運命を知りたくないベータ

riiko

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日本編

19、陸斗

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 披露宴の後、その足で病院へ行った。

 簡単にメールで書いてあった内容は、陸斗の目が覚めたのは今日で、自分はまだ中学生だと思っていたとのことだった。爽と出会ったところから全てを忘れている、だから子供を産んだことも、もちろん知らない。

 岩峰先生からは、子供のことは伏せておいた方がいいと言われた。ただ、今後の人生にも影響はあるしつがい解除の治療を続けるにあたって、つがい契約をして二人は解除を選んだということは伝えられた。そこでつがいとは縁が切れているから、今後は会えないとも伝えたと。

 岩峰先生いわく、陸斗と爽は修復不可能な関係だったと言っていた。だから元から知らない方が陸斗のためだと主治医として判断したと。

 類は待合室で待つと言ったが、陸斗が父から事情を聞いたとのことで、僕の婚約者にも会いたいと言うので二人で病室へと入った。そこにはベッドにいる陸斗と、椅子に座る母、そして主治医の岩峰先生がいた。

「お兄ちゃん‼」
「陸斗……久しぶりだね」
「うん、会いたかった。高校卒業したら帰ってきてくれると思ったのに、全然顔を見せに来てくれないんだもん」
「……陸斗」

 陸斗は無邪気な顔で僕を見た。凄く笑顔だ、最後の陸斗の顔はいつも僕を恨めしく見る顔だったから、驚いた。

「あっ、いたた」
「大丈夫!?」
「うん、なんか子宮の病気で手術したって聞いたんだけど覚えてなくて」

 陸斗がお腹を押さえて痛がった、出産したことも知らない。岩峰先生が同席していた、先生は僕を見て目で頷いた。母も困ったような顔をしてこっちを見た。

「陸斗君、まだ手術後で傷は癒えてないんだよ、あまりはしゃがない約束忘れた?」
「ごめんなさい先生、久しぶりにお兄ちゃんに会えて嬉しくて」

 岩峰先生が僕と類に言った。

「陸斗君、子宮の手術とつがい解除の後遺症が出て、記憶がつがいのできる前まで戻ってしまったんです」
「……はい」
「だからそのつもりで、話してくださいね。積もる話もあると思うから、僕はこの辺で」

 先生は部屋を出た、そして母が僕に説明した。

つがいに会う前まで記憶が戻ってしまったみたい、脳の異常もないから、やっぱりオメガにとってつがい解除は相当な負担になったみたいだって。でもこれから陸斗の治療は岩峰先生が見てくださるし、特に体も問題ないから大丈夫って、辛いことを忘れられたならそれが一番の治療だって言って下さって……」
「そうなんだ」

 陸斗が興味を隠せないらしく、僕の隣にいる類を見ている。

「ねえ、その人がお兄ちゃんの旦那さま? 凄くかっこいい、僕陸斗って言います。兄はとても優しくて頼りがいのある人なので、絶対幸せにしてください‼」
「ああ、ありがとう陸斗君。俺は櫻井類です。お兄さんのことは必ず幸せにするよ」
「うわっ、なんかいいなぁ」

 まるで以前の陸斗そのものだった。無邪気で可愛い僕の弟だった頃の。

「お兄ちゃん……笑っちゃうよね。僕の中ではまだ中学卒業間際なのに、そこから五年も先にタイムスリップしたなんて、なんだか自分の話じゃないみたいでびっくりで」
「最後の記憶がそこなの?」

 本当に爽と出会った日から忘れているんだ。それほどまでにオメガにとっては、つがいは大切な存在。それなのに、どうして二人はだめになってしまったのだろう。今となっては陸斗からその話を聞くことはできない。

「うん、お兄ちゃんに会えるのを楽しみにしていたんだ。岩峰先生のことも僕覚えてないんだけど、僕はつがいがいて、その人とつがい解除する治療していたんだって。僕の体感的にはまだ発情期も経験したことないのに、つがいだよ? びっくり過ぎて物語を聞いているみたいだった、つがいと上手くいかなくて僕は解除の後遺症でその人との記憶を失くしたんだって、でも僕としてはなんの経験もしてないつもりだからダメージないけど、もうつがいは作れないって聞かされて、それがオメガとしては致命的なのかもって思うと悲しいけど、でも仕方ないよね。きっと僕がダメダメで嫌われていたんだね」
「そ、そんなことない‼」
「お兄ちゃん?」
「いや、陸斗はダメな子じゃない。いい子だよ、ただ何もわからないような年齢でつがいができただけで……」

 本来のこの子は、こういう無邪気な子だった。僕がその未来を奪ったんだ、あんな幼い子にアルファと合わせることの危険性を考えなかった僕の責任だ。

 僕は思わず陸斗を抱きしめていた。母は隣で泣いている。

「お兄ちゃん? 大丈夫?」
「陸斗、これからはきっと幸せなことしかないよ」
「うん、お兄ちゃんがそう言うなら、きっとそうだね」

 類はそっと病室の外に出て、いつの間にか父を呼んでくれていた。父は僕たち兄弟を抱きしめて涙していた。きっとその涙から、陸斗は自分の状況を悟ったのだろう。わからないなりに、僕たちを抱きしめて大丈夫だよって言ってくれた。

 僕たち家族はようやく一つになれた。
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