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第19話 秘密商店の商品を試してみたい
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「こんちわー」
「リオさん、珍しいですね。自分から外出するなんて」
僕が珍しく外出した理由、それはここ『アイラの秘密商店』が気になって仕方がなかったからである。
「だって気になるじゃん、僕は欲望にはある程度は従うようにしてるんだよね」
「健康な証拠ですね、まぁ中を見ていってください。今は丁度お客様もいないので」
急に健康な証拠とか言われると僕がえっちみたいじゃないか。まぁいいか、変に隠す方が疲れるからね。
店内は淡い光で照らされてはいるが、全体的に少し薄暗い。
壁際には黒檀の棚が並び、そこに陳列されているのは――ぱっと見、ただの装飾品やポーション瓶。しかし、よく目を凝らせば、瓶の中身は妙に色気を感じさせる淡いピンクや紫の液体だったり、やけに形の艶めかしい金属器だったりする。
奥のカウンターの後ろには、透明なガラスケース。その中には――説明不要なモノたちが並んでいる。シルバーの輝き、柔らかそうな素材、そして……卑猥の二文字で説明できる物が多数。
そして右の棚には書籍コーナーがあった。「情熱は下半身から」「官能の極意」とか、タイトルがすでにアウト寄り。
僕が作ったのってブルブル震える石とかウネウネする植物だったと思うけど明らかに増えている。一体どうやって……。
「……ねぇアイラ、ここにある商品ってどうやって揃えたの?」
僕の隣で自慢げに笑う魔族のアイラは、待ってましたとばかりに口を開く。
「よくぞ聞いて下さいました!作ったんですよこれ全部!頑張りました!」
えっへんと胸を張るアイラ、僕の視線はもちろんその揺れる胸に移るが、そんな事は気にせずにアイラは話を続ける。
「なんとですね、ルーミエがリオさんと同じような魔法を使えるようになったんですよ」
「僕と同じような?あれ禁書の魔法だよ?そんな簡単に――」
「流石にリオさんみたいに相手をいいなりにさせるとまではいきません。ルーミエと私はどうにかリオさんの魔法を再現できないものかと考えました。そして色々試した結果、魔力が宿るものに特定の波長の魔力を当てると動き出すことが分かったんです」
――ん?
「ねぇそれって大発見なんじゃないの?聞いたことないよそんな話」
「それはそうなんですが……まだ研究の途中と言うかなんというか……正直ここにある商品を作り出した事で満足してしまったんですよね。正直研究とか面倒ですし」
まぁ結果的に本人達が満足すれば良いか。やりたくない研究をするのなんて散歩する気も無いのに犬を飼うようなもんだよね。
「ちなみにどんな動きをするの?」
「動かしてみるまで分かりません、振動したりうねったり、熱を持つものもありますね。もちろん動かないものもあります」
「へぇ、起動はどうやるの?毎回その波長を当て続けるなんてできないでしょ。買った人は」
「その問題も解決済みです。その波長を記憶させた魔道具を埋め込んであります。その魔道具に魔力を流せば問題なく起動できるって事ですね」
すごいな、新発明ってこうやって出来るのか。僕は創作とかした事ないからすごい新鮮。
「その卑猥な本とかポーションはどうしたの?」
「これはルーミエが冒険者の依頼を受けて遠出した時などに仕入れてきますよ。効果は不明なので全て自己責任ですね」
「用途不明はまずいでしょ、ちょっと鑑定してみていい?」
「そんな事もできるんですか?是非!」
「じゃあちょっと――」
