ガドリング・フィールド

猫パンチ三世

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第一章 猫を拾った日

十話 サパーポストポーン

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 リウは車に乗ってから、一言も喋らない。
 去り際のバグウェットの言葉は、鋭い棘の様に彼女の心に突き刺ささっている。彼がなぜいきなりあんな事を言ったのかが分からず、ちらりとリウは自分の隣に座るラインズを見た。
 
「目的の物は回収した、準備をしておけ。ああ……分かってる」

 電話を切ったラインズは、リウが自分を見ている事に気付いた。
 その目には不安の色が滲む。

「どうしたんだ? さっきの男に何か言われたのかい?」

「……何も言われてないよ」

 ラインズは、微笑みながらリウの頭を撫でる。
 優しく温かな手で撫でられている時、彼女はその手から伝わる温度を確かに感じていた。

「リウは良い子だ、本当に」

「そう……かな?」

「そうさ、正直で真っ直ぐな良い子に育ってくれた。私の誇りだよ」

 その言葉と温かな手だけで彼女はラインズの事を他の誰よりも信じる事が出来る、彼女にとってはそれだけで良かった。
 もう彼女の心に迷いは無い。

 
 車は大通りを走り抜け、薄暗く狭い路地を通り開けた場所に出た。車から降りるように言われリウは車外に出る、辺りには纏わりつくような湿気を含む陰惨とした空気が漂っていた。
 体を波打たせながら歩く芋虫を見た時のような寒気が背中を走る、人の多い大通りから随分と離れたからだろう、辺りに人の気配は全くと言っていいほど無かった。

「さ、おいで」

 手招きするラインズの後をリウは足早に追いかける、周りばかりを見ていたために気付かなかったが彼女の前には大きな建物があった。
 それは金属で造られた巨大な倉庫だった、下りている巨大なシャッターの前に立つと少し間を置き、大きく音を立てながらシャッターが開いた。
 
 中はかなりの広さがあり、錆びついた大きなコンテナ、木製の箱に加えて椅子や机が乱雑に置かれており、人相の悪い男たちが酒を飲みながら談笑している。
 その光景に少し後ずさりしたリウを横目、にラインズは中にさっさと入ってしまった。

 リウもラインズの後を追って中に入ると、また大きな音を立てながら後方のシャッターが閉まっていく。二人の元に一人の男が近づいてきた。

「やっと着いたかラインズさんよ、待ちくたびれちまったぜ」

「ローグ……酒を飲むのは勝手だが準備は進めてるんだろうな?」

「時間はまだある、もう少し待ってろよ」

 そう言ったローグの目はリウに向けられる、彼女を見る彼の目は好色的でとても言葉では言い表せないほどに気色悪かった。
 リウはその目をまともに見る事ができず、ラインズの後ろに隠れる。それを見たローグは満足そうにニヤニヤと笑う。

「なるほど、いい具合にしつけてやがるじゃねえか」

 薄汚い笑いを浮かべたまま、ローグはその場を離れていった。気づけば二階からかなりの人数の男たちが自分を見ている事にリウは気付く、彼らもまた一様に嫌な笑みを浮かべていた。

「……ねぇパパ、ここには何しに来たの?」

「仕事さ、大事な……とても大事なね」

 ラインズはそう言うと、どこかで自分が呼ぶまで待つようにとだけ伝え建物の奥へ行ってしまった。
 一人残されたリウ、は入り口近くにあった木製の箱に腰掛けて暇を持て余していた。遠巻きに男たちが自分の事を見ているのが分かり、なるべくその方向を見ないようにしながら時間が早く流れないかと考えていた。

「つまんねーよな、ここ」

 リウが顔を上げると男が一人立っていた。アロハシャツを着た派手な男、隠しきれない軽薄な雰囲気を漂わせる男がそこにいた。

「誰ですか?」

「俺はオルロ、嬢ちゃんのパピーの仕事相手さ」

 オルロはポケットから飴を取り出しリウに差し出す、不審者を見るような目をしながらもリウは恐る恐る飴を受け取った。彼は近くにあった木製の箱を彼女の近くに持ってきて腰掛ける、ここに居座るつもりなのかと顔をしかめた彼女の事を気にする様子は彼には無かった。

「何の用ですか」

「暇なんだよ、少し話そうぜ」」

 冷たい反応を見せるリウをオルロは全く意に介さない、むしろそれを楽しんでいるようにさえ感じられた。
 彼はローグの部下がアタッシュケースを見つけた事で、すでにその役目を終えている。雇い主であるラインズからも、雀の涙程度の金を受け取った後だったためこの場にもう用は無い。

 だが立ち去る前に次に飲むときの話題の一つにでもしようと思い、気まぐれにリウに声をかけたのだった。
 
「なあ、嬢ちゃんはラインズの……父親の事どう思う?」

「どうって……優しくて立派な人ですけど」

「じゃあ父親の言葉を全部信じれるか?」

「はい」

 オルロが何を言いたいのかリウには分からない、時間をかければ分かるのかもしれないがそんな暇は与えてくれそうになかった。
 次々と矢継ぎ早に質問が飛ぶ、だが彼女は流れるようにその質問に答えていく。

「じゃあ最後の質問だ、嬢ちゃんは父親に死ねって言われたら死ぬのか?」

「……パパはそんな事言いません」

「おいおい、答えになってねえよ。はい、いいえで答えられるだろ? シンプルに頼むぜ」

 リウはほんの一瞬だけ答える事を躊躇った、だがすぐに答えは出た。

「はい」

 その答えを聞くと気の毒そうに頷きオルロは立ち上がる、彼はすでにリウに対する興味を失っていた。

「なら嬢ちゃんのパピーは幸せもんだな、こんな孝行娘に恵まれてよ」

 そう言ってオルロが立ち去ろうとした時だ、彼の鼻にある匂いが流れ込んだ。リウの横を通って立ち去ろうとした時に彼女から漂ってきた匂い、それは確かにジーニャのシャンプーの香りだった。
 ジーニャのシャンプーは彼女だけが使っている特注品、つまり目の前にいる少女からその匂いがするという事は本来ありえない話なのだ。

「なあ嬢ちゃん、ジーニャっていう女の人を知ってるか? ブロンドのすげえ美人なんだけどよ」

「知ってますよ、今日お世話になりましたから」

「どうやって知り合ったんだ?」

 ジーニャの店であるスローピーは名の知れた店の一つだが、それはあくまでフリッシュ・トラベルタでの話だ。観光で来た人間は郊外のバーではなく、大通りの飲み屋の方に流れていく、オルロはリウがグランヘーロから来た事を知っていた。
 だからこそ分からなかった、どういった経緯であの店に彼女が行きついたかが。

「紹介されたんです」

「誰に?」

「今日一日……お世話になった人に」

 リウは決まり悪そうに話す、どうやら何か事情があるようだがオルロにとってそんな事はどうでもよかった。

「その人の名前を教えてくれ」

「……バグウェット」

 彼は自分の心臓が少しずつ速さを増していくのが分かった、バラバラだったピースが思いがけない形ではまり合い、彼の望んでいた景色は鮮明になった。
 彼は自らの気まぐれと、リウの存在を神に感謝していた。

「バグウェットがどうかしたんですか?」

「……いや何でもない、悪いが俺は行く。じゃあな嬢ちゃん、幸運を」

 リウは飛び跳ねるようにして去って行ったオルロの背中を見送る、また一人取り残された彼女は、もう少しくらい話をしても良かったかもしれないと思い始めていた。



 
 タクシーを降りたバグウェットは小走りでジーニャの店に向かう、通りかかったカップルにぶつかりそうになりながら暗い夜道を走った。
 やがてジーニャの店が目前に迫ると彼は速度を緩め始め、入り口の前に立つ頃には息を整え終えていた。

 ドアを開け、店内に入るといつものように店の中は客で賑わっていた。すでに店内に備え付けられている座席の数を超える人数が店内におり、座っているよりも立って飲んでいる人数の方が多い有様だった。店には先ほど来た時はいなかった数名の女性がホールスタッフとして出勤していたが、それで余裕ができるほど仕事量は少なくないらしく、彼女たちは必死に店内を駆け回っていた。
 
 人をかき分けながらバグウェットがカウンターに向かうと、ジーニャはいつものように客に酒を注ぎながら話をしていた。
 一見ホールで働く彼女たちと比べると楽そうに見える、だがここスローピーはただの酒好きだけではなく、様々な組織の人間が訪れるいわばこの街を凝縮したような場所だ。そこで見聞きする情報は時として額の付けられない価値を持つ、それを誰彼構わず話すような事があれば、被害を被った組織からの報復もあり得るのだ。

 だからこそ彼女は店の中で聞いた話は、店の外には持ち出さないというルールを自らに課しそれを厳守することで長年この店を経営してきた。
 この店はジーニャの、客たちからの確かな信頼によって成り立っていた。

「おっバグ公じゃねえか、飲み比べしようや。今日は負けねえからよ」

「望むところと言いてえとこだが今日は少し体調が悪い、また今度な」

 カウンターに座っていた顔馴染みの誘いをやんわりと断っていると、ジーニャはバグウェットに気づいたようだ。

「ずいぶん早いお戻りね、臨時収入でもあった?」

 ジーニャはからかうような笑顔をバグウェットに向けてくる、いつもならば憎まれ口の一つでも返しながら腰を据えて酒を飲み始めるが今日は違った。
 
「今は酒を飲んでる暇はねえんだ、悪いなジーニャ頼めるか?」

「味は?」

「甘いのだ」

 バグウェットの言葉に顔を曇らせると、ジーニャは店の奥に行き何品かのつまみを持ってきて、それをカウンターに座っていた男たちの前に置いた。

「こいつがどーしても二人で話したいって言うから席を空けてくれる? それ、私からのサービス」

「ジーニャに頼まれちゃ断れねえな」

 カウンターにいた男たちはつまみの乗った皿を手に取り、席を空ける。人で溢れ熱気に包まれた店内にできた冷めた空間、そこにバグウェットは座った。

「甘いやつの在庫は一つしかないわ。欲しいのじゃないかもしれないけど、いい?」

「ああ」

 ジーニャは気休め程度に店内を見回してから、バグウェットに顔を少しだけ近づけた。店内の喧騒にかき消されるかどうかの声で、彼女は話す。

「今日の二十三時、贖罪会が開かれるみたいよ」

 贖罪会、それはチャイルドホール構成員の反省会のようなものだ。もちろん和気あいあいと反省点を出し合い、失敗を次に生かそうなどという生ぬるいものではない。
 贖罪会とは、いわば『最後の命乞いの場』だ。チャイルドホールの抱えるあらゆる裏事業、それに関わっていた構成員が大きな失敗をしてしまった場合に開かれる。
 
 失敗した者がチャイルドホール幹部に向けて自分の有能さをアピールし、いくつかの上納品を納める事でもう一度チャンスをもらうための会が贖罪会だ。

「最近は開かれて無かったんだけど、事が事だからね」

「どういう意味だ?」

「そいつ他の街で児童売買やってたらしいんだけど、無茶やって治安部隊に尻尾を掴まれちゃったみたいよ。ここならともかくちゃんと働いてる所は働いてるからね」

 フリッシュ・トラベルタの治安部隊は、他の都市の治安部隊と比べるとその腐敗度は群を抜いている。賄賂さえ渡せば、スピード違反から殺人までありとあらゆる違法行為が見逃される。白昼堂々と大通りで行われる、対立した組織間による流血を伴う抗争にも、五分で来れる所を三十分かけてやってくる始末だ。 
 全員が全員どうしようもない人間という訳ではないが、そういった者も確かに存在していた。

「なるほどな……他には何か分かるか?」

「上納品のリストが今話した情報と一緒に送られてきたわ」

 ジーニャはカウンター下から三枚のリストを取り出し、バグウェットの前に置いた。リストは急いで作ったように文字が所々乱れている、彼はリストに書かれた上納品を一つ一つ確認しだした。

 武器や薬物といった物から始まり、高級な靴や時計などあらゆるものを差し出そうとしている点を見て、これを納める人間が相当に追い詰められている事は明らかだった。
 彼は渡されたリストの最後の一枚を見始め、もうすぐ見終わるといった所で目を細めた。
 そこに書かれていたのは数ある上納品の最後の一つ。

『十八歳少女、容姿・健康さ共に良。ラムドール加工処理を施しての引き渡し』

 その下にはそれらの上納品を納め、許しを請う罪人の名が記されている。

『第十七ファクトリー管理責任者ラインズ・トルポット』

 バグウェットは知らず知らずのうちに指に力が入ってしまい、リストを持っていた場所にしわが出来てしまっていた。

「……この情報、出所は誰だ?」

「分からないわ、少なくとも私の知ってる情報屋じゃないわね。だからその情報も確かとは限らないのよ」

 スローピーにはバーの他にもう一つの顔がある。店外から情報を集め、それを扱う情報屋という顔が。
 ジーニャの元にはフリッシュ・トラベルタのありとあらゆる情報が集まる、耳聡い情報屋たちが手に入れた情報を彼女が買い取り、それを必要とする別の客に売る。彼女はあくまで店内で聞いた情報を漏らさないだけだ、店外の情報屋から買い取った情報をどう扱うかのルールは彼女の中には無い。相手は慎重に選んでいるが、必要とあらば相応の対価を受け取り客の望むものを売るだけだ。

 そしてその事を客たちも承知の上で店を訪れている、そのため店の中で仕事の愚痴は話しても、仕事の内容について話す者はいない。話の幅が狭まり窮屈そうに思えるがその代わり他の話を客たちはするため、むしろ仕事の事を忘れられると客たちからは好意的に受け入れられていた。

「らしくねえな、そんなはっきりしない情報《もの》買うなんてよ。贖罪会の情報なんて高く付いたろ?」

「それがタダでいいって言うのよ、買ったと言うよりも押し付けられたって言った方が正しいわね」

 話によれば、バグウェットが店に来るほんの五分ほど前に電話がかかってきたのだと言う。
 電話相手は、情報を提供したいという旨を伝えると間髪入れずに贖罪会の話を始めた。贖罪会の情報などそう流れてくるものではなく、過去に流れてきた情報はどれもガセ情報だった。
 ましてや知りもしない人間からの情報、とてもそんなリスクのある情報は買えないとジーニャが伝えると、男か女かも分からない電話主は『たまたま耳に挟んだ情報だから代金はいらない』と言ってきた。

「自分では扱えない情報だから、そちらでお役立て下さいって」

「そういう奴もいるだろうさ。で、この情報いくらだ?」

「……あんた話聞いてた? こんな得体のしれない情報を買う気なの?」

 バグウェットは静かに頷く、その目はいつものように野暮ったいままだが瞳の奥にある熱をジーニャは感じていた。

「……このラインズって男と何かあったの?」

「このラインズってやつは……リウのいた孤児院の院長だ」

「……この事、リウちゃんになんて言う気なの?」

 彼女はバグウェットがリウの話を聞き何かしらの疑問を抱いた後、ここへその裏付けに戻ってきたと考えていた。あれだけ慕っていた父親が、まさか児童売買に関わっていたと知ればリウの精神的ダメージは計り知れない。
 彼女はそれを心配していた。

「あんたそういうの下手だからさ、思った事そのまんま言って喧嘩とかしちゃうか……も……」

 自分の言葉を聞いてどんどん居心地悪そうな顔になっていくバグウェットを見て、ジーニャは彼がもうやらかした後だと気付いた。

「ねえ、まさかもう喧嘩したの?」

「……した」

「あんたあの子に怒鳴ったの?」

「……怒鳴った」

「それでどうしたのよ?」

「……泣きながら飛び出していったよ。迎えに来たラインズと一緒に」

 ジーニャは開いた口が塞がらず、その場で立ち尽くしてしまった。バグウェットが器用な男ではない事をジーニャは知っていた、そんな場面はこれまでの付き合いで何度も見て来た。

「あんた、あの子になんて言ったの?」

「ラインズはろくな奴じゃないから一緒に行くなって言ったんだ、一緒に行ったら酷い目に合うとも言ったな」

 これは余りにもひどい、ジーニャはここまで目の前にいる男が不器用だとは思ってはいなかった。
 彼女にはリウの気持ちが理解できた、湯船の中で父親の事を話すリウの様子から彼女がどれだけ父親を愛しているか痛いほど分かったからだ。
 そんな父親を詳しい説明も無く非難されたのだ、反発するのも無理はないだろう。

「ほんっとに馬鹿ね、馬鹿だ馬鹿だと思ってたけどここまで馬鹿だとは思わなかったわ」

 返す言葉も無くうなだれるバグウェット、彼は一息でここまで馬鹿という単語を言葉に含ませられる女を他に知らない。
 
「代金はいらないからさっさと行きなさい、あんた依頼人《わたし》との契約を破る気なの? 別にそれでもいいけどね、あんたが女の子一人守れない無能ってだけの話だから」

「……うるせー女だな。分かった分かった、今から行くよ」

 バグウェットはだるそうに立ち上がり、また飲みに来ると言って入り口に向かって歩き出した。
 いつものように決して振り返らない彼の背中を、ジーニャは強く鮮やかに目に焼き付けていた。




「おかえりなさい、ずいぶんと長い買い物でしたね。もしかして僕の注文のせいですか?」

 シギはバグウェットが帰ってくるなりそんな嫌味を一つぶつける、彼は事務所で夕食の準備を進めていた。とはいえ男二人の食事のため、そこまで手の込んだものは用意されていない、簡単なサラダとパンは用意できているらしく後はキッチンから運び出すだけのようだ。

「シギ、悪いが夕食は後回しだ」

 その一言で全てを理解した、というよりかはこうなる事を知っていたようにシギは笑う。作ったサラダを冷蔵庫に入れると、バグウェットの差し出したリストを受け取り、彼はそれに手早く目を通し小さく笑った。

「なるほどなるほど、こういう訳ですか。バグウェットの人を見る目も馬鹿にできませんね」

「下手すりゃチャイルドホールとやり合う事になる、いけるか?」

 バグウェットの言葉にシギは吹き出した、自分に同意を求める男の姿がひどく滑稽に見えたからだ。

「いけるか? じゃないですよ、ただあなたは行くぞとだけ言ってくれればいい。それがあなたの役目でなんですから」


 二人はさっそく準備を始めた、部屋の中には銃を手入れする音と自分たちの声しかしない。バグウェットは、ぼやきながらマガジンに弾を込めていく。

「なんだってこんな事になっちまったかな」

「僕はこうなるって知ってましたけどね」

 シギはバックの中に弾薬を詰める、どうやら自分の分の銃の手入れはとうに終わっているらしい。
 
「元はと言えばお前のせいだからな」

「そんな事言ったってしょうがないでしょう?」

 二人は淡々と準備を終えた、シギの荷物はベルから渡された大きなバックに先ほど弾薬を詰めたバックの二つ、バグウェットは大きな紺色のボストンバックを肩にかけた。コートに銃をしまい、煙草を口に咥える。

「一つ聞いておきたいんですけど、これ仕事でいいんですよね?」

「ああ」

 煙草を吸いながらそう答えるバグウェットの横顔を見たシギは、口角を少し上げため息を小さく吐いた。

「とりあえず死なないで下さいよ。困りますから」

「俺は別に構わないがな、菓子の代金が浮くからよ」

 二人は自分の中から笑いが込み上げてくるのが分かった。
 これから二人が赴くのは間違いなく死地のはずだ、にもかかわらず二人は臆する事無く事務所の明かりを消し、扉を開け外に出た。
 二人は机の上にリウが忘れていった菓子の入った籠を思い出し、中に戻るとそこに入っていた菓子を口の中に放り込んだ。
 二人は飴を噛み砕き外に出る、バグウェットは事務所の扉にしっかりと鍵をかけた。
 

 戻ってきた時、泥棒に荒らされた部屋を片付けたくなかったからだ。
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