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「そうだ! 出血大サービスしちゃう。俺も君の冒険に付いていくわ。そしたら悪い虫も付かないし、小百合が神殿まで来なくても毎日出来るじゃん? こんな事めったにないんだからね! じゃ、これからもよろしく、小百合ちゃん♪」
あ、でも俺が魔物とか魔王倒したら干渉すんなって太陽神のクソジジイがうるさいしなー
それは自力でがんばって! 小百合ちゃんなら出来る! 神力だけは任せて!
君に近づく男は消しちゃうけどね!
とかのたまう神様――様付けしたくない――神の声を、どこか遠くで聞いているような気がした。
だがこれは現実である。
――確かに神力は得た。
幸か不幸か、神のお気に入りとなり、神力の補充も容易にできるようになった。
けれども、それ以上に大事なものを小百合は失った。
小百合は仲間を増やすことも検討した。1人で出来ることは限られている。味方が増えれば、それだけ魔王を倒すことも、翔を救い出す手立ても増えるかと思ったからだ。
けれどもそれは神という同行者が大きな壁となって立ちはだかった。
「仲間なんて、俺だけで十分でしょ」
鶴の一声ならぬ、神の一声である。
「小百合に触っていいのは、俺だけだからね」
嫉妬深い神は、同性の人間どころか、スライムなどの召喚獣でさえ傍に置くことに拒否した。神は基本、見ているだけで、応援しかしない。
むしろイライラする声援しかしないので、いないほうが精神衛生上マシだった。
小百合の疲弊っぷりを見かねた天使がこっそりと怪我を回復してくれたが、戦力としてカウントすることはできなかった。
そのため、小百合は孤軍奮闘するしかなかった。元々肉体派でなく、戦うこと自体慣れていなかった小百合は、レベル上げも効率が悪いやり方でやるしかなかった。
そして長い旅路の果てに、ついに魔王と対峙する時が来た。
「僕の臣下を傷つけないで!」
「魔王様! ここは危険です! お逃げ下さい!!」
「え……!? 翔!?」
「……翔とは誰ですか?」
歴代最強という話は嘘ではなかった。魔王は確かに強かった。
臣下でさえ小百合と同等の力を持っている。
今は勝ち目がないかもしれない。
しかし、それより衝撃を受けたのは魔王と翔の見た目も声も、そして性格までもが、まるで双子のように似ている事だった。
「ごめんなさいお姉さん。僕は、貴方を倒します!」
翔とは別人である事は分かっている。
だがそれでも躊躇せざるを得なかった。
あの翔が、歩いているのだ。
健康そうな血色の良い頬に、惹きつけられてやまなかった。
「貴方がどれだけ凄い神力を持とうとも――ぼ、僕はあんな神には……! エリックには負けません!!」
「その名前を言わないで!」
「……!?」
魔王は何も悪くないが、もはやトラウマと言ってもいい名前を言われて、小百合は条件反射でブチ切れた。
エリックとは神の名前だった。
何十回、いや何百回、神力を補充するために、言わされたかわからない。
翔の顔、声であんなやつの名前を言わせたくなかった。
(この魔王を倒さないと、前に進めない)
神が気まぐれで魔王の能力を封じ、臣下にも大ダメージを与えたため、今が千載一遇のチャンスだった。この機会を逃したら、仲間がいなくて戦力的に劣る小百合が不利になるばかりだろう。
事情を知らない魔王が、小百合の気迫に若干怖気づいた。
(――ああ、その表情も、仕草も、翔そっくりだなんて)
「……小百合ちゃん?」
嫉妬深い神が、何かを察したのか、小百合に話しかけてきた。神は微笑んでいるが、目の奥は笑っていなかった。小百合は恐怖しか感じなかった。
(この気持ちを、この男に察せられたらお終いだ)
心の中で血の涙を流す。
どんなにつらい苦しい事も乗り越え続けた小百合だったが、これは悪夢のような敵だった。本音を言えば、傷つけたくなかった。
だが魔王は倒さないといけない。そのために、これまで神の暴力に耐えてきたのだ。
(たとえ翔と似ていても! この魔王は翔じゃない!)