僕は一番近くにあったポーションを手に取る。液体は淡いピンク、かすかに甘い匂いが鼻をくすぐった。
……これはジュースと言われればジュースだな。怪しいジュースの匂いだ。
「鑑定」
浮かび上がった情報は、予想通りだった。
【名称】誘惑の蜜液
【効果】対象の警戒心を大幅に低下させ、好意的な感情を抱かせる可能性がある。過剰摂取時、思考が完全に蕩けるので要注意。
「おぉ!惚れ薬っぽい!」
「本物の惚れ薬と媚薬を混ぜたようなものですね!」
「それっぽい物は見たことあるけど、ここまでしっかりした物は初めて見たかな」
「ルーミエは目利きという事ですね」
「ねー」
その時だった。
カランカラン――
扉の鈴が鳴る、お客さんか……知り合いだったら少し気を遣うな。
振り返ると――
「こんにちわー、新刊出てますか?」
光をまとったような金髪、純白のローブに身を包んだ女の子――聖女マリアが立っていた。
「えっ!?リオさん……なんでこんな場所にいるんですか!ここは女性専用ですよ!」
「え?そうなの?」
「まぁ……一応そうですね。男性がいると落ち着かないという声が多数ありまして」
アイラ、そういう事は先に言ってよ。言われたからって結果は変わらないけど。
「まぁ僕は無害だから良いよね、それにここの薬の鑑定もしないといけないし」
「鑑定……ですか?」
首を傾げるマリア、その目はうっすら疑っている。
「そうそう、危ない薬とかだったらいけないじゃん?マリアはお目当ての新刊でも探してなよ、神官だけに」
「リオさん……神の名のもとに引っ叩きますよ……」
神はズルじゃん。僕の冗談っていつも伝わらないよね。面白いのに。
「まぁ良いです……ちなみにその薬はどんな効果なんですか?」
「これはね、惚れ薬みたい」
「しかも媚薬付きです!」
「へ、へぇ。ちなみに飲むとどうなるんですか?」
明らかに興味津々なマリアに、薬の効果を説明する。マリアは何か考えながらコクコクと頷き話を聞いていた。
……………………。
「なるほど、お友達薬ですね」
「いや違うよマリア、何聞いてたの?惚れ薬だってば。そもそもお友達薬ってなに?こんな薬で手に入れた友達に価値なんてないよ」
「いいえ、お友達になれる薬だと思います。私最近お友達が欲しいなって思ってたんですよね。買います」
確かに好意を抱かせるってあるし………でも警戒心を大幅に低下させるって書いてあるよ?
「アイラはどう思う?」
「良いんじゃないですか?お買い上げありがとうございます」
ここに来ての商売根性、別に危険はないし良いけどさ。
「じゃあリオさん、どうぞ」
なんの迷いもなく差し出される小瓶、何?飲めって事?
「試しにお友達になれるか飲んでみて下さい」
軽くショックなんだけど、僕とマリアって顔見知り程度だったって事?
「実験体も必要ですからね」
アイラも止める気は無いようだ。でもなぁ……。
「僕ってこういう状態異常系まったく効かないからきっと何もならないよ?」
「そうでしたね……まぁ試しに。ほら、ぐいっと」
小瓶を突きつけてくるマリアの笑顔が、どういうわけか妙に圧を感じる。
まぁ、ここで渋るのも大人げないか。
「意味ないと思うけどなぁ」
僕は小瓶を一気に煽った。舌に広がる甘い味と、ほんのりした熱さ――いや、アルコールじゃないよな?
とにかく、警戒などせずにすべてを飲み干す。
「で、どうです?」
「……何もないよ。ほら言ったでしょ、僕は――」
言いかけて、違和感に気付く。
――心臓が、速い。
胸の奥で何かが弾けて、視界の端が少し霞む。
「え?」
マリアの声がやけに耳に心地良い。
その髪、金糸のような輝き。
白い指先が瓶を持つ仕草すら……どうしようもなく綺麗だ。
あれ?なにこれ……おかしい……どういう事だ?
