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下関の美味しい物から生まれた愛

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石黒は下関市に住んでから二年が経った。それまで福岡県に住んでいた彼は、食べ物に関しては自分なりに詳しかったつもりだった。しかしおいしいものがいっぱいあると知り、自分の無知さに気付かされた。



ある日石黒は、自分で調べた下関のおいしいお店を巡ることにした。まず立ち寄ったのは、海鮮料理のお店。エビフライ、イカの塩辛、ステーキサンドなど五種のおつまみを頼んだ。一つ一つが美味しく、特に海老フライの衣がサクサクで、口に含んだ瞬間に濃厚な旨味が広がった。



次に行ったのは、鉄板焼きのお店だった。個室に入って、ステーキと海老を注文。鉄板でパチパチと音を立てながら調理される様子が、食欲をそそってくれた。ふっくらとした肉と、海老のプリプリとした食感。ソースとの相性も良く、絶品だった。



そんな食べ歩きをして、石黒は下関の美味しさに酔いしれていた。しかし、どこか心細さも感じてしまう。下関で美味しいものを食べることができても、自分自身のことを理解してくれる人がいるわけじゃない。石黒は、自分が同性愛者であることを後悔していた。



そんな時、石黒はひとりの男性と出会った。彼は地元で有名なパティシエで、コンテストでも入賞したことがあるという。彼が作るケーキは、繊細な味わいと見た目の美しさが同時に楽しめるものばかりだった。



二人は話をしているうちに、お互いに同性愛者だとわかった。彼の名前は岩瀬。長い黒髪と、独特のオーラを纏った彼に、石黒は惹かれた。



二人は付き合うようになった。彼と一緒に過ごす時間が、石黒にとってとても貴重なものになっていた。石黒は、彼と一緒に下関の美味しいものを食べて、二人で笑い合って、幸せな時間を過ごすことができた。



さらに彼は、石黒がパティシエになることを応援してくれた。石黒は、パティシエとしての夢を追いかけ、彼と結婚した。



下関で出会った美味しいものと、自身が同性愛者であること。それらが何か大切な糸で結ばれているような気がして、石黒は幸福感に包まれた。彼が下関に来てからの二年は、充実したものだった。

もともと食べ物が好きで、福岡でも美味しいものはたくさんあった。だが、下関に来たらそれ以上のものを見つけてしまった。



最初に出会ったのは、下関特産のフグ。初めて食べたとき、歯ごたえと味の濃さに驚いた。以降、石黒は週に一度はフグ料理を楽しむようになった。



そしてある日、石黒は小さな居酒屋を発見した。おばあさんが経営するその店は、看板メニューの「あんかけ焼きそば」が絶品だった。麺はモチモチとした歯ごたえがあり、ソースの味付けが絶妙だった。石黒はその日から、その店に通うようになった。



そんなある日、石黒は同性愛者であることに気づいた。学生時代には女の子に興味があったが、社会人になってから男性に興味を持つようになっていた。しかし、下関に来てからは出会いも少なく、孤独を感じていた。



ある日の夜、石黒はその居酒屋でひとりで飲んでいた。そこに、同じくひとりで飲んでいた男性が声をかけてきた。彼の名前は佐藤といい、地元の人だった。



二人はお互いの好みの食べ物や趣味について話をするうちに、気が合うことに気づいた。そして、店を出てからもお互いのLINEを交換した。



翌週、佐藤は石黒を自分のお気に入りの居酒屋に誘った。そこで、石黒は佐藤に心を開き、自分が同性愛者であることを告白した。佐藤も同じく同性愛者だったことが判明し、二人はその場で抱きしめ合った。



以降、石黒と佐藤は毎週のように食事やドライブを楽しむようになった。下関には美味しいものがたくさんあるし、自分の気持ちを受け止めてくれる相手もできた。石黒は、下関での暮らしがますます輝かしくなった。

後のひと月間、石黒は毎日のように下関に足を運び、美味しい料理を堪能した。魚介類に続いては肉料理に舌鼓を打ち、素材そのものの美味しさに感動した。



「俺、下関に来て良かったな」と石黒はひとりごちた。



そんなある日、石黒は偶然出会った男性・太田に心を奪われる。男性経験はなかった石黒だったが、太田の笑顔、話し方や仕草がなんとも魅力的だった。



石黒は太田との交際をスタートさせる。初めはお互いに控えめな態度だったが、次第に距離を縮めていく。一緒にいると自分自身が穏やかになる気がした。



ある日、二人は下関に行くことにした。石黒の夢の度胸試しに挑戦するためだった。太田にはそれがどんなものかは内緒だったが、石黒は心の中で必死に祈った。



すると、石黒の夢は現実のものになった。太田は何も疑うことなく、石黒の背中を押してくれた。その瞬間、石黒は自分自身を受け入れられるような、とてつもない幸福感に包まれた。



「俺、本当はこんなことが好きだったんだ」と石黒は初めて口にする。



太田は石黒の言葉に応えるように微笑んだ。



「俺も、こうやって石黒と一緒にいることが大好きだよ」と太田は石黒を抱きしめた。



しばらくの間、石黒と太田は夢中で下関の美味しい料理を堪能した。ふと、石黒は自分が夢に見たあの場所がどこだったのか思い出せた。



「あそこが夢に出てきた場所だ。こんなに素敵な場所に、夢に出てくるなんて奇跡的だよね」と石黒は太田に話した。



太田はふっと笑みを浮かべた。



「よく聞いて、あそこのお店で僕たちが食べた料理……実はそのお店のシェフと僕とは昔からの友達なんだ。美味しいものを届けるために、たくさんのトライ&エラーを繰り返してきた。この場所に来たのも、そんな思いからだったんだ」



太田の言葉に、石黒は感心した。自分たちがこんなにも素晴らしい料理に出会えたのは、シェフや太田の努力あってこそなのだと。



その後、石黒と太田は下関に暮らし始めた。二人は共通の趣味を見つけ、刺激的な日々を過ごした。



あの日のように、石黒はまた下関の美味しさと出会うだろう。





そしてある日、石黒は街を歩いていると、偶然にも同性愛者であることを告白された。



異性愛者である石黒は戸惑いながらも、彼の話を聞くことに決めた。少しずつ彼の生い立ちや苦悩について知っていくにつれ、石黒は彼に心を開いていった。



石黒は、下関で美味しい食事に出会うことで心の豊かさを感じ、生きる意味を見出していた。そして今、自分自身と向き合い、自分の気持ちと向き合うことで、彼自身もまた、新しい自分を見つけることができたのだ。



美味しい食事、それは人を癒し、幸せを感じさせてくれるものだった。



石黒は、彼と再会するたびに、美味しい食事を通して彼の心を癒し、彼自身の成長につながるような言葉をかけていった。



そして、彼の告白を受け入れたことで、石黒自身もまた、「食」以外の尊さを見出すことができたのだった。



美味しい食事とともに、石黒は今日も新しい発見をしていくのであった。

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