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死霊秘宝
ただの気まぐれ
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「はぁ? 今、なんつったよ」
赤髪を整髪料で逆立てた男の子が大袈裟に顔をしかめる。着崩した制服はこの辺りにある有名なお金持ち学校のものだ。
「……もう、君達にお金は払いたくないって……言ったんだ……」
元墓荒らしのポーキー=ムンクが足元に向かって勇気を出した。夕日の下で見る彼は子豚のマスコットキャラみたいで、見た目からしていじめられっ子の風格がある。
異世界の量産型不良――リーダー格の赤髪と取り巻きが二人――は顔を見合わせて笑った。そしておもむろにポーキー少年の腹を殴る。
「ぐぇっ!」
潰れたヒキガエルみたいな声を出し、ポーキー少年がくの字になる。赤髪の少年は下がった頭に容赦なく膝蹴りを入れ、可哀想ないじめられっ子は丸くなって浦島太郎に出てくる亀みたいに袋叩きにされる。
思ったよりも大事になってしまい、僕は出ていくタイミングを見失う。
「ごほん」
とりあえず咳払いで注目を集めてみた。
「なんだてめぇ。見世物じゃねえぞ!」
「見てたって気持ちのいいものじゃないしね」
肩をすくめて僕は彼らに近づいていく。
「てめぇ、舐め――」
赤髪の少年の鳩尾に、女神さまの加護を受けて一年間冒険者稼業を続けたどこにでもいるような普通の少年の拳が深々と突き刺さる。
僕はすぐに横に移動して赤髪の少年の吐いた昼飯を避けた。赤髪の少年の足を払って転ばせると、足元のゲロを擦りつけるようにして彼の後頭部を踏みつける。
唖然とする取り巻きの腹も同じように殴り、同じように転ばせて吐しゃ物の上を泳がせる。
「財布」
僕は言う。
不良君達は子供みたいに泣くだけで答えないので脇腹をつま先で小突く。
「さ、い、ふ」
ゲロの上で泣きながら三人の不良少年は高そうな――僕の財布の方が良い奴だけどね――長財布を尻ポケットから取り出した――なんでこの手の連中はみんな長財布を尻ポケットに入れるんだろう。
「十秒待ってやる。鬼ごっこをしようぜ。じゅう、きゅう、はち、なな――」
はちの所で立ち上がり、ゲロ塗れの不良少年達が転がるように逃げ出した。
それを見送って、僕はげっそりと溜息をつく。
「不良の真似なんかするもんじゃないね。今までの人生でも類を見ない最低最悪の気分だ」
小学六年生の誕生日に欲張ってホールケーキを一人で食べた時みたいに胸糞が悪い。
「……助けに来てくれたんですか?」
ボロ雑巾になったポーキー少年が鼻血を垂らしながら言う。
「たまたま通りかかったんだ」
僕は肩をすくめる。
「たまたま君がイジメられていて、たまたま僕は腹の虫の居所が悪かった。たまたま財布を奪ったのはいいけど、男の尻の臭いが染みついた財布なんか持っていたくない」
お道化ると、僕は道端に座り込むポーキー少年の前に財布を放った。彼らがカツアゲしてきた分には到底足りないだろうけど、別に僕は彼のママじゃない。こんなのはただの自己満足のお遊びだ。
「……ありがとうございます!」
ポーキー少年が頭を下げる。土下座はもううんざりだ。やってる方がノリノリかもしれないけど、やられる方は気分が悪い。
「見てましたよね! 僕、やりましたよ! 約束通り、魔術を教えてください!」
やり遂げた顔でポーキー少年は言う。
「嫌だよ」
「……ぇ?」
「昨日一晩考えたんだ。僕はお金に困ってないし、君に魔術を教えるのが楽しいとは思えない。物覚えも悪そうだしね。時間の無駄だよ」
「そ、そんな……約束が違うじゃないですか!」
「約束なんかしてないよ。僕は考えると言ったんだ。で、考えた」
僕は収納腕輪から薄っぺらい魔導書を取り出し、彼の前に放った。
「……これは?」
「僕のお古で君の先生だ。愛着があって残しておいたけど、収納腕輪だって無限じゃないし、もう使わないから君にあげるよ。初歩的な術しか載ってないけど、君にはそれで充分だろ」
ポーキー少年は宝物が湧きだしたみたいに茫然と魔導書を見ると、誰かに取られまいとするように飛び付いて抱きしめた。
「あ、あ、ありがとうございます! こんなにしてくれて、なんてお礼を言ったらいいか!」
「ただの気まぐれだから」
適当に手を振って僕は歩き出す。
ふと思い立ち、僕は背中越しに彼に言った。
「感謝するなら、哲也君にするんだね」
「テツヤ君? 誰ですか、それ……」
「君によく似た僕の幼馴染だよ」
揚げ物屋さんの哲也君。
ポーキー少年が彼に似ていなければ、僕だってここまでお節介な事はしていない。
