28 / 31
本編
28、エピローグ
僕と楓の幸せは絶えず続き、あれからいくつもの季節が何度も何度も過ぎていった。
そして今日は祖母の三回忌、無事に終わりみんな帰り支度をしている。
「由香里、桜君がうちの子の面倒見てくれて助かったわ。さすが上條先輩の子ね、今から立派なスパダリが想像できる」
「陽子、こっちこそ桜と一緒にいてくれてありがとう。桜そろそろ帰ろうか!」
「うん、陽子ちゃん楽しかったよ、遊んでくれてありがとう」
「かわいい――、なんて可愛いの。また遊ぼうね」
桜は今年六歳になった。顔が楓そっくりで本当カッコいいけど可愛い! 僕の自慢の息子。
「梨々花にもよろしく言っといてね」
「うん! 梨々花ったらなんか泣きが入っちゃって亜香里さんの思い出話に、上條先輩のお母さんと意気投合しちゃってさ、まだ飲んでいるよ」
「ありがたいな。二人ともおばあちゃんの俳句仲間だったからね、おばあちゃんも天国で喜んでいるんじゃないかな」
祖母は番が亡くなったオメガとしては、長生きだった。僕の心配も終えてひ孫にも会えて私は幸せよって、亡くなる前に言っていたのが懐かしい。
思い出に浸ってしまい涙が出てくると、長男の桜がぎゅっと僕の手を握ってくれた。本当によく出来た良い子だった。
「ねえ、これからファミレス行かない?」
「ファミレスってなに?」
「桜は知らないか、お母さんは子供の頃よくおばあちゃんに連れて行ってもらったんだ。ハンバーグとかケーキとかオムライスも、なんでもあるところなの」
「行きたい!」
この子は生まれた時から上條だから、そういう庶民的なところに連れて行ったことがなかった。僕も楓と出会ってからは行動が制限されていた。危ないからあまり庶民的なところはいかないで欲しいと言われたからなんだけど、何が危ないんだろう。
でも楓と一緒なら、どこにでも連れていってくれるから不便はない。さすがに生粋のお金持ちの楓にファミレス行こうとはならなかったので結婚してから遠のいていた。なんだか今日は無性に祖母を思い出して、思い出の場所に行ってみたくなった。
楓に言うと、快く受け入れてくれて車に乗り、家族三人ファミレスに到着した。席に着く前に、周りの視線を感じた。
「こんなところに楓といると、やっぱり目立つね」
楓ははっきり言って極上のアルファだ、番だからとか贔屓目じゃなくめちゃくちゃカッコいい。そんな人がそっくりな顔の子供を抱っこしているんだよ、みんな見るよね? そして、こんな場所に慣れないであろう桜を抱きかかえた楓がキョトンと僕を見た。
「それを言うなら由香里だろう。由香里はいくつになっても高嶺のオメガのままだ。その辺の女なんか太刀打ちできないほど綺麗だよ。むしろ年々美しくなるから、俺心配で由香里をひと時も離せない」
「ん? 離したことないでしょ。たまに会社にも出張にも連れ回すくらい、僕たちべったりじゃない」
「そうだな」
僕たちは笑って席に着いた。僕の隣に桜を下ろすと桜は興味津々なのか周りをキョロキョロしていた。食事は先程、軽く済ませてしまったので楓はコーヒー。桜と僕で大きなパフェを注文した。
「亜香里さんは本当に素敵な人だったな」
「うん、最高のおばあちゃんだった。楓、僕だけじゃなくておばあちゃんのことも大事にしてくれてありがとう」
向いに座る楓が僕の手を握る。隣には、可愛い息子がパフェを目の前に驚いていた。芸術的な美しいパフェ、ではなくて少しだけ安っぽい豪快な見た目。そりゃ驚くよね、綺麗にカットされたフルーツじゃなくて、ケーキがアイスの上に乗っているんだもん! でもこれこれ、こういう子供騙しなご馳走が僕は大好きで、祖母と一緒に頬張ったものだった。懐かしさにじんわりしちゃったな。
「由香里、亜香里さんとの思い出の場所に俺と桜を連れてきてくれてありがとう。亜香里さんとこんな思い出があったなんて知らなかった。まだ由香里のことで知らないことがあってショックだったけど、これからもお前の全てを俺は知り尽くしていくからな」