「リオさん?顔が赤いですよ」
覗き込んでくるマリアの瞳――その奥に映る僕が、あまりに情けなくて笑えてくる。
いや、違う、これは異常じゃない。
――薬の情報を思い出す。
『警戒心を低下させ、好意を抱かせる』
でも、僕の体は異常を拒絶するはずだ。
「……なるほど」
「な、何がなるほどですか?」
「これは異常じゃないんだ」
「え?」
「きっとこれは状態異常の一歩手前、正常の範疇。恋に落ちた時の正常な反応だ」
マリアの頬が一瞬で真っ赤に染まるのが見えた。
「ちょ、ちょっと待ってください!?何を言って――」
「きっとギリギリで無効化の範囲外、そうでないと説明が付かない」
僕の指先に魔力が走る。
周囲に淡い光の魔法陣がいくつも展開された。
「リ、リオさん!?ここで魔法は――っ!」
「《誘惑の香気》」
甘い香りが漂い、空気そのものが熱を帯びる。
「《快楽感応》」
マリアの膝が小さく震え、視線が泳ぐ。
「《精神加速》」
――精神を加速させ身体の感覚に意識が集まる
「ま、待って、これ……だめ、なんですか、これ……」
マリアが力なくカウンターに手をつく。その指先と腰元が震えている姿から目が離せない。
「こんな魔法いつ使うんだって思ってたけど、覚えておくもんだね」
僕の指が動くたびに、魔法陣が増えていく。
「《感度超上昇》、《意識低迷防止》、《身体強化》」
僕の度重なる魔法に、マリアは恍惚の表情を浮かべ……ついには床にへたり込んでしまった。
「リ、リオさ……ん、こんなの……っ、だめっ……」
するとアイラの声が遠くで聞こえた。
「すごい……リオさん、こんな魔法も使えるんですね!――よし、観察記録つけなきゃ」
なにそれ、後で読ませてもらおう。
僕の魔法が、次々と形を変えて乱舞する。目の前でよがり続ける聖女の姿に僕の興奮度も最高潮に――
「――あれっ?」
急に意識が鮮明になり、すぅっと昂ったものが消えていった。
「あぁ、状態異常判定になったみたい。多分あの薬は弱すぎるんだよ、僕は状態異常とか病気とか随分と長い間かかってなかったからもう免疫がゼロに近いんだね。じゃあ魔法解除っと」
魔法を全て解除すると、糸が切れたようにマリアは床に頭から突っ伏した。あまり直視するのは良くないな、凄惨な状況だ。
「なるほど、弱すぎるが故に効き目が出たって事ですね」
「きっとそう、多分状態異常無効が無かったら今の僕は風邪ひいても死ぬね」
「じゃあ状態異常無効の魔導書だけは譲渡できませんね」
「そうだね、はっはっは」
「気を付けないといけませんね、うふふ」
「……何笑ってるんですか…」
腰をガクガクと震わせて壊れかけのブリキ人形のようなマリアは恨めしそうにこちらを睨みながら苦言を吐く。
「先に死ぬのはこっちですよ………なんでも良いんで回復をお願いします、もう色んな事に魔力を使ってすっからかんですよ……」
あらまぁ……お可哀そうに。
「エクストラヒール、これで魔力も体力も元通りでしょ?」
僕のヒールで完全回復したマリアはその場で立ち上がり、大きなため息を付く。
「はぁ……ありがとうございます……正直言いだしたのは私なのであまり言えませんが、とりあえず謝って下さい。それで今日の事は忘れてあげます」
「え?でもさ――」
「リオさん、ここは素直に謝っておいた方がいいですよ」
変に難色を付けるのは僕の悪い癖だ。アイラに言われた通りしっかり謝ろう。
「なんかごめんね。新しい服も買ってあげるから許してよ」
少しマリアに睨まれた気もするが、すぐに諦めた様に肩を落とし、マリアは謝罪を受け入れてくれた。
「軽いですけど良いでしょう……それにしても服を買って頂けるんですか?」
「うん、だってもうその服――」
僕がそう言いかけるとマリアは自分の姿を確認し、一気に顔が赤くなる。
