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クレイジー! オルキヌス・オルカ
しおりを挟む第一章「新たな時代」
十二月の年の瀬の夜の群青色の海が広がるモロッコのエッサウィラの港街にある和風テイストの建物から歌声が聞こえてくる。
「残酷な天使のテーゼ~窓辺からやがて飛び立つ~」
黒髪の色黒の肌で碧い瞳のシュッとした美男子が和風仕様のカラオケボックスで仕事仲間と一緒に熱唱していた。
「イェイ! イェイ! オージュス!」
「この空を抱いて輝く~! 少年よ~神話にな・れぇえええ~!」
オージュスという美男子が熱くアニメソングを歌っていた。仕事仲間たちがテンション上がって最高の気分だった。
「もう、大きな仕事を終えた後のカラオケは最高だ!」
大好きなアニメソングを歌いきって最高の気分のオージュスはオレンジカシスのジュースを一杯呑んだ。
「オージュス、君のおかげで今回のアニメ映画も大成功をしたよ。
モロッコと日本の合作アニメなんて未知の世界だからねぇ」
オージュスの隣に座る鼻筋の通った銀髪の髭を生やした背の高い筋肉隆々のロマンスグレーの紳士エネウィルが、男らしい笑みを浮かべてオージュスの仕事ぶりを褒めた。
「ありがとう。僕だけじゃないよ。エネウィルとみんなのおかげだよ」
オージュスはエネウィルに褒められて、ちょっと照れ臭そうに微笑む。
「そうよ~! みんなで力合わせて頑張ったんだから、パーッとしようよ!」
「おお! アミージャ! お前も歌うか?」
オージュスの姪の丸い目が可愛い緑髪の色黒の巨乳のアミージャがマイクを掲げ、パーッと明るい笑顔でカラオケ大会を盛り上げようとする。
「みんな! 抱きしめて! 銀河の果てまで~!」
「イエーイ!」
アミージャがマクロスFの名曲星間飛行を歌おうとする。オージュスたちも一緒に盛り上がる。
「水面がゆ~らぐ。風の輪が広がる~」
アミージャが星間飛行のアニソンをアニメっぽい声で歌っていた。
「悲劇だってかまわない~あな~たと生きたい! キラッ!」
「キラッ!」
アミージャが決めポーズをしたら、オージュスたちもキラッと合いの手を入れた。
「濃紺の星空に~私たち花火みたい~心が光の矢を放つ~!」
「アミージャ! 最高~! 歌上手いよ~!」
カラオケボックス内の個室の中がキラキラ輝いていて、まるで宇宙空間でライブをやっているかのような臨場感だ。
「お前は本当に歌姫だよ。素晴らしいよ」
「そう? おじさんに褒められて嬉しいわ」
「アミージャ、クスクス頼もうか?」
「うん、頼んでちょうだいね。レイヴェノ」
アミージャに気遣う黒い眼の黒髪のさっぱりとした容姿のレイヴェノがクスクスをオーダーしようとしていた。
「さあさあ、次は俺の番だ。何歌おうかな~」
エネウィルの番になって曲を選んでいた。
エネウィルが曲を選んでいる時、オージュスはテーブルの下にこっそりエネウィルの足を絡ませていた。エネウィルの長くたくましい脚の感触に酔いつつ、二人仲良く妖艶に絡み合っていた。
「よーし! 聖闘士星矢のペガサス幻想(ファンタジー)を歌うぜ!」
エネウィルがマイクを手に人気アニメ聖闘士星矢の名曲を歌った。
「おー!」
「抱きしめたー心の小宇宙(コスモ)ー。熱く起こせー。奇跡を起こせー!」
エネウィルの熱い歌声でカラオケボックス内が一気に盛り上がってきた。
「イェイ! イェイ!」
「ペガサスファンタジー! そうさ、夢だけはー! 誰にも奪えない心の翼だーかーらー!」
エネウィルが男気溢れる歌声がオージュスの心を熱く燃え上がらせて、汗がじんわりとかいた。
「聖闘士星矢ー!」
「セイヤー!」
イケイケのオージェスたちが合の手を入れる。
「少年は今ー。聖闘士星矢ー明日の勇者ー! オオイェー!」
「聖闘士星矢ー! 今こそー羽ばたけ~!」
熱いメタル調の歌を見事に歌い切ったエネウィル。
「イェエエエィ! エネウィルサイコー!」
エネウィルの熱い美声に惚れ惚れしたオージュスは目を大きく輝かせて大きな拍手をおくる。
「ありがとう。君に褒められるなんて嬉しいよ」
「さあ、もっと騒ごうよ! 例の感染症が終息してから五年、やっとカラオケも出来るようになったんだもん。今晩は思いっきり歌おう!」
オージュスたちは夜十二時まで歌い明かし、今日のカラオケ大会は終わった。
二〇三〇年の地球。世界中に底知れぬ恐怖を陥れた例の感染症が終息してから五年。地球は新しい時代に変わった。世界を支配していた独裁国家が次々と終わりを迎えた。新しい民主主義の時代へと移った。
人々を苦しめた古き悪しき習慣も廃れて、サステナブルな企業が台頭し始めた。
日本文化が世界中にブームになり、日本のアニメや漫画、コスメや伝統工芸がモロッコ人の間で話題になっていた。
もちろん、モロッコでも日本文化が大ブームになっていた。
モロッコと日本との連携も強まり、漫画やアニメや映画事業を展開していった。
一見平和に見えるモロッコだが、宗教上の理由なのか、中々変われないこともある。
パーッと楽しんでストレス解消したエッサウィラ・シネマの従業員はこれで解散してそれぞれの家路に帰っていった。
エッサウィラの海が見えるリュクスなデザインのホテルの一室でオージュスとエネウィルがベッドで裸になりタコのようにうねうねと絡み合った。
「ああ、いい……」
裸のオージュスは逞しい体躯のエネウィルに激しく貫かれて、甘い喘ぎ声を鳴いていた。
「ここが良いか? ふっ……くっ」
浅黒く鋼のような肉体のエネウィルがオージュスの柔らかく湿った中をズンズンと、激しく貫いていた。
真っ暗なホテルの一室が二人の熱く湿った息遣いが聞こえていた。
「うああ……はあ、はああ……!」
エネウィルの巧みな愛技のよって泣き啜るオージュスが絶頂に達した。そのちょっと後にエネウィルも達した。
「ふ、ふ、今日も幸せだ……」
「久しぶりにしたから熱くなったよ。最近、映画の製作で忙しかったから。良かったよ」
「水、飲むか?」
エネウィルが冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、モロッコ製のグラスにミネラルウォーターを注いだ。
エネウィルからミネラルウォーターが入ったグラスを手渡され、グラスの水をオージュスは喉が渇いているのか一気に飲み干した。
水をごくごくと一気に飲み干して、プハーッと息を吐いたオージュスは長い睫毛を伏せてときめく乙女のような視線をエネウィルに向けた。
「あれから、もう十年か。最初は怖そうなやつと思ったけど、いざ付き合うと楽しくてさ」
オージュスは窓辺の暗い海を眺めながら、エネウィルと初めて出会った事を語り始めた。
「僕はモロッコで生まれて日本の映画学校出て、東京の映画制作会社で仕事してから日本のアニメを好きになった。モロッコにも日本のアニメを広めたくてモロッコに戻って、エッサウィラ・シネマで仕事し始めたんだよ」
「君は日本の事詳しかったから、色んなアニメを俺らに教えてくれた。君が日本のアニメを語る時、目が生き生きしてよかったなあ。特にシン・エヴァンゲリオンと聖戦記エルナサーガの漫画を語っている時なんか、他の日本人より詳しく語ってすごいなと思った」
「ハハハ」
「俺も小さい頃、ガンダムのアニメ初めて見てすごくハマった」
オージュスがベッドの片隅に置いてあったエネウィルのXperiaのスマホのユニコーンガンダム像の待ち受け画像を見ていた。
「エネウィルって、昔日本のお台場でガンダムと写真撮った事あったよね? 僕、まだあるよ」
オージュスがもう一つ机に置かれたオージュスのXperiaのスマホのフォトアプリを開いて、写真を探した。
オージュスがスマホに保存した写真をエネウィルに見せた。その写真にはお台場にあるユニコーンガンダム像の前で、オージュスとエネウィルが仲睦まじく肩を組み合っている写真だ。
「う、恥ずかしいな……」
オージュスは日本でのびのびと恋人らしくしている写真を見て紳士的に微笑むエネウィルにキスされた。
「ふ、モロッコでもそうしてくれればいいのに」
エネウィルに甘いキスをされて顔を赤らめて照れるオージュスはエネウィルの厚い胸板に寄りかかる。
「そうだな。でも、モロッコでは許してくれないよ」
実はオージュスとエネウィルは同性のカップルだ。十年前に映画配給会社エッサウィラ・シネマで日本のアニメ映画の宣伝の仕事で出会った。アニメオタクのオージュスは日本のアニメが好きで男らしいエネウィルに惹かれて、一年後に付き合うようになった。
「何でモロッコは僕達みたいな同性のカップルを許してくれないんだ? 他の国は同性愛を認めてくれているのに、同性で愛し合っただけで逮捕されるんだよ? そんなのおかしいよ」
「みんな分かっているけど、神様がなかなか許してくれないんだよ」
「僕は嫌だ……!」
ひそかにエネウィルと愛し合っていたオージュスはいつかエネウィルと結婚したいなと思う様になっていたが、同性愛を認めないモロッコで結婚することは出来ない。
「僕らは十年前に出会って、お互いオタクだから付き合う様になったのに、デートはいつも夜のホテルだし、外で堂々と手をつないで歩けないなんて。差別じゃないか」
「俺だって、逮捕されたくないんだ。許せ」
「いつになったら、僕達が自由に愛し合えるんだろうか。この国を捨ててでも愛を選ぶしかないのか?」
未だに同性愛が禁止されているモロッコ。イスラム教徒が多い国だからか、同性愛行為を行えば警察に逮捕される国。
禁欲的な宗教って時には愛の行方を閉ざしてしまう難しさがある。宗教は本当に人を幸せにするのだろうか、とオージュスとエネウィルはベッドの上でひたすら愛を確かめ合っていた。
第二章「オルキヌス・オルカ、大暴れ」
次の日、エッサウィラの朝は西から太陽が昇り白い建物が多いエッサウィラの街が一気に聖なる光に染まっていた。
朝のエッサウィラの港町は漁師たちが魚をとって稼ぐために船で漁に出かけていた。港町で朝のジョギングに出かける若い女性が元気よく走っていた。乙女が周りを気にせずに元気よく走る姿は平和の象徴だ。
今のモロッコの若い女性は昔ながらのカフタンではなく、Tシャツにパンツルックという現代的な服を身にまとう様になっていった。
海辺にあるレストランで朝食を食べてから、オージュスとエネウィルは海辺にあるエッサウィラ・シネマまで歩いて行った。
海辺にある大きな白い建物の映画館がある。
映画館の周りにはヤシの木がたくさん植えてあって緑と白のコントラストが美しい。
「おはようございます! ハスマン!」
仕事に来たオージェスが仕事場にいる色黒で金髪の黒い眼の背の低いサル顔の男に挨拶した。
「おお! はよう! 今日もよろぴく!」
ハスマンがパソコン作業をしながら、茶目っ気たっぷりの笑顔で手を振って挨拶した。
「オージュス、今月の映画館の収益の事だが、オンライン配信とグッズの売り上げに投げ銭の収益のおかげで去年の二倍になったッピ」
「そうか。日本の映画会社と制作会社と連携してからようやく上手くいくようになって良かったよ」
「日本の映画会社と制作会社の人はまともで、丁寧な仕事してくれるからな。それに比べて某国はいい加減だったな。少しは日本を見習えよ!」
エネウィルが嫌な事を思い出したような顔をして愚痴っていた。確かにと、オージュスとハスマンは苦笑していた。
「終わり良ければ総て良しだろ!」
「そ、そ! エネウィル副社長! 今、日本のアニメ制作会社と出版社からメールが来て、その日本のアニメ映画をぜひともモロッコで上映して欲しいってッピ!」
ニカッと白い歯を見せてハスマンがパソコンのメールボックスを開いて、日本のアニメ制作会社と出版社からのメール通知を見せた。
オージュスとエネウィルはパソコンのメール内容を食い入るように見た。
エッサウィラ・シネマの皆様へ
こんにちは。初めまして。日本の英文社の広報担当です。
エッサウィラ・シネマにお仕事の依頼をお願いしにメールしました。
日本の漫画原作映画「クレイジー! オルキヌス・オルカ」のモロッコでの映画上映をエッサウィラ・シネマ様に配給をお願いしたくて、あなた方の多くの功績を日本で知って感銘を受けました。ぜひともご依頼をいただきたいと思い、連絡しました。
詳しい内容をファイル送付しているので、可能であれば、その後にリモートでの打ち合わせのスケジュールの連絡なさっていただけたら、こちらも可能な限りモロッコ版のクレイジー!オルキヌス・オルカの製作に乗り出したいと思います。
「ほうほう、日本の漫画原作映画か」
オージュスはメールの内容をじっくり読みながら、その漫画原作映画の内容のファイル送付を見てみた。
日本の人気漫画「クレイジー! オルキヌス・オルカ」という漫画は平和ボケした日本に人食いシャチが現れて日本の街を襲われてしまうパニック漫画だ。
原作者は山野ミチル。四十歳の女性漫画家だ。
山野は現在、少年週刊誌に連載している。最初は少女漫画を描いていたが、少年誌に移ってからパニック漫画を多くかくようになった。
何か面白そうだと思ったオージュスはファイルに送付されていた映画作品の動画を観てみた。
キュイィイイン! とカッコイイ音が流れて巨大なシャチが日本の都市部をガアーッと東京都庁や東京ドームを容赦なく破壊するシーンが流れた。
都市部が破壊されて炎上した街の中で逃げ惑う人々。巨大なシャチがドガガガと高層ビルや燃やし尽くす所に二人の筋肉隆々の男がマシンガンを持ってドンと現れてきた。
二人の筋肉隆々の男が巨大なシャチにマシンガンでガンガンぶっ放す。男達がシャチと熱い戦いを繰り広げているのが斬新だった
「こ、これは!」
「シャチ映画なんて初めて見たよ!」
サメ映画やワニ映画はよく見るが、シャチ映画という新しいジャンルにオージュスたちは目を輝かせて動画を食い入るように見ていた。
街を破壊する巨大なシャチにマシンガンで立ち向かう男達の血みどろになってぶつかり合うって、すげー面白い! と、オージュスたちはすっかりこのシャチ映画にハマってしまった。
「このシャチ映画、面白いじゃないか!」
「ナイスっすね! ぜひともモロッコで上映しよう!」
「早く日本の製作会社と出版社に連絡しろ!」
オージュスたちはクレイジー! オルキヌス・オルカをモロッコで上映させたくて、映画愛が燃え上がっていた。
早速日本の製作会社と出版社にメールした。
このシャチ映画は大変面白いです。こんな面白い作品を作れる山野ミチル先生の作品をもっと世界に広めたいと思うくらい、心に残るものです。
ぜひともうちの映画会社にお願いします。
ぜひともモロッコでもヒットさせましょう! 日本の映画愛をモロッコでも広げましょう!
と、気の利いたコメントをメールで送った。
午後からクレイジー! オルキヌス・オルカのアニメ映画の配給をエッサウィラ・シネマで行うと、会議で打ち合わせをして、来年の春にモロッコで上映をすると、予定を立てた。
また忙しくなったエッサウィラ・シネマの従業員たちは斬新なシャチ映画をモロッコで上映するための準備をしていた。
映画の本編の字幕の翻訳や、テレビやネットで流すCMの作成やモロッコ版でのPVの作成などで忙しかった。
今の映画会社は深夜まで仕事することは出来ないので、とにかく集中して仕事するしかない。
オージュスとエネウィルの愛の時間も当分はおあずけだ。
「レイヴェノー! この字幕の一部に誤字があるぞ!」
パソコンで映画のモロッコ版の編集をしていたオージュスは、作品の字幕一部に誤字があったのを確認する。
「ええ? マジっすかー? 今、直します!」
字幕担当していたレイヴェノはすぐに字幕の誤字を直し始めた。
「アミージャ、パンフレットに載せる映画の声優さんの写真は出来たか?」
「今、日本の事務所からメールで送付されました! これからパンフレットに載せます!」
「三日後に印刷するから、しっかりやってくれよ!」
それから二ヶ月くらい経ち、アニメ映画クレイジー! オルキヌス・オルカのモロッコ版の上映をするための準備が大詰めになってきた。
残業をさせないエッサウィラ・シネマは、とにかく集中して仕事に取り組んだ。
さらに一か月後、二〇三一年の春になった。
クレイジー! オルキヌス・オルカのモロッコ版の上映日になった。テレビやSNSでのCMも流し、動画配信サイトの口コミ期待度も高評価を出していて、映画を見に来るお客さんが映画館に行列になっていた。
映画館の館内の客席が満員になって、東京ドーム並みに広い映画館が一気に花を咲かせた。
スクリーンにクレイジー! オルキヌス・オルカのエスプリの効いたタイトルロゴが映し出され、映画が始まった。
日本の東京タワーでカッコイイ筋肉隆々の美男子カップルが観光に行っていた。美男子カップルは肩を組んでイチャイチャしていた。
『うわー! 何じゃこりゃあ!?』
二人がイチャイチャしながら景色を眺めていたら、八百メートルある赤いシャチが上空に現れて、東京の街をグアアアと鋭い咆哮を上げながら襲い掛かってきた。
「おおお! シャチ!?」
映画館の客達は巨大な赤いシャチがスクリーンに現れて驚いた顔をしていた。
巨大なシャチは口から火を吐き、ゴォオオと平和だった街を灼熱の炎で燃やした。
『キャアアアァ! シャチよ! 助けてー!』
シャチの襲撃に街の人々はシャチから逃れようと悲鳴を上げて逃げ惑う。
「す、すげー!」
客達は巨大シャチが人々をガブッと容赦なく食い荒らす姿を見てスゲーと歓声を上げた。
よしよし、客が面白がっていると、オージュスとエネウィルは裏で喜んでいた。
東京の街が巨大シャチによって赤い瓦礫の街にされていく。
『うわぁああああ! 誰か助けてくれー!』
『ウガァアアアアアアア!』
突如現れたシャチに東京はパニック状態になっていた。
マスメディアもネットも正常に作動されなくなってどうしようもなかった。
『政府と自衛隊は何やっているんだよぉ!?』
東京ががれきの街になって、シャチの攻撃から逃げ続ける人々はわらを掴む思いで政府と自衛隊に助けを求めた。
『ママー! 怖いよー!』
母親に連れられて泣き叫ぶ子供の悲鳴。
『只今、東京の上空に巨大な赤いシャチが現れて、街を襲っています!』
地方のテレビのニュース番組で、男性キャスターが冷や汗をかきながらニュースを読んでいた。キャスターのバックに倒壊した東京タワーが映っていた。
『東京都は永田町にも被害があり、日本政府は機能していません!』
キャスターが顔をこわばらせてシャチによって破壊されて跡形もなくなった国会議事堂の画像を見せながらニュースを読んでいた。
東京の名所の東京タワーが真っ二つに折れ曲がり、国を守る機関の国会議事堂が無残に壊されて政府も身動きが取れない状態だった。
か弱い子どもと老人が食べ物が無く、飢え死にする姿が無数にあった。
巨大シャチは東京の街を食い散らかし、さすが冥界の悪魔といえる。
『もうどうするんですか! このままでは日本が崩壊してします!』
キャスターがわき目もふらずに泣き叫んでいた。
日本人たちがシャチを止めて欲しいと泣き叫んでいた時もシャチは人間達をガブガブと襲い掛かってきた。
『ギャオォォオオ!』
腹をすかせたシャチは人間達を一気に丸呑みしてきた。シャチに丸吞みにされた人間達はギャーッと声にならない悲鳴を上げて命を落とした。
『誰かー! このシャチを止めてくれー!』
シャチに食われそうになって追い詰められた腰の曲がった老人が誰でもいいから助けて欲しいと、泣き叫んでいた時、老人の目の前に二つの頼れる人影が見えた。
『待てー! これ以上日本を壊すな!』
背の高い逞しい迷彩服を身にまとった男二人がマシンガンを構えてドンと現れた。
オオ、と日本を食い荒らすシャチに立ち向かう勇者の男二人現われてだれにも頼れない庶民たちは目に希望の光が入ってきた。
迷彩服の勇者の男二人は引き締まった顔と姿勢で巨大シャチの前に仁王立ちした。
『このシャチめ! お前みたいな獣に負けてたまるかー!』
男二人はマシンガンを放って巨大シャチに立ち向かった。
『ウォォオオー!』
『ギャアアアァ!』
勇者の男二人とシャチは赤く燃える都心でドガガガガと撃ち合っていた。
『ウリョオオオオオオオオオー!』
日本を守るために勇気を持って戦う勇者の男達に人々は日本を守ろうとする勇者が勝つようにと祈った。
男二人はマシンガンで巨大シャチの弱点である額に銃弾を何千発も放った。
『グギャアアアアアアアアアアアァアー!』
マシンガンでガガガガと額を撃たれたシャチは赤い血しぶきをブシャーッと吹き付けながら、甲高い声で苦しんで叫びながら倒された。
勇者二人によって倒された巨大シャチは海へと深く沈んでいった。
『やったどー! ドグソシャチをやっつけたぞー!』
巨大シャチを倒した二人はマシンガンを空へ掲げながら、やったーっと喜びの雄叫びをあげた。
勇者二人に救われた人々は歓喜の声を上げながら、勇者二人の元へ駆け寄りバンザーイ、バンザーイと喜んで胴上げした。
人々に胴上げされた勇者二人は満面の笑みでこの映画はかっこいいメタル風のエンディングソングで締めた。
「ブラボー!」
最後までシャチ映画を観た観客たちはスカッとするエンディングに大きな歓声を上げてパチパチパチと大きな拍手した。
裏のモニターで客席の様子を見ていたオージュスたちは、シャチ映画を観た客の反応にヤッター! と喜んで、ガッツポーズした。
「最高だ! こんな斬新な映画を観れるなんて最高だ!」
久しぶりに映画を観た客もいるので、巨大シャチが日本を襲うパニック映画はモロッコ人達にとっては斬新だった。
「やった! 客が喜んでいるぞ! これは大成功だな!」
裏のモニターで客が歓声を上げていて、大喜びのオージュスはテンション上がって思わずエネウィルに抱きついた。
オージュスがエネウィルに抱きついているのを見たアミージャとハスマンとレイヴェノと他のスタッフは男同士で抱きつく姿にエエッと目をぱちくりした。
どうしたのかとどよめいたアミージャは、その素振りを見せない様にオージュスとエネウィルに
「シャチ映画って新しいジャンルを私たちは発掘したのよ! すごーい! 私達!」と、拍手喝采だ。
シャチ映画という新しいジャンルに期待を寄せたオージュスは、ニコッと陽だまりみたいな微笑みを浮かべた。
「エネウィル! 頑張って良かったな!」
オージュスの微笑みに、エネウィルは元気にオージュスに微笑み返した。
「よしよし! このまま明日明後日、来週来月、来年もお客さんが入るように頑張るぞ!」
オージュスたちは好評を受けたシャチ映画のさらなる成功を誓って、気合の声をあげた。
その時、ドオオォオオオオオン! と大地が割れる様な響きがどこから聞こえてきた。
「うわぁあああ! 地震か?」
天井がグラグラ揺れて地震でも起きたのかと、両手を頭を守ろうとしたオージュスは驚いていた。
地震みたいな地鳴りがしばらく起きている中、「キャアアアアアアアー!」と大きな悲鳴がモニターから聞こえてきた。
何で悲鳴を上げているのか、オージュスはホールの方へ走っていく。心配になったエネウィルとアミージャもオージュスを走って追いかけた。
地響きが鳴り続ける中、オージュスはホールまで走っていった。ホールのドアを開けたオージュスは、ハアッとあまりの光景に目を疑う。
エッサウィラ・シネマのホール内は客が何か大騒ぎしていた。巨大なスクリーンがひび割れて画面が真っ暗になっていた。
客が悲鳴を上げてパニックになって逃げ惑っていた。
「な、何だよ? 映画の撮影か?」
オージュスはスクリーンがひび割れて、客がパニックになって逃げ惑っている光景を見て、一体何が起きているのか動揺していた。
真っ暗になったホール内にグルルルと獣の呻きが聞こえていた。何だろうと思ったオージュスは客が逃げ惑うホール内へと足を進んだ。
ホール内でゴソゴソと大きな音を立てて暴れてている巨大な赤いシャチが恐怖に怯えて逃げる客を襲っていた。
「ウギャアァアアアアー……! た、助けてくれー!」
