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幕間1

第13話 独白

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「やっぱこれ友達の距離感じゃねぇからぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 と、俺は湯船の中で叫んだ。

「げほっ、やっべ、飲んだ」

 その直後に報いを受けて激しくせき込む。
 たっぷり十秒以上かけて落ち着いた後、俺は長い溜息を吐きだした。

「……マジで、距離感、おかしいだろ」

 今でもまだドキドキしている。
 冷静に考えれば友達同士でやるようなことしかしていない。俺が変に意識しているだけなのかもしれない。

 そもそも、なんでだ?
 どうして俺は彼女を意識している?

 女子と接した経験が無いわけではない。
 普通に仲の良い相手は居たし、今日くらいのスキンシップなら珍しくなかった。

 だから不思議で仕方がない。
 どうして、たかが手に触れた程度で……。

「俺、面食いだったのか?」

 これまでの相手と違うのは容姿くらいだ。
 会話が面白い子には会ったことがある。尊敬できる子にも会ったことがある。

 だけど、ここまで胸が騒いだ経験は、過去に無い。

「恋中さんは、どう思ってんのかな」

 呟いた後、直ぐにKDPという単語が頭に浮かんだ。

「……友達としか見られてねぇよな」

 今はまだ、耐えられる。
 友達として接することができる。

 だけど今後はどうだろうか?
 俺は、友達として接し続けることができるだろうか?

「いっそのこと開き直るか?」

 今の関係を客観的に見れば、イチャイチャしているようにしか思えない。

 いいじゃないか。
 友達とイチャイチャしてはダメという法律は存在しない。

「よし、そうしよう」

 これから少なくとも三年間、恋中さんは隣の部屋に住んでいるわけで、今日以上に距離が近くなることもあるだろう。その度にドキドキしていたら心臓が持たない。

 だから開き直る。
 感覚をアップデートする。

 あれが恋中さんとの普通なんだ。
 今の俺にはイチャイチャしているようにしか感じられないけれど、そうじゃない。

 普通なんだ。
 俺はただ、友達と接しているだけ。

「あれは普通。あれは普通。あれは普通」

 必死に自己暗示をした。
 だって、このままでは勘違いしてしまいそうになる。

 仮に勢いで告白をして、断られたりした日には地獄だ。
 これから三年間、きっとほぼ毎日顔を合わせるのに、気まずくて仕方がない。

「あれは普通。普通。普通。普通!」

 だから俺は必死に自己暗示をかけた。
 
 恋中さん。
 隣に住んでる同級生。

 プログラミングが得意で、既に働いている。
 しかし、あえて何の変哲もない高校を選んだ。

 理由は、憧れ。
 
 その瞬間は、いまいちピンと来なかった。
 だけど今は少し理解できる。彼女はきっと心の底から友達に飢えているのだ。

 俺を見る度、会話する度、すごく嬉しそうな顔をする。

 その顔を見る度、俺は困ってしまう。
 男女の友情は成立しないなんて言葉があるけれど、その理由が痛いくらい分かる。

「……恋中さんは、どう思ってんのかな」

 呟いた声が浴室の中で反響する。
 それから俺は目を閉じて、ぼんやりしていた。

 しかし頭に浮かぶのは、彼女のことばかりだった。
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