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イギリス編
4、戸惑う心
しおりを挟む次の撮影はアルファ×オメガ、もちろんオメガを演じるのは僕。
アルファとオメガの初めてのデート、まだ肉体関係もない初々しい二人、それを演じる。そのためいつもの色気は封印しろと言われた。アルファが好きなオメガをデートに誘う、そういう爽やかカップル。アルファの手にはデートに相応しい、見るからにゴージャスな時計とそれとお揃いの少し小ぶりのオメガ用の時計、カップルや夫婦仕様に新しく作ったお揃いの品。新作ラインでも特に力を入れた商品らしい。
アルファが自分のオメガへの手首の束縛。まだ首にはネックガードがハマっているオメガ。そんな二人の唯一の繋がりをお揃いで装着して、手をつなぐ二人。リングには早いけどお揃いの宝石をあしらった時計というシチュエーション。
この撮影でまさかの類が照れた。
あれ? デートとかこういう雰囲気は慣れているように見えたのに、ちょっと可愛いな。初々しい二人をあえて作っているのか、本当に照れているのかはわからなかったけれど、この撮影も楽しく終わった。
最後の撮影は、素の自分を出していいベータの役どころ。今度はカジュアル路線の時計、休日気のおけない友と過ごす時間、そんなコンセプト。彼は休日に友人とひとときを過ごす気さくなアルファを演じ、僕は普通のベータ……まあ普通の人を演じる。ここでは思う存分話しながら撮影を進めるよう、先程みたいに類の笑顔を引き出せと言われた。仕方ないから僕から話をする。
「類はいくつ?」
「十七歳」
「えっ、学生ってまさかの高校生だったの?」
「違うよ、飛び級して大学通っている」
「へえ、やっぱり優秀だね、日本じゃ物足りなかった?」
「ちょっと、日本に居づらい状況を作っちゃってね、イギリスに逃げてきた」
「君みたいな人が居づらくなるなんて、一体何をしたの?」
どうせろくでもない事情でしょ。アルファが逃げるなんて、オメガを襲ってほとぼり冷めるまで海外で頭を冷やせ的なやつじゃないの? ビリーと親が友人ってことは、類はそれなりの家庭の子だろう。軽く聞き返した、本当になんの興味もなかったから、普通のトーンで。撮影用に笑顔を作りながら。
「好きな子が、目の前で運命の相手を選んだ」
「えっ……」
楽しい話どころか、今とてつもなくトラウマをえぐるような話をしていないか? 僕達は表情とは裏腹に全く笑えない話をしていた。そこでカメラマンのアマンダからストップがかかった。
「ちょっと二人ともなになに? 今は楽しむところだよ、どうして今更深刻な顔に戻しているの? コンセプト忘れた? 休日久しぶりに会った友人って設定だからね、さっきみたいに楽しそうな会話してくれなくちゃ」
「あ、ああ。アマンダごめんね」
僕はアマンダに謝った。
「アマンダ、俺が悪かったんだよ。笑えない話をしちゃったんだ、kai変な話聞かせてごめんね、もっと楽しい話しよう」、
「えっ、あ、うん」
類はそれ以上聞くなよという意味を込めて、話を終わらせたんだ。僕はいつになく動揺していた。だって、それは……僕がイギリスに逃げてきた理由と全く同じだったから。
その後の僕は調子が戻らずに、ついにベータの僕の撮影は延期となった。類はもう一日スケジュールをつけてくれるということになって、その場は終わった。
僕がうまく演技をできなかったせいで、リスケすることとなった。僕のマネージャーと類とで話をしている。椅子に座りアイスコーヒーを飲みながら二人を見ていた。話がついたみたいで僕のところに類が来た。
「カイ、ごめんね。俺が撮影中に変なこと言ったから、気を悪くさせてしまって」
「いや、違う。僕が悪い、プロとして情けない。類こそもう一回チャンスをくれてありがとう」
「やめてよ、チャンスだなんて。俺こそこんな美人にもう一度会える口実ができたんだから、むしろ嬉しいよ」
「はは、君はアルファらしくセリフがキザだよね」
その日はそこでお別れとなった。ビリーも僕に気にするなと言ってくれた。類が一日しかスケジュールが取れないと言ったのは、面倒なことは一回で終わらせたかったからだと言われたらしい。
「ルイから別日に撮影をしたらどうかと提案したってことは、むしろルイはkaiが気に入って、もう一度会いたいと思えたってことだよ!」
「そうかな……」
「でもkaiこそ珍しいね。そんなに表情が戻らなくなるなんて、なんか酷いことでも言われたの? ルイはそんな子じゃなくて本当にいい子なんだけどな」
「いいえ、酷いことを言ったのは僕のほうです。彼のトラウマをえぐったかも」
「……もしかして、イギリスに来た理由をルイは話したの?」
「ビリーも知っていたの?」
ビリーは驚いた顔をしていた。
「そう、アルファにとっては辛い出来事だったよ。番契約をしようしたその時に、相手のオメガの運命に奪われたんだ。まあ物語はそんな単純な話でもなかったんだけどね」
「な、なにそれ。そんな酷い」
「kaiにはわからないアルファとオメガの事情があるんだよ」
ビリーは僕がベータだからそんなことわからないだろうと思ったみたいだけど、僕には痛いほどわかる。
だけどそれは誰にも言わない……。
そんな過去、誰にも、絶対に言えない。思い出したくもないトラウマがまた胸を締め付けた。
「さあ、君は次の時までには気を取り直して撮影に望んで。知っていると思うけど僕は何度も失敗をする人は好きじゃない、君は大丈夫だね?」
「はい、次こそは間違えない」
「よし、それでいい」
ビリーは僕の頭を撫でてからその場を去っていった。僕は呆然とその姿を見送るしかなかった。
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