「キャー! シャチよ! 巨大シャチが!」
東京タワー並みにある赤い巨体のシャチに襲われる客は悲鳴を上げて映画館から逃げていた。
突然、巨大なシャチが何故映画館を襲っているのか、オージュスは恐怖と驚きで冷や汗をかいていた。
「巨大シャチ!? どういう事だよ!? エネウィル、どうなっているんだよ!」
巨大シャチが何故映画館にいるのか、パニックになったオージュスは駆け付けたエネウィルに縋り付いた。
エネウィルも何故シャチが現れたのかいまだに分からず、どうする事も出来ない。
「誰かぁああああああああ! ママ、パパでもいいから、助けぇえええええてぇえええー!」
「いやああああああ!」
十歳くらいの男の子がシャチにガブッと食われて母親は泣き叫んでいた。
このままでは被害が大きくなってしまう。オージュスとエネウィルは客とスタッフを守るために、全員外へ逃げだすようにするしかない。
「みんな外へ逃げろ! 入口の方へ走れ!」
エネウィルが響くような大きな声で客とスタッフに外へ逃げろと叫んだ。客とスタッフたちはエネウィルの言う通りに一斉に入口の方へ走っていった。
オージュスもアミージャもハスマンも一口の方へ走った。
「ウアアアアアアアー!」
「追いかけてくるー!」
「うわぁああああ!」
逃げるオージュスたちを空を翔ける様に追ってくるシャチの目は暗い光を放っていた。
ドタドタと入口へと走っていくオージュスたちは、外へ出る事が出来た。
外へ出たオージュスたちは、シャチも外へ出てきたから、食われたくないとビクビクしながら逃げた。
シャチは興味を失ったのか、オージュスたちを無視して別の方角へ進んだ。
赤い巨大シャチは人間を食べて腹いっぱいになったのか、人間に興味を無くしたのかエッサウィラの空へとブワァンと軽々と飛び去って行った。
「待てー!」
エネウィルは怒りに満ちた顔で巨大シャチを追おうと海辺を走った。シャチは怒り心頭のエネウィルなんかお構いなしに、空を飛び去ってどこかに消えた。
映画館を壊されて、呆然と立ち尽くすオージュスとアミージャとハスマンと、レイヴェノはどうするんだと、絶望的だった。
「どこへ行ったんだ? あのシャチは」
白と青のクールなデザインが美しかった立派に出来た映画館が跡形もなく壊されて、エッサウィラ・シネマは休業するしかなかった。
第三章「カルチャー・キラー・ヴァイラス」
エッサウィラ・シネマが巨大シャチによって破壊されて、オージュスたちスタッフは途方に暮れていた。
とりあえず、エッサウィラにあるホテルで過ごすことになった。
「あのシャチが現れて三日目か。どこに逃げたんだろうな」
ホテルのラウンジでみんなと過ごすオージュスは、ミントティーを飲みながらあの巨大シャチはどこへ行ったのか気になっていた。
エネウィルもハスマンもレイヴェノもいきなり仕事場を失って、今後の収入源も不安でいっぱいだ。何としても巨大シャチを仕留めたいと恨んでいた。
「ねえ、ネットでこんな記事があったけど。また怖いウイルスが発生したんだって」
アミージャがスマートフォンであるニュース記事をオージュスたちに見せた。
スマホの記事には『また凶悪なウイルスが発生! 独裁国家はまだ続いていた!』と、煽る様な記事タイトルに嫌悪感を抱くが、オージュスはその記事に目を通した。
今年の冬ごろから、ある独裁国家の残党の研究所で作られたコンピューターウイルスが流出して、世界で拡散された。
感染するのはパソコンのシステムではなく、デジタル保存した漫画やアニメのキャラクターだと書かれてあった。
「どこかの独裁国家の残党が研究所で殺人兵器を作ったという情報か」
「人気アニメのキャラクターが突如変なウイルスにやられて、実体化して暴れているって?」
「何だ? カルチャー・キラー・ヴァイラスって」
カルチャー・キラー・ヴァイラスって、何だ、という顔をしたオージュスとエネウィルは、アミージャのスマホのニュース記事をじっくり見てみた。
カルチャー・キラー・ヴァイラス。亡国となったロシアの残党の研究所で、民主主義国家に復讐するために作られた新種のコンピュータウイルスらしいと記事に書かれていた。
人気漫画やアニメのキャラクターにコンピューターウイルスを増やして、コンピューターを使って感染させるウイルスだ。
ウイルスに感染した漫画やアニメのキャラクターは、実体化して人々に攻撃してくる。
先月から各国でカルチャー・キラー・ヴァイラスに感染した漫画やアニメのキャラクターが実体化して人々に襲い掛かって来る事件が起きていた。
ウイルスに感染したキャラクターが弱い人々を襲って殺してくる戦慄な事件にマスコミは一斉にキャラクターを作ったクリエイターが悪いと一方的に批判していた。
何故、カルチャー・キラー・ヴァイラスという未知のコンピューターウイルスがキャラクターを感染させて人々を襲うのがいまだに不明だ。
このウイルスを食い止める方法が全く分からず、どうすればいいのかクリエイターたちは困っている。
亡国となったロシアの残党がウイルスを開発したのか、いまだに分かっていない。
エッサウィラ・シネマの従業員たちはこの未知のウイルスを止めないといけない。
オージュスたちはカルチャー・キラー・ヴァイラスの被害を食い止めるために世界へと飛び立つことになった。
次の日の朝、モロッコの空港から日本へ向かうためにオージュスたちは飛行機に乗ることになった。
日本行きのチケットをあらかじめ予約したオージュスたちは、自動チェックイン機で搭乗手続きをした。便利な時代になって良かったと、オージュスは感心した。
その後、航空会社のチェックインカウンターで荷物を預けてもらった。手荷物検査を済ませてから搭乗フロアへと足を進んだ。
日本行きの飛行機に乗ったオージュスたちは、飛行機のフライトを搭乗席に座って待っていた。
「日本に来るのは十年ぶりだな」
搭乗席にドンと男らしく座るエネウィルが、窓の景色を見ながらぽつりとつぶやいた。
「日本のどこへ行くつもりなんだ? まず、そこから決めないと」
オージュスはエネウィルに日本のどこへ行くのか、まず決めようと提案した。
「まずは東京へ行ってみよう。前、お世話になった銀野さんの人脈を使ってあのウイルスの事を調べてみようか」
銀野さん、十年前に日本の映画会社に勤めていた時の恩師に会いに東京へ行こうとエネウィルが答えた。
銀野は、東京の有名美術学校の卒業生で、大手映画会社の日本人社長で有名な映画を数多く手掛けている。
IQが一五〇もあるインテリで、頼れる男だ。映画関係だけでなく、IT業界や国際情勢にも精通していて人脈も豊富だ。
オージュスも銀野の映画会社で十年間働いていた。彼はとても優しく、外国人のオージュスやエネウィルにもフレンドリーに接してくれた。仕事の効率的な手順や心得、何より仕事への命かけて仕事しろと叩きこまれた。
銀野とはモロッコに帰ってからもずっと連絡を取り合う仲だ。
「なら、銀野さんにメール送るよ。東京に来るって。あのウイルスの事を何か知っているかもしれないし」
「頼むぞ。空港で待ち合わせしてもらう様にしてくれ」
「分かった」
オージュスはカバンに入っていたスマートフォンを出して、銀野にメールを送信した。
時間になり、ジェット機は空へと飛び立っていった。
今の飛行機はモロッコから五時間で日本に到着するくらい進歩していた。
空高く飛び立ったジェット機の窓の景色を眺めるオージュスの深い黒い瞳には青い空と厚い白い雲が映っていた。
第四章「シン・ジャパン」
日本の羽田空港に着いたオージュスたちは、飛行機を降りてロビーの方まで歩いて行った。
時差で日本は前日の夕方だ。
「日本は夕方ね。銀野さんは待っているかな?」
「待たせてたら大変だ。早く行こう」
オージュスたちは銀野が待つロビーへとスタスタと歩幅を広げて早歩きした。
「おお! オージュス君! 久しぶり!」
羽田空港の二階にあるエアポートラウンジの広いソファーに座っていた恰幅の良い眼鏡をかけた紳士がオージュスたちに手を振っていた。
「銀野社長ー! お久しぶりです!」
オージュスは手を振りながら恰幅の良い銀野社長の元へ走っていった。
「ハッハ! オージュス君! エネウィル君! 立派になったな!」
銀野社長が白い歯を見せて、オージュスとエネウィルに笑顔を見せた。銀野社長が元気そうで何よりだった。
「実はうちの映画会社がカルチャー・キラー・ヴァイラスに感染したキャラクターのせいでメチャクチャにされたんですよー」
「そうだったのか。ここではアレだから、天丼店やあるからご飯御馳走するよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「やったー! 天丼食べれるー!」
オージュスが愚痴をこぼして、泣きたくなりそうになったのを察したらしくとりあえず、銀野社長の提案で天丼てんやで食事でも行くことになった
「お待たせしました! 天丼のそばセットです!」
「わーい! 天丼とそばだー!」
天丼とそばを頼んだオージュスたちはプリプリでサクサクのシシトウと白身魚のてんぷらと、新鮮なカボチャといんげんの天ぷらが入った天丼と、のど越しが良さそうな蕎麦とホカホカのみそ汁と薬味が盛り付けてあった。可愛らしい大和撫子のアンドロイド型店員にテーブルに乗せてもらった。
「さあ、食べな! 日本の天丼とそばは世界一だから、ドンドン食べな!」
「はい!」
出来立てのシシトウの天ぷらをご飯と一緒にオージュスはパクッと口にした。シシトウのピリッとしたからさと、衣がサクサクでご飯の甘みとたれの味の三重奏のハーモニーが最高だった。
「おいしい! やっぱり、日本の天丼は最高だな!」
「うんうん、カボチャの天ぷらも甘くておいしいわ!」
アミージャも久しぶりの天丼の味に感動していた。
やっぱり日本の天丼は美味しい。天丼の味に満足したオージュスは、そばも食べてみた。
日本で長く暮らしていたオージュスは箸をきちんと持ってそばを啜っていた。
そばは腰が強くて、のど越しが良かった。
そばはやっぱり美味しいなと、オージュスは満足そうな顔をした。オージュスの美味しそうに食べる姿をエネウィルはオージュスが可愛くて仕方なかった。
「おかわりとかありましたら、いつでもどうぞ」
黒髪ショートの大和撫子のアンドロイド店員がニコッと白い歯を見せて微笑んでいるのをハスマンはその大和撫子のアンドロイド店員の可愛らしい清楚さにハスマンのハートをズッキューンと、貫いた。
「かわうぃー日本の店員さん、ありがとう! ねえ、この後時間空いてる? 俺と一緒にお茶しませんッピ?」
ハスマンはその店員の手を握って、後でお茶でもしないかとキメ顔で誘った。
おいおいやめろよと、オージュスたちは冷めた目でハスマンを見ていた。
カッコよくナンパしているつもりのハスマンだが、肝心の大和撫子の店員は急に能面みたいな顔つきで、
「結構です」と、冷たくハスマンをあしらった。
可愛いに大和撫子とデートしたかったハスマンはあっさりと断られて、シューンと悲しくて小さくなっていった。
やれやれとオージュスとエネウィルとアミージャだったが、カルチャー・キラー・ヴァイラスの事を話そうとした。
「銀野社長。カルチャー・キラー・ヴァイラスの事なんですが、日本ではどのように報じているんだ?」
オージュスがカルチャー・キラー・ヴァイラスの騒動について、銀野社長に聞いてみた。
フレンドリーだった銀野社長は真剣な仕事人の面持ちになって口を開いた。
「あのウイルスは、ロシアの残党の研究所から作られたコンピューターウイルスだが、どこかの民主主義国のアニメキャラクターが感染して暴れまくっているのは報じているが。
日本での被害はまだない。日本のマスコミはアニメや漫画が嫌いだから、ウイルスに感染したキャラクターを作ったクリエイターが悪いと言い張っているんだ」
「何だよ。キャラクターが悪いんじゃなくて、そのウイルスを作った亡国となった独裁国家の残党が悪いだろ!」
悪質な日本のマスコミの報道姿勢にオージュスはプンスカと怒った。今の時代になっても日本のマスコミの古い体質は変わらんなと、エネウィルは呆れ気味だ。
「アメリカとかフランスとかで人気キャラクターが突如実体化して暴れ回って、多くの死者が出ている。これ以上の犠牲を出させるわけにはいかんだろ」
じゃあ、凶悪なコンピューターウイルスの被害を防ぐには、どうしたら良いんだと、オージュスたちは考えて見るが具体的な方法が浮かばない。
「でもそのコンピューターウイルスをどうやって消滅させるの? ねえ、レイヴェノ?」
アミージャは隣に座っていたレイヴェノに振ってみた。
「カルチャー・キラー・ヴァイラスを消滅させるプログラミングを作成すれば、止める事できるんじゃない?」
「そうだ。有能プログラマーを捕まえて、カルチャー・キラー・ヴァイラスを消滅させればいいんだ。銀野社長。何か良い人脈ありませんか?」
コンピューターウイルス、カルチャー・キラー・ヴァイラスを消滅させるには高度なプログラミングできるプログラマーを探すしかない。このままじゃ日本にも被害が起きるかもしれない。何せ日本はキャラクター文化の国だから。
「私の人脈を活用したい? 分かった。君たちの頼みは出来る限り聞いてやる。IT系の人脈を使って何とかしてやる」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「やっぱり社長は頼りになりますね! 感謝します!」
オージュスたちは銀野社長の豊富な人脈を使って有能プログラマーを見つけることになった。
オージュスたちは銀野社長によって東京都内にあるマンションの一室を借りることになった。
五十階建てのタワーマンションは、東京タワー富士山を一望でき、夜空の星を独り占めする事が出来る。
「はー。東京の景色は良いなー。窓から東京タワーも富士山も見えるもんー」
窓の景色をジーッと眺めているオージュスは、久しぶりの東京の景色を楽しんでいた。
純粋な少年みたいに窓の景色を眺めるオージュスにエネウィルは、愛おしそうにオージュスを見つめていた。
エネウィルはオージュスの元へ寄って、後ろからキュッと抱きしめた。
オージュスはエネウィルに後ろから抱きしめられて、頬を赤く染めた。アミージャとハスマンはそれぞれ別の部屋で好きなように過ごしているから、バレない。
愛するエネウィルの鍛えられた肉体と優しいぬくもりにオージュスは心と体を預けた。
このまま、時が止まってしまえばいいのにと思ったその時、ブーブーブーと、オージュスのスマートフォンから着信音を鳴らしていた。
「せっかくいい所だったのに」
オージュスはエネウィルとの二人の時間を邪魔されて、頭を掻きながら着信音をなり続けるスマートフォンを手にする。
「はい。オージュス・イン・アバドゥルですが。え?」
『こんばんは~! オージュス、久しぶり~! 元気にしてる~!?』
オージュスはスマホから聞こえるけたたましい声の主にオージュスの顔はみるみる青くなった。
『私よ、シホよ! シホ・イン・アバドゥルよ~! あんたの腹違いの姉さんよ! 私は今、日本にいるのよ。日本で占いの仕事が成功して超幸せなのよ~!』
「シ、シホ姉さん……一体、何の用だよ」
電話の声の主はオージュスの異母姉のシホだった。オージュスより二十一歳上の異母きょうだいでアミージャの実母だ。
シホは自由奔放でだらしない性格の女だ。その上生粋のモロッコ人で、大のフランス嫌いだ。母方の祖母がフランス人の血が入っているオージュスが大嫌いだ。お金儲けの事ばかり考えていて、トラブルを起こしてばかりだ。
実の娘のアミージャを育児放棄して、オージュスにアミージャの世話を押し付ける様な事をするワガママな女だ。
オージュスは人に迷惑ばかりかける異母姉が大嫌いだった。
「三万ディルハムの借金作って、アミージャの世話を押し付けて、また何か人に言えない事してるんじゃないだろうな?」
『何言ってんのよ~。私はただいい暮らしをしたいだけなのよ。昔は迷惑ばかりかけてたけど、今は違うのよ』
「シホ姉さんは今なにしてるの?」
『今、占い師の仕事をしているの。占星術を占っているの。あんた、今どこにいるの? 私、東京の渋谷のヒカリエで占星術ハウスやっているの』
オージュスは絶句した。あの意地悪なシホが同じ東京にいるなんて。絶対に会いたくない、会えばシホに金持ちの女と結婚しろと、詰め寄られる。
今はエネウィルという、同性の恋人がいるからバレたらシホから怒鳴られてしまう。
オージュスはあえて波風を立てない様にこう言った。
「そうか。実は仕事で東京にいるんだよ」
オージュスが、とりあえずシホを喜ばせてやったら、シホが声色を変えてこう言った。
『あんた、東京にいるの! じゃあ、明日の夕方に会えない? あんたの事占ってやるよ!』
「う、占う?」
『私の占いはよく当たるのよ! 色んな予言が当たってね、有名なイケメン声優の結婚を当てたのよ! 今では渋谷の母と呼ばれてねー。渋谷のタワーマンションでセレブ生活送っているの! すごいでしょ? フフフ』
何だよ、自分とアミージャを捨てたくせに自分だけがいい思いしているなんて許せない! とオージュスは心の中でシホに対する怒りが爆発した。
「そうなら、アミージャの学費をあんたが出せばよかったのに。あんたが、急に家を出て行くから僕がアミージャを引き取って育てたんだよ」
オージュスは不機嫌な声でシホの実の娘のアミージャをちゃんと育てて欲しかったと、シホに伝えた。
「僕らはすごく生活苦しかったんだよ。あんたがだらしないせいで、僕とアミージャが力合わせて働きながら学業頑張ったんだ。
就職活動も何百社も面接して落ちまくって、やっと内定を受けたんだ。仕事ができるだけでも有り難いんだよ。姉さんには僕らの気持ちなんか分からないだろうけど」
『う、ひ、ひどいわ。うう、うわ~ん!』
シホはオージュスが怒っているのを聞いて、ウウ~と大きな泣き声をあげた。
「姉さん、大丈夫?」
『ごめんなさいね。アミージャも私がいなくて辛かっただろうに。アミージャはどうしてるの?』
「アミージャも今、東京にいる。僕と同じマンションにいるよ」
オージュスはアミージャも東京にいると言ったら、シホが娘に会いたいのか、嬉しそうな声でこう言った。
『アミージャと一緒にいるの! じゃあ、何かお土産買うわ!』
「いいよ。そんなに気を使わなくても」
アミージャは母親に会いたくないと思うので、お土産は結構と、アミージャの代わりに断った。
そろそろ電話を切りたい、シホがなかなか電話を終わらせてくれないと思う、オージュスがもやもやしていた。
「オージュス、もうすぐ寝るぞ。明日早いぞ」
オージュスが電話を切りたいと、気持ちを察したのかエネウィルがオージュスにそろそろ寝るぞと言った。
『誰? アミージャの他に誰かと住んでいるの?』
シホが何かを疑っているような声でオージュスに他に部屋にいるのは誰と、聞いた。
オージュスはちょっと冷や汗をかいて、エネウィルが自分の恋人とバレたら困るので、
「ああ、友だちだよ。明日の夕方、渋谷のヒカリエで待ち合わせしよう。僕らは明日、銀野社長と色々回るから」と、友だちとはぐらせながら明日の夕方に会おうとシホに伝えた。
『そうなの。じゃあ、明日の夕方の五時に仕事終わるから』
「オージュス、明かり消すぞ」
「その後、ご飯でも食べに行こうよ。アミージャも連れて。ではまた」
『じゃねー!』
オージュスはシホと明日の夕方五時に渋谷のヒカリエに待ち合わせしてご飯でも一緒に食べようと、約束して電話を切った。
オージュスはフーッと魂が抜けたようになってベッドの方へ倒れ込む。
エネウィルは大丈夫かと、頭を撫でられるがエネルギーを吸い取るエナジーバンパイアのシホと話をしていただけでオージュスは疲れ切っていた。
次の日の朝、マンションを出たオージュスたちは銀野社長と共に茨城県つくば市の筑波大学へ向かった。
「えーと、スカイタクシーを呼べるアプリで」
銀野社長がスマートフォンで空を飛ぶ事が出来るタクシー、スカイタクシーのアプリを使って呼んだ。
しばらくしたら、空からオレンジ色に輝くスカイタクシーがオージュスたちの方に向かって飛んできた。
「おー! 空からタクシーが!」
渋谷の上空からタクシーがやって来るなんて、凄いとオージュスは目を輝かせた。
「オマチシテオリマシタ。イキサキハドコデスカ?」
タクシーの自動ドアが開いて、ロボットの運転手がオージュスたちに行き先を聞かれた。
「筑波大学までお願いします」
銀野社長がロボットの運転手に筑波大学まで乗せてって欲しいと、伝えてからみんなでスカイタクシーに乗り込んだ。
初めて空飛ぶタクシーに乗ったオージュスは、日本で空を飛びながらタクシーに乗るなんてすごいとワクワクしていた。
スカイタクシーが地面から浮上して、高層ビルの上まで昇って東北地方の方角へ飛んでいった。
東京の街を空から見れるなんて、面白そうに窓を眺めているオージュスは、凄いすごいと無邪気な表情で見ていた。
空から見る渋谷駅や渋谷ヒカリエ、六本木ヒルズ森タワーが小さなミニチュアみたいに見えて、面白い。
オージュスとエネウィルとアミージャとハスマンと、銀野社長は空の移動を楽しんでいた。
スカイタクシーに乗ってから十五分くらいで茨城県の方まで来た。後五分くらいで筑波大学に着く。
第五章「カルチャー・キラー・ヴァイラスを止めろ!」
空から見る茨城県のつくば市は目まぐるしい発展で多くの未来的なデザインの高層ビルが建っていた。茨城県に移転した企業も多く、有名な企業の本社のビルが建ち並んでいた。
「うわー! すごいなー!」
アミージャがキラキラした目で、田舎と呼ばれていた茨城県が未来的なデザインの建物が建ち並んでいた事に興味津々な目で見ていた。
「茨城県が田舎だと思っていたのに、この十年で発展したんだな」
「そうなんだ。茨城県の自治体が地方創生に力を入れて、有名な仮想空間企業を茨城県が誘致したんだよ。筑波大学も仮想空間の研究に力を入れてるんだよ」
「仮想空間かー。まだモロッコにはないな。お店もメタバースで買い物する時代だしなー」
銀野社長が魅力度最下位扱いされてた茨城県がなぜこんな未来的な年に発展したのは理由は、地方再生に力を入れていて有名なメタバース企業を誘致した事がきっかけでこんなに町が発展したと、生き生きとした声で語っていた。
オージュスもエネウィルもモロッコもメタバース間業に力を入れていれば、もっとモロッコに国力を得る事が出来るのにと、呟いていた。
いよいよ赤と白の近未来的なデザインの筑波大学の上まで来た。オージュスを乗せているスカイタクシーが筑波大学の門まで地上に降りて行った。
タクシーを降りたオージュスたちは、筑波大学の門を通り大学構内へと足を運んだ。
筑波大学構内は今日は学生がまばらだった。筑波大学は世界ランキングトップ一〇に入っているのに、どうして学生がまばらにしかいないのだろうか。
「何で学生さんが少ないのかな?」オージュスは銀野社長になぜ学生が少ないのか聞いてみた。
「今の筑波大学は仮想空間内で講義を受けている事が多いんだ。みんな仮想空間内で講義受けられるから、地方に住んでいてもOKなんだよ」
「仮想空間内で授業できるから通学しなくても良いのか。ならイイね!」
「おー! こんにちは! オージュスさん、銀野社長!」
「皆さん! よくぞ来てくださいました!」
黒髪ロングをなびかせながら、オージュスたちの方へ走って来る女性と頭の毛が一本しかないつんつるてんの禿げ頭の白衣を着た男性がやってきた。
艶やかな黒髪ロングで白シャツと黒のタイトスカートをはいた女性を見たオージュスは、その女性に見覚えがあった。
オージュスはその女性がクレイジー!オルキヌス・オルカの映画の日本版の製作会社から添付された作品ファイルと共に、その作者のプロフィール写真も載っていた事を思い出した。
「や、山野ミチルさんですか? 初めまして! 僕はエッサウィラ・シネマのプロデューサーのオージュス・イン・アバドゥルです!
