異世界帰りの元陰キャ、今は淫キャ

下城米雪

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3-1.もしかして私達……

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 ふと振り返る。
 異世界から帰還した日を一日目と数えた時、今日で三日目となる。

 当時、俺は思っていた。
 退屈な現実で、今後どう生きるべきか。

 一日目、魔法少女と共に悪の組織を討伐。
 二日目、冥界の皇女に勝利して婚約。

 ふははは!
 現実ってなんだっけ!

「おはよう!」

 そんな気持ちを胸に、今日も挨拶を無視されながら席まで辿り着いた。

「……よ」

 胡桃が今日も挨拶を返してくれた。
 実時間としては昨夜振りだが、とても久しく感じる。

「胡桃は今日もチャーミングだな」

 俺が挨拶をすると、彼女は軽く手を挙げた視線のまま、じっと目を細めた。

「……クソ陰キャ野郎、疲れてる?」

 おっと、これは失敗だ。
 大淫魔の討伐、胡桃の調教、義兄弟の過去と向き合う時間。立て続けに大きなイベントが有り、自覚していない疲労感が顔に出たのかもしてない。

 今後は気を付けよう。
 俺は軽く頬を叩き、笑みを浮かべる。

「何を言う。俺は常にビンビンだ」
「……そう」

 胡桃はやれやれという様子で息を吐いた。
 その後、俺は椅子に後ろ向きに座って言う。

「おはよう!」

 カリンは、皇女らしい上品な笑みを浮かべた。
 だがそれも一瞬のこと。コンマ数秒後には、ギャルモードに戻っていた。

「あははっ、今日もメッチャ元気じゃん」
「聞こえなかったか? 俺は常にビンビンだ」
「きっしょ~」

 カリンは罵倒ごほうびを口にして、くすくすと笑った。
 その直後、俺は袖を引かれた。胡桃である。

「どうかしたか?」

 胡桃は唇をギュッと結んだ後、カリンを一瞥してから言った。

「混ぜて」

 ……なんという愛くるしさだろうか。
 覚えている。昨日、俺は言った。いつでも声をかけろと。

 早速、実践したわけだ。
 ならば俺も応える以外あるまい。

「むろ──」

 無論だ。
 その言葉は最後まで音にならなかった。

(……この感覚、まさか)

 淫力崩壊テクノ・ブレイク
 淫力を酷使した場合、一時的に気を失うことがある。

 スキルを覚えたばかりの頃は頻繁にあった。
 ここ数ヵ月は全く無かったのだが……なるほど、弱体化の影響というわけか。

 その後、朦朧とした意識の中、保健室へ運ばれることが分かった。
 真っ先に胡桃が運ぼうとしてくれたが、力及ばず。カリンの呼びかけによって男子が手を貸してくれた。

 
 *  *  *


「……保健室、か」

 意識が戻った後、周囲を見て呟いた。
 人の姿は無い。状況的に救急車を呼ばれても不思議ではないと思ったが、寝れば治ると判断されたようだ。

「……いや、俺が言ったんだったか?」

 微かに記憶が残っている。
 そうだ。確か俺は「……乳房でも揉めば回復する」と言った。これを聞いたカリンが「少しでも寝れば回復する?」と奇跡的な解釈をしたのだった。

「……ちぶさでももめばかいふくする」
「……すこしでもねればかいふくする」

 なるほど音の数だけはあっていたのか。
 人の耳とは、俺が思っているよりも雑なのだが。

「さて、戻るか」

 カーテンを開けて外に出る。
 保健室は無人。時計を見ると、もう少しで昼休みが始まる時間だ。

「……ふむ」

 少し待てば胡桃が様子を見に来るだろう。
 昨日の出来事を鑑みれば、カリンも来てくれるはずだ。

 俺は五秒だけ悩む。
 そして教室に戻る判断をした。

 理由はシンプル。
 一秒でも早く元気な顔を見せたい。

「……む?」

 角を曲がり、階段の手前に差し掛かったところ。
 俺は一人の女子生徒と遭遇した。

 いや、遭遇という表現は少し語弊があるか。
 大量のノート抱えて階段を上る姿を目にした。これが正しい。

(……危ないな)

 アニメでしか見ないような量を運んでいる。あれでは前も見えないだろう。

(……あの長い黒髪、見覚えがある)

 これまたアニメでしか見ないような長髪。
 腰まで届くような長髪は、現実にも存在しないわけではない。しかし、完璧にケアされた美しい長髪というのは珍しい。だから直ぐに分かった。

 御子柴みこしば彩音あやね
 同じクラスの委員長だ。

(……ひとまず、見守るか)

 彼女の歩みは非常に不安定だ。
 今すぐにでもノートを引き受けようと考えてしまうが、階段の途中で声を掛けたら驚かせてしまって逆に危ないかもしれない。

 故に、見守る。
 決して揺れるスカートの中身に興味があるわけではない。純粋に、彼女の安全を心から考えた結果、見守ることが最善だと考えたのだ。

 ──神風が吹いた。
 恐らく、階段の途中にある窓から入り込んだのだろう。

 それは彼女のスカートを持ち上げ──

「……ノーパン、だと?」

 思わず呟いた。
 俺が「しまった」と感じた瞬間、ビクリと肩を揺らした彼女が、落下した。

「スキ──」

 俺は咄嗟にスキルを発動させようとした。
 そして、淫力崩壊から回復した直後であることを思い出した。

 まだ歩ける程度に回復しただけ。
 スキルを使える程の回復には至っていない。

(……絞り出せ!)

 このままでは委員長に大怪我を負わせる可能性がある。
 断じて認めない。俺のせいで女子に怪我をさせるなど、あってはならない。

 歯を食いしばる。
 瞬間的な妄想によって淫力を振り絞る。

 ──時が止まったような気がした。

 学校の階段。
 窓から差し込む光と花吹雪の如く舞い散る大量のノート。
 どこか神秘的な背景を背に、一人のノーパン美少女が落ちてくる。

 彼女の目は大きく見開かれていた。
 俺は朦朧とする意識の中、この場に適したスキルを模索する。


 ────

 
「……大丈夫、ですか?」

 俺の声が聞こえた。

「問題ない。そちらこそ、無事か?」

 委員長の声が聞こえた。

「「……」」

 互いに、じっと見る。
 自分の顔を、じっと見る。

「……私の、顔?」

 彼女は立ち上がる。
 そして体のあちこちを触った。

「もしかして、私達……」

 体が入れ替わったことで、あるいは刺激的な衝突があったことで、朦朧としていた意識が完全に回復している。だからこそ、俺は両手で頭を抱え、天を仰いだ。

 その直後、

「入れ替わってる……?」

 と、彼女が俺の声で言った。
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