「~~~っ……!!ちょ、なんですかこれ!」
「マリアさん、お風呂の準備しますよ。そんなに濡れていては風邪をひいてしまいますからね」
マリアは優しい声で風呂を促す。しかし人間から水分ってあんなに出るもんなんだな。
「リオさんはもう出ていって下さい!もうっ!新しい服の約束忘れないで下さいよ!」
これ以上は長居すべきではない。僕は二人に別れを告げて家に帰る。
うーん、僕にも効く薬があるんだな。後でいろいろ試してみようっと。
「リオさん、珍しいですね。自分から外出するなんて」
僕が珍しく外出した理由、それはここ『アイラの秘密商店』が気になって仕方がなかったからである。
「だって気になるじゃん、僕は欲望にはある程度は従うようにしてるんだよね」
「健康な証拠ですね、まぁ中を見ていってください。今は丁度お客様もいないので」
急に健康な証拠とか言われると僕がえっちみたいじゃないか。まぁいいか、変に隠す方が疲れるからね。
店内は淡い光で照らされてはいるが、全体的に少し薄暗い。
壁際には黒檀の棚が並び、そこに陳列されているのは――ぱっと見、ただの装飾品やポーション瓶。しかし、よく目を凝らせば、瓶の中身は妙に色気を感じさせる淡いピンクや紫の液体だったり、やけに形の艶めかしい金属器だったりする。
奥のカウンターの後ろには、透明なガラスケース。その中には――説明不要なモノたちが並んでいる。シルバーの輝き、柔らかそうな素材、そして……卑猥の二文字で説明できる物が多数。
そして右の棚には書籍コーナーがあった。「情熱は下半身から」「官能の極意」とか、タイトルがすでにアウト寄り。
僕が作ったのってブルブル震える石とかウネウネする植物だったと思うけど明らかに増えている。一体どうやって……。
「……ねぇアイラ、ここにある商品ってどうやって揃えたの?」
僕の隣で自慢げに笑う魔族のアイラは、待ってましたとばかりに口を開く。
「よくぞ聞いて下さいました!作ったんですよこれ全部!頑張りました!」
えっへんと胸を張るアイラ、僕の視線はもちろんその揺れる胸に移るが、そんな事は気にせずにアイラは話を続ける。
「なんとですね、ルーミエがリオさんと同じような魔法を使えるようになったんですよ」
「僕と同じような?あれ禁書の魔法だよ?そんな簡単に――」
「流石にリオさんみたいに相手をいいなりにさせるとまではいきません。ルーミエと私はどうにかリオさんの魔法を再現できないものかと考えました。そして色々試した結果、魔力が宿るものに特定の波長の魔力を当てると動き出すことが分かったんです」
――ん?
「ねぇそれって大発見なんじゃないの?聞いたことないよそんな話」
「それはそうなんですが……まだ研究の途中と言うかなんというか……正直ここにある商品を作り出した事で満足してしまったんですよね。正直研究とか面倒ですし」
まぁ結果的に本人達が満足すれば良いか。やりたくない研究をするのなんて散歩する気も無いのに犬を飼うようなもんだよね。
「ちなみにどんな動きをするの?」
「動かしてみるまで分かりません、振動したりうねったり、熱を持つものもありますね。もちろん動かないものもあります」
「へぇ、起動はどうやるの?毎回その波長を当て続けるなんてできないでしょ。買った人は」
「その問題も解決済みです。その波長を記憶させた魔道具を埋め込んであります。その魔道具に魔力を流せば問題なく起動できるって事ですね」
すごいな、新発明ってこうやって出来るのか。僕は創作とかした事ないからすごい新鮮。
「その卑猥な本とかポーションはどうしたの?」
「これはルーミエが冒険者の依頼を受けて遠出した時などに仕入れてきますよ。効果は不明なので全て自己責任ですね」
「用途不明はまずいでしょ、ちょっと鑑定してみていい?」
「そんな事もできるんですか?是非!」