お会いできて光栄です!」
オージュスは笑顔でミチルに挨拶した。
「こんにちは! 私、漫画家の山野ミチルです。オージュスさんや銀野社長にお会いできて光栄です!」
漫画家のミチルがパーッと明るい笑顔でオージュスに肘タッチされてどうやらミチルは元気そうだ。
「オー! ミス・ミチル! ユーアーベリービューティフォー アイラブユー!」
美人の日本人好きのハスマンがグイッとミチルの前に来てキザな声でミチルにアプローチした。
ミチルは笑顔で、
「センキュー。でも、私は結婚する意志は一切ございません。すいませんね」と、やんわりハスマンからのアプローチを断った。
ハスマンはミチルに振られてショボンとして顔をクシャっとして泣きそうな顔をしていた。
オージュスはしょんぼりしているハスマンにまあまあと慰めていた。
あの巨大シャチが原作のマンガ通りに映画館で大暴れしてめちゃくちゃになってしまった事を言わなければいけないと、オージュスとエネウィルは正直に答える事にした。
オージュスの隣にいたエネウィルがミチルに
「山野さんですか。エッサウィラ・シネマの社長のエネウィル・サドーマ・ウルです。今回の映画の事はすみませんでした。肝心の映画館がシャチにめちゃくちゃにされて」
と、苦笑いしながら言った。
エネウィルがエッサウィラ・シネマがミチルの漫画に出て来る巨大シャチによって、映画館を壊された事を打ち明けられて、ミチルは落ち込んでいるエネウィルに、
「その話はネットで知りました。うちのオルキヌス・オルカが大暴れするなんてショックですよ。
私達は悪い事してないのに、批判を浴びさせられるなんて」と、ミチルも誠心誠意込めて作ったキャラクターが怖いコンピューターウイルスに感染するなんて思いもしなかったと、打ち明けた。
「まあ、とにかく中に入るんじゃ。わしは教授の石(いし)角(ずみ)じゃ。例のコンピューターウイルスについて研究しとって。山野くんもうちの大学で美術科の講師をしとるんじゃ」
「そうなんです。漫画家の仕事をしながら大学で美術を教えているんです」
頭の毛が一本しかない白衣を着た男は石角という名の筑波大学教授だ。コンピューターウイルスの研究を専門としている博士だ。
銀野社長とはあるテレビ番組で知り合って長い付き合いがあるそうだ。
「なら、話は早い。カルチャー・キラー・ヴァイラスがなぜこんなに蔓延しているのか、コンピューター学科で調べて欲しい。カルチャー・キラー・ヴァイラスを食い止めるコンピューターワクチンが必要になる。
もちろん、金は出してやる。石角教授、頼みます」
銀野社長が石角とミチルに漫画やアニメのキャラクターに感染するカルチャー・キラー・ヴァイラスを止めるコンピューターワクチンを開発しなければならないと、力強く頼んだ。
「では中で話そう」
石角に案内されて、大学構内の研究所に案内された。
未来的なデザインの建築のコンピューターウイルス専門の研究所に入った。
研究所の中は真っ白な床と壁と天井でホコリ一つもないくらい清潔な所だった。
オージュスたちは消毒とマスクをして、コンピューターウイルスを駆除する為のワクチンソフトを開発部に入った。
「ここが、ワクチンソフト開発部か」
ワクチンソフト開発部の研究室の中は最先端のコンピューター機器と清潔感があって理知的な研究者が沢山いた。
ワクチンソフトを開発する研究者たちはパソコンに向かってプログラミングしていた。
オージュスたちは最先端のコンピューター機器に囲われたワクチンソフト開発部の部屋を見て、スゲーと感心した。
「すごい、研究者たちがこんな難しいプログラミングしているなんて、俺らには出来ないぞ」
生粋の文系のエネウィルは、英数字だらけのパソコンの画面を見て自分には出来ないよと、呟いていた。
「ハハハ。プログラミングなんて小学生でもやってとるんじゃから」
「石角教授、今はカルチャー・キラー・ヴァイラスのワクチンソフトを開発しているっていったけど、開発段階はどこまでいっているんだ?」
石角は何かを見据えたような表情をしていて、近くにあるパソコンを立ち上げ、今開発中のカルチャー・キラー・ヴァイラスのワクチンソフトのプログラミングの途中までの段階を見せた。
とにかく複雑な英数字が画面にいっぱい広がっているデータが目が疲れるくらい複雑な物だった。
石角が他のモニターに民主主義者によるデモで社会主義を崩壊させ、亡国となったロシアに関する記事を出した。
二〇二五年に独裁国家状態だったロシアが民主主義者によるデモによって社会主義を崩壊させられ、ロシアという国を消滅させられた。
ロシアの領土は現在はインドやタイやシンガポールの領土になっている。
国を滅ぼされたロシア人達は様々な国の移民となっていった。
新しい考えを受け入れたロシア人もいる中、いまだに社会主義に固執するロシアの残党が他の民主主義国家を恨んでいた。
社会主義に固執するロシア人のプログラマーが他の民主主義国家に復讐するためにカルチャー・キラー・ヴァイラスというコンピューターウイルスを研究所でひそかに作っていた。
そのウイルスをインターネットを通じて媒介させたようだ。
亡国となったロシアに関する記事を見たオージュスたちは、カルチャー・キラー・ヴァイラスというコンピューターウイルスを流出させ、そのウイルスが漫画やアニメのキャラクターに感染し、感染したキャラクターが人間を襲うという陰謀に眉をひそめた。
「ロシアか。なんとなくわかるな」
「民主主義に負けたからって、もう社会主義は終わっているよ。今の世界に独裁政治は禁止だよ」
ロシアの残党が恐ろしいコンピュータウイルスを流出させてまで民主主義を破壊しようとする悪辣さにオージュスは皮肉めいたような言い方をした。
「そうよ。人々の自由を奪ってまで権力を維持しようとしている老害なんかいなくなれば良いの。だからロシアは崩壊したのよ」
アミージャもロシアに対する嫌悪感を露わにした。
「何とかして、そのウイルスの拡大を押さえないといけない」
「何度か試作したワクチンソフトを使って、人々を襲った漫画やアニメのキャラクターのデータにウイルスチェックしたんだが、どうも上手くいかなくて」
石角が何度か試作したワクチンソフトを使って人々を襲った漫画やアニメのキャラクターのデジタルデータにウイルスチェックしたのだが、暴れ回るキャラクターを止める事が出来なかったらしい。
未だにカルチャー・キラー・ヴァイラスに感染したキャラクターは世界中で暴れ回っている。
「そのソフトのプログラミングに何か問題でもあるんじゃないか?」
「ウイルスを除去できる人間が必要じゃ」
石角が頭を抱えながら、カルチャー・キラー・ヴァイラスを消滅する事が出来る人間が必要だと呟く。
「そのウイルスを消滅する事ができる人間を探す必要がある」
「そうなんだ。じゃあ、私達で良かったら探しますよ」
アミージャがカルチャーキラー・ヴァイラスを消滅する事ができる人間を探すと明朗な態度をとった。
「ええ? 僕達が探すのか? 時間がかかりそうだな」
「でも、やらなきゃいけないでしょ?」
「面倒くさいヨ~。日本に来てこれかよ」
レイヴェノが面倒くさそうな態度で逃げたい様な気分らしい。
「逃げないの~!」
アミージャがレイヴェノの両頬をつまんで逃げるなとハッパをかけた。
「う~ウウ~!」
「なら、探してみます。地球を救うためにやります!」
オージュスは眉をキリッとして例のウイルスを止める事が出来る人間を探すと決意を露わにした。
石角が感極まって、
「おお! 頼みますぞ!」と、涙を流しながらオージュスたちに頭を下げた。
こうしてオージュスたちはカルチャー・キラー・ヴァイラスを除去する事が出来る人間を探すことになった。
第六章「嫌な姉との再会」
筑波大学を出たオージュスたちは再び渋谷に戻った。
銀野社長と別れて、近未来的な渋谷の街を散策するオージュスたちは、ビルの広告のモニターに映る文字や、ビルの看板の文字などをくまなく見た。
渋谷の街は広い。モロッコより複雑で明るい。街を歩く人々は国産のファッションブランドの服を身につけて歩いていた。
昔ながらの高級ブランドの服を身にまとって周囲の人々を見下すような歩き方はしていなかった。時代が進んだからだ。
オージュスたちが人混みが行きかう渋谷の町並みを歩いた。
そろそろ午後四時半になり、夕方になる。
オージュスとエネウィルが何かを思い出し禍のようなしぐさを取り、
「渋谷ヒカリエによっても良いかい? うちの異母姉と会う約束があって」と、オージュスが弱々しい声でアミージャ達に異母姉のシホと会う約束をしていた事を告げた。
それを聞いたアミージャがエ? としたような顔をしてこう言った。
「お、おじさん。お母さんと会う約束しているの? お母さん日本にいるの?」
「うん、渋谷ヒカリエで占い師やっているらしいよ。昨日僕のスマホに電話きて」
オージュスが昨日シホから連絡があってオージュスとアミージャに会いたいといって、夕方渋谷ヒカリエで会おうと、約束したことをアミージャに伝えた。
「ヤダ」
「何で?」
すると、アミージャが拳を握って眉を吊り上げて、
「私達を捨てた母親に会いに行くなんて嫌よ」と、実母のシホに会いたくないと怒りながら言った。
オージュスもシホには会いたくなかったが、「分かっているよ。確かにシホ姉さんは僕達を捨てたけど、一人になって寂しかったんだよ。だから一度だけでも会おうよ」と、アミージャを説得させた。
アミージャは頬を膨らませて嫌そうな顔していた。
「なあ、アミージャ。アミージャのお母さんとずっと会ってないのか? 俺、会いたいな。この際だから俺達が付き合っている事を話そうよ」
「レイヴェノ、うちのお母さんに会いたいの?」
「うん、一度挨拶したいなと思って」
レイヴェノが恋人のアミージャに自分達が交際している事をシホに話したいと言ってきた。
「そうなのか。お前達付き合っているのか!
おめでとう!」
「良かった、良かった! おめでとう!」
「あ、ありがとう。みんなにそう言われて嬉しいわ」
「僕達が付き合っているのを喜んでくれるなら、君のお母様に会おうよ」
「う、そ、それなら会っても良いよ」
エネウィルがアミージャとレイヴェノが付き合っていると知り、おめでとうと祝福の拍手をした。レイヴェノからシホにどうしても会いたいと、アミージャも渋々とシホに会うと決めた。
オージュスたちは渋谷ヒカリエに行くことになった。
渋谷ヒカリエに着いたオージュスたちは高さ約一八二メートルくらいの天を仰ぐような複合商業施設は目を見張るものだ。
渋谷ヒカリエに入るナチュラルでおしゃれな日本製の服を着たお客さんもたくさんいた。
渋谷ヒカリエの中に入ったオージュスたちはほぼ人間に近い精巧に出来たアンドロイド型の受付嬢にいらっしゃいませと歓迎された。
「へえ、渋谷ヒカリエはアンドロイド型の受付嬢がいるんだ」
今の渋谷ヒカリエは人手不足解消のためにアンドロイド型の従業員を開発した。
高度なAIを組み込まれていたほぼ人間に近い容姿のアンドロイドはほぼ人間と同様に話したり、仕事ができる。
周りを見れば渋谷ヒカリエの中にある店の従業員はアンドロイド型の従業員が店を切り盛りしていた。
オージュスは各界の案内モニターを見た。
「占いハウスは、五階か」
シホがやっている店は五階だ。会いたくない様な、会いたい様なムスクのアロマの香りみたいに複雑な思いがオージュスにまとわりつく。
不安なオーラを漂わせるオージュスにエネウィルはオージュスの手をこっそり握り、安心させた。
「じゃあ、行こうか」
オージュスたちはエスカレーターで五階まで昇った。
五階まで上がったオージュスたちは、妖しげな照明と水晶のオブジェが立ち並ぶ、館内にウッと引きそうになった。
「あ、妖しいね。お母さんはここで占いの店やっているの?」
「とりあえず、探そう」
シホが開いている占いの店を探すために怪しい館内を歩く事にした。
占いハウスはタロット占いや、観相学占いとか、四柱推命などの多様な占いの店があった。
オージュスたちはそれぞれの占いの店に入るがシホがいなかった。
「どこにもいないぞ。君の姉さんの占いって何の占いだ?」
「占星術の店をやっていると聞いたけど。えーっと、あ、あそこだ!」
オージュスがキョロキョロと辺りを見回して、奥の星空の壁紙と「渋谷の母シホの占いセラピー」と、ファンタジックな文字で書かれた看板があった。
若い女性たちが行列を作って、待っていた。
ここの占いの店は相当人気がありそうだ。
その看板には紫の布で覆った黒い肌の団子鼻で眉間にしわの寄った自己顕示欲が強そうな女の大きな写真があった。
「う、やっぱり自己顕示欲が強いな」
シホの店を見つけたオージュスは、大きく載ったシホの写真を見て、引いていた。
アミージャもやっぱり、というような顔をしていた。
「とにかく入ろうか」
エネウィルに店の中に入ろうと言われて、オージュスは分かっているよと、嫌々行列に並んだ。
「やっとうちらの番か」
満天の星空の天井が綺麗な店の中に入り、ようやくオージュスの番になった。
椅子に座って待っていたオージュスたちは、奥にある紫のカーテンを開いた。
幻想的な音楽が流れていて、モロッカンスタイルの机と椅子があった。
「よくぞ来ました。高名なる占星術師シホの元へ。私は星々の知らせを読み取り、多くの悩めるもの達を救いました。あなた達の悩みを聞かせて欲しいですわ」
紫の布で顔を覆い、紫の布地に金糸の刺繍が入ったカフタンを身にまとったふくよかな女が現れた。
「し、シホ姉さん」
オージュスが震えた声で占い師に話しかけた。
「あら、その声は」
「僕だよ。あなたの異母弟のオージュスだよ」
オージュスはシホの顔を直視せず、自分はオージュスだと名乗った。
シホは大きく目を見開き、シホに会いたくない様な態度をとるオージュスの黒い眼をじっと見つめた。
シホがパアッと明るい顔をして、オージュスに笑顔を向けた。
「オージュス! やっぱり来てくれたのね! もう嬉しいわ! 元気だった? 私は日本に来てからすごく元気よ!」
昨日の電話の時と同じように元気に話すシホにオージュスはうんうんと、頷いた。
「シホ姉さん、ずいぶん元気そうだね。この後ここのレストランとかでみんなでご飯でも食べようよ」
「私、あんたがなかなか連絡とってくれなくて心配してたのよー! 仕事で忙しいって言えばいいのに。映画の仕事って忙しいんでしょ?」
「忙しくても今は食べれているからマシだよ。
二十年前はすごく貧乏だったけど、うまくやりくりしてたよ」
「私もさ、旦那と離婚して、もうダメだと思ったわよ。もう一度人生やり直すために占いの勉強して、占い師になったのよ」
「はいはい」
シホがウキウキしながらオージュスと話す姿を見て、オージュスは適当にあしらった。
自分とアミージャはシホにすごく振り回されて貧乏生活を送っていた事を知らないから旦那に逃げられるのもシホが悪いからだよ、と心の中でオージュスは怒っていた。
そういえば、姉の占いは有名イケメン声優の結婚を当てるほどよく当たるといううわさを聞いているが、本当だろうかとオージュスは思い切って、
「そろそろ占って欲しいけど。姉さんの占いって凄いんだろ? チップあげるから占って!」と、にこやかにシホに占って欲しいと頼んだ。
「分かってますよ。あんたの生年月日を教えて」
「一九九〇年八月十一日です」
オージュスはシホにチップを払ってから自分の生年月日を言った。
「あんたの相談したいことを言って」
「ええと、今の地球で大暴れしている怪物を僕たち人類の手で止められるかな?」
「怪物って? ああ今、ニュースで知ったけど漫画やアニメのキャラクターが大暴れしてるってやつね? 今、星の動きを見てあげるね」
シホが天井にあるバーチャルプラネタリウムで星の動きをじっくりと読み取っていた。
シホが真剣な眼差しで、星の動きを読み取っているのを見たオージュスはほう、と真剣にやっているんだなと思った。
しばらく星を読み取って、シホは物凄い表情で人差し指を天に指し、何か答えが出たのかとオージュスは息を呑んだ。
「ンンンンン~! くはぁああああ~~~~!」
星の動きを読んでいたシホが急に唸り声を上げて、何かを崇めるかの如く両手を上に掲げるポーズをとった。
オージュスは何かとりつかれたような雰囲気のシホに圧倒された。
「ぐぅううう~はああああ~! うがぁあー!」
唸り声を上げながら占うシホは太った体から大量の汗をかいて、大口を開けてドン引きオージュスの顔を見た。
「ふ、っふう。星の動きを読みとったわ」
「ほ、本当に?」
「今、蠍座冥王星が入っていて、凶悪な人間の邪な思いが世界を脅かしているのです。古き凶悪な人間が新しい人類に対して潰そうと企んでいるのよ。
その人間達を襲う化け物を作った理由は、新しい人類を殺すために作ったの」
「新しい人類を殺すためにか」
カルチャー・キラー・ヴァイラスを作った人間は古き凶悪なロシアの残党が新しい世界になじめなくて新しい人類への嫉妬が原因だったのかと、オージュスはシホの占いの結果を聞きながら頷いた。
「なら、その古き凶悪な人間を止めるにはどうすればいい?」
「それは、あなたたち人類が善き心を持ち続けていれば、古き凶悪な人間はいなくなるわ。私が言えるのはそれだけね」
「そうか。それしか方法がないのか」
シホの占いを聞いたオージュスは、モヤモヤした想いを抱えながら納得した。
「ありがとう。姉さん」
「良かった。もっとチップくれるなら、もう一つ占っても良いわ」
シホからもう一つ占ってあげると微笑みながら言われて、オージュスはエッと戸惑った。
「良いの? あんまり人に話せないけど」
オージュスは長い睫毛を伏せながら、もう一つ占おうかなとシホに呟いた。
「大丈夫よ。私は優しいから」
「じゃあ、占って」
シホに占ってあげるよと、優しく言われて、オージュスは更にチップを渡した。もう一つ占ってもらう事にした。
「じゃあ、恋愛系でもいい?」
「良いですよ」
「僕は十年前から付き合っている人がいて、その人はとても明るくて頼りになる素敵な人なんだ。
その恋人はアニメと漫画が好きで、よく漫画やアニメの話をしてるんだ」
「ほうほうほう」
オージュスが照れながら顔で恋人の事を語る姿を見たシホはうんうんと、頷きながら相談に乗った。
「誕生日に赤いバラの花束をプレゼントしてくれたり、美味しい日本料理屋でご馳走してくれる優しい人なんだ」
オージュスは照れながら、自分の恋人のエネウィルとどう付き合っているのかをシホに打ち明けた。でも、同性の恋人であることを打ち明けたいが今は言えない。
オージュスが幸せそうに恋人の事を語るのを見たシホは、オージュスにもっと深く聞こうとした。
「結婚したいとかないのですか?」
「う、そ、それは」
シホから恋人と結婚したいのかと、何かを射抜く様な視線を感じたオージュスは、ウッと言葉を詰まらせる。
オージュスの恋人のエネウィルは男性の恋人だ。モロッコでは同性愛は禁止だから、打ち明ける事が出来ない。
「それは、したいよ。でも、で、出来ないんだ」
シホにジロジロと顔を見られて、結婚しないのかと問い詰められてどうすればいいのか、冷や汗をかいてしまう。
もし、シホに恋人のエネウィルが男性だと話したら、同性愛嫌いのシホはさぞかし怒るだろう。
だから明かせられない。
「どうして? 好きなら結婚したら? あんたもう四十なんでしょ? あんたは結婚運が今、最高なのですよ。今年の十月に結婚すればあなたと恋人は最高のカップルになるのですよ。
早めのプロポーズが運気アップの秘訣よ」
シホが天井にあるバーチャルプラネタリウムのホロスコープの星の動きを読みながらグイグイと、オージュスの結婚運は今が最高なんだから、早くプロポーズした方が良いと、押されてオージュスは本当のことが言えなくてイライラした。
「分かっているよ。分かっているけど! 出来ないんだ!」
オージュスの堪忍袋の緒が切れて、机をバン! と強い力でひっくり返した。
シホはひ! と、悲鳴を上げて、オージュスに机をバント叩かれ、驚いて目を丸くした。
「お、怒ることはないのに」
机をひっくり返されて動揺するシホから怒らないで弱々しくなっているのを見たオージュスは、怯える子犬みたいになっているシホに
「ごめん、気分が悪くなった。終わりにして」と、投げやりな言葉をぶつけた。
「僕は外で待つよ。五階のエレベーターの近くで待ち合わせしよう」
「オージュス、怒らないでよ。私が悪かったわ。夕飯おごるから。ね? ね?」
「分かっているよ。それと、夕飯の時に僕から話したい事あるけど、良いかな? 怒らないで聞いて欲しい」
「話したいことがあるのね。分かったわ。アミージャと合流するのよね? あんたの友達も来るんでしょ?」
オージュスはシホと目を合わせないまま、夕飯の時に話したいことがあると、無機質な声で伝えた。シホも何か言いたそうな顔をしていた。
「私もある人紹介するわ。日本で知り合った仕事仲間よ。とても良い人よ。あんたも好きになるわよ」
シホが屈託ない笑顔でシホの仕事仲間を紹介すると言われたオージュスは、チラッとシホの顔を見た。
オージュスが幼い時からシホはだらしなくて、お金のトラブルが相次いでいたから、憎たらしかった。
オージュスは、だらしないシホの顔を見るのも嫌だった。カルチャーキラー・ヴァイラスの騒動が終わったら、シホと縁を切ろうと決めた。
オージュスはシホに気付かれない様に「じゃあ、後で紹介してね」と、作り笑いで応えた。
第七章「ありのままの姿を見せられない愛」
それからオージュスたちは五階のエレベーターの前でシホを待っていた。
館内は仕事帰りの客がゾロゾロとやって来る。日本は今のところは平和な様だ。
しばらく待っていると、遠くの方から「おまたせ~!」と、腹のぜい肉をプルプルと揺らしながらオージュスたちの方へ走って来るシホの姿が見えた。それと、シホを追う様に走る真っ白な肌で長い金髪のメガネの太ったオッサンもついて来ている事にオージュスは、何じゃと驚いた。
「オージュス、あれが君の姉さんかい?」
「まあ、そうだけど」
エネウィルが初めてオージュスの異母姉のシホを指差しながら見ていて、オージュスはうんと頷いた。
シホがすごく太っているからかハアハアと息を切らしながら、オージュスの方へ顔を上げて、
「おまたせ~! 仕事を終わらせたわよ。ご飯代は私のおごりで良いわよね?」と、明るい声でご飯を奢ってあげると言ってきた。
オージュスは能天気な異母姉に苦笑した。
隣にいたエネウィルが、シホの前に立ち
「こんにちは。オージュスのお姉様ですか?
