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イギリス編
8、海斗の過去 3
しおりを挟むそれからの我が家は荒れた。陸斗は番になったばかりに爽と引き離されて、毎日荒れていた。僕の婚約者を寝取ったことは全く気にしていないみたいだった。父は僕を想って爽を認めていいのか悩み、毎日訪ねてくる爽を追い出した。
僕もあれから何もできなくなって、まるで廃人のようになった。
ただ陸斗と同じ家にいるのも、毎日のように爽が訪ねてくるのも耐えられなかった。陸斗は次第に僕を責めるようになった、自分が番なのにお兄ちゃんのせいで番と引き離されたと……。
僕は弟から責められることも、両親から哀れな人を見るような同情も全てが嫌だった。食事は喉を通らなくなり一気に痩せた。そして生きていることに限界を感じ、キッチンにある果物ナイフを手に取ってそれをじっと見ていたところを母親に見つかった。
母は自殺かそれとも弟を殺そうとしているのか、きっとどちらも想像したのだろう。両親は僕たち兄弟のためにも同じ家に置いておくのは良くないと判断して、叔父夫妻の家に僕を預けた。
僕はいらない人間、その時の対応は僕を守るためだったのかもしれないがそこでも自己否定感はどんどんと強くなっていった。
爽からは僕に一切の連絡もない、謝罪もない。
爽は今、どうやって陸斗を手に入れるかで精一杯なのだろう。あまりの僕の落ち込みように見かねた叔父夫妻が、知り合いの写真家を紹介してくれて気分転換に写真撮影の手伝いをしてこいと言った。昔から写真が好きなのを叔父は知っていてくれた。僕はもう高校には行けなかったが卒業は確定していたので、学校には両親が事情を話して通学しなくても済むように手配してくれた。
撮影の手伝いなどをするうちに、少しずつ外に出られるようになった。両親は決して僕を放置したわけではなかった、その証拠に僕と陸斗を合わせるのは得策ではないと考え、二人は入れ違いに毎日僕に会いに来てくれた。
そんなある日、陸斗の妊娠が発覚した。そりゃそうだ発情期しかも運命同士、避妊しなければできるに決まっている、両親もあの時そんなことも頭に浮かばないくらいに参っていたのだろう、ただ番ができたのではなくて、三年付き合った長男の結婚相手が次男と一瞬で永遠の愛を誓ったその現場に居合わせたのだから。
仕方なく両親は陸斗を爽に預けた。陸斗の年ではまだ入籍はできないが、同棲を始めたと聞いた。だから家に戻ってこないかと言われたけれど、もう無理だった。あの二人が愛を誓った部屋があるあの家には……。
叔父が紹介してくれた写真家は、その時ちょうどイギリスで仕事が決まり、いい機会だから一緒に行こうと誘われた。向こうの大学に入りなおして、そして一から始めようと……僕はそれに頷いた。
あれから日本への実家には一度も帰っていない、もちろん両親とはたまに電話をするが、弟のことも爽のことも知りたくないし、どうしたってあの人たちの初孫なのだから、陸斗の子供は可愛いはずだ。
僕に気を使わせているのもわかるから、僕からはよほどのことがないと連絡はとらなくなり、いつしか両親からの連絡も受けつけなくなってしまった。
僕の親代わりをしてくれた写真家は、そのままイギリスにいて今でも家族みたいに接してくれて食事をしに行く仲だった。初めこそ一緒に暮らして僕をサポートしてくれたけれど、僕は言葉も覚えて学業もこなせるようになり、イギリスの生活に慣れて一人で暮らせるほどになった。あれから彼にも家族ができて今は一緒に暮らしていないが、それでも今ではこの人が僕の親だと思えるくらいになった。
陸斗と僕なら、僕の両親も陸斗をサポートするしかない、僕はいつまでたっても過去のトラウマから抜け出せずにいることになる、だからもう僕とは連絡を取らないで欲しいと言い、両親との連絡を絶った。
そして僕はイギリスで在学中にモデルにならないかと声をかけられて、今に至る。
爽と中学で出会い三年間友人として過ごし、高校に入る少し前に恋人となり三年後に裏切られた。そして僕に残ったのは、この疼く体だけだった。イギリスにきて女性と付き合おうと思ったが、その時初めて僕の本質を知った。
僕は流されて爽と付き合っただけで決してゲイではないと思っていた、相手が爽だから付き合っただけで、男に興味なんてないと思っていた。
だけど実際は男にしか欲情しないし、あまりに一人の期間が長くなると後ろが疼きだした。
やっと全てを忘れて前向きに生きようと思った矢先に、また過去を思い出す。爽に開発された、この体が憎かった。
僕はイギリスでも美しいと言われる顔だったので、凄くモテた。試しに声をかけられた男とベッドに入ると、それは最高に気持ちが良かった。その時だけ僕は爽を忘れられた、それは麻薬のようなもの。そこから声をかけられればベッドを共にした。でも付き合いだけは絶対にしなかった、もうあんな思いは二度としたくない、恋人じゃなければ裏切られたとも思わなくて済む、僕は一晩、もしくは体だけの相手を常に求めるようになった。
あれから四年、もういい加減に過去から解放されたいと願いながらも、恋の一つもできなかった。そしていまだに体だけの相手を探している。そんな日々を過ごした僕へのバチがあたったのかな、まさか僕と同じような経験をした人と出会うことになるなんて。
久しぶりにあの時のことを思い出して、僕はまた失敗をしそうになった。今はこの仕事しかない、ここで自分の存在価値を高めなくてはいけない、絶対に日本になんか帰らない‼
そう思い、僕はまた類を思い出していた。
彼はなにか吹っ切れているようだった、僕は久しぶりに人に興味が出てきた、僕だっていつまでもこんなふらついていてはいけないってわかっている、だから彼に聞きたい。そのトラウマをどうやって克服したのかを……。
ただそれだけだった。
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