実は全然似てないのだけど、そういう事にしておくとしよう。
赤髪を整髪料で逆立てた男の子が大袈裟に顔をしかめる。着崩した制服はこの辺りにある有名なお金持ち学校のものだ。
「……もう、君達にお金は払いたくないって……言ったんだ……」
元墓荒らしのポーキー=ムンクが足元に向かって勇気を出した。夕日の下で見る彼は子豚のマスコットキャラみたいで、見た目からしていじめられっ子の風格がある。
異世界の量産型不良――リーダー格の赤髪と取り巻きが二人――は顔を見合わせて笑った。そしておもむろにポーキー少年の腹を殴る。
「ぐぇっ!」
潰れたヒキガエルみたいな声を出し、ポーキー少年がくの字になる。赤髪の少年は下がった頭に容赦なく膝蹴りを入れ、可哀想ないじめられっ子は丸くなって浦島太郎に出てくる亀みたいに袋叩きにされる。
思ったよりも大事になってしまい、僕は出ていくタイミングを見失う。
「ごほん」
とりあえず咳払いで注目を集めてみた。
「なんだてめぇ。見世物じゃねえぞ!」
「見てたって気持ちのいいものじゃないしね」
肩をすくめて僕は彼らに近づいていく。
「てめぇ、舐め――」
赤髪の少年の鳩尾に、女神さまの加護を受けて一年間冒険者稼業を続けたどこにでもいるような普通の少年の拳が深々と突き刺さる。
僕はすぐに横に移動して赤髪の少年の吐いた昼飯を避けた。赤髪の少年の足を払って転ばせると、足元のゲロを擦りつけるようにして彼の後頭部を踏みつける。
唖然とする取り巻きの腹も同じように殴り、同じように転ばせて吐しゃ物の上を泳がせる。
「財布」
僕は言う。
不良君達は子供みたいに泣くだけで答えないので脇腹をつま先で小突く。
「さ、い、ふ」
ゲロの上で泣きながら三人の不良少年は高そうな――僕の財布の方が良い奴だけどね――長財布を尻ポケットから取り出した――なんでこの手の連中はみんな長財布を尻ポケットに入れるんだろう。
「十秒待ってやる。鬼ごっこをしようぜ。じゅう、きゅう、はち、なな――」
はちの所で立ち上がり、ゲロ塗れの不良少年達が転がるように逃げ出した。
それを見送って、僕はげっそりと溜息をつく。
「不良の真似なんかするもんじゃないね。今までの人生でも類を見ない最低最悪の気分だ」
小学六年生の誕生日に欲張ってホールケーキを一人で食べた時みたいに胸糞が悪い。
「……助けに来てくれたんですか?」
ボロ雑巾になったポーキー少年が鼻血を垂らしながら言う。
「たまたま通りかかったんだ」
僕は肩をすくめる。
「たまたま君がイジメられていて、たまたま僕は腹の虫の居所が悪かった。たまたま財布を奪ったのはいいけど、男の尻の臭いが染みついた財布なんか持っていたくない」
お道化ると、僕は道端に座り込むポーキー少年の前に財布を放った。彼らがカツアゲしてきた分には到底足りないだろうけど、別に僕は彼のママじゃない。こんなのはただの自己満足のお遊びだ。
「……ありがとうございます!」
ポーキー少年が頭を下げる。土下座はもううんざりだ。やってる方がノリノリかもしれないけど、やられる方は気分が悪い。
「見てましたよね! 僕、やりましたよ! 約束通り、魔術を教えてください!」
やり遂げた顔でポーキー少年は言う。
「嫌だよ」
「……ぇ?」
「昨日一晩考えたんだ。僕はお金に困ってないし、君に魔術を教えるのが楽しいとは思えない。物覚えも悪そうだしね。時間の無駄だよ」
「そ、そんな……約束が違うじゃないですか!」
「約束なんかしてないよ。僕は考えると言ったんだ。で、考えた」
僕は収納腕輪から薄っぺらい魔導書を取り出し、彼の前に放った。
「……これは?」
「僕のお古で君の先生だ。愛着があって残しておいたけど、収納腕輪だって無限じゃないし、もう使わないから君にあげるよ。初歩的な術しか載ってないけど、君にはそれで充分だろ」
ポーキー少年は宝物が湧きだしたみたいに茫然と魔導書を見ると、誰かに取られまいとするように飛び付いて抱きしめた。
「あ、あ、ありがとうございます! こんなにしてくれて、なんてお礼を言ったらいいか!」
「ただの気まぐれだから」
適当に手を振って僕は歩き出す。
ふと思い立ち、僕は背中越しに彼に言った。
「感謝するなら、哲也君にするんだね」
「テツヤ君? 誰ですか、それ……」
「君によく似た僕の幼馴染だよ」
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ポーキー少年が彼に似ていなければ、僕だってここまでお節介な事はしていない。
実は全然似てないのだけど、そういう事にしておくとしよう。
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