初めまして、エッサウィラ・シネマの社長のエネウィルです。オージュスと仲良く仕事しています」と、凛々しい立ち姿で自己紹介した。
シホが凛々しいロマンスグレーの紳士のエネウィルに目を丸くして、
「この人、あんたの上司なの?」と、驚きながらオージュスに聞いてきた。
オージュスははにかみながら、
「この人はエネウィルだ。僕の大切な上司だよ。彼は映画が本当に好きで映画の為なら命を懸けれる素晴らしい社長なんだ」と、エネウィルを褒め称える様にエネウィルを紹介した。
「そう、いつもオージュスがお世話になっています」
シホはにこやかにエネウィルと握手を交わした。
オージュスの隣にいるアミージャを見たシホは、久しぶりに会った娘を見て泣きそうな顔をしてアミージャに抱きついた。
「お母さん」
久しぶりに再会したシホにアミージャはそっけない素振りをした。
顔を布で覆わずにTシャツとデニムパンツの現代的な格好しているアミージャを見て、顔を布で覆ってカフタンを身にまとっている古風なモロッコファッションで通してきたシホは、
「あら~! アミージャじゃない~! 久しぶりね~! ずいぶん派手な格好しているわね~! 元気だった?」と、大きな口を開けてアミージャに抱きついたまま離れなかった。
シホに抱きつかれたアミージャは、ハイハイと塩対応した。
「元気よ」
「なあに、そっけないわね~! オージュスと一緒に暮らしていたんでしょ? おじさんと同じ映画会社で働いているって、聞いたけど?」
「うん、楽しくやっているよ。お母さんと一緒にいた時よりは幸せか、な? 今は彼氏がいるし」
「んま~!本当なの!? お母さんびっくりだわ。後で紹介してね」
アミージャとシホが久しぶりに再会しているのにどこかぎこちないなと、オージュスが首を傾げて見ていた。
その時、シホの背後にいた金髪のメガネの太ったオジサンが、ムチムチした笑顔でオージュスたちの前に現れて、
「オオ! キミが世界一の占い師シホの娘サンと弟サン? オオ! Pretty!」と、やたらハイテンションな挨拶をかまされてオージュスたちはウオッと、びっくりした。
「だ、誰ですか? あなたは一体?」
ハイテンションな挨拶をしてくる白人風のオッサンにたじろぐオージュスは身構える。
太った金髪のメガネのオッサンは、メガネを掛け直して、ニーッと歯列矯正したての白い歯を見せて、
「Hai! ボクはハワード! ハワード・レノデス! 日本人名は桐山武とデス! 日本に帰化したヨーロッパ人デス! キミタチの事はシホさんから聞いているヨ!」と、ハワードと日本に帰化したヨーロッパ人であることを明かした。
オージュスは怪しげな日本語を話すハワードの屈託のない笑顔を見て、
「そうなんですか。僕は異母弟のオージュスです。いつも姉がお世話になっています」と、姉がお世話になっているとハワードと握手を交わす。
ハワードが優しいオージュスの澄んだ黒い瞳を見て、
「オオ! キミがシホさんの弟サンデスカ! イケメンネー!」と、大喜びだ。
「まあ、そうですけど」
オージュスはハワードという怪しい帰化人が何をしているのか聞いてみたくなった。
オージュスはウキウキしているハワードにこう聞いてみた。
「ハワードさんは何をされているのですか?」
「ボクはネー。アプリ制作の仕事をしているノ! シホの占いアプリを作っているのデス! スゴイデショ!」
ハワードがウキウキしてオージュスたちにアプリ制作の仕事をしていると、明かした。
アプリ制作の仕事をしているってことは、プログラマーなのかと、オージュスはなるほどという顔をしていた。
「ならハワードさん、後でその占いアプリを見せてくださいよ」
「ハーイ! 後で見せるヨ!」
「ねえ、あんた達。そろそろ食事でもしましょう。混雑するといけないから」
オージュスとハワードが話している所にシホがそろそろ食事に行こうと、言ってきた。
オージュスはみんなを引き連れてシホの後を付いてきた。
オージュスたちは六階にあるそうめん専門店へやって来た。ここのそうめん専門店は日本三大そうめんのうちの一つ小豆島手延べそうめんの「島の光」を使用していて、自分の好きな量、味や具材を自由に選んで食べれる店だ。
店内に入ったオージュスたちは、大きなディスプレイに何だろうと、目をやった。
〈いらっしゃいませ! 私はそうめんのソーコ! 私のそうめんを食べに来てくれてありがとうっちゃ! 空いてる席にお座り下さいっちゃ!〉
ディスプレイに映る真っ白な長い髪で、トンボみたいに大きな瞳と小さな口でピンクとピンク色と緑色の和服を身にまとったバーチャル店員のソーコがオージュスたちをもてなした。
そそそ研究室は最上質なそうめん専門店だからか、お客さんもいっぱい入っている。
日本では働き方改革でバーチャル店員を雇う飲食店が増えていた。注文した料理を取るのもレジもセルフで電子マネーで支払う様になっていた。
オージュスたちはヘ~っと感心した。
シホに連れられて席に座ったオージュスたちは、タッチパネル式のメニューで注文すると、
〈いらっしゃいませ! ご注文は何にしますか? もう、うれしいっちゃ!〉
タッチパネルの画面にソーコが現れて、アニメっぽい声でメニューを提示していた。
オージュスはタッチパネルでみんなに好きなメニューを聞いてから、入力した。
しばらくして、タッチパネルから注文した料理が出来たという通知が来てオージュスたちは注文した料理を取りに行った。
そうめんは手寒の水で小麦粉を絶妙な塩加減で練り上げていて麺匠秘伝の製法で作られていて絹糸のように白く、小豆島特産のゴマ油を使用しているので艶があった。
「いただきます!」
出来上がったそうめんをオージュスたちはさっそく食べてみた。
オージュスは出汁にゴマ豆乳ペーストを混ぜてそうめんにつけて食べてみたら、のど越しが良くてツルツルして腰があって美味しかった。
「美味しい!」
「うむ、美味いな」
エネウィルも美味そうな顔をしてそうめんをすすっていた。オージュスと同じ出汁とゴマ豆乳ペーストのスープにしていた。
「日本のそうめんって、優しい味をしているのね。もっと食べようかな」
「アミージャ、辛いスープとかどう? スパイシーな味も美味しいよ」
「じゃあ、頼もうかな。レイヴェノは優しいね」
「えへへ。君が良い子だからだよ」
アミージャも隣に座るレイヴェノと、仲睦まじくそうめんを食べていた。
仲睦まじくそうめんを食べるアミージャとレイヴェノをフーンとした顔で見ていたシホは、やはりそうかと、勘づいていた。
シホも一番高いそうめんにしていて、高そうなトリュフオイルとパクチーと鶏団子をたくさん混ぜて、ガツガツとなりふり構わず食べていた。
たくさん盛ったそうめんをガツガツ食べているシホをウヘーッとした顔で見ていたオージュスは、
「姉さん、あまり早食いはダメだよ。お腹壊すよ」と、シホに言った。
「何言ってんのよ。日本のそうめんがあまりにもおいしいから、箸が進むのよ。あんたももっと食べれば?」
そうめんを食べながら、オージュスももっと食べろと言われてオージュスは肝心なことを話すのを忘れていた。
オージュスは隣に入るエネウィルの目を見てシホにエネウィルと付き合っているのを話そうかと、迷っていた。
迷っているオージュスは箸が止まり、それを見たシホは直感で気付いて、
「ねえ、オージュス、アミージャ。あんた達お互いの恋人を紹介するんでしょ? ここにいるんでしょ?」
と、オージュスとアミージャに恋人の事を何か感づいた顔をしながら聞かれた。
シホに恋人を紹介する約束があったので、オージュスとアミージャはシホにこう言った。
「う、うん。そうだけど。今、紹介するわね」
「僕も今、紹介するよ。怒らないでくれるかな?」
「良いわよ」
オージュスはエネウィルの顔を見つつ、シホにうんと頷いた。
シホが満面の笑みを浮かべて恋人を紹介しようと照れるオージュスとアミージャを見ていた。
「まずはアミージャからよ」
シホに恋人を紹介してと、言われてアミージャが隣にいるレイヴェノの顔を見ながら、
「私の彼氏は……ほら、レイヴェノ」と、レイヴェノにシホの顔を合わせた。
レイヴェノは背筋をピンと伸ばして髪を手櫛で整えた。
「は、初めまして。お母様。ぼ、僕はレイヴェノ・ビノジュ・ハヤカワと申します! 翻訳の仕事をしています!」
レイヴェノは緊張で肩をガチガチにしながら、自己紹介をした。アミージャはそれを見守る。
「ぼ、僕は日本人の父とモロッコ人の母がいます。日本とモロッコの二つのルーツがあります」
レイヴェノが日本とモロッコのルーツを持っている事をシホに打ち明けた。
「僕はアミージャさんと、結婚を前提にしたお付き合いをしています! 僕はそのために翻訳の仕事を頑張っています! 僕は本気でアミージャさんを愛しています! どうか娘さんを下さい!」と、緊張しながらも言葉を選びながら、シホに自己紹介をした。
レイヴェノの自己紹介を聞いているシホは、はあ? とした顔をしていた。
オージュスはシホのレイヴェノの事気に入らないのかと、心配になる。
「そうなの。私達は結婚を前提としたお付き合いをしているの。二人で結婚資金を貯めているの。レイヴェノは優しいの」
「そうなんです! アミージャも明るくて太陽みたいな子なんです! 僕は彼女を尊敬しています!」
相思相愛のレイヴェノとアミージャが顔を赤らめながら見つめ合っているのに、シホはどこか気に入らない顔をしていた。
「へえ、アミージャの彼氏が大富豪じゃなくてびっくりよ」
「え? どういう事ですか?」
レイヴェノが眉間に大きなしわを寄せてレイヴェノを睨むシホにエッとした顔をしていた。
「私が望んでいる娘の結婚相手は世界一の大富豪よ。翻訳の仕事やっている男なんか目にもくれないわよ」
「お、お母さん」
「ちょっと、シホ姉さん!」
オージュスがシホの相変わらずな銭ゲバ振りを見て唖然とした。
「お母さん、私はお金より愛が欲しいの。レイヴェノの方が良いの」
「バカな事言うんじゃないよ! 私は反対よ。
稼げない男と一緒になるなんて許さないわよ」
「ちょっと、姉さん。レイヴェノはちゃんと仕事してるんだよ。彼の仕事ぶりを見て見れば分かるよ」
シホから心無い言葉を浴びせられて、目に光を失って落ち込んでいるレイヴェノを気遣いつつ、シホに反論した。
オージュスに反論されたシホはムッとして、
「オージュス、あんたは自分のめいがバカそうな貧乏人と結婚させるの? もしかして、あんたの恋人も貧乏人なの?」と、オージュスを見下すような言い方をした。
「ち、違うよ。僕の恋人は映画会社の社長とお付き合いしてるけど、お金目当てで付き合っているんじゃないんだ」
「オージュス」
「人はね、お金が一番なのよ。愛だけでパンを買えると思っているんじゃないよ! お金が無ければ生きていけないの」
「姉さんこそ! 僕達を捨てたくせに偉そうな事言うな! このカネゴン!」
「何ですって!?」
「大体姉さんはいつも、いつもお金お金って言って、人の気持ちなんかどうでもいいんだよ。
カネゴンな姉さんが嫌いなんだ!」
「ふざけないでよ。忌々しいフランス女の子のクセに偉そうな事言うんじゃないよ! バカ!」
「オーシホ! ケンカはいけませんヨ!」
「ハワードは黙ってなさいよ!」
オージュスとシホがだんだん険悪なムードになって、ケンカが起きるんじゃないかと、心配するエネウィルとハスマンは、オージュスとシホを止めようとしたその時、ドゴォ! と、耳が割れるほどの爆発音が聞こえてきた。
第八章「渋谷の街の危機」
「何だ!?」
大きな爆発音が聞こえて、びっくりしたオージュスたちは、顔を上げる。後ろを振り返ると得体のしれない巨大な何かを目撃する。
〈グウウウウウ、グウウウウ〉
オージュスの目の前に巨大化したそうめんのソーコが厨房から壁を壊しながら現れ、こっちを睨んでいた。
他のテーブルに座っていた客達も巨大化したソーコを見て体を震わせて怯えていた。
ソーコのトンボみたいに大きな瞳でギラギラと睨まれるオージュスたちは、底知れぬ恐怖でゾッとした。
「そうめんのソーコが何で巨大化したの?」
まさか、バーチャル店員のソーコのデジタルデータがカルチャー・キラー・ヴァイラスに感染して実体化しているのかと、オージュスは確信した。
カルチャー・キラー・ヴァイラスに感染してデータを実体化したソーコは大きく口を開けた。
〈ウウゥ、ァアアー!〉
大きく口を開くソーコにエネウィルは、何か危機を感じ取って、
「こ、このままじゃ危ない!」と、オージュスたちと店にいる店員や客に店の外に逃げる様にと叫んだ。
〈うう、うちは金儲けの道具しないでっちゃ!〉
怒りの表情のソーコの口からキュイイーン!と、無数のそうめんをブシャーッと、オージュスたちの方に放った。
「う、うわぁああ!」
ソーコがオージュスたちの方に強烈な光線を放ってきて、オージュスたちは店の外へダーッと逃げだした。
ソーコが放ってきた無数のそうめんがドカーンと強烈な爆発音を起こし、店を粉々にした。
「ひいいい! 逃げろ! 逃げろ~!」
「怖いよ! ママ~!」
「今日はお化け屋敷に涼みに来たんじゃないのに~!」
怖くなった客達が一斉に店の外へ逃げだした。
ソーコは怒りの表情で巨大な体をされに巨大化し、店の外へ飛んでいった。
店の外へ出たオージュスたちはすぐに渋谷ヒカリエを出ようと走っていく。
渋谷ヒカリエの館内は巨大化したソーコに客達が恐怖でワアワアと、悲鳴を上げて一気に下へ降りていく。
「エレベーターはダメだ! 階段で降りよう!」
エネウィルがみんなにエレベーターは使えないから、階段で降りろと、力一杯叫ぶ。
オージュスたちはエネウィルの言う通りに階段の方へ降りていく。
トンボみたいな大きな目を光らせるソーコは、口から無数のそうめんを人々に向かってブシャーと勢いよく飛ばしていく。
オージュスたちはソーコの攻撃から逃げなければいけない。足を大きく広げて階段を降りていく。
ソーコが放つ無数のそうめんに飲まれない様にオージュスたちは必死に逃げる。
「ああ!」
足がもつれて足を躓いたギャル風の女が、ソーコが放ったそうめんに無残にも飲まれていった。
無数のそうめんの渦に飲まれていったギャル風の女を心配して、助けようとするオージュスに
「今は逃げるしかない!」
エネウィルがそうめんに飲まれた女を心配するオージュスの手を取り、階段を駆け下りていった。
巨大化したソーコが暴れて、渋谷ヒカリエの館内が破壊されて最新カルチャーの発信地がダメになっていく。
ソーコから逃げるオージュスたちは、足が限界になりかけていた。
〈あああ、うちをあなた達の奴隷にしないでっちゃ!〉
「な、何を言っているんだ? あの子は!?」
オージュスたちを追いかけるソーコが何か涙目になっていて、意味不明な事を叫んでいた。
〈うちはもう嫌っちゃ!〉
ソーコがトンボみたいな大きな目から涙がポロポロこぼしながら、口から無数のそうめんを放った。
「うあわぁああああ!」
ソーコが放った無数のそうめんで渋谷ヒカリエのビルが破壊されて、そうめんの流れに飲まれたオージュスたちはガラス窓を突き破って、高い階層からそうめんと共に落ちていく。
「助けて!」
「いやああああ! 怖いわ~!」
「みんな! そうめんにしがみつけ! そうすれば、衝撃を吸収するから!」
そうめんに飲まれて地上に落下していくオージュスたちにエネウィルがそうめんにしがみ付けと叫んだ。
「え? そうめんにしがみつく?」
地上に落下してピンチになっているオージュスはエネウィルがそうめんにしがみつけと、言われて、目を丸くした。
「とにかくそうめんにしがみつけ!」
エネウィルの言う通りに、オージュスはそうめんにしがみついた。他のみんなもそうめんにしがみついた。
「うあわぁああああああああああー!」
そうめんにしがみついたオージュスたちは、地上にズルズルと滑っていくそうめんに身を任せていた。
例のウイルスに感染して暴れ回るそうめんのソーコによって渋谷ヒカリエのビルが壊れていく。地上にいる東京都民たちは、恐怖で悲鳴を上げながら逃げまどっていた。
「うあわぁああああああー! 怖いぃいぃいい!」
そうめんにしがみついていたオージュスたちは、ちゅるるぅううううううん! と、滑りながら地面についた。
怖くて目を閉じていたオージュスは、恐る恐る目を開けた。
意外とそうめんはコシがあって弾力性があったから、高層から落とされてもクッション代わりになって助かったようだ。
「大丈夫か?」
「うん」
エネウィルに手を引かれて、立ち上がったオージュスは辺りを見回した。アミージャやハスマンやレイヴェノも無事な様だ。
ふてくされた顔をしているシホを見つけたオージュスは、シホに対しこう言った。
「姉さん、大丈夫かい」
そうめんに飲まれて地面に落ちてふてくされているシホは、心配そうな顔をしているオージュスに「もー! なんで渋谷の母の私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ!?」と、そうめんを振り払いながら、怒っていた。
オージュスは、ソーコによって破壊された渋谷ヒカリエを見上げた。
渋谷ヒカリエの高層ビルの大きな亀裂から泣き顔のソーコがそこから空へ飛び出そうとしていた。
「う、ま、まだ、いたのか!?」
また悪さするのかと、オージュスとエネウィルは空へ飛び立とうとするソーコを見て、たじろぐ。
トンボみたいな大きな瞳から涙をポロポロとこぼすソーコは、オージュスたちの方を見ながら、
〈うちを奴隷扱いしないで欲しいっちゃ!〉
と、泣きそうな声でまた口から無数のそうめんを渋谷の街周辺にビシャーッと放った。
またそうめんを放たれて、渋谷の街がそうめんで埋め尽くされてしまう。渋谷の交差点スクランブルが大量のそうめんで人や車が飲み込まれて動けなくなってしまった。
渋谷駅周辺もソーコが放った大量のそうめんで電車と人々が飲み込まれて、電車が動かす事が出来なくなった。
そうめんまみれの渋谷の街を泣き顔で見つめるソーコは、プイッと、そっぽを向いて空へ飛び去った。
「ソーコ! 待ってよ!」
オージュスは空へ飛び去って行くソーコを追いかける。ソーコを止められなくて悔やんでいた。
カルチャー・キラー・ヴァイラスに感染して実体化して大暴れされたソーコを止められず、このままでは他の漫画やアニメのキャラクターがウイルスに感染して、大暴れされたらひとたまりもない。
渋谷の街がそうめんで埋め尽くされて街の機能が停止してしまって、どうする事も出来ない。
素麺で埋め尽くされた街を見てオージュスは、どうすれば良いんだ? と、立ち尽くしていた。
その日の夜、渋谷の人々と共に渋谷の小学校の避難所まで歩いて辿り着いたオージュスたちは、渋谷の都立小学校の体育館で渋谷の人々と共に避難生活を送っていた。
渋谷の街の人々と共に体育館に避難するオージュスたちは、段ボールで仕切られた避難スペースで休んでいた。
「ああ、もう何で空気の悪い所にいなきゃいけないのよ? 空気清浄機とか無いの?」
「シホ姉さん、我慢してくれよ」
「それに、何で粗末なベッド何かで寝なきゃなんないの? フランスベッドで寝たいわよ」
「みんな我慢しているんだよ。僕だって我慢しているんだ」
密閉した体育館で過ごすことにシホは不満を口にしていた。オージュスは機嫌の悪いシホをなだめていた。
「もうそろそろ寝ましょう。つまらない時は寝るのが一番だよ」
アミージャが個別に用意されたダンボールベッドで寝ようと、オージュスたちに言った。
狭い空間に入れられて不満顔をしていたシホがアミージャに向かって
「ああ! アミージャが貧乏人と付き合うからこうなるのよ。貧乏人なんか敵よ!」と、猿のようにキーキーして喚いていた。
アミージャは呆れた顔で、
「お母さん、いい加減にしてよ」と、母親に言った。シホはフンと、頬を膨らませてそっぽ向いた。
「分かりましたよ。寝る!」
やけくそになった太ったシホがダンボールベッドに寝そべり、目を閉じて眠りについた。太っているからか、大きないびきをかいていた。
オージュスたちもダンボールベッドの上で眠りについた。
第九章「ロシア残党のスパイ」
次の日の朝、朝日が昇るのと同時にオージュスたちは目を覚ました。
丈夫なダンボールベッドから、目が覚めた。ダンボールベッドで寝ていたオージュスは意外と肩とか凝らなかったからまあ良しとした。
学校で備蓄していた非常食を避難者に渡すために学校の職員達が避難者を並ばせた。
オージュスたちは一列になって並んで、非常食を手に入れた。
朝の非常食はカンパンとスティック状のようかんとフリーズドライのお餅と水だ。
オージュスは、非常食を味わって食べた。今の非常食は美味しく出来ているのでホッとした。
美食家のシホには非常食の味に不満があるようだが。
食事を終えて、自由にしていたオージュスとエネウィルは、小学校の校庭を回っていた。
桜の花が舞い散る小学校の校庭には避難していた子供たちが楽しく鬼ごっこをしていたりしていた。
それを見ていたオージュスとエネウィルは、子ども達と一緒に鬼ごっこをしたくなった。
オージュスとエネウィルは、鬼ごっこをして遊んでいる子供たちに、
「おーい! 僕達も入れてくれ!」と手を振りながら仲間に入れてと声をかけた。
すると、小学一年生くらいの黒髪の男の子が一緒に鬼ごっこをやりたいオージュスとエネウィルを見て
「おじちゃんたち、鬼ごっこやりたいの?」と、可愛らしい顔で聞いてきた。
「うん、一緒に鬼ごっこしよう!」
「おじさん達が鬼になるから、みんな逃げてね」
オージュスとエネウィルは子供たちに鬼になるから一緒に遊ぼうと誘った。子供たちも外国人相手でも面白そうだと笑って「良いよ!」と、オージュスたちと一緒に遊ぶ事にした。
広い校庭で鬼ごっこの鬼になって子供たちを追っかけるオージュスとエネウィルは、楽しそうだった。
「おーい! 待てー!」
オージュスが逃げる子供たちを捕まえようとして校庭の中を走っていた。
子供たちが無邪気に笑いながら、チョコチョコと走り回っていた。
「あはは。こっちだよー!」
オージュスとエネウィルが笑顔で子供たちと戯れていた。
「おじさん、もっと速くー!」
「こら! 鬼の言う事を聞けー!」
子供の方が活発だから、どこへ走るのか分からない。校舎の裏へ逃げる子供もいるし、ジャングルジムの中へ逃げる子供もいるからなかなか捕まえるのが難しい。
「こらー。待ちなさいよー!」
子供を捕まえようと手を伸ばすが、子どもたちがおどけた顔でオージュスとエネウィルを翻弄させる。
「もー!」
オージュスが悔しそうな顔を見せそうだけど、大人なのでしたくない。負けたくないオージュスたちに子供たちがアハハと大人たちを笑っていた。
絶対に負けるものかと、闘志を燃やしたオージュスとエネウィルは、逃げる子供たちを必死で追いかけた。
うわー! と、覇気あるオージュスとエネウィルが怖くて泣きそうな顔をして逃げるが、体の大きいオージュスたちにタッチされてしまう。
「よーし! つ・か・ま・え・た!」
「きゃー! つかまえられちゃったよー」
オージュスにタッチされた子どもに笑われてオージュスも二ッと、笑った。
「おじさん、つよいよー。もー」
「ハハハハ! 大人を甘く見るんじゃないぞー!」
「こらこら」
エネウィルも久しぶりに少年みたいな笑顔を見せていた。オージュスはエネウィルが子どもたちと少年のように楽しんで遊んでいる姿に心をときめかせていた。
「ねー。今度はぼくらが鬼だよー!」
今度は子供たちが鬼になってオージュスとエネウィルは追いかけられる番だ。
「いーち、にー、さーん、しー、ごー」
子供たちが桜の木の下で数を数えているうちにオージュスとエネウィルはどこかへ走っていく。
「はーちー。くー、じゅー!」
子供たちが十まで数えてからオージュスたちを捕まえようとどこかへ走っていった。
校舎の裏を駆けまわるオージュスとエネウィルは、キラキラした笑顔だ。
「オージュス~! 待てよー!」
「アハハハ! エネウィル、ここまでおいでー!」
校舎の裏で追っかけ合っているオージュスとエネウィルは、堅苦しいモロッコを離れて日本でお互いの感情をさらけ出していた。
子供みたいに笑い合うオージュスとエネウィルは楽しい時を過ごしていた。
「フフフフ、アハハハ!」
走っていたオージュスはエネウィルに抱きつかれて少年の様な無邪気な笑顔を見せていた。
「オージュス! キミを一生離さないよ」
淡いピンク色の桜の花が舞い散る木の下で抱きつかれたエネウィルに耳元で甘い言葉を囁かれて、オージュスはエネウィルの手をぎゅっと握った。
ピンク色の桜の花びらが二人を包み込むように散ってオージュスとエネウィルの愛を祝福しているかのように見えた。
「ずっと一緒にいてくれ。誰にも邪魔されないように、僕を離さないで」
誰もいない校舎の裏で桜の花びらが舞い散る中、オージュスは照れながら、エネウィルにずっと一緒にいてと甘えた。
エネウィルも男らしい艶のある微笑みをオージュスに見せた。
「分かっているよ。いつか結婚しよう。二人で仲良く暮らせるように平和な土地に行こうよ」
二人で暮らせる平和な土地へ行こう、エネウィルなりの精一杯の愛の言葉を聞いたオージュスはちょっと寂しそうな顔をした。
「うん。でも、みんなとお別れするのは、ちょっと嫌かも」
「結婚するなら、映画の仕事もやめないといけないからか? モロッコでは結婚生活は送れないよ」
エネウィルと結婚したらモロッコを離れなければいけない。それはみんなと別れなければならないことを示していたから。
「分かっているよ。シホ姉さんが僕らの事知ったら、発狂してしまうからね」
エネウィルと結婚するとなったら、オージュスが同性愛者である事をシホが知ったら、発狂する事は間違いないと、オージュスは苦悶する。
オージュスが苦悶しているのをエネウィルは、
「どうして君のお姉さんは君とアミージャをほったらかしにしたんだい?」と、オージュスに何故シホにほったらかしされた理由を聞く。
エネウィルに何故シホにほったらかしにされた理由を聞かれたオージュスは、長い睫毛を伏せながらエネウィルの方に顔を向ける。
「それは、僕の母が原因なんだ」
オージュスは沈んだ顔で自分の母が原因だと呟いた。
「僕とシホ姉さんは腹違いの姉弟なんだ。シホ姉さんの母親は黒人系モロッコ人なんだ。シホ姉さんの実の母親が死んで一年後に僕の父が再婚した。
その再婚相手は母方の祖母がフランス人で、フランス人の血を引いている。その人が僕の実母だ」
「そうだったのか」
「僕が生まれて、父と母のたくさんの愛を受けて育った。でも、シホ姉さんは母と仲が悪かった。
シホ姉さんはフランス人の血を引いている母に対して、すごく憎んでいた」
「そうなのか」
「シホ姉さんは僕に対しても憎しみをぶつけられた。お前は物乞いに対しても優しすぎるとか、男らしくないとか云われてさ」
一年後にオージュスが生まれて、シホは幼いオージュスに対しても辛辣な態度を取られた事をオージュスは辛そうな顔でエネウィルに打ち明ける。
「シホ姉さんが富裕層の男性と結婚してアミージャが生まれて、気が大きくなったのかすごく贅沢な生活を始めたんだ。純金のアクセサリーを爆買いしたり、毎日セレブたちとパーティーしてたんだよ。
そしたら、贅沢な生活に溺れる姉さんに愛想つかした旦那さんが別の女性と浮気されて離婚されたんだよ。
離婚されて大きな借金作ったシホ姉さんは僕にアミージャを預けさせて、海外へ出稼ぎに行ったんだ。シホ姉さんが作った借金を僕らに押し付けてさ!」
「確かに腹立つな。その間はお姉さんと連絡とってなかったのか?」
エネウィルにシホと連絡を取っていないのか、と聞かれてオージュスは嫌な思い出を思い出したくないのか、無言で頷いた。
「まあ、君の姉さんはどうしようもない人だな。俺達が付き合っているって云っても分かってくれそうもないだろうな。
俺達の事は俺達で決めるから、お姉さんに押し付けても仕方ないだろうしな」
エネウィルにシホなんか自分達の事なんか分かってくれる訳ないから、これ以上関わるのは不要だと優しく言われたオージュスは、フッと何か吹き出したように笑った。
「もう姉さんなんかに関わりたくないよ。あいつのせいで僕とアミージャが大変な思いしてたのにさ! もう嫌だ!」
シホともう関わりたくない。この騒動が終わったらシホと縁を切ろうと決めたオージュスは、エネウィルの澄んだ瞳を見つめながらこう云った。
「ミルダスボス~!」
オージュスとエネウィルがお互いに見つめあっている中、体育館の裏から何か話声が聞こえてきた。
体育館の裏から話声が聞こえて、オージュスとエネウィルは、ん? と体育館の裏の方へ体を向けた。
「えー。昨日の夜にそうめんのソーコというキャラクターが渋谷の方で実体化して暴れて、渋谷周辺に被害を被る事が出来たんですヨ」
どこかで聞き覚えのある声だ。オージュスとエネウィルは耳を澄ました。
《そうか、あのコンピューターウイルスの感染力は確かなのか》
誰かと通話アプリとか使って会話しているのかと、オージュスとエネウィルは声の持ち主を知るために足音を立てずに体育館の裏の方へ歩く。
《ハワード・レノ。そなたは亡き祖国ロシアの残党の工作員として、カルチャー・キラー・ヴァイラスを生み出し、そのウイルスを漫画やアニメのキャラクターに感染させて民主主義国家の国共を恐怖の渦に陥れた事には礼を言うぞ》
「あ、アリガトウゴザイマス! もう、ロシアを滅ぼした愚か共に復讐するためにボクがあのコンピューターウイルスを作って、あいつらに仕返ししたんだ! ロシアを再興する為にはカルチャー・キラー・ヴァイラスが必要なんだかラ!」
声の主はハワードだった。ハワードはスマートフォンの音声アプリで会話しているようだ。しかもハワードは帰化したヨーロッパ人ではなく、亡国となったロシア人らしい。
「ミルダスボス~! どんどん民主主義国家を滅ぼして見せますサ~! 漫画やアニメのキャラクターは叩きやすいから、感染すればマスコミが叩くんデスヨ~! ボクはネ、日本に帰化した理由は日本はキャラクター文化だから、日本のキャラクターが好きをアピールして帰化したんデスヨ。そして」
やたら饒舌にスマートフォンで話しするハワードにこっそり聞いていたオージュスの眉間にしわが寄っていた。
「ボクが親日派であることをアピールしたら、すっかり騙されてバカみたいデスヨー。アハハ!」
《お前と仲の良い占い師の公式アプリには例のウイルスのスパイウェアが組み込まれていると聞いたが、その効果はどうだ?》
まさかハワードがロシアの残党のスパイと知ってオージュスとエネウィルは、思わず声が出そうになった。ハワードは占い師と通じてアプリを作ったとシホか? と感づいたオージュスはシホを利用して人々を恐怖に追い込もうとするハワードに何てことだと、憤りを隠せない。
「ああ、あのデブの占い師のアプリはまだ効果は出ていないが、そろそろ効果が出ると思うマスヨ。アプリをインストールしてスマートフォンやパソコンに保存していたデータに感染させてるカラ」
「オージュス、ハワードがロシアの残党のスパイだってお姉さんに知らせないと」
「どうしてシホ姉さんは色んなトラブルを起こすんだよ」
このままじゃ日本にカルチャー・キラー・ヴァイラスの被害を受けたら大変なことになる。その前に阻止しないといけない。
早くシホにハワードに騙されている事を教えないといけない。
「とにかく姉さんの元へ行こう!」
オージュスが思わず大きな声でシホの元へ行くと言った。
「オイ! 何コソコソお話してるのデスカ!?」
突然、ドスの効いた声がオージュスの背後から聞こえてきた。
オージュスとエネウィルは、ドスの効いた声に驚いて後ろを振り返った時、ぷくぷくとした手が二人の背後にピストルを突きつけられていた。
眉間にしわを寄せて、三白眼気味で睨みつけるハワードの姿があった。
「ソコで何してたんデスカ? ボクの話を聞いてたんデスヨネ?」
ハワードにピストルを向けられて、会話を盗み聞きしていた事を知られてしまい、オージュスとエネウィルはピストルで撃たれる恐怖で体を硬くしていた。
「う、うう。は、ハワードさんこそ」
「まったく、通話している時に盗み聞きしちゃ駄目って、親に教えられてたデショ?」
ハワードは見た感じはずんぐりむっくりして感覚が鈍そうに見えたが、オージュスとエネウィルが盗み聞きしていたのを知っているようだ。
「オージュスサン、アナタはボクをどう思っていたのデスカ?」
「ぼ、僕はあなたの事最初から百パーセント信じていません。だってシホ姉さんとつるんでいるからです」
「ナンデスト?」
「おい、お前は何者だ。お前は帰化したヨーロッパ人とかいってたな。それは嘘だろ?」
「ハア?」
「ロシア人の残党だろ!?」
ハワードに肩を掴まれているエネウィルが決して臆せずにハワードがロシア人の残党だろときっぱりと云った。
エネウィルにスパイだろと、問われたハワードはドンとオージュスとエネウィルに向かってパンとピストルで撃った。
ハワードが放った銃弾をオージュスとエネウィルはハッと銃弾をかわした。
「このデブが!」
「避けるとは流石デスネ!」
明るいキャラのハワードが黒い不気味な笑みを浮かべた。オージュスはこの男の裏の顔を見た。
「グヒャヒャ! 良く見破ったもんデスネ!