「じゃあちょっと――」
僕は一番近くにあったポーションを手に取る。液体は淡いピンク、かすかに甘い匂いが鼻をくすぐった。
……これはジュースと言われればジュースだな。怪しいジュースの匂いだ。
「鑑定」
浮かび上がった情報は、予想通りだった。
【名称】誘惑の蜜液
【効果】対象の警戒心を大幅に低下させ、好意的な感情を抱かせる可能性がある。過剰摂取時、思考が完全に蕩けるので要注意。
「おぉ!惚れ薬っぽい!」
「本物の惚れ薬と媚薬を混ぜたようなものですね!」
「それっぽい物は見たことあるけど、ここまでしっかりした物は初めて見たかな」
「ルーミエは目利きという事ですね」
「ねー」
その時だった。
カランカラン――
扉の鈴が鳴る、お客さんか……知り合いだったら少し気を遣うな。
振り返ると――
「こんにちわー、新刊出てますか?」
光をまとったような金髪、純白のローブに身を包んだ女の子――聖女マリアが立っていた。
「えっ!?リオさん……なんでこんな場所にいるんですか!ここは女性専用ですよ!」
「え?そうなの?」
「まぁ……一応そうですね。男性がいると落ち着かないという声が多数ありまして」
アイラ、そういう事は先に言ってよ。言われたからって結果は変わらないけど。
「まぁ僕は無害だから良いよね、それにここの薬の鑑定もしないといけないし」
「鑑定……ですか?」
首を傾げるマリア、その目はうっすら疑っている。
「そうそう、危ない薬とかだったらいけないじゃん?マリアはお目当ての新刊でも探してなよ、神官だけに」
「リオさん……神の名のもとに引っ叩きますよ……」
神はズルじゃん。僕の冗談っていつも伝わらないよね。面白いのに。
「まぁ良いです……ちなみにその薬はどんな効果なんですか?」
「これはね、惚れ薬みたい」
「しかも媚薬付きです!」
「へ、へぇ。ちなみに飲むとどうなるんですか?」
明らかに興味津々なマリアに、薬の効果を説明する。マリアは何か考えながらコクコクと頷き話を聞いていた。
……………………。
「なるほど、お友達薬ですね」
「いや違うよマリア、何聞いてたの?惚れ薬だってば。そもそもお友達薬ってなに?こんな薬で手に入れた友達に価値なんてないよ」
「いいえ、お友達になれる薬だと思います。私最近お友達が欲しいなって思ってたんですよね。買います」
確かに好意を抱かせるってあるし………でも警戒心を大幅に低下させるって書いてあるよ?
「アイラはどう思う?」
「良いんじゃないですか?お買い上げありがとうございます」
ここに来ての商売根性、別に危険はないし良いけどさ。
「じゃあリオさん、どうぞ」
なんの迷いもなく差し出される小瓶、何?飲めって事?
「試しにお友達になれるか飲んでみて下さい」
軽くショックなんだけど、僕とマリアって顔見知り程度だったって事?
「実験体も必要ですからね」
アイラも止める気は無いようだ。でもなぁ……。
「僕ってこういう状態異常系まったく効かないからきっと何もならないよ?」
「そうでしたね……まぁ試しに。ほら、ぐいっと」
小瓶を突きつけてくるマリアの笑顔が、どういうわけか妙に圧を感じる。
まぁ、ここで渋るのも大人げないか。
「意味ないと思うけどなぁ」
僕は小瓶を一気に煽った。舌に広がる甘い味と、ほんのりした熱さ――いや、アルコールじゃないよな?
とにかく、警戒などせずにすべてを飲み干す。
「で、どうです?」
「……何もないよ。ほら言ったでしょ、僕は――」
言いかけて、違和感に気付く。
――心臓が、速い。
胸の奥で何かが弾けて、視界の端が少し霞む。
「え?」
マリアの声がやけに耳に心地良い。
その髪、金糸のような輝き。
白い指先が瓶を持つ仕草すら……どうしようもなく綺麗だ。
あれ?なにこれ……おかしい……どういう事だ?