かつてない強敵に、小百合はプルプルと肩を震わせながら、剣を構えた。
「(私が妊娠する前に)さっさと滅べ! 魔王イシュゲル!」
神に孕まされるのが心底恐ろしく、半ば八つ当たりで、小百合は叫んだ。
あ、でも俺が魔物とか魔王倒したら干渉すんなって太陽神のクソジジイがうるさいしなー
それは自力でがんばって! 小百合ちゃんなら出来る! 神力だけは任せて!
君に近づく男は消しちゃうけどね!
とかのたまう神様――様付けしたくない――神の声を、どこか遠くで聞いているような気がした。
だがこれは現実である。
――確かに神力は得た。
幸か不幸か、神のお気に入りとなり、神力の補充も容易にできるようになった。
けれども、それ以上に大事なものを小百合は失った。
小百合は仲間を増やすことも検討した。1人で出来ることは限られている。味方が増えれば、それだけ魔王を倒すことも、翔を救い出す手立ても増えるかと思ったからだ。
けれどもそれは神という同行者が大きな壁となって立ちはだかった。
「仲間なんて、俺だけで十分でしょ」
鶴の一声ならぬ、神の一声である。
「小百合に触っていいのは、俺だけだからね」
嫉妬深い神は、同性の人間どころか、スライムなどの召喚獣でさえ傍に置くことに拒否した。神は基本、見ているだけで、応援しかしない。
むしろイライラする声援しかしないので、いないほうが精神衛生上マシだった。
小百合の疲弊っぷりを見かねた天使がこっそりと怪我を回復してくれたが、戦力としてカウントすることはできなかった。
そのため、小百合は孤軍奮闘するしかなかった。元々肉体派でなく、戦うこと自体慣れていなかった小百合は、レベル上げも効率が悪いやり方でやるしかなかった。
そして長い旅路の果てに、ついに魔王と対峙する時が来た。
「僕の臣下を傷つけないで!」
「魔王様! ここは危険です! お逃げ下さい!!」
「え……!? 翔!?」
「……翔とは誰ですか?」
歴代最強という話は嘘ではなかった。魔王は確かに強かった。
臣下でさえ小百合と同等の力を持っている。
今は勝ち目がないかもしれない。
しかし、それより衝撃を受けたのは魔王と翔の見た目も声も、そして性格までもが、まるで双子のように似ている事だった。
「ごめんなさいお姉さん。僕は、貴方を倒します!」
翔とは別人である事は分かっている。
だがそれでも躊躇せざるを得なかった。
あの翔が、歩いているのだ。
健康そうな血色の良い頬に、惹きつけられてやまなかった。
「貴方がどれだけ凄い神力を持とうとも――ぼ、僕はあんな神には……! エリックには負けません!!」
「その名前を言わないで!」
「……!?」
魔王は何も悪くないが、もはやトラウマと言ってもいい名前を言われて、小百合は条件反射でブチ切れた。
エリックとは神の名前だった。
何十回、いや何百回、神力を補充するために、言わされたかわからない。
翔の顔、声であんなやつの名前を言わせたくなかった。
(この魔王を倒さないと、前に進めない)
神が気まぐれで魔王の能力を封じ、臣下にも大ダメージを与えたため、今が千載一遇のチャンスだった。この機会を逃したら、仲間がいなくて戦力的に劣る小百合が不利になるばかりだろう。
事情を知らない魔王が、小百合の気迫に若干怖気づいた。
(――ああ、その表情も、仕草も、翔そっくりだなんて)
「……小百合ちゃん?」
嫉妬深い神が、何かを察したのか、小百合に話しかけてきた。神は微笑んでいるが、目の奥は笑っていなかった。小百合は恐怖しか感じなかった。
(この気持ちを、この男に察せられたらお終いだ)
心の中で血の涙を流す。
どんなにつらい苦しい事も乗り越え続けた小百合だったが、これは悪夢のような敵だった。本音を言えば、傷つけたくなかった。
だが魔王は倒さないといけない。そのために、これまで神の暴力に耐えてきたのだ。
(たとえ翔と似ていても! この魔王は翔じゃない!)
かつてない強敵に、小百合はプルプルと肩を震わせながら、剣を構えた。
「(私が妊娠する前に)さっさと滅べ! 魔王イシュゲル!」
神に孕まされるのが心底恐ろしく、半ば八つ当たりで、小百合は叫んだ。
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