そうだヨ。ボク、今はなきロシアの人間だヨ」
残酷に笑うハワードはロシアの残党のスパイだと口にした。怒りに震えるオージュスとエネウィルは人を猿呼ばわりする様なハワードを決して許さなかった。
「ボクはロシアの残党のスパイでプログラマーなんデス! ロシアの残党のボスからの命令で例のコンピューターウイルスを作ったんダ!」
「カルチャー・キラー・ヴァイラスを生み出したのはお前だったのか。お前はロシアに忠誠を誓って民主主義の国を滅ぼすためにあのウイルスを作るとは……愚かな!」
「オージュス君、君のお姉さんは本当にボクの事を信頼してくれていい金蔓だったヨ。占い師は稼げるから最高だったヨ」
「何だと?」
オージュスが怒りに満ちた声でハワードにシホを騙していたのかと、厳しく問いかける。
オージュスの問いにハワードがブハァハハハハ! と下品に笑った。
「そうだよ。ボクはカルチャー・キラー・ヴァイラスで世界をさらに侵略するために占い師のシホと手を組んでウイルス付きの占いアプリを作ったのダ! その占いアプリは占星術師シホ公式アプリといってな、百万人くらい子がアプリをインストールしてるんデスカラ」
「ふざけるな!」
ハワードが黒い笑いを浮かべながら、スマートフォンにインストールしている占いアプリをオージュスとエネウィルに見せた。
オージュスはハワードが制作したアプリを見て怪しんだ。
「ハワード、お前に命令している黒幕の名を言え! その組織とボスの名を言え!」
「うっせえわ!」
オージュスがハワードを問い詰めると、ハワードが懐からピストルを取り出し、パン! と、空に向けて撃った。
「うわ!」
ハワードがピストルで撃った音で木にいた鳥たちが音にビックリして一斉に逃げ出した。
「何だ? 拳銃の音?」
「どうしたの? 何があったの?」
ピストルの音に気付いたレイヴェノとアミージャがオージュスたちのいる校舎の裏に駆け付けた。
ハワードにピストルを突きつけられて、アミージャとレイヴェノはヒイッと恐怖で動けなくなってしまう。
「邪魔者たちが来ましたネ!」
ハワードが恐ろしい形相でピストルを向けてオージュスたちを脅していた。
ハワードはピストルを向けたまま、利き腕でない方の手でもう片方の腕に着けてある金の腕時計のボタンを押した。
ハワードが履いている靴が強い風がピューッと吹いた。ハワードの体が宙に浮いた。
体が揺れるほどの強い風に飛ばされそうになる。オージュスは足を踏ん張って倒れないようにした。
「逃げるな! まだ話は終わってない!」
「あのウイルスを消滅する方法はボクが一応知ってイルヨ! でも君達の言う事は聞けませんネ!」
「待て! この悪党!」
怒り心頭のオージュスはハワードを捕まえようとした。しかし、ハワードは空へ飛んで逃げて行く。
「アーハッハッハ! バイナラッキョ!」
ハワードにお坊ちゃまくんみたいなあほらしい言葉を言われて、逃げられてしまってオージュスは悔しがる。
「おじさん、ハワードって人は一体何者なの?」
悔しがるオージュスにアミージャが、ハワードは一体何者なんだと、聞かれた。
オージュスは自分の頬をパンッと叩いてもやもやした気持ちを払った。オージュスはアミージャにこう聞いてみた。
「なあ、シホ姉さんはどこにいるんだ? 話さなければならないことがあるんだ」
「お母さんは、体育館で避難している人達を占っているところだよ」
「う、占いをしているのか!?」
アミージャからシホが体育館で避難している人達を占っているところだと知ったオージュスは嫌な予感をした顔になり、体育館の方へ向かってすごいスピードを出して走り始めた。
「オージュス! 待ってくれ!」
「おじさん! どうしたのよ!?」
エネウィルとアミージャとレイヴェノは急いで走るオージュスにどうしたんだというような顔をして、オージュスの後を追った。
第十章「避難所が危ない!」
体育館まで走ってきたオージュスは、呼吸を整えてから体育館の中へ入った。
体育館の中はやたら騒がしかった。何だと思ったオージュスは長い行列を見つけた。
「お嬢様凄いですね! あなたの星はいい方向に向かっていますよ!」
「本当ですか!? 私、あの人と結婚出来るんですか!?」
行列の先にはシホが若い女の子たちに占いをしてあげているのをオージュスは見た。
シホが跳び箱の台の上に水晶玉を乗せて、ふわふわ髪でパッチリお目目で真っ赤なグロスを付けた韓国アイドル風メイクをした港区女子を占っていた。
韓国アイドル風の目や唇のパーツを強調したメイクをした港区女子は長い脚をくねらせながら、シホに
「で、あの人がいつ奥さんと別れてくれるのよ? 出来るだけ早くしてもらえると良いな」、と質問していた。
先の見えない恋に恋焦がれる港区女子の顔をジーッと何かを探るように見るシホは、ウウゥ~! と凄みのある声を腹の底から叫んだ。
シホの占う姿に港区女子も列に並んでいた客もおお! と神の姿を拝めるように泣きそうな顔をしていた。
オージュスはうう、とシホの怪しげな占い方を見て引いていた。女の子って何で怪しい占い師に惹かれるのだろうか、と心配していた。
しばらく呻き声を上げたのち、汗をびっしょりかいたシホは、結果を待っている港区女子の潤んだ目を見つめながらこう云った。
「あなたが想い人と結婚できる日は今年のクリスマスですね。多分想い人さんの奥さんが突然の事故で急死するという星が見えてますね」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、あなたの今の星の動きはいい方向に向かっています。結婚運は最高なんです。このまま愛する人と強く愛し続ければ、必ず上手くいきますよ」
「ああ、私はさえない貧乏社員だったのに、広告代理店の社長に恋して、ひそかに愛を育んでいたわ。もしもの時のことを考えていたけど、大丈夫なんですね?」
「ええ。あなたの願いは必ず叶えられます。渋谷の母の私が言っているんだから、安心してくださいな」
「うう~! あああ~! ありがとうございます~!」
シホがニコッと慈愛溢れる笑顔を向けられている港区女子が嬉しくてわあわあと泣き出している姿を見ていたオージュスは、大丈夫か、と引いていた。
シホがうれし泣きしている港区女子の肩をポンと叩きながら、自分の懐に入っていたスマートフォンを取り出した。
「また、相談したいならこの占いアプリで相談してください。このアプリは月額五百円で何回も占えるのです。さ、今すぐインストールして!」
スマートフォンを取り出したシホが占星術師シホ公式アプリのQRコードを見せて、港区女子にアプリをインストールして、と持ち掛けてきた。
シホが占星術師シホ公式アプリのQRコードを見せている姿を見て、オージュスは悪い予感がした。
「ま、まずい! そのアプリは!」
港区女子がハワードが製作した占いアプリをインストールしたら、漫画やアニメのキャラクターのデータがウイルスに感染してしまう。
このままじゃ危ないと、オージュスはシホを止めようとした。
「じゃあ、インストールしますね」
港区女子が自分のスマートフォンにシホの公式アプリをインストールした。客が自分の公式アプリをインストールしてくれて大喜びしている。
列に並んでいる女の子たちも早く占ってアプリをインストールしたくてうずうずしている。
「そのアプリをインストールしてはダメだ!」
オージュスが腹の底から大きな声を出して、港区女子の客にアプリをインストールしてはダメだと駆け寄った。オージュスは港区女子からスマートフォンをガッと奪った。
オージュスからスマートフォンを奪われて、びっくりする港区女子の客は、
「ちょっと! 何するんですか!?」と可愛い声で怒った。
港区女子が怒っていてもオージュスは決して臆せずに
「そのアプリは危険なんです!」とシホの公式アプリをインストールしてはいけないと、強く言った。
自分の商売を邪魔されたシホは、ムーっと歯を向いてオージュスにプンプンと怒っていた。
「ちょっと、オージュス! 占いの邪魔しないでよ!」
占いをしている所を邪魔されて怒りに震えるシホをオージュスはㇱーッと指を立てて黙らせ、長い睫毛を震わせている港区女子の客にこう云った。
「何でこのアプリをインストールしてはいけないの?」
「良いか、この占いアプリは恐ろしいコンピューターウイルスのスパイウェアが入っていて、君のスマートフォンに入っている漫画やアニメのキャラクターを乗っ取って君に襲い掛かって来るんだ」
「わ、私のスマートフォンに入っている漫画やアニメのキャラが私に襲い掛かって来るって?」
エーッと、港区女子は赤い唇を大きく開けて叫んだ。
オージュスがあのアプリをインストールするなと港区女子に警告しているのをシホは何なのと、目を点にしていた。
「とにかくあのアプリをインストールしてはいけない。君の命が危ないんだ。早くアンインストールするんだ」
オージュスの警告に港区女子は戸惑っていた。横目で見ていたシホがオージュスと見なく女子の間を割り込んで、
「オージュス! 私の仕事の邪魔をするなんて百年早いわよ! あっち行ってよ!」、と邪魔するなと激怒した。
オージュスは激怒しているシホを厳しい目で、シホにあのアプリの真実を明かした。
「あのアプリ、ハワードと一緒に作ったんだろ? ハワードは姉さんを利用して世界を破壊しようとしているんだ」
「ハワードが世界を破壊する?」
「あいつは、ロシアの残党のスパイであのアプリにはカルチャー・キラー・ヴァイラスのコンピューターウイルスを入れたんだ。アプリをインストールしては駄目だ!」
亡国となったロシアの残党のスパイであるハワードは黒幕のボスの命令でカルチャー・キラー・ヴァイラスを作った。そのコンピューターウイルスの被害を広めるために日本に潜入して人気占い師であるシホを利用してウイルス付きのアプリを開発した。
そのウイルス付きのアプリをインストールさせて、漫画やアニメのキャラクターに感染させて民主主義の国を攻撃させようとしていると、シホに明かした。
ロシア人であるハワードは信用させるために帰化したヨーロッパ人であると偽っていた事をオージュスはシホに伝えた。
「ろ、ロシアのスパイって。まさかねー」
オージュスからハワードはロシアの残党のスパイでロシアを復活させるためにあのウイルスを作ったという言葉にシホは信じなかった。
このままじゃ、被害が大きくなってしまう。
何とかシホを説得しなければと、オージュスはシホを説得しようとする。
「姉さんはハワードに騙されていたんだよ。今すぐあいつと縁を切るんだ」
「嫌よ。何であんたの言う事聞かなきゃいけないのよ」
ロシアの残党のスパイに騙されていたシホとシホに真実を打ち明け、目を覚まして欲しいと説得するオージュスが言い争っている姿を見ていた列を作っていた女の子たちはどうしたのかと不安になっていた。
不安になった港区女子の客はスマートフォンを手にしてインストールした占いアプリをアンインストールしようと指を動かす。
港区女子はアプリをアンインストールしようと指を動かしていたが、何かに気付いたのか突然、指の動きが止まった。
「あ、あれ? アンインストールが出来ないわ!」
「な、何だって?」
オージュスは一体何が起きたのかと、港区女子のスマートフォンを見ようとした。
シホも何でアンインストールが出来ないのか気になってスマートフォンを覗いた。
スマートフォンを見るとその占いアプリにはアンインストールのボタンが無い事に気が付いた。
「アンインストールが出来ないってどういう事だ?」
ハワードが作った占いアプリにはスマートフォンにウイルスを感染させるために初めからアンインストールできないように仕組まれていたようだ。
「あ、スマートフォンがすごく熱くなっている!」
占いアプリをアンインストールが出来ないどころか、スマートフォンが燃えるように熱くなっていた。
「な、何、これ!? バッテリーに異常でもあるの?」
熱くなったスマートフォンに港区女子からどうしようと、オージュスに助けを求められた。
オージュスもどうすれば良いんだと、もしかしてカルチャー・キラー・ヴァイラスに感染してしまったのかと、焦る。
燃えるように熱くなったスマートフォンの画面に変な文字がいっぱい出てきた。何で画面に変な文字がいっぱい出て来るんだと、オージュスたちは焦る。
スマートフォンの画面からポヨンと、マシュマロみたいな柔らかいものが顔に当たってオージュスは驚いてスマートフォンを放してしまう。
「う、嘘だろ?」
スマートフォンを手放したオージュスの目の前にはとんでもないものが目の前に映っていた
「ペン、ペン、ペン。ぺ、ペンペン」
オージュスの目の前にはマシュマロみたいなフワフワなフォルムのペンギンが何百万匹も広い体育館をよちよち歩きしていた。
「あのマシュマロみたいなペンギンって、マシュペンギンの漫画のキャラか?」
オージュスはあのマシュマロみたいな柔らかそうなフォルムのペンギンに見覚えがある。日本の人気漫画のマシュペンギンのマシュペンギンだ。マシュマロみたいなゆるいペンギンのキャラクター造形が癒されると人気のキャラクターだ。
「キャアアアー。何、これ?」
港区女子が手のひらサイズのフワフワな質感のマシュペンギンに体に何匹もまとわりつかれて、パニックになっていた。
オージュスと駆け付けてきたエネウィルと共にマシュペンギンに体にまとわりつかれてパニックになっている港区女子を助けようとした。手のひらでパシパシとマシュペンギンを振り払った。
マシュマロみたいなフワフワのマシュペンギンはとても軽く、ペンペンとゆるい声で鳴きながら、ふわーっと港区女子からの体から離れた。どうやら攻撃性はない。
「大丈夫か?」
「は、はい~!」
港区女子を助けたオージュスは、駆け付けたエネウィルと共によちよちと歩き回っているマシュペンギンを追い払おうとした。
何百万匹も歩き回っているマシュペンギンにたくさんの避難民がいる体育館の中は大騒ぎになっていた。
「オージュス! またキャラクターがあのウイルスに感染したのか?」
「そうだよ。ハワードが作った占いアプリに入っていたあのウイルスに感染したんだよ!」
またカルチャー・キラー・ヴァイラスに感染したキャラクターが暴れ回って、どうすれば良いと憤りを隠せないオージュスはスパイのハワードにアプリを作ってもらったシホをずいっと睨みつける。
オージュスに睨まれたシホはフンとふん反りがえって
「わ、私は悪くないわよ! 私はハワードに占いアプリを作ってくれと頼んだだけよ!」、と自分は悪くないと言い張った。
「姉さんがだらしないから、大騒ぎになるんだよ!」
「いくら何でも私のせいにしないでよ!」
シホのせいで騒動が大きくなってしまい、オージュスはシホに怒った。
今はマシュペンギンを止めないと、シホから離れた。
「キャアアアアア! ちょっと、あっち行ってよ!」
「うわぁああ! 何だ、このペンギンは!」
「くっつくなよ。あっち行ってろ!」
「何でマシュペンギンがここにいるの?」
体育館で避難している人達は突然現れた無数のマシュペンギンの大群にまとわりつかれてパニックになっている。
「やめろー!」
体育館の倉庫に入っていたモップブラシを手にしたオージュスとエネウィルはマシュペンギンを追い払うため、モップブラシをブンブン振り回した。
「ペペ?」
「ぺー!」
オージュスとエネウィルにモップブラシでブンブンなぎ払われたマシュペンギンがふわふわっと外へ逃げ出してしまう。
「よし! このまま体育館の外へ追い出そう!」
「おー!」
オージュスとエネウィルはマシュペンギンを追い出すため、加勢したアミージャとレイヴェノとハスマンとマシュペンギンを一掃すると結束した。
「おーい! あっち行きな!」
「君達、イタズラはダメッピよ!」
オージュスたちは避難民を救うためにマシュペンギンをまとめて体育館の外へ追い払うためにまず、体育館の窓と扉を全部開けた。
窓と扉をすべて開けてから、体育館を駆け回っているマシュペンギンを空いている窓と扉に誘導しようと、駆け回っているだけのマシュペンギンをモップブラシでかき集めた。
マシュペンギンは攻撃性はなく、ただうろついているだけで外へ出しておけばいいと思った。
「ぺぺ? ペペ?」
「ほら、そっちに行きな」
知能の低いマシュペンギンはモップブラシでかき集められても大人しくしていた。
オージュスたちはモップブラシを駆使して、たくさんのマシュペンギンたちを空いている窓と扉に誘導させて外へ追い払った。
三時間もかけて何とかマシュペンギンを外に追い出したオージュスたちは、体と神経が疲弊していた。
疲れて体育館の床の上でゴロンと横になっていたオージュスは天井を見上げていた。
「やっと、終わった」
「でも、まだ終わりじゃないぞ」
「お母さんがあのスパイに騙されなければ、被害は小さかったのよ」
「ちょっと、私のせいにするつもりなの?」
アミージャにロシアの残党のスパイのハワードに騙されなければこんな事にならなかった、と冷たい眼を向けられたシホはムッとした。
まだハワードの事信じているのかと、オージュスはムッとしているシホに対して石角教授にあのアプリにウイルスが入っていることを知らせないと思った。
「姉さん、明日、筑波大学に一緒に来てもらうよ。石角教授にあのアプリの話を聞かせてもらうよ」
オージュスはあの占いアプリを深く調べるためにシホを連れて筑波大学に行くことを決めた。
「う、何であんたの言う事聞かなきゃいけないの?」
オージュスから一緒に筑波大学に来てもらうと言われたシホは、首を横に振りながら筑波大学に来ることを拒んだ。
「ダメだよ。姉さんにハワードとどうやって出会った事とか、ハワードが何者かという事を石角教授に知らせないといけないから。良い?」
「う、うう」
オージュスは頑としてシホを絶対に筑波大学に来させようとした。
「お姉様。明日の朝スカイタクシーに乗って筑波大学に行きましょう。誰もあなたの事責めませんから。安心してください」
「本当に?」
「大丈夫です。人間は全て完璧ではありません。誰だって過ちを起こします。あなたがすべてを打ち明けてくれたらそれで結構です。明日行きましょう」
「分かりました。行っても良いわよ。オージュス、それで良いでしょ?」
「じゃあ、明日の朝に行こう。大学が開く時間までに行こう」
エネウィルの誠実にシホを説得させてくれて、一緒に筑波大学に来てくれるという答えにオージュスはホッと胸をなでおろす。
第十一章「秘密の愛が暴かれた」
次の日の晴れた日の朝。オージュスたちは渋谷区の小学校の正門に立っていた。
渋谷区の空からスカイタクシーがオージュスたちの方に向かって飛んでいた。
オージュスたちの目の前にスカイタクシーが地上に降りてきた。
「さあ、みんな乗って」
オージュスがスカイタクシーの座席に座った。エネウィルたちもスカイタクシーの座席に座った。
「姉さん。大丈夫だよ。急に落ちたりするわけないよ」
「分かっていますよ」
頬を膨らませてムッとしているシホにオージュスは、大丈夫だよとスカイタクシーの座席に座らせた。太ったシホが座席にドスンと座って車内が地震が起きたくらいにグラグラ揺れた。オージュスたちは、うおおと、つい声が出てしまう。
何人も乗っている車内がギュウギュウになって大丈夫かなと、心配になる。
早速出発したオージュスたちは、空から眺める渋谷の町並みを見た。
そうめんのソーコによってそうめんだらけになった街は、自衛隊や消防隊によって無数のそうめんを除去されて、道がはっきりと見えるようになっていた。渋谷ヒカリエのビルはいまだにボロボロの状態だった。
車内でオージュスはスマートフォンで銀野社長とチャットでやり取りしていた。銀野社長は、渋谷ヒカリエの騒動の時には渋谷から離れていたため無事だったという。今はつくば市にいるとチャットのやり取りで分かった。
あのウイルスに感染したスマートフォンを筑波大学にウイルスを調べてもらうと、チャットでやり取りした。
五分くらい空の旅をして筑波大学に着いたオージュスたちは、正門前にいた銀野社長と再会した。
「君達! 無事だったのか!」
筑波大学の校舎の入り口で待っていた銀野社長と再会したオージュスは、銀野社長が無事でほっとした。
「はい、何とか生きています」
大変なことが起きても全然へこたれない銀の社長がハハッと明るく笑う姿にオージュスの落ち込んでいた心のモヤモヤを晴れる様な気がして良かった。
「とにかく生きてて良かったよ。君達にもしもの事があったら、私は泣き叫ぶよ」
オージュスたちは銀野社長と笑い合っていた。オージュスたちの輪の中に入らず、一人ジーッと遠巻きに見ていたシホに気付いた銀野社長は
「あれ? あのカフタンを着た女性はもしかして」と、オージュスにシホの事を聞いてきた。
オージュスは少しためらいがちな顔でツーンとしているシホを見た。
「そう。僕の異母姉で占い師のシホ・イン・アバドゥルです」
「こんにちは。あなたがシホさんですね。僕は銀野修です。映画会社の社長やっています。
お会いできて光栄です」
「へえ、あんたの知り合いに日本人の社長とお友達なのね。意外だわ」
昨日から不機嫌なシホは、銀野社長に対してもつまんなさそうな顔をしているからオージュスはますます不安になる。
「姉さん、後で石角教授にハワードの事とあのアプリの事ちゃんと話すんだよ」
「分かっているわよ。筑波大学なんて初めてだから、案内よろしく」
「はあ、姉さんは相変わらずだ」
人に指図されるのが嫌いなシホを見て、オージュスは不安になる。不安になっているオージュスの手を優しく握るエネウィルの手のぬくもりにちょっと癒されていた。
筑波大学構内にある未来的なデザインの建築のコンピューターウイルス専門の研究所に入ったオージュスたちは全身消毒をしてから研究室に入った。
滅菌処理した研究室の中に入ったオージュスたちは中にいた石角教授と再会した。
「よくぞ来てくれたぞ。無事で何よりだ」
石角教授は頭を光らせながら、オージュスたちの無事を喜んだ。
「実は渋谷で大変なことがあったんです。ウイルスに感染したキャラクターが渋谷で暴れて命の危機に晒されそうになって」
オージュスは嫌な事を思い出したかのような顔をしながら、石角教授にすべてを話した。
「そうか。君達は今まで渋谷にいたと聞いたが、大変だったのか」
「あのウイルスに感染したキャラクターが大暴れして渋谷の街がめちゃくちゃになって避難してたんです」
オージュスはカルチャー・キラー・ヴァイラスに感染したそうめんのソーコが大暴れして渋谷の街を破壊された事を石角教授に話した。オージュスの話を聞いた石角教授は、何か怪しいと目を寄せた。
「何が原因でウイルスに感染したんじゃ?」
石角教授にウイルスに感染した原因を聞かれたオージュスは後ろにいるシホの顔をチラッと除いた。
「実は、異母姉があるプログラマーに作ってもらった占いアプリが原因です。な、姉さん」
「そうか」
「それと、あのウイルスを作った人間と出会いました。姉の知り合いの男のロシア人のハワード・レノというプログラマーです」
「ハワード・レノという男は一体」
「はい、ハワードというロシア人はある組織のスパイです。その組織のボスのミルダスという、巨悪からウイルスを作り出せと命令されたそうです。その組織の巨悪はロシアを再興させるためにあのウイルスを作ったそうです」
オージュスはハワードに製作してもらった占いアプリによってスマートフォンに入っている漫画やアニメのキャラクターに感染して実体化して騒動が起きたとシホの顔を覗きながら語った。
「姉さん、ハワードの事話して欲しい。姉さんは嫌いだけど、今はそうはいかない」
オージュスに厳しい目で見られていたシホは、口角を下げて不満げだ。
「ちょっと、この爺さんにハワードの事を話せって言うの? 冗談じゃないわよ。学歴だけのじいさんに」と、石角教授をバカにするような発言をした。
シホの態度の悪さにオージュスは、オイと突っ込みたくなるが、石角教授は全然動じずにシホの黒い眼を覗いた。
「別に学歴だけのじいさんでも構わん。シホ先生、その占いアプリを作ったプログラマーの事話してくれぬか?」
「そうだよ。正直に話してくれればそれでいいよ」
石角教授に占いアプリを製作したプログラマーをどういう奴かをシホの固く閉ざされた心を開けさせようとした。オージュスもシホにすべてを話して欲しいと静かな声で訴えた。
エネウィルもアミージャもシホにすべてを話して欲しいと訴えるような目で見ていた。
オージュスたちにハワードの事と占いアプリの事をすべて話して欲しいと訴えられてシホは嫌だと顔を歪ませた。
ハワードの事を話すのを拒んでいたシホに怒りに震えるオージュスは、シホに向かってパンと丸々とした右の頬に平手打ちをかました。
オージュスに平手打ちを食らったシホは、余計腫れ上がった右の頬を押さえた。
「いい加減にしろ! 今、世界は大変なことになっているんだよ! 頼む! 話して欲しい!」
オージュスは今この異常事態を何とかしなければいけないのに、オージュスの言う事を聞かないシホを憎らしかった。オージュスは怒りと懇願を混ざった想いでシホを睨んだ。
シホもオージュスを睨みつけていたが、クッ口元を上げて、オージュスの黒い瞳を見ながら、
「良いわよ。その代わり、一度しか話さないので」と、なぜかオージュスの言う事を聞くと誓ったのがオージュスは「ありがとう。全部話してね」と、平坦な声で言った。
椅子に座ったシホから、オージュスたちは話を聞く事にした。
まずシホは、二十年前に富裕層の夫と離婚して一気に生活が苦しくなっていた。追い詰められたシホは一発逆転するためにインドで占星術を習おうと思った。
インドで占星術の修行をする為に、まだ十三歳だったアミージャを日本の映画学校の学生だったオージュスに預けさせて、インドに渡ったと、シホは語る。
インドに渡って凄腕の占星術師の弟子となったシホは厳しい修行に耐えたのち、占い師となった。