「リオさん?顔が赤いですよ」
覗き込んでくるマリアの瞳――その奥に映る僕が、あまりに情けなくて笑えてくる。
いや、違う、これは異常じゃない。
――薬の情報を思い出す。
『警戒心を低下させ、好意を抱かせる』
でも、僕の体は異常を拒絶するはずだ。
「……なるほど」
「な、何がなるほどですか?」
「これは異常じゃないんだ」
「え?」
「きっとこれは状態異常の一歩手前、正常の範疇。恋に落ちた時の正常な反応だ」
マリアの頬が一瞬で真っ赤に染まるのが見えた。
「ちょ、ちょっと待ってください!?何を言って――」
「きっとギリギリで無効化の範囲外、そうでないと説明が付かない」
僕の指先に魔力が走る。
周囲に淡い光の魔法陣がいくつも展開された。
「リ、リオさん!?ここで魔法は――っ!」
「《誘惑の香気》」
甘い香りが漂い、空気そのものが熱を帯びる。
「《快楽感応》」
マリアの膝が小さく震え、視線が泳ぐ。
「《精神加速》」
――精神を加速させ身体の感覚に意識が集まる
「ま、待って、これ……だめ、なんですか、これ……」
マリアが力なくカウンターに手をつく。その指先と腰元が震えている姿から目が離せない。
「こんな魔法いつ使うんだって思ってたけど、覚えておくもんだね」
僕の指が動くたびに、魔法陣が増えていく。
「《感度超上昇》、《意識低迷防止》、《身体強化》」
僕の度重なる魔法に、マリアは恍惚の表情を浮かべ……ついには床にへたり込んでしまった。
「リ、リオさ……ん、こんなの……っ、だめっ……」
するとアイラの声が遠くで聞こえた。
「すごい……リオさん、こんな魔法も使えるんですね!――よし、観察記録つけなきゃ」
なにそれ、後で読ませてもらおう。
僕の魔法が、次々と形を変えて乱舞する。目の前でよがり続ける聖女の姿に僕の興奮度も最高潮に――
「――あれっ?」
急に意識が鮮明になり、すぅっと昂ったものが消えていった。
「あぁ、状態異常判定になったみたい。多分あの薬は弱すぎるんだよ、僕は状態異常とか病気とか随分と長い間かかってなかったからもう免疫がゼロに近いんだね。じゃあ魔法解除っと」
魔法を全て解除すると、糸が切れたようにマリアは床に頭から突っ伏した。あまり直視するのは良くないな、凄惨な状況だ。
「なるほど、弱すぎるが故に効き目が出たって事ですね」
「きっとそう、多分状態異常無効が無かったら今の僕は風邪ひいても死ぬね」
「じゃあ状態異常無効の魔導書だけは譲渡できませんね」
「そうだね、はっはっは」
「気を付けないといけませんね、うふふ」
「……何笑ってるんですか…」
腰をガクガクと震わせて壊れかけのブリキ人形のようなマリアは恨めしそうにこちらを睨みながら苦言を吐く。
「先に死ぬのはこっちですよ………なんでも良いんで回復をお願いします、もう色んな事に魔力を使ってすっからかんですよ……」
あらまぁ……お可哀そうに。
「エクストラヒール、これで魔力も体力も元通りでしょ?」
僕のヒールで完全回復したマリアはその場で立ち上がり、大きなため息を付く。
「はぁ……ありがとうございます……正直言いだしたのは私なのであまり言えませんが、とりあえず謝って下さい。それで今日の事は忘れてあげます」
「え?でもさ――」
「リオさん、ここは素直に謝っておいた方がいいですよ」
変に難色を付けるのは僕の悪い癖だ。アイラに言われた通りしっかり謝ろう。
「なんかごめんね。新しい服も買ってあげるから許してよ」
少しマリアに睨まれた気もするが、すぐに諦めた様に肩を落とし、マリアは謝罪を受け入れてくれた。
「軽いですけど良いでしょう……それにしても服を買って頂けるんですか?」
「うん、だってもうその服――」
僕がそう言いかけるとマリアは自分の姿を確認し、一気に顔が赤くなる。
「~~~っ……!!ちょ、なんですかこれ!」
「マリアさん、お風呂の準備しますよ。そんなに濡れていては風邪をひいてしまいますからね」
マリアは優しい声で風呂を促す。しかし人間から水分ってあんなに出るもんなんだな。
「リオさんはもう出ていって下さい!もうっ!新しい服の約束忘れないで下さいよ!」
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