された。

『剣術 レベルワン

 こちらも最低レベルまで低下。元々は、レベルフォーだったのだが。
 この剣術というのは、レベルがⅠからファイブまでに区切られている。レベルが実力を表す数値ということだ。Ⅰは平民並み、ツーは騎士の平均、スリーは騎士の中でも上位クラス、そしてⅣは騎士の中でも数える程しかいない。Ⅴは見たことがない。なんでも、神話に出てくる五人の騎士しか辿り着けなかった高みなのだとか。
 今思うと、レベルⅣだった自分はなかなか腕のいい騎士だったのだろう。
 なんだか久しぶりに動く気が出てきた。

「よし」

 と、ベッドから床に移動。装備を鞄に詰めて、扉を開けた。


「あー、懐かし」

 訪れたのは、俺の住んでいる住宅地から少し外れた港町にある道場。幼い頃から、ここで剣術のレッスンにいそしんだ。騎士になるための試験があったのもこの道場だった。つまり俺にとって、思い出の場所。

「失礼します」

 入り口のドアを引いて、中に入った。今日は休みなのか、人の姿が見当たらない。

「おっ」

 キョロキョロと周りを見回していた俺は、背中に声をぶつけられる。
 振り向くと、そこには見慣れた顔があった。俺を育ててくれた恩師の、カオリ。

「シュウ~」
「わ、ちょっ」

 久々の再開が嬉しいのか、カオリが抱きついてくる。いや、昔からこうだったような気もしてきた。

「会いたかったんだぞ、ほんとに! 騎士をやめたって聞いた時はもう来ないかと思ったんだから」
「苦しい苦しい!」

 次第に俺を締めつける強さが増していく。このままじゃ窒息してしまう勢いだったので、カオリから離れた。

「それにしても弱々しい見た目になったな……」
「そりゃ二年も動かなきゃ筋肉も落ちるわ」
「そんなもんか」

 納得といった表情を見せるカオリ。うんうんと頷いている。

「でもなんで急に来たんだ?」
「そりゃカオリに会いたかったから」
「嬉しいこと言ってくれんじゃん~」

 バンと肩を叩かれた。地味に痛い。カオリは顔を赤くしながら照れている。
 でも実際、カオリに会いたかったのは本当だ。
 俺が剣術を学び始めたのが八歳の時。そして俺を担当していたカオリは、当時十六歳だった。年齢が八つしか離れていないカオリは、姉貴分のような存在でもある。それに加えてかなりの美人。激しいスキンシップも、俺にとってはご褒美でしかなかった。

「で、ほんとはなんなの?」

 照れが冷めたカオリが、真剣な眼差しで見つめてくる。

「過去の自分に憧れたから」

 ここに来た本当の理由はこれ。
 現役時、ギルドトップクラスの実力で無双していた日々をよく思い出すようになっていた。気づけばそれをかっこいいと思うようになり、今では憧れと化した。
 しかし、特にその憧れに近づこうとはしなかった。過去の栄光でいたかったから。また血の滲むような努力をするのが、馬鹿らしいと思っていたから。
 けど、パーティ復帰の話を持ちかけられて、はっとした。
 このままじゃ、駄目だって。

「変な理由ね……」
「そうか?」
「自分に憧れるなんて、聞いたことないわ」
「……」

 確かに聞いたことがない。俺は変わっているのだろうか。

「まあいいわ、なら教えてあげる」
「ん?」
「どうせ、スキルや剣術は真っ白なんでしょ?」

 見事に見透かされていた。話が早くて助かる。

「ああ、ぜひもう一度鍛え直してくれ」

 誠意を伝えるために、頭を下げる。それなりの覚悟はできているつもりだ。

「いいわよ、シュウを最強にしてあげる」

 絶対的な自信を持った口調でカオリはそう言った。
 頭を上げると、視界はカオリの顔を捉える。闘志のみなぎる瞳、わずかに笑っている口元。
 これでこそ、『恩師』のカオリだ。
 俺はこの言葉を信じて、一歩前に踏み出した。

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