占い師になって世界中を回って様々な人を占った。様々な人間を見てきたシホは、その相談者の身なりや言動、立ち振る舞いなどを観察しながら相談者の星の動きなどを読み取りながら占っていた事をシホは語る。
例の感染症が流行り始めた頃には日本にいた時は本当に生活が苦しかったと、シホは苦笑していた。
例の感染症が終息してから、数か月後に渋谷のバーで飲んでいた時にシホの隣に座っていた日本に帰化したヨーロッパ人のプログラマーと仲良くなったのがハワード・レノだったという。
日本が大好きなハワードは日本犬が好きだったり、日本のアニメが好きだったと、シホは語る。
ハワードは初対面のシホでもフレンドリーに接してくれて、孤独だったシホは人の温かみに触れて幸せだったという。
シホはハワードと共に占いビジネスを拡大させていった。シホの右腕となったハワードはシホをメディア出演のための人脈と作ってあげたり、出版社に占いの本をプロデュースの手伝いをしていた。
ネットでも占いビジネスを拡大させるために、ハワードから占いアプリの製作しようと持ち掛けてきたという。
「彼は私に占いアプリを作って、お客さんを増やしてもっと儲けて私に良い暮らしさせてあげるよと、言ってくれた。私はその言葉に乗せられて彼にアプリを作ってもらったの」
シホはお金をもっと稼いでセレブな暮らしを続けたいと思ったから、あのアプリを作って貰ったという。
オージュスはシホの上昇志向によってスパイの男に騙され、大きな騒動になってしまった事に胃が痛くなりそうだ。
シホのせいで胃が痛くなっていたオージュスをエネウィルは、オージュスの肩をポンと叩いた。
「それであのウイルスを埋め込んだのか」
「お姉様、あなたはもっと人の素性を確かめてからすればよかったんですよ。目先の報酬に囚われているからダメなんですよ」
「そんな事言っても無理よ」
エネウィルに人の素性を確かめてからにすればよかったと、やんわりと注意しているのにシホの考え方は変わらない。
「シホさん。話してくれてありがとうじゃ」
「ふ、フン」
シホは石角教授に礼を言われてもフンと、礼儀知らずな事をした。
オージュスはシホがあんな態度を取られて、やれやれと思ったが、そんな暇はない。
「あのハワードというスパイを探すのじゃ。後は、あのアプリにはウイルスを取り込んでいるのは確かじゃろうし、そのウイルスに感染したスマートフォンをお持ちかい?」
「はい。姉に占ってもらった人から借りました。これです」
オージュスはウイルスに感染したスマーフォンを石角教授に手渡した。
プログラマーのハワード・レノという男が巨悪のミルダスの甘い囁きに乗って、恐ろしいウイルスを生み出したから、世界に恐ろしい事が起きた。
オージュスから渡されたスマートフォンを、石角教授と研究者たちが、アプリから感染したウイルスを調べている。
あのアプリのプログラミングは複雑に作られており、プログラミングのコードを解読するのに時間はかかりそうだ。
プログラミングが出来ないオージュスたちは、プログラミングのコードが解読するまで自由時間を取る事にした。
昼過ぎになり、オージュスは大学の図書館でたくさんの本を読んでいた。
「あのハワードは相当難しく組み込んでいたのか。見た目と違って計算高い奴だ」
「ハワードがすべて悪いんじゃなくて、巨悪を滅ぼさないといけないよ」
エネウィルは、世界の危機を救うために諦めなかった。
「あのミルダスって奴はどこにいるんだ。ロシアの残党のボスを止めないといかん」
「ネットニュースでは、アメリカとイギリスとフランスの軍がミルダスがいるアジトを探していると記事になっている」
オージュスがスマートフォンを取り出し、海外のニュースサイトからある記事をエネウィルに見せた。
巨悪のミルダスという男は、姿を見せずに何処かに潜んでいるらしい。
やはり巨悪は姿を見せないで暗躍するのはアニメや漫画では常識の如く、恐ろしい。
「ミルダスという巨悪を捕まえないと駄目だな」
「そうだよな」
オージュスとエネウィルはあのウイルスを消滅させて、ミルダスを捕らえて裁判を起こすしかないと、呟いた。
しばらくたくさんの本から何かヒントを得ようとしていたオージュスとエネウィルは、誰もいない図書館の中でふいに見つめ合った。
「ねえ、この騒動が終わったらどうするんだ? モロッコでエッサウィラ・シネマを再建するのか? それとも」
オージュスが純粋な瞳でエネウィルを見つめた。エネウィルは涼しげな目元でオージュスをじっと見つめていた。
エネウィルに肩を寄せられたオージュスは、心をときめかせた。そして、オージュスはエネウィルにチュッと唇を奪われた。
オージュスの唇を奪ったエネウィルの燃える様な熱い吐息、体温にオージュスの胸をざわつかせていた。
誰かに見られたら、困る。オージュスはエネウィルから唇を離そうとするが、エネウィルはオージュスの唇を離さずに唇を吸っていた。
「オージュス、俺は神を裏切ってでも君を選ぶよ。愛してる」
エネウィルから、神を裏切ってでもオージュスを選ぶと、熱い想いの言葉を受けたオージュスは、エネウィルの純粋に澄んだ目をじっと見つめた。
「うう、エネウィル」
「ああ。俺にはオージュスしかいないんだ。もうモロッコを捨てて二人で生きていこう」
オージュスしかいない、二人で生きていこうという言葉にオージュスの目からブワッと涙が溢れてどうする事も出来ない。
泣き崩れるオージュスはエネウィルに抱きしめられて、自分の本当の想いを伝えようと唇を震わせた。
「エネウィル。ぼ、僕も」
自分の想いをエネウィルに伝えようとしたその時、ドカドカと足音が聞こえてきた。オージュスとエネウィルは足音に気付いて、辺りを見回した。
「え? 誰かいるのか?」
辺りを見回していたオージュスはあのドカドカと歩く足音に覚えがあった。嫌な予感をしたオージュスは、本棚の後ろから大きな人影を見た。
その現れた人影があの迷惑系占い師だった。
「ちょっと。あんた達! 何しているのよ!?」
ドカドカと足音を立ててオージュスの前に現れたシホを見て、オージュスとエネウィルはもしかしてと、ドキッとした。
「ね、姉さん」
悪い顔をしてオージュスとエネウィルを見ているシホが怖くて体が硬くなってしまったオージュスは、冷や汗をかいた。
「オージュス、あんたはバカね。男の恋人なんか作って。いい加減にしてよね」
シホにオージュスとエネウィルが同性愛カップルだと気付かれてしまい、オージュスとエネウィルは絶対に分かれまいと、お互いの手を握った。
シホはオージュスとエネウィルがお互いの手を握っているのを見て、まあと大きな口を開いていた。
「私、あんたが結婚したい相手の事大っぴらに言えないから怪しいと思ってたのよねー。オージュスは男なのよ。裕福な女と結婚して跡取りを作るべきなのにね」
「姉さん。僕に自由を奪う気か? 元はいえば姉さんのせいで大変だったんだからね。借金だって去年、全額返済したばかりなんだから」
いまだに古い考え方を押し付けようとするシホにオージュスは怯まなかった。
お金や名誉より真実の愛を選ぼうとするオージュスとエネウィルにシホはハッと鼻で笑った。
「ハハッハ。男同士で結婚しても幸せになれるわけないじゃない。モロッコでは同性愛者は逮捕されるんだから。今すぐ別れなさいよ!」
「お姉様。俺達はこの騒動が終わったら、モロッコを出ようと思っています。モロッコを出れば自由になれるんです。俺達を咎める様な事をお止めください」
「はあ? 何言っているの? モロッコを出てどう生きるっていうの? エネウィルさん、あんたはオージュスの事好きらしいけど、男同士で結婚しても幸せになれるとは限らないのよ」
同性愛を禁止にするモロッコを離れてでもオージュスと真実の愛を貫くと、エネウィルはシホに強く伝えた。しかし、シホはエネウィルを認めようとしない。
「どういう事でしょうか?」
「この世に男と女が生まれた理由って知ってる? 子孫を残すためよ。男は自分の子孫を残すために女を求めるのよ。男と女は出会って愛し合って、子孫を残し世の中を繁栄させる宿命があるの。子孫を残さない人間は歴史に残らない。真の勝利者って子孫を残した者が真の勝利者なの。分かる?」
同性愛なんか子孫を残せないから、負け組だと言い張るシホにオージュスは悔しくなりそうだった。それでもオージュスは優しいエネウィルと離れたくない。
「確かに姉さんの言う事は分かるよ。でも幸せに形はそれぞれあるんだ。僕は仕事で社会的に成功して結婚して子供がいても不幸だった人をたくさん見てきたんだ。僕らは不幸な人間になりたくないだけだ」
オージュスは強い口調でシホに自分達は不幸な人間になりたくないだけだと、反論した。
オージュスの反論にシホは眉間にしわを寄せて、オージュスとエネウィルを見下すような目で見た。
「私はね、富と名誉を手に入れるために富裕層の男と結婚してアミージャを産んだ。他の誰よりも幸せになりたかったけど、夫の浮気で地獄に落とされたわ。地獄から這い上がるために占いの勉強して、人気占い師になったのよ。幸せになるためよ」
「じゃあ、どうしてアミージャを僕に押し付けたんだよ!」
オージュスは身勝手に生きてきたシホに対して、アミージャを捨てるなと叫んだ。
「アミージャをあんたに世話してもらおうとした理由は、アミージャが私と一緒にいたくないからよ。あの子はいつも私に歯向かってばかりで母親の気持ちを知らずに、モー!」
「違う! アミージャは普通のお母さんが欲しかったんだよ! ブランド物を買いあさらずに、成金とパーティー三昧のお母さんじゃなくて、一緒にご飯食べて、ピクニックに連れてってくれるようなお母さんが欲しかったんだよ!」
オージュスはアミージャが何故シホを憎んでいた理由をすべて心の底から吐き出した。
オージュスのアミージャが心の底から母の愛を求めていたと、いう想いにシホはウッと胸を詰まらせた。
「確かにその気持ちは分かるのよ。生きるためにはお金を稼がなければならないの! 愛だけで人は生きることは出来ないのに、あの子ったら!」
「姉さん! もうお金に執着するな! 姉さんがお金に執着するから、大変な事になったんだぞ! 少しは自覚しろ!」
「あー。あんたらは本当にバカだね。愛こそがすべてなんて、夢みたいな事言っているから! 大馬鹿者!」
シホに大馬鹿者扱いされて、オージュスの怒りのマグマが熱くなって、我慢しきれなくなった。
オージュスは弟を下に見る姉を黒い怒りの炎を燃やした瞳で見て、オージュスの口を何か言いたげに動かしていた。
「し、しん、しん、っし、死」
オージュスは、今まで言えなかった憎しみをシホにぶつけようとするが、中々声に出せなかった。
「は?」
オージュスが何か言いたげにモゴモゴ口を動かしている姿にシホは口を歪ませて、どうしたんだよと、言うような顔をしていた。
もうシホの理不尽なやり口に我慢する事が出来ないオージュスは、必死に声を上げようと口を動かすがなぜか声が出ない。
エネウィルとの愛を貫くために、シホに立ち向かおうとしているのに、どうして出来ないんだと、オージュスの目が赤く潤んでいた。
オージュスとシホが諍いを起こしている最中、バタバタと大きな足音が聞こえてきた。
オージュスとエネウィルは、何だと図書館の中を見回すとそこにはアミージャとレイヴェノが何かに焦っているような姿で立っていた。
「アミージャ! 何だよ」
アミージャの姿を見たオージュスは何かに焦ってオージュスの元に駆け付けたアミージャに何が起きたのかと、云った。
アミージャが黒い眼でオージュスに助けを求めるかのような顔をしてこう言った。
「た、大変なことが起きているのよ!」
「大変なことって、どういう事だ?」
「今、東京湾付近であのウイルスに感染したキャラクターが暴れてて。キャラクターが人間達を襲っているの!」
アミージャが早口で今、東京湾付近であのウイルスに感染したキャラクターたちが東京湾付近を襲っていると、オージュスたちに告げた。
オージュスとエネウィルは、「何だって!?」と、びっくりしていた。
アミージャはネットでリアル実況配信を観たそうだ。オージュスもスマートフォンで、ネットのリアル実況配信サイトで情報を確認した。
リアル実況配信では、青い海が広がる東京湾が感染したキャラクターたちによって大炎上していた。
東京湾を襲っているキャラクターは現在四体いる。
そうめんのソーコや、オルキヌス・オルカもその四体のうちにいた。
東京湾に君臨する巨大なソーコは、口からそうめんを吐いて東京湾に浮かぶ船を襲っていた。
ソーコのそうめん攻撃を止めるすべを持たない多くの船は、あっけなく攻撃を受けて爆発した。
東京湾の空を舞うオルキヌス・オルカは、自衛隊の空母隊の戦闘機に向かって、超音波を放って、襲い掛かっている。
オルキヌス・オルカの超音波攻撃を受けた戦闘機は成す術もなく、次々と撃墜した。
スマートフォンのモニター画面を見ていて危機感を感じたオージュスとエネウィルは急ぎ足で研究室の方へ走った。アミージャもオージュスとエネウィルの後を追って走った。
研究室へ駆けつけたオージュスとエネウィルは、コンピューターのモニターで今の状況を調べていた石角教授に向かってこう言った。
「石角教授! ウイルスに感染したキャラクターが東京湾付近で暴れているのですか?」
オージュスの問いに石角教授は、無言で頷いた。オージュスにコンピューターのモニターに指差した。
さっき見たのより、さらにひどくなっていた。
東京湾付近の街がキャラクターたちからの攻撃を受けて、街が炎上していた。東京湾付近のテレビ局も襲われて、テレビ局の建物が崩壊していた。
東京の街がカルチャー・キラー・ヴァイラスによって悪魔化したキャラクターに襲われて、ビル街も繁華街も火の海と化していた。
火の海となった東京でパニックになって東京都民は逃げ出した。
パニックになった東京都民は、一斉になって車にギュウギュウとすし詰め状態になって乗って、渋滞なって動けない状態だ。
車が行列となって動けない状況の道路に巨大なキャラクターが道路に向かって走り出して、幾多の車を破壊した。
パニック状態で悲鳴を上げる東京都民、燃える街、国を守るために戦う自衛隊の戦闘機や軍艦が次々と破壊される様を見て、オージュスは悔しい顔をした。
研究室の皆が苦悶する中、オージュスは何としてでもハワードを見つけて、あのウイルスを解読して消滅させるしかない。
「ウイルスを止める事が出来るハワードを見つけたけど、逃げられてしまったんです。どうすれば良いんですか!?」
オージュスはウイルスを解読できるハワードを見つけたが、隙を突かれて逃げられてしまった事を石角教授に明かした。
石角教授は堂々とした態度でこう言った。
「ハワードという輩を探すしかない。実は最新型AIを搭載した小型飛行機で突き止めるしかないじゃな」
「こ、小型飛行機って」
石角教授から、最新型AIを搭載した小型飛行機で居場所を突き止めようと、告げられてオージュスはそれで居場所を突き止めるのかと、息を呑んだ。
「オージュス。とにかく東京湾に行くぞ。もしかしたら、ハワードもそこにいるかもしれん」
東京湾に行けば、ハワードもそこにいるかもしれない。オージュスはエネウィルの言う通りに東京湾に行く決意をした。
最新型小型飛行機で東京湾に行こうとしたオージュスは研究室の入り口に一人ポツンと立っていたシホを見て、オージュスは
「東京に向かう。姉さんも罪の償いとして一緒に来てもらうよ。あの男を止めるのを手伝ってもらうよ」
と、気まずそうな顔をしているシホに一緒に東京へ同行してもらうとお願いした。
オージュスに東京へ一緒に来て欲しいと、お願いされてシホは、オージュスの目を背けた。
「ええ? 何よ、しつこいわね」
オージュスから目を背けようとするシホに対し、オージュスはシホにグイッと顔を向けさせた。
あんな強気のシホが、弱い子犬みたいに怯えていた。オージュスは甘い態度を取らずに、厳しくシホと向き合った。
「そうだよ。僕は姉さんの事が大嫌いだ。ワガママでお金にだらしなくて、頑固な姉さんが大嫌いだ。でも、今はとりあえず、同行を願います」
もう、怯える事なくシホと向き合うオージュスは、ハワードを止めるためにシホに力を貸して欲しいと頼んだ。
「おじさん」
みんながざわつく中、シホはしばらく黙っていたがオージュスに真剣な表情で頼まれているから、顔を上げた。
「ふ、ふん。一緒に同行しても良いわよ。すべてが終わったら、あんたと殴り合いでもしないと気が済みませんからね。良い!?」
シホからオージュスたちと東京に一緒に同行して良いと、傲慢さも含んだように言われたが、オージュスはうん、うんと頷いた。
「ありがとう。じゃあ、僕も全てが終わったら姉さんと殴り合ってやるよ」
すべてが終わったら、シホに今までの不満を心残すことなくぶつけられると、オージュスはニカッと、笑った。その笑顔にエネウィルも親指でグッドサインを揚げた。
「決まったな。早く行こう」
オージュスたちは研究室を出た。筑波大学構内にある飛行場まで向かった。
東京ドームの八倍もある広い飛行場は、大きな滑走路があった。筑波大学の航空学の学生が国からの援助と、エンジェル投資家からの援助を受けて最新型の飛行機を製作していた。
オージュスたちは、広大な敷地の飛行場にモロッコの教育機関にもそういう援助を受けられたら、良いなと羨んでいた。
広大な格納庫へ入ったオージュスは、中に入って物凄いものを見てびっくりしていた。
キラキラと輝く黄金の機体にスマートでスタイリッシュなフォルム、自衛隊の戦闘機よりは二倍あるサイズの飛行機だった。
この黄金色に輝く、飛行機を見て驚いているオージュスたちを見た石角教授は、ホッホッホと上品に笑っていた。
「筑波大学が作った最新型の小型飛行機か」
「そうじゃ。リードハリスホークという名の最新型小型飛行機じゃ。もし、世界に危機が起きた時にエンジェル投資家たちや政府からの援助を得て開発したんじゃ」
黄金色に輝く小型飛行機、リードハリスホークは世界に危機が起きた時に起動できるようにエンジェル投資家たちと政府からの援助を受けて学生と教授達の手で制作された飛行機だった。
光り輝くリードハリスホークに触れたオージュスは、飛行スピードを最大限まで上げるためにタカの体を基にしたデザインにオオッと声を上げた。
「す、すごい」
オージュスはまさか日本の学生が、最新型の小型飛行機を造り上げれるのに衝撃を受けていた。
「敵を撃つ為の機能はないが、犯罪者を捕らえるのに必要な機能を備えておる」
「実はリードハリスホークは、私が出資したんだ。実は私は優秀な人材が集まる所に出資していたりしていた。航空研究が盛んな筑波大学をもっと栄えて欲しいから、何年も出資していた」
銀野社長が、眩しい笑顔で筑波大学の航空学にリードハリスホークの製作費を出資していた事に、オージュスたちは目を輝かせた。
「す、すごい。社長はパラディンですね!」
「だろ?」
銀野社長が筑波大学の未来ある学生にお金をポンと出せるなんて、こんなパラディンみたいな男は他にはいないなと、オージュスは改めて銀野社長に感謝した。
格納庫にいるパイロットに連れられて、オージュスたちはリードハリスホークの機内に入った。
キラキラと輝く外装に比べて、機内は落ち着いたオフホワイトで目に優しかった。
乗務員を乗せる座席は合計十人乗れる。
パイロットにリードハリスホークのコックピットに案内されたオージュスたちは、ドアを開けてコックピットの中を見た。
精密に造られたコックピットを見たオージュスはあまりの出来の良さに息を呑んだ。
「このリードハリスホークは、超高性能AIが搭載されておる。特定の人物の名前をこのAIに入力させておけば、自動でその人物の居場所を特定する事が出来る」
パイロットがコックピットのモニターにある超高性能AIに特定の人物の名前をモニターに入力させておけば、自動でその人物の居場所を特定する事が出来ると、オージュスたちに説明した。
コックピット内の操縦席にあるタッチディスプレイに入力するだけで、人物の居場所を特定する事が出来ると知って、オージュスはこれでハワードを見つかられるのかと、期待した。
「これであいつを見つける事が出来るのか」
「オージュス、こんな機械でハワード見つけられるの?」
エネウィルとシホにAIでハワードを見つけられるのかと、不安になっているのを見てオージュスは自信をもって
「大丈夫だよ。このシステムは期待できる」
と、信じた。
石角教授と銀野社長を除いてオージュスたちは、東京湾に向かうためリードハリスホークに搭乗した。
乗務員席に座ったオージュスたちはシートベルトを着けて体を固定した。
オージュスは手元にある無線機を手に取った。
「パイロットさん、東京湾までお願いします」
と、無線機を通じて操縦室にいるパイロットに東京湾まで乗せて欲しいと、頼んだ。
「分かりました」
操縦室に搭乗しているパイロットが、オージュスの言う通りにリードハリスホークを起動させた。
リードハリスホークのエンジンが起動し、機内がフワッと上がる感じがした。
リードハリスホークが格納庫から滑走路に向かってゆっくりと走り始めた。
オージュスは格納庫からオージュスたちを見守る石角教授と、銀野社長に顔を向けて
「石角教授。この非常事態を必ず止めてみせます。そして、必ず生きて戻ります!」と、生きて帰って来ると誓いの言葉を表した。
石角教授と銀野社長は、オージュスたちが無事に戻って来るのを信じて、
「ご武運を!」と、オージュスたちの帰りを信じた。
リードハリスホークは飛行するために滑走路を助走して、ヒュンと、物凄い速さで東京湾の方角に向かって空へと飛び立った。
この飛行機は空気抵抗を防ぎながら大空を飛んでいるため、オージュスたちは雲みたいな乗り心地の飛行機に凄いと感心した。
今の日本の航空技術は、世界一と高く評価されているのを、オージュスは感じていた。
オージュスは、手元にある無線機を手に取った。その無線機で操縦室にいるパイロットに
「AIで探したい人間を特定するって、どうやるんだ」と、どうやってAIで特定するのかと聞いてみた。
オージュスの問いかけに操縦席に座っているパイロットが、無線機を通じて
〈私に任せてください。探したい相手を教えてください〉と、コックピットにあるタッチモニターパネルに触れた。
「ハワード・レノを特定して欲しい」
オージュスがパイロットにハワードの居場所を特定して欲しいと、無線機で通話した。
〈了解しました!〉
パイロットが触れたタッチモニターパネルが、誰かを特定して欲しいですか? と、機械音声が聞こえてきた。
パイロットがタッチモニターパネルで、ハワード・レノと入力した。
すると、入力したタッチパネルモニターが、AIでハワードの居場所を僅か〇・〇〇〇一秒で特定した。
ハワードは東京の六本木付近にいる事を特定した。
〈ハワード・レノは東京付近にいるそうです!〉
オージュスは無線機を通じてパイロットからハワードは東京付近にいる事を知った。
「ハワードは東京の六本木にいるのか」
「すごいな。AIがこんなに進歩してるとは」
どこかに逃走したハワードがこんなに早く居場所を特定するとは、オージュスたちはAIの進歩に驚いていた。
ハワードは六本木ヒルズにいると、パイロットから聞かされたオージュスは、何としてでもハワードを捕まえてカルチャー・キラー・ヴァイラスを消してもらわないと、意気込んでいた。
「六本木ヒルズまで飛ばしてください! あのウイルスを消滅させれば、キャラクターも消滅します!」
〈了解!〉
オージュスが無線機を通じて、コックピットにいるパイロットに六本木ヒルズまで飛んで欲しいと、頼んだ。
パイロットもオージュスの頼みを聞いて、リードハリスホークの機体を六本木ヒルズへの方角に向けて飛行しようとする。
その時、ハスマンが搭乗席にある無線機を手に取り、無線機を通じて
「ねえ、ねえ! 山野ミチルさんも探して欲しいピ!」と、つばが飛ぶほどの早口でミチルを探して欲しいと、頼んだ。
ハスマンが勝手にミチルを探して欲しいと、パイロットに無茶なお願いをしてるのを見たエネウィルはムッとした。
「ハスマン、手間を増やさないでくれよ」
と、エネウィルはハスマンに注意した。
しかし、ハスマンは頑としてオージュスたちにこう言った。
「山野ミチルさん、最近どうしているのか心配になってたピ! 彼女にもしもの事があったら、どうするピ?」
ハスマンはずっと会っていない、ミチルを心配していた。ハスマンはミチルにもしもの事があったら、どうするんだとシリアスな声でオージュスたちに訴えた。
最近全然連絡していないミチルが、もしも東京でウイルスに感染したキャラクターに襲われていたら、どうしようとオージュスたちも心配になった。
「そ、そうだな」
あの売れっ子漫画家にもしもの事があったら漫画界にも影響を受ける。ハスマンがこんなにも心配しているなら、オージュスたちはハスマンの頼みを聞く事にした。
オージュスたちがミチルも一緒に探して欲しいという、ハスマンの頼みを聞いてやることにハスマンは目をウルウルさせて、猿みたいな頭をうんうんと頷いていた。
「すみません。山野ミチルさんも特定して欲しいです!」
ハスマンが無線機で、パイロットにミチルも探して欲しいと強く頼んだ。
〈OK〉
無線機を通じてパイロットはハスマンの頼みを嫌味なく応じた。
パイロットはタッチパネルモニターに山野ミチルと入力した。
すると、AIがものすごい速さでミチルの居所を特定した。
どうやらミチルも東京にいるらしい。
オージュスたちが乗るリードハリスホークは、東京湾の方角に向かって、光速のスピードで飛んだ。
あまりのスピードに窓の景色が見えないくらいのスピードだ。
たったの数秒で、リードハリスホークは東京湾まで飛ぶ事が出来た。
東京湾付近は今、実体化したキャラクター数体が東京湾で大暴れしていた。東京湾の港は、港にあるコンテナがキャラクターたちに襲われて破壊されて大火災が起きていた。
「コンテナが燃えている。何とかして止めないと」
オージュスは港にあるコンテナが火の海になっているのを見て、なんて事だと、頭を抱えた。
オージュスは窓から東京湾を覗くと、火の海になっている東京湾にはあのエッサウィラ・シネマを破壊したあいつを目撃した。
「あ、お、オルキヌス・オルカ!」
あの巨大シャチを目撃したオージュスは、思わず怒りの声を上げた。
東京湾で日本を守るために戦う自衛隊の戦闘機を超音波攻撃して容赦なく戦闘機を撃ち落とすオルキヌス・オルカだけでない。
口からブアーッと勢いよく吐くそうめんで東京湾付近にあるテレビ局を爆破させたそうめんのソーコも地獄から君臨した悪魔の如く暴れていた。
「オルキヌス・オルカにそうめんのソーコ、宇宙怪獣コバルトンと超能力聖人ガンディーノが東京湾付近で暴れている!」
それだけでなく、緑色のハトのマスコットキャラみたいな可愛らしいルックスの宇宙怪獣コバルトンが大空を駆け回り、コバルトンのくちばしから緑色のビーム砲を放って、コバルトンに砲撃する軍艦をシャーン!と、爆発させて沈没させた。
大和の神様みたいな風貌の超能力聖人ガンディーノが右手に持っている杖で、稲妻を招来させて東京湾付近に何千発も打ち放し、東京湾付近の建物を破壊した。
「ほ、他にもたくさんの漫画とアニメのキャラクターが東京湾で暴れている。なんて事だ」
「わあ、日本の漫画とアニメのキャラクターが実体化して暴れているなんて、日本の立場が無いよ」
モニター画面に映る東京の街で破壊するキャラクターたちは、可愛らしい顔に似合わず何処か狂気に秘めたような表情だった。
「キャアアアアア! 助けて!」
巨大な未確認生物に襲われて、高層ビルがガラガラと倒壊して、倒壊したビルに押し潰されていた女性が悲鳴を上げて絶命する姿にオージュスは目を覆いたくなった。
「怖いよー! 変な怪獣が僕達をイジメるー!」
「何で漫画のキャラが巨大化しているの?」
「助けて! 僕チンのお金が燃えるうぅうううう!」
モニターから世界最先端の街が、カルチャー・キラー・ヴァイラスに感染した恐ろしいキャラクターによって破壊されて大きな被害を受けている。
一刻の猶予なんてない、オージュスたちは早くハワードを見つけないと気を引き締めた。
その時、パイロットから無線機に連絡が来た。
オージュスは無線機を取り、パイロットと通話をした。
〈山野ミチルさんの居場所を特定しました! 山野さんは東京湾付近にいて、新木場の方に居場所を特定しました!〉
「山野さんの居場所が分かったんですね! 新木場の方ですか?」
パイロットからミチルの居場所をAIで特定したと聞いたオージュスは、ミチルが新木場の方にいると知った。
オージュスがミチルが新木場にいると聞いたハスマンは、目の色を変えてオージュスに向かって
「ねえ、新木場駅まで飛んで欲しいピ!」
と、パイロットに新木場まで飛んで欲しいと言って来いと叫んだ。
ハスマンから目の色を変えて、ミチルの所へ行けとお願いされてオージュスは困惑する。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。新木場駅は避難しようとする人でいっぱいですよ」
「とにかく行くピ! 山野ミチルさんを助けたいピ!」
ハスマンにどうしてもミチルを助けて欲しいと、頼まれてオージュスはしょうがないなと、パイロットに無線機を通じて新木場の方に飛んで欲しいと伝えた。
光速のスピードで、あっという間に新木場駅の上空に着いたオージュスは、新木場駅には大勢の人ですし詰め状態になっていた。
東京の交通機関がキャラクターが大暴れして停止状態のため、電車も運転できない状態だ。
オージュスたちはミチルを探すためリードハリスホークを地上へ降下させた。新木場駅に降りたオージュスたちは、何万人もの人間が東京から脱出するために新木場駅から電車に乗ろうとするが、駅側から電車を運転してくれない様だ。
新木場にいる人達が電車を動かしてくれない駅の職員に激怒して抗議していた。
東京から脱出しようとする一部の人間が、電車が動かなくて駅に詰め寄る人達をなだめる駅員に向かって殴って来る輩もいた。
「鉄道会社はこういう時こそ何とかしなさいよ!」
電車に乗れなくて、泣き叫ぶ人の姿を見たアミージャは、緊急事態にグダグダしている鉄道会社を辛く嘆いた。
「ああ、鉄道会社がダメなのは相変わらずだな」
エネウィルもマニュアル主義の鉄道会社に辟易していた。
「それどころじゃないよ。とにかく山野ミチルさんを探そう」
オージュスは鉄道会社のやるせなさに嘆くエネウィルとアミージャに、ミチルを探そうと、強く言った。
オージュスに早くミチルを探そうと言われて、エネウィルもアミージャもミチルを探すため、大きな声を出して探していた。
混雑している新木場駅の周辺をオージュスたちはミチルを探していた。
「山野さん! 山野ミチルさん! どこにいますか!?」
何万人もの人々で混雑している中で、人にぶつけられそうになってもオージュスたちは探し続けていた。
ミチルを探すオージュスは集団の中を草腹の草をかき分ける様に通っていたが、突然、バタバタと人様の事を考えずに突っ走る男にガンと体をぶつけられたオージュスは、その男と目が合った。
「痛いな。ぶつけないでよ」
キツネ目で口元が締まっていないジャージ姿の男に睨まれたオージュスは恐縮して
「申し訳ございません」
と、謝った後再びミチルを探した。
ギュウギュウの満員電車みたいに人が集まっている新木場駅周辺を駆け回るオージュスたちは、中々ミチルを見つけられずに疲労感が増していく。
疲労感が増して、焦りが増してくる中ふと、十メートル先に黒髪ロングの白シャツでタイトスカートをはいたアラフォーの女性がフラフラと力なく歩いている所を見たオージュスは、「あれ何処かで見たような」と呟いた。
オージュスはその黒髪ロングの白シャツのアラフォー女性の方に向かって駆けて行った。
あの黒髪ロングの白シャツの女性は間違いなく、ミチルだと、オージュスは確信した。
疲れた顔で電車に乗れず、どこへ逃げれば良いのか分からず、フラフラと幽霊の様にさまようミチルの姿を発見したオージュスは、
「山野さん! 山野さん!」
と、大きく手を振りながらミチルの名を叫んだ。
オージュスは、ミチルの名を大声で呼んだ時、フラフラと力なくさまよっていたミチルがハッと目を見開いてオージュスの方を見た。
ミチルがオージュスの方に向かって歩いている姿を見て、オージュスたちはミチルの方へ駆け寄った。
「あ、あなた達! どうしてここに?」
東京のウイルス騒動で疲れていたミチルが、オージュスたちと再会した。オージュスたちは泣きそうな顔をしているミチルが無事でホッとしていた。
「ミチルさん! 良かったピ! 無事で!」
ハスマンがミチルが無事で良かったと、泣きそうな顔をしていたミチルの手を取った。
しかし、ミチルはハスマンが手を差し伸べているのに恥ずかしくて、手を取らなかった。
ハスマンはつれないミチルにちょっとシュンとしてしまう。
「オージュスさんたち、どうやって私のいる所が分かったのですか?」
ミチルにどうしてミチルのいる所が分かったのかと、聞かれてオージュスは不思議そうに見るミチルに柔和な顔でこう答えた。
「AIで居場所特定したんです。良かった。ケガとかないですか?」
「ま、まさかAIで場所を特定したのですか。そ、それはすごいわ」
まさかAIでミチルの居場所を特定できたことにミチルは、AIの機能がそこまで進化したのかと目をパチクリさせた。
「俺達と一緒にハワードを止めに行きましょう。ハワードというロシア人のプログラマーがあのウイルスを作って、オルキヌス・オルカを暴れさせたんです」
「そ、そんな。なら私も一緒に止めに行くわ」
ミチルがエネウィルの問いかけにミチルはうんうんと頷いた。
ミチルと共にオージュスたちはハワードを止めるために、六本木まで向かう事にしたその時、キュイィイイイイイイン!と、耳が裂ける様な音にオージュスたちは耳を塞いだ。
「な、何だ?」
耳が裂けるような音が苦しくて、両耳を塞いでいたオージュスたちは、後ろを振り返る。
新木場駅の上空には、あのウイルスに感染したそうめんのソーコと、宇宙怪獣コバルトンと、超能力聖人ガンディーノにそして、オルキヌス・オルカがこっちを睨んで降臨した。
巨大なキャラクターに恐怖で震えあがる人々は、パニックになって逃げようとするが、電車が運転できなくてどこに逃げれば良いのか混乱していた。
コバルトンがギロッと睨みつけて、新木場駅にいる人々に向かって勢いよく飛び掛かってきた。
「キャアアアァ! こっちまでやって来た!」
コバルトンに飛び掛かられて、体を宙に吹っ飛ばされてしまう人々は泣き叫んでいた。
コバルトンから逃げようとするオージュスたちに、更にソーコが立ち塞がられてしまう。
ソーコはトンボみたいな大きな瞳から涙がボロボロと溢し、地面に大きな水たまりができるほどだ。
〈アアアアアア! 私はクリエイターの奴隷になるなんて嫌だー!〉
ソーコが泣きながら、口から無数のソーメンを勢いよく吐き出してきた。
オージュスはソーコが放つ無数のソーメンから逃れようと一生懸命走る。
しかし、またオルキヌス・オルカがオージュスの前に現れて、オージュスたちに向かって強い超音波を放ってきた。
オルキヌス・オルカの超音波攻撃を防ぐためにオージュスたちは耳を塞ぐ。
オージュスたちに超音波攻撃をするオルキヌス・オルカは小さな眼からポロッと涙がこぼれていた。
〈グォォオオ! 僕の話を聞けー!〉
「な、何? オルキヌス・オルカが喋った?」甲高い声がどこから聞こえてきて、ミチルはオルキヌス・オルカが言葉を発する事が出来るのかと、目をパチクリしていた。
オルキヌス・オルカは超音波を出しながら、涙を流しながら、
〈僕は毎日ミチルのバーキン買うお金を稼ぐための奴隷じゃない!〉
と、自分はミチルのバーキンを買うお金を稼ぐ為の奴隷じゃないと叫んだ。
「え? 私は金儲けの事しか考えていないって、どういう事よ!」
オルキヌス・オルカはミチルに対する怒りの声を上げ続けた。
〈キャラクターにだって権利があるもん! それなのにあいつらは! 僕をボロボロにされるまで働かせるなんて嫌だ!〉
キャラクターだって自由になる権利があると、オルキヌス・オルカの主張を聞いたミチルは眉間にしわを寄せた。
ミチルは顔を上げて、オルキヌス・オルカを睨んだ。
ミチルに睨まれたオルキヌス・オルカはミチルに向かって強烈な超音波を放ってきた。
「ああ、ああ、うああああああ!」
オルキヌス・オルカに強烈な超音波にオージュスたちは頭が割れるほど苦しむ。
超音波攻撃をするオルキヌス・オルカの瞳にはミチルに対する憤怒と恨み、愛憎が入り混じっていた。
〈山野ミチルなんか、お金が大好きな自己中だよ! もう、僕は我慢できないんだよ!〉
「ふ、ふざけないでよ! 私は生活のために売れるキャラ作らないといけないのよ! 私の生活を考えもしないくせに偉そうな事言うな!」
〈だからって、僕にだって見返りくらいくれれば良かったのに、それが出来ないなんて酷いよ!〉
ミチルから何の見返りもなかった事に、憤りを隠せないオルキヌス・オルカは更に超音波攻撃してきた。
「キャアアア!」
超音波攻撃に顔をグニャァと歪ませるミチルは、オルキヌス・オルカを何とかして欲しいと泣き叫んだ。
「もうどうすれば良いのよ!? 私は悪くないのよ! 私の言う事聞かないキャラクターが悪いのよ!」
自分の言う事を聞かないオルキヌス・オルカに怒りをぶつけるミチルにオージュスは超音波攻撃に耐えながら、
「山野さん。今は僕達について来て欲しい。あなたの作ったキャラクターに罪はない。この騒動を止めないと」
と、苦しそうな声で一緒に行こうと言った。
ミチルを連れて、ハワードの元へ行く事にしたオージュスに対し、シホはあきれ顔だった。
「オージュス。あんたは優しいねー。こんな女を助けるなんて」
「生きる権利はみんなにあるんだ」
オージュスはミチルを見下すシホに生きる権利はミチルだってあると諭した。
「この女、お金になるなら助けてやっても良いけどね。まあ良いわ」
「お母さんは本当に損得勘定で生きてるって最低だわ」
またお金の話をするシホにアミージャは冷ややかな顔をしていた。
「そうですよ。今はお金じゃないですよ。命の方が大事ですから」
エネウィルがシホに今はお金より命を大切にしようという優しい注意にオージュスは、やっぱりエネウィルは優しいなと微笑む。
オージュスたちはミチルを連れて、リードハリスホークがある所まで走った。
リードハリスホークのドアを開けたオージュスは沈んだ顔をしているミチルの手を取り、
「さあ、乗ろう」
と、リードハリスホークに搭乗させた。
リードハリスホークに搭乗したオージュスたちは、再び空に上がった。
空にはマスコミ会社のドローンが空撮の為にヒュンヒュンと飛び回っていた。
リードハリスホークはドローンを避けながら、空を飛ぶ。
空にはオルキヌス・オルカやそうめんのソーコや宇宙怪獣コバルトン、超能力聖人ガンディーノが何十機の自衛隊の戦闘機と戦い合っていた。
自衛隊の戦闘機が放つミサイルが、宇宙怪獣コバルトンに向かって飛んできた。
コバルトンは、大きな羽をバサバサと動かしてミサイルをボヒューンと、弾かせた。
コバルトンに弾かれたミサイルが、自衛隊の戦闘機に当たって、ボンと爆発して墜落した。
コバルトンが大きな目から涙を流しながら、
〈僕達を自由にさせてよー!〉
と、甲高い声で自由にさせてと訴えてくる。
コバルトンの訴えにオージュスは、キャラクターが何故人類に襲い掛かってくる訳が悲しみと怒り、権利を求めているのが分かった。
コバルトンは大きな体を震わせながら、
〈僕達は毎日働かされて、体がボロボロなんだ。少しは休ませて欲しいのに。金儲け主義の奴らは贅沢な生活のために僕らを働かせるの。もう疲れたんだ〉
と、金儲け主義のクリエイターに労働酷使され、疲れていたと叫んでいた。
「彼らは辛かったんだ。何とかしてハワードを見つけなければ」
「金儲け主義者の犠牲者だったのか、彼らは」
「わ、私は生活のために売れるキャラクターを作らなければいけなかったのよ! 勘違いしないでよ」
キャラクターたちが労働酷使されて、自由を求めるために戦っているとの訴えにミチルは心に罪悪感を覚えたが、生活の為だと否定する。
しかし、ミチルの服装は高そうなブランド服だった。ハスマンはミチルの高そうなブランド服を見て、んん? と疑問に感じた。
ハスマンから疑うような顔で、ジロジロとブランド服を見られてミチルは、ハスマンに疑われたくないと首を横に振った。
「う、そ、それは。みんなに夢を与えるためだからね! 漫画家は儲かる仕事だってアピールしたいだけだから!」
「そうっピか? でもあなたは幸せそうじゃないね」
「今はこんな状況だから、幸せじゃないの!」
ミチルとハスマンが搭乗席で言い合っているうちに、窓の向こうには大空で四体のキャラクターと何十機の自衛隊の戦闘機がぶつかり合っていた。
【我が国の栄光と平和のために命を頂戴するぞ!】
男らしく精悍な顔立ちした自衛隊の日本人パイロットが、大空を爆翔するオルキヌス・オルカにミサイルを撃ち込んだ。
それに続き、他の戦闘機もミサイルを発射してきた。
〈撃たないで! 僕達はただ、自由が欲しいだけだー!〉
オルキヌス・オルカがミサイルを発射してきた戦闘機に撃たないでと、訴えた。
オルキヌス・オルカが強力な超音波を放ち、こっちに向かってくるミサイルの進路を止めた。
進路を止められたミサイルは、ヒョロヒョロと無力化され何十発ものミサイルが海に落ちた。
オージュスたちは戦闘技術が進歩した日本の自衛隊でも勝てないのかと、焦燥感でいっぱいだ。
オージュスたちはハワードを捕まえるためにリードハリスホークを六本木ヒルズまで飛ばした。
一方、そのころハワードは見晴らしのいい六本木ヒルズ内にある高級レストランで、贅沢な時間を過ごしていた。
停電して薄暗いフロアで格調高いテーブルと椅子でくつろぐハワードは、肉汁あふれるビーフステーキをむしゃむしゃと贅沢に食べていた。
「あー。フランスのワインは美味しいデスナ! 松坂牛のビーフステーキも肉汁があふれてトロトロデスナ!」
東京都が大きな騒動に巻き込まれている中、ハワードはそんな事お構いなしだった。
ガツガツと豚の様にステーキを頬張るハワードを見て、近くにいるレストランの従業員が大丈夫かなというような顔をしていた。
「あのー。今、東京都にキャラクターたちが暴れて、みんな避難しているんですよ。私らも非難しないと」
従業員が心配そうな顔して、ムシャムシャと、ステーキを食べるハワードに早く非難しないと呼びかけていたが、ハワードはそれを無視してガツガツ食べていた。
「黙ってクダサイ!」
従業員に食べるのを邪魔されて、ムッとしたハワードはナイフを従業員に向けた。
ハワードにナイフを向けられて、恐怖で体が縮こまる従業員は、目を泳がせながら
「六本木まで来たらどうするんですか? 死んでしまったら元も子もないですよ」
と、早く逃げる様にとハワードに訴えた。
早く非難しろと訴えてくる従業員に頭にきたハワードはナイフを従業員に向かって投げてきた。
「キャア!」
ハワードが投げたナイフは流星を描くように綺麗に地面に突き刺さった。ハワードは従業員が憎たらしくなり、ズボンのポケットからピストルを取り出した。
「これ以上、ボクに逆らったら、もっと撃つヨ! もっとステーキを用意シロ!」
ピストルを持って、ビクビクと体を震わせる従業員に向かってもっとステーキを用意しろと脅してきた。
「ひ、ひぃいいー!」
ハワードにピストルで脅されて、怖くて逃げようとするが、ハワードの闇に飲まれた眼力で従業員は足を動かせなくなった。
六本木ヒルズの高層ビルに潜入したオージュスたちは、階段を昇りレストランの方までやってきた。
レストランの方から何か声が聞こえてきて、オージュスたちはレストランの中に入った。
「そこまでだ! ハワード・レノ!」
レストランの中に入ったオージュスたちは、ピストルで従業員を脅しているハワードを発見した。
オージュスたちは遂にハワードを見つけ出す事が出来た。
オージュスたちに見つけられたハワードは、
「あ、お、お前ら!」
と、オージュスたちに憎しみをぶつけた。
オージュスたちは、怯える従業員を優しく手を取り自由にさせた。
オージュスはあのウイルスを生み出した張本人のハワードと対峙した。
「とうとう見つけたぞ。あのウイルスの消滅させる事が出来るのはお前しかいない。さっさとウイルスを消滅させろ!」
オージュスは、ふてぶてしい態度を取るハワードにさっさとウイルスを消滅させろと、叫ぶ。
「ヤダ! お前らみたいなウマシカさんに従えまセン!」
ハワードは東京の街が破壊されているのに、頑としてオージュスたちの頼みを受け入れない。
こっちの頼みを聞いてくれないハワードをなんて奴だと、オージュスは歯ぎしりした。
腹立たしい気持ちのオージュスを見て、シホはハワードの前に立ち、
「ハワード。どうして私を騙したのよ? ロシアを再興させたいがために、私を騙したっていうの? 酷いじゃない!」
と、切ない顔をなぜ自分を騙したのかと、訴えた。
お金が大好きなシホを言葉巧みに操って、あの占いアプリにウイルスを媒介させたハワードは切ない顔で訴えるシホの気持ちなんか知る由もない。
「フン! シホさん、人間にはね何個も顔があるんデスヨ! それを見抜けなかったバカが悪いんデスカラ!」
「ふ、ふざけないでよ!」
ハワードが開き直って、シホの方が悪いと言い張った。ハワードが悪いのに一切反省しない姿を見たシホは、悔しさと怒りでいっぱいだ。
「世界が滅んでも良いのか!? 教えろ!」
「バーカ!」
ハワードがピストルでオージュスたちに向けてバンと銃弾を飛ばしてきた。
「うわぁあああ!」
ハワードの銃弾を何発も必死に避けるオージュスたちは、薄ら笑いを浮かべながら非情に銃弾を放つハワードに怒りがこもった。
「お前らみたいなおから以下のクズ共なんかに頭下げませんヨ!」
オージュスたちをおから以下とバカにするハワードがオージュスを狙いを定めて銃弾を放つ。
「う、うあ!」
銃弾がオージュスに向かって放たれて、オージュスはあまりにも速い銃弾から逃げそびれてしまう。
「オージュス!」
愛するオージュスが銃弾に倒れさせるわけにはいかないと、エネウィルはオージュスを助けようとするが、ドン! と物凄い重い衝撃を受けてエネウィルの体が吹っ飛んでしまった。
「キャァアアァアアアアアアアー……!」
その時、女の恐ろしい叫び声がレストラン中に響き渡っていた。
「え、ええ、ええ……」
オージュスの目の前には、大量の血しぶきとみんなの悲鳴が聞こえてきてオージュスはあの憎き相手が血を流して倒れているのを目撃した。
最終章「永遠に愛している」
オージュスの目には、ハワードの銃弾を受けて胸から血を流して倒れているシホの姿があった。
まさか、まさか、あの憎き姉が命を顧みずに自分を助けようとするなんて、オージュスの目があまりのショックで血走った。
ハワードの銃弾を受けて胸に大量の出血をしているシホは、苦しそうな顔をしていた。
「う、うう」
地面に倒れているシホは、痛みと出血で呻き声を上げていた。
「お、お母さん!」
母が大けがをして、アミージャの声に焦りが出ていた。
「くうう、ううう、ああああ、う」
「ね、姉さん!」
シホの命の危機にオージュスも動揺してシホに駆け寄る。
シホが瀕死の重傷を負わせたのに、ハワードの顔はニヤニヤと傲慢に笑っていた。
「フン。ホントにウマシカさんですね!」
死んでくれてせいせいした、ハワードのいのちを軽んじている言葉に怒りがマグマの様に吹き上がり、オージュスの堪忍袋の緒がプチっと切れた。
「この人でなしが!」
オージュスは、ハワードに短いながら憎しみを込めた言葉を吐き捨てた。
胸から大量に出血していて、シホの顔色が血の気を失っていた。
オージュスはまだシホを死なせるわけにはいかないと、シホの胸にハンカチで止血しようとする。
「姉さん! まだ死ぬな! 僕は姉さんに言いたい事がある! だから死ぬな!」
オージュスがハンカチで止血しながら、シホにまだ死ぬなと泣きながら叫ぶ。
シホを助けようとするオージュスのハンカチで押さえた手をシホは力なく振り払おうとするが、もうシホの黒い眼に光が無かった。
「うう、ああ、な、何で、私は、だま、され、なきゃ、いけないの? わ、わたしは、セレブに、返り咲き、た、かった、の」
顔に血の毛をほとんど失くしたシホは、力ない声で自分はただセレブに返り咲きたかったと、呟いた。
「お母さん、もう、セレブにならなくても、いいのよ。もういいの」
「お母様、まだ死んではいけません。あなたは生きていかなければいけない……死なないで、うう」
アミージャの大きな瞳から涙が流れ、その涙がシホの丸々とした顔に落ちていく。レイヴェノも恋人の母にまだ死んではダメと涙ながら訴えるが、シホの息遣いがどんどん弱くなっていく。
オージュスたちがシホを助けようと、シホの胸をハンカチで止血していたが、血が止まらなかった。
意識が朦朧としてきたシホは、シホを何とかして助けようと手当てをするレイヴェノの頬に手を震わせて触れようとする。
シホが何か訴えたいことがあるのかと、レイヴェノはサッとその手を握った。
もうすでにシホの手は氷の様に冷たかった。
「アミージャ、を、た、頼む、わよ」
シホは最後の力を振り絞って、レイヴェノにアミージャを頼むと、か細い声を出して、ガクッとシホの手がレイヴェノの手から力なく地面に落ちた。
アアッとアミージャが憎き母親のあっけない最期に滂沱の涙を流した。
「姉さん!」
「オージュス!」
「姉さん! 姉さん! 僕はまだ姉さんに行ってない事があるんだよ!」
シホが死んでしまって、オージュスは何かが爆発したかのようにブワッと涙が溢れて、シホの冷たい遺体に抱きしめた。
亡くなったシホの顔はふっくらと丸く、穏やかな死に顔だった。
泣き崩れるオージュスはシホが自分とアミージャやエネウィルにあんな酷い事してきたのに、なぜ死に顔は穏やかなものだったのかと、憎さと悲しさでいっぱいだった。
「どうして。世界で一番大嫌いな奴が死んだのに、こんなに涙が出るなんて……」
シホの亡骸を抱きしめるオージュスは、あんなに憎いのに何故か涙が止まらなかった。
「オージュス」
異母姉の死に泣き崩れるオージュスをエネウィルは声を掛けたくても、これ以上何も言えなかった。
「お母さん、どうしてよ。せめて私の事を愛してるって言ってよ。どうしてよ」
グジュグジュと涙をこぼすアミージャも本当は、本当は母のシホを愛していた。母のあっけない最期を看取ることしか出来ず、レイヴェノも悲しむアミージャに寄り添う。
「うぐ、う……僕はあんたに認めてもらえるように勉強して、仕事頑張ってきたのに。最後まで僕を認めてくれなかった……」
シホの亡骸を抱いて泣き崩れるオージュスは、冷たくなったシホに自分のことを肯定して欲しかったと吐露する。
シホに自分を認めて欲しかったオージュスの願いがもう叶わないことにオージュスの悲しみにエネウィルも悲しげな顔をしていた。
「僕は本当は姉さんに僕とエネウィルとの愛を分かって欲しかったんだ……愛に決まり事なんてないって分かって欲しかったんだ」
どんな愛も清らかである事を知って欲しかったと、たとえ宗教上でタブーにされてもオージュスはエネウィルとの愛を貫いていたと、心の底から訴えた。
本当はシホと分かり合いたかったのに、卑怯なハワードの銃弾によってあっけなく命を散らしたシホの目から一筋の涙の跡が残っていた。
オージュスがシホの死に嘆き悲しむ中、用済みのシホを射殺しても何の感情も湧かないハワードは、ハッと鼻で笑っていた。
「なあにめそめそシテ? まったく情に篤いバカは損しますネ!」
残酷に笑うハワードにバカ呼ばわりされて、オージュスの怒りが頂点に達した。
はらわたが煮えくり返ったオージュスは、人の心を持っていないハワードをきつく睨んで
「ハワード。この生ゴミ以下!」と、生ゴミ以下と激しく怒鳴った。
怒り心頭のオージュスに生ゴミ以下と抗議されたにもかかわらず、ハワードはハハハと、ふざけた笑いをしてさらにオージュスの怒りを更に増長させた。
「フン! ボクの邪魔をする奴らは消えてしまえば良いんデスヨ!」
邪魔者は殺すと、ハワードはオージュスたちにバン、バンと銃弾を何発も発砲した。
「うわ!」
「貴様――!」
ハワードに何発も銃弾を放たれて、オージュスたちは怖くて銃弾を必死に避けていた。
オージュスたちが銃弾を避けているうちにハワードは、スカイシューズのボタンを押し、自分の体を浮遊させてレストランからヒューッと空飛んで抜け出した。
「待て! 逃げるなー!」
ハワードが空飛んでレストランから抜け出して、オージュスたちはハワードを追って走った。
オージュスたちが追っていたハワードがスカイシューズの力で非常階段の方へ飛び逃げて行った。
「非常階段の方へ逃げたぞ!」
「待てー!」
オージュスたちは非常階段を昇らずに悠々と空飛んでいるハワードを捕まえようとしたが、スカイシューズの機能が良いのか、スピードが速くて捕まえられない。
「何で、デブのくせに空飛べるんだよ」
レイヴェノが苦々しい顔で、ハワードに憎まれ口を叩いた。
早くハワードを捕まえないと、キャラクターを止められない。オージュスたちは一致団結して、
「あの靴を狙うんだ!」
と、オージュスがハワードのスカイシューズを奪えと叫んだ。
ハワードの履くスカイシューズを狙うオージュスたちと逃げるハワードの戦いが始まった。
空をヒュンヒュンと、飛んで逃げるハワードのスカイシューズに手を伸ばそうとするオージュスとエネウィルは、力ずくでもハワードを捕らえようとする。
どんどん最上階まで昇ろうとするハワードは、諦めずにハワードを追うオージュスたちが腹立たしかった。
遂に最上階の方まで、自分達の足で昇って行ったオージュスたちは、最上階まで飛んで非常階段のドアを開けようとするハワードに一斉に飛び掛かった。
「うおおおお!」
一番身体能力の高いエネウィルが、ビュンと空高くハワードに向かってジャンプして、ハワードの履いているスカイシューズに手をかけた。
「あ! 僕の特製のスカイシューズに触るナ!」
エネウィルに大根みたいな太い脚を掴まれて、ハワードは短い手足をジタバタと動かしてエネウィルを空から落とそうとする。
「お前を捕まえてやるー!」
エネウィルが自慢の腕っぷしで、ハワードの脚をガシッと捕らえ、ハワードが履いているスカイシューズを脱がそうとする。
「ウガッ! 貴様ぁあああああ!」
「この野郎!」
エネウィルとハワードがスカイシューズを巡って宙で取っ組み合いになった。
ハワードに脚でガシガシ蹴られて、エネウィルの顔に痣が出来ている。それでもエネウィルはハワードの体を雁字搦めにして動きを封じようとした。
「ううう! あああああああー!」
エネウィルに体を雁字搦めにされて、あまりの痛さに叫ぶハワードの右足のスカイシューズが脱げかかっていた。
オージュスはエネウィルが右目をウインクさせて、早く靴を脱がせという合図にと、オージュスたちがハワードの右足のスカイシューズをグイッと脱がした。
すると、宙に浮遊していたハワードの体がだんだん下に落ちて、その隙にエネウィルがハワードの左足の靴を素早い手つきで脱がした。
両足のスカイシューズをあっという間に脱がされて、ドスンと宙から地面に真っ逆さまに落ちてしまったハワードは、このまま終わるかと傷めた足をグイッと動かし、逃げ出した。
「あ、逃げるな!」
ハワードが屋上に出れるドアを開けて逃げようとしているのを見たオージュスたちは、ハワードを逃がさないように追いかけた。
傷めた足を何とか動かしながら、屋上に通じるドアを開けて、屋上に出たハワードは超高層の六本木ヒルズの屋上の端っこにオージュスたちに追い詰められた。
オージュスたちは、負けを認めようとしないハワードを睨んだ。
「う、うう、く、クソ!」
オージュスたちに無言で追い詰められて、ハワードは歯ぎしりをしながら、憎しみを吐露した。
エネウィルが燃える様な覇気を放ちながら、ハワードに近づき、ハワードの黒シャツに手を掛けた。
「お前しか出来ないからな。さっさとやれ」
エネウィルがズイッとハワードにあのウイルスを消すためにハワードにウイルスを消すためのプログラミングを頼んだ。
ハワードはエネウィルの頼みを引き受けず、プイッと頬を膨らませて無視した。
ハワードが例のウイルスを消してくれないと、キャラクターたちの暴走は止まらない。
ハワードが引き受けてくれるにはどうしたら良いか、オージュスたちは考えを巡らせるしかない。
その直後に六本木ヒルズの上空にはあの恐ろしい四体の悪魔がオージュスたちの前に現れた。
〈お前ら人間なんか大嫌いだ―! 僕達をこき使う人間なんか大嫌いだ―!〉
〈どうして僕らを奴隷みたいに働かせるの? 自分達が作り出したからって、そんなに偉そうに出来るの?〉
キャラクターたちが泣きながら、東京の街に怒りをぶつけて攻撃するのにオージュスは彼らの人間に対する怒りに心を痛める。
「彼らは金儲け主義者の奴隷にされる事を嫌だからか?」
「おい! これ以上暴れるのはやめろ! いくらクズな人間にこき使われたからって、他の罪もない人達に危害を加えるな!」
オージュスとエネウィルがキャラクターたちが暴れた事によって、物凄い砂嵐を手で鼻と口を覆いながらキャラクターを説得して止めようとする。
キャラクターたちの攻撃によって、六本木ヒルズの周囲が大火で燃え上がっていた。
〈黙ってよー! これ以上私達をいじめるならもっと暴れるから! うわーん!〉
そうめんのソーコが甲高い声で、六本木ヒルズの辺りをそうめんを勢い良くまき散らした。ソーコが放ったそうめんが六本木ヒルズの屋上まで飛ばしてきて、オージュスたちはそうめんを避けようと逃げ回る。
オージュスたちと共に逃げ惑うミチルは、ミチルを射抜くように睨むオルキヌス・オルカと目が合った。
オルキヌス・オルカは、顔がこわばっているミチルを睨んでこう言った。
〈山野ミチル、お前はバーキンのバッグが欲しいからって、僕を働かせまくって銭を儲けてばかりで大嫌いだったよ。僕を自由にさせないなら、あなたを殺すから!〉
「オルキヌス・オルカ! どうして私の言う事聞かないのよ! あなたを生み出したのは私、山野ミチルよ! 大人しくしなさいよ!」
〈黙れ! キャラクターだって尊厳はあるんだよ!〉
オルキヌス・オルカの生みの親のミチルの頼みを一切聞く事なくオルキヌス・オルカは、怒りのままにミチルに襲い掛かってきた。
「ひいい!」
「ミチルさん!」
オルキヌス・オルカがミチルに向かって突進してきて、あぶないと感じたハスマンがミチルを助けようと、素早くミチルの手を掴んでオルキヌス・オルカから引き離した。
オルキヌス・オルカに殺される勢いで突進されて、九死に一生を得たミチルは顔が真っ白になっていた。
オージュスはミチルがキャラクターの事を始めは愛があったと感じていたが、だんだん金儲けに走ってしまった事には悲しく感じていた。
「作家は初めは純粋にキャラクターを作っていたよ。でも、様々なしがらみのせいで自分らしいキャラクターを作れなくなって苦しむ。
お金にならなければ作家は生活が出来ない。
お金のために反社と絡んで、逮捕された作家もいる」
オージュスが長い睫毛を伏せながら、作家業の辛さを語り始めた。オージュスの作家業の辛さを語るのを黙って聞くミチルも何かを思い出すかのように顔を伏せる。
「オージュスさん」
「自分が心から愛せるキャラクターを作れるってすごく難しい。心から人を愛する事が出来ない様な人間に良いキャラクターなんか作れないよ。だから初心に戻るんだよ」
「初心に戻るか」
「金儲けなんて、後にすればいいんだから、純粋な気持ちでキャラクターを作れば良いんだよ」
オージュスが初心に戻って純粋な気持ちでキャラクターを作れば良いと、優しく語られて、キャラクターたちの動きがオージュスの気持ちに触れたのか、一瞬止まった。
キャラクターたちが優しく純粋なオージュスの言葉に攻撃が一瞬止まったのを見たハワードは、自分の思い通りにならずにムシャクシャしていた。
「クソー! このままじゃ、ボクたちのロシアの再興が出来なくなってシマウ! チクショー!」
「バカ野郎!」
腸が煮えくり返るほど怒ったエネウィルはまだにロシアの復活に固執するハワードのブクブク肥えた顔をバキーン! と渾身の力を込めて殴った。
エネウィルに顔が変形するほど強く殴られたハワードは地面に強くはじかれるほど、体が吹っ飛んだ。
「グ、グゥ、何をスル!?」
エネウィルに顔を殴られて顔が醜く腫れているハワードを追い詰めたオージュスたちは、これまでの恨みを晴らすかのように睨みつけた。
オージュスたちに睨まれて、あんなに強気だったハワードの表情が弱々しい子ブタみたいなっても、オージュスたちは決して許そうとしない。
エネウィルが子ブタみたいに怯えるハワードの胸ぐらを掴んだ。
「このウイルス騒動を止められるのはハワードしかいないんだよ! ウイルスを消滅させろ!」
「た、助ケテ! ボクをイジメナイデ!」
エネウィルにカルチャー・キラー・ヴァイラスを消滅させろと詰められるハワードは、泣きそうな顔をして逃げ道を作ろうとしていた。
ハワードの泣き顔にも決して動じないエネウィルに対して、このままじゃウイルスを消滅する事が出来ないと思ったオージュスは何か閃いたな表情を浮かべた。
オージュスはハワードの胸ぐらを掴むエネウィルに、こう言った。
「エネウィル。ここは僕に任せて」
と、オージュスは優しい笑みを浮かべてハワードを下ろすようにと諭した。オージュスにハワードに乱暴な事をするなと、手を掛けられたエネウィルは、どういう事だと疑問めいた顔をしていた。
オージュスはエネウィルの耳元に何か囁いて、オージュスの囁きを聞いて顔が照れて、うんと頷いて、ハワードの胸ぐらを放した。
エネウィルから解放されて、目を点にしているハワードにオージュスは微笑みながら近づいた。
「な、何デスカ? ボクに微笑むナンテ」
オージュスは微笑みながら、一体なんだというような顔をしているハワードの目を見てこう言った。
「ハワードさん。あなたはとても優秀なプログラマーですね。中々強力なコンピューターウイルスを作り出せるなんて素晴らしいですよ。うちの国にはない技術のお持ちで褒め称えたいくらいですよ」
「何デスト?」
「モロッコはハワードさんを必要としているんです。あなたを国際裁判所で死刑にさせるわけにはいきませんから」
「ぼ、ボクを助けたいってコト?」
「そうです」
オージュスは笑顔でハワードの事を優秀なプログラマーだと褒めた。モロッコにはない素晴らしい技術だと褒められたハワードは、眉を寄せて疑う様な顔をしていた。
「オージュス、お前何を言っている?」
オージュスがロシアのスパイのハワードのプログラミング技術を褒め称えているのをアミージャやハスマン、レイヴェノやミチルもエエッと驚いていた。
オージュスがあんな独裁国を褒め称える事はあり得ないと、焦ったエネウィルはオージュスの肩を叩いてそんな事を言うなと怒った。
怒るエネウィルに対して、オージュスは黙っててと、エネウィルの口に指で止めた。
オージュスは更に話を続けた。
「もし、この騒動が終わったら、あなたをモロッコの大手IT企業に雇ってもらえるように話付けておきますよ。報酬はあなたの望む金額で、良いでしょう?」
オージュスは映画製作で培った交渉術を巧みにハワードをモロッコに亡命させて、大手IT企業のプログラマーになれば、ロシアにいた頃よりも裕福な生活を送れると言った。
ロシアにいた頃よりも裕福な生活を送れると、オージュスの言葉にハワードは目をドルになっていたが、すぐに首を横に振った。
「な、何を言っているのデスカ? ボクをモロッコに亡命しろト?」
まだロシアを捨てきれないハワードにオージュスはハワードの目に迷いがあるのが見えていた。
ハワードにカルチャー・キラー・ヴァイラスを解読してもらわないといけないし、ハワードの心を掴ませるためにオージュスはもっとハワードと交渉する。
「大丈夫ですよ。モロッコは今、優秀な人を求めています。社会主義に固執するくらいならもっといい場所で暮らせば良いんですよ」
「う、う、う、く、もっといい場所か」
ハワードが瞼をピクピクさせて、もっといい場所で暮らしたいという感情が表れていると、オージュスはニヤッと笑った。
「ハハッハ!そうだ。社会主義以上の幸せな生活を送れるぞ!」
オージュスはハワードに社会主義以上の莫大な富と幸せな生活を送れると、笑いながら言った。
すると、ハワードがブクブクと太った体を震わせて、オージュスの顔を見上げた。
オージュスは、ハワードが目を輝かせて見つめられている姿に思わずよっしゃ! と拳を握った。
「ふ、フ。ハハハハハ! アナタ、面白い事言いますネ! その誘い、乗ってやりますヨ!」
ハワードは大声で笑いながら、オージュスに自分を自由の身にさせてくれるなら、プログラミングを解読してやると言った。
オージュスは、パアーッと顔を明るくしてハワードの肩を叩いて
「さあ、ウイルスを消滅させてくれ」
と、カルチャー・キラー・ヴァイラスを消滅させて欲しいとお願いした。
「ふ、良いデスヨ! 一度だけですカラ!」
ハワードは嬉々として、カバンの中からノートパソコンを取り出した。
パソコンを立ち上げて、カルチャー・キラー・ヴァイラスのプログラミングを解読し始めた。
キャラクターたちが六本木ヒルズの上空で大暴れしていて、屋上にいるオージュスたちは
「まだか?」と、プログラミングを解読しているハワードに問いかけた。
「まだデス」
ハワードは顔に汗をかきながらカチャカチャとパソコンを操作していた。
その間に六本木ヒルズの上空で暴れているオルキヌス・オルカたちがオージュスたちに向かって攻撃を仕掛けてきた。
そうめんのソーコが口からそうめんをブシャーと勢いよく吐き出してきた。オルキヌス・オルカもオージュスたちに向かって超音波攻撃を仕掛けてきた。
「お、オルキヌス・オルカ! 少しは大人しくして!」
オルキヌス・オルカの攻撃にミチルは耳を塞いで超音波攻撃から防ごうとしていた。
ハワードは地べたに座って、パソコンのキーボードをカチャカチャとプログラミング解読を続けていた。
「え、う、う、ああ!」
ハワードはウイルスを消滅させるために複雑なプログラミングを解読作業で目を酷使して眼が血走っていた。
ひたすらパソコンでプログラミング作業していたハワードに、ハアッと声を震え上げて何か、あったのかとオージュスはなにがあったのかと、ハワードに声をかける。
ハワードが喜びの表情で、オージュスに顔を向けた。
「こ、これで!」
ハワードがオージュスたちにあのウイルスを消滅するためのプログラミングを完成させたと、パソコンの画面を見せた。
その時、四体の悪魔の体の動きが徐々にゆっくりとなっていった。
〈うう、私たちはただ自由になりたかったの。お願い、少し休ませて〉
動きが徐々に大人しくなっていったキャラクターたちが、ゆっくりとした口調で休ませてと呟いた。
自分達を休ませてほしいという願いに、オージュスはキャラクターたちの方へ歩み寄った。
「そうだったのか。ごめんなさい。僕達が悪かったよ。働かせすぎてごめん」
〈あなたは優しいね。こんな優しい人が沢山いれば、こんなことにならなかったのに。う、ううう……〉
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ハワードがカルチャー・キラー・ヴァイラスを消滅させるプログラミングを行ってくれたお陰で、感染したウイルスが消滅したのだ。
ウイルスが消滅した光り輝くキャラクターの体がだんだん消えかかっている。
「だんだん消えていく」
オルキヌス・オルカの体がだんだん透明になっていくのを見て、ミチルは嫌だ、嫌だと叫んでいた。
自分が作ったオルキヌス・オルカがこの世からいなくなるのが嫌だと嘆くミチルにオルキヌス・オルカは、
〈ごめんなさい。僕は疲れていたの。優しい人がいたおかげで、ゆっくり休める事が出来るよ〉と、優しい声で諭した。
ミチルの黒い瞳から、涙が滝のように流れて、オルキヌス・オルカの元へ駆け寄った。
〈ミチル先生。あまりお金儲けのためにあまり働かせすぎないでよ〉
ほとんど体が消えていったオルキヌス・オルカはミチルにお金に縛られちゃだめだよと、最後のお願いをした。
「オルキヌス・オルカ! どこへ行くの!?
私はただ、ただ――」
〈お兄さん、私たちは新しい世界に行くよ。ありがとう。さようなら〉
大人しくなったキャラクターの体に光が溢れ、パーンと音を立てて消滅した。
「お、おお。キャラクターが消滅した」
「これで、世界が平和になる」
オージュスとエネウィルは抱き合いながら、カルチャー・キラー・ヴァイラスに感染したキャラクターが消滅する姿を見て、歓喜の涙を流した。
「あ、あああ。わ、私の収入源がぁああああああああああああああああ~!」
大事な収入源のキャラクターを失ったミチルはショックで瓦礫になった東京の下で泣き叫んでいた。
「いやぁああああああ~! オルキヌス・オルカがいなくなったら、バーキンのバック買えなくなる~! うがぁあああああああー!」
ミチルが考え抜いたキャラクターに裏切られ、失ってしまい、ミチルは慟哭の涙を流していた。
地面に頭を付けて泣き叫ぶミチルにハスマンはミチルの背中をポンと撫でて、
「もういいじゃないピ。また描けばいいじゃないピ」と、やたらハンサムな声で励ました。「バカな事言わないでよ。あんなに苦労して描いたのよ」
また描けばいいと、ハスマンに言われたのが気に入らないのか、ミチルはワンワン泣きながらハスマンの胸板をバシバシと叩いた。
ハスマンは叩きつけるミチルの手を押さえ、ニカッと、白い歯を見せて笑った。
「大丈夫ピ! 山野さんはまた描けますピ!」
ハスマンからまた描けると、励まされてミチルはハスマンの子どもの様な純粋無垢な瞳をじっと見て、何かに気付いたような顔をした。
ミチルは今まで金儲けのために傲慢になっていたのを反省して、涙を拭いた。
「うう、ううう。ま、また、描けばいいよね」
と、ミチルは自分の過ちを顧みて、諦めないで描くとハスマンに笑顔で言った。
ミチルは晴れた空を見上げて、
「私、頑張って描くわ!」と、再起を誓った。
スマートフォンからニュース速報が入った。
オージュスはスマートフォンを見た。
ニュース速報の動画には、ベトナムの山深い所にある洞窟にアメリカ軍の軍隊と、ベトナム軍の軍隊が次々と洞窟の中に入っていく動画だった。
【ニュース速報です。日本時間午前三時五十分ごろ、過激派組織『エクスラメーションズ』のリーダーであるミルダス・ラスロス・バージーがベトナムの潜伏していた洞窟で発見し、拘束されたという情報が入ってきました】
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スマートフォンで動画を見るオージュスは、三メートルくらいある高身長の魔王みたいな人相の悪い男がミルダスと知って、動画から見ても悪そうな感じがしていた。
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独裁国家だったロシアは、二〇二五年に民衆の暴動と革命によって独裁政権を崩壊させられて、ロシアのオリガルヒの息子でスパイだったミルダスは故郷を失って民主主義に恨みを抱いていた。
亡国の流民となったミルダスは、様々な国を転々とし、民主主義を恨むロシア人を集めて、ロシアを復興させるためにあのコンピューターウイルスを作ったという。
「巨悪もとうとう捕まったか」
【ミルダス容疑者は尋問に淡々とした態度で打ち明けているそうです。彼は愛する故郷のロシアを再興するためにあのウイルスを作ったと、軍に打ち明けています。
漫画やアニメのキャラクターは立場が弱いから、立場の弱さを利用してウイルスを感染させたと、語っています】
「あいつは自分の故郷を愛していたんだろうな。気持ちは分かるけど、傷つけることをしてはいけないよ」
「ミルダスには罪を贖っていかんとな」
エネウィルが、近くにいるハワードも懲らしめようとニヒルに笑った。
「うう、ぼ、ボクもデスカ?」
エネウィルにニヒルに笑われて、ウッと息を詰まらせたハワードの顔が真っ青になった。
ビルの屋上のドアから警察官数人が厳しい顔で現れてきた。
オージュスたちは、警察官数人現れてきたのを見て、待ってました! とワクワクしていた。
警察官が警棒を構えて、真っ青な顔をしているハワードを睨みつけた。
「いたぞ! あの太ったプログラマーを捕まえろ!」
警察官がハワードを逮捕するためにハワードに向かって勢いよく突進してきた。
「ハワード・レノ! お前を共謀罪と大量虐殺罪の罪で逮捕する!」
「ひ、っひい! 助けて!」
運動神経の良い警察官数人に体を取り押さえられて、ハワードは泣き叫んだ。
「動くな! お前は多くの人の命を奪ったんだぞ! 恥を知れ!」
「い、イヤダ! 離してヨ!」
オージュスは警察官に取り押さえられているハワードにフフフと、微笑んだ。
「おい! ハワード・レノ容疑者! 立て!」
「オージュス! お願い! タスケテ!」
手錠を掛けられたハワードは、自由に体を動かせずにか弱い子犬の様に泣きじゃくる。
「い、今まで悪かったデス! あなた達に良い物あげるカラ、助ケテ!」
警察官に署へ連行されそうになり、ウェンウェン泣き叫ぶハワードがオージュスたちに助けを求めていたが、オージュスはフッと鼻で笑った。
「何でお前を助けなきゃいけないんだ!?
さっきの言葉は嘘だよ。お前みたいな犯罪者を助けることは出来ないよ」
オージュスはハワードをモロッコに亡命させてやるというのは、全くの嘘である事を笑って明かした。それを聞いたハワードはエエッと大きく口を開けてショックを受けていた。
「こ、この嘘つき!」
「大人しく警察の言う事を聞くんだな」
ハワードなんか、決して変わることなんてないからオージュスはハワードのお願いをキッパリと突き放した。
「い、嫌デス!」
「動くな! お前がどれだけの罪を背負っているのを分かっているのか!?」
「チクショー! 絶対に許さないカラ! あんたらの事なんか百億年恨んでやるぅううううううううー!」
「おい、さっさと歩け!」
ハワードの両手首を手錠にかけて、厳しい面持ちでハワードをパトカーに乗せる警察官にオージュスは感謝の礼をした。
オージュスに感謝の礼をされた警察官はビシッと敬礼して、パトカーを走らせた。
これで、カルチャー・キラー・ヴァイラス事件は終わった。戦後の日本の焼け野原みたいな東京の大地に立つオージュスとエネウィルは、ふと見つめ合った。
「なあ、エネウィル」
オージュスは、迷いのない眼でエネウィルに向かって
「僕、これからはありのままに生きるよ。永遠にエネウィルを愛してる。ずっと一緒だよ」
と、満面の笑みでエネウィルに愛の告白をした。
オージュスのありのままの愛の告白にエネウィルは、さわやかに微笑んだ。
「オージュス。日本に移住して、二人で暮らそう。俺達は自由だ。俺達の愛を拒む刃はもう無いんだ」
「エネウィル」
エネウィルも日本で暮らそうと愛の言葉にオージュスの目から熱い涙がこぼれた。
オージュスとエネウィルがお互いの愛を伝えあっている姿に、アミージャやハスマンたちが一体二人はどうなるかと、そわそわしている。
アミージャ達に胸をときめかされている中、オージュスとエネウィルは堂々と愛の抱擁を交わした。オージュスとエネウィルは、お互いの唇を重ね合った。
オージュスとエネウィルが結ばれたところをアミージャ達が、おめでとうと祝福の声が上がっていた。
「俺達のハネムーンはこれからずっと永遠だ」
もう、隠す事は無い、オージュスは今までで一番幸せな瞬間を噛み締めていた。
カルチャー・キラー・ヴァイラス事件から三年の時が過ぎた。
あのウイルスの被害を受けた国々は、全人類が協力し合って何とか元通りに復興した。
ロシアを復興させるために、カルチャー・キラー・ヴァイラスという恐ろしいウイルスを作ったとして逮捕された闇の組織エクスラメーションのボスのミルダスとハワード、工作員たちは国際裁判所で共謀罪とジェノサイド罪と破壊行為の罪で死刑判決を受けた。
多くの罪を問われたミルダスは、死刑判決を受けても社会主義は無くならないと、主張を続けた。ハワードも民主主義は必ず滅ぶと主張したまま、ミルダスと共に死刑執行された。
モロッコでは、ウイルスに感染して大暴れして破壊されたエッサウィラ・シネマは、クラウドファンディングなどで寄付を募って今年の春に復旧して営業を再開した。
エッサウィラ・シネマを復活させたが、オージュスとエネウィルはその半年後にエッサウィラ・シネマを退社した。その理由はオージュスとエネウィルが同性愛者カップルなのでモロッコで暮らせないからだ。
オージュスとエネウィルがモロッコを出る時、もうオージュスとエネウィルに会えない別れを惜しむアミージャとレイヴェノとハスマンにオージュスは「また会える日が来るよ」と、三人にダマスクローズのキーホルダーをプレゼントした。
オージュスは三人に会いたい時には、このダマスクローズのキーホルダーに触れて欲しいと、故郷を離れる辛さを堪えつつ、アミージャ達に見送られながらモロッコから発った。
モロッコを出て、日本に移住したオージュスとエネウィルは京都の映画村でプロデューサーとアドバイザーとして働くようになった。
収入は減ったが自由を手に入れているから幸せだ。
古き良き日本の良さが溢れる映画村で今日もオージュスとエネウィルは、たくさんのお客さんの笑顔をフフッと、幸せそうに微笑んでいた。
自分に嘘を付くのはやめよう、素直に生きようと、京都の青い空を見つめながらオージュスは手をつなぎ合って笑い合っていた。
了
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