運命を知らないアルファ

riiko

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本編

48、ヒート明け

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 正樹を抱いては吐き出して、アラームで覚醒し口移しでアフターピルを飲ませる。そして正樹が疲れて寝ている隙に、正樹の中に吐き出した精を掻き出し、風呂へ入れて正樹の体を綺麗にする。

 目が覚めた時、簡単に取れる栄養食を食べさせる。

 つがいになる直前までは会話ができたのに、正樹はそれからのヒート期間はただただ俺に甘えるだけで、大した会話は成立しなかった。ただ、好き、気持ちいい、愛している、もう離れない、そんな単語をずっと言ってきて、本当に可愛かった。オメガのヒートはこんな感じなのか? 俺は正樹を抱けば少し理性が戻る、だけど正樹はすぐにフェロモンを強めて俺を誘うから、なんどか正気を失っては正樹を抱きつぶした。

 生活のなにもかもが止まった正樹の為に、なるべく動ける時は動いて、正樹に水分を取らせたり食事を入れたりと忙しかった。

 それでもこんなに幸せな期間がこの世の中にあるなんて、俺は知らなかった。

 俺のつがい、俺のオメガ、俺の正樹!! 

 そして洗濯ものなどを部屋の外にだして、新しいシーツやリネン類を受け取り部屋に戻った。俺のオメガの発情期に、誰かをこの部屋に入れたくなくて、俺はやったこともないリネンの交換をしていた。食事なども外に置くように手配して、ひたすらホテルの部屋の中にこもっていた。

 新しいタオルをもって、正樹の眠るベッドルームに行くと、正樹が目を覚ましてこっちを見ていた。そろそろ一週間がたった頃だったので、ついに発情期が開けたみたいだ。

 正樹の目はこちらを力強く凝視して、驚きの顔で俺を見る。ヒート中はずっと笑顔でとろとろの顔しか見せなかったから、これはきっと現実に戻ってきたんだと理解した。そして第一声が戸惑いだった。

「えっ、な……んで」

 やっぱりヒート中はちょっといっていたから、覚えてないか。じゃあつがい契約したところまでかな? 記憶があるのは。

 あの時はきちんとした口調で会話していたもんな。

「正樹、もうヒートは終わったよ、体は大丈夫? 少し乱暴にしすぎだね」
「何しにきた? 俺を笑いにきたの?」
「ん、どういうこと? なんで俺が正樹を笑わなきゃいけないの?」

 正樹は何を言っているのだろう、ちょっとわからなかった。 

「ふざけるなっ!! お前の思い通りになって良かったな、俺にアルファをあてがってつがいにしたんだろ? どこにいるんだよ、俺のつがいのアルファ様は、それとも契約だけさせて俺はこのまま放置か? それがお前の、俺に対する復讐か?」
「復讐って、なに? 正樹のアルファって……」

 正樹が腹を立てている? 復讐ってなんだ?? ここのところの正樹の思考は難しい、オメガの巣作りも、その存在を知らなかった俺には黒魔術にしか見えなかったし、まだなにかオメガしかわからない、何かがあるのか?

「運命だってことを黙っていて、お前の側に居続けた俺に対する仕返しだろ?」

 もしかしてヒートに入ってからの全てを忘れた? あんなにしっかりと会話をして、俺たち両思いになったはずなのに……。俺って正樹の中ではまだ犯罪者みたいな感じ? 辛い、辛すぎる。幸せ過ぎた一週間からの、ここまで落ちるなんて、俺めちゃくちゃ尽くしたのに、それの全てをリセットされてしまうなんて。

 ひど過ぎる!! 世のアルファはヒート明けにこんな辛い仕打ちが待っているの!? 勘弁してくれぇ――。

「はぁ、また一から話すの? ヒート中はうんうん言ってなんでも俺に従っていて可愛いのに、ヒート終わると全て無かったことになるとか、残念だよ」
「もういい。そんな残念な俺のことはもういいよ、俺のつがいが誰だろうともうお前には関係ないもんな、もういいだろ? 出ていけよ、俺も体が動くようになったら出てくから一人にしてくれ、そして今度こそ転校でもしてお前の前から一生消えてやるから」

 正樹の怒りは最高潮にきている、どうしよう。でもあんなに愛し合った後で俺から逃げるなんて言葉、俺だって許せなかった。お前は全て忘れているけど、俺と愛を交わしたのは間違いなく正樹本人なんだ。

「何をそんなに怒っているの? それにもう逃すわけがないだろ?」
「……いい加減にしてくれ、俺は一生を左右するつがい契約を了承なくされたんだ」

 了承とったけど……取りましたけどぉ!? まさか覚えてないとかなの? でも発情期に了承をとったのは、俺のミスだ。

「それは、謝る。だから機嫌直してほしい」
「随分勝手だな。普通に考えてこの状況で怒らない方がおかしいだろう? 俺は知らないアルファにつがいにされたんだ、それとももっと悲観的になった方が良かった? そういう顔見たくてこんな非道なことしたの?」

 正樹が泣きそう!? 大変だ!!! 知らないアルファってなんだよぉ、正樹の頭の中ではそんなストーリーが進んでいて、すでに物語が完結までしているの? 俺どんだけ悪人だったんだろう(涙)

「知らないアルファ? 正樹は、なにを勘違いしているの?」
「してない、運命を嫌うお前の運命だった自分のことはわきまえている。それに、もう運命の鎖は切れた、関係ないだろ」

 どうしよう、早く誤解を解かなきゃ!! 俺は慎重に物事を進めようと、落ち着いた態度をとるように努力をして、正樹に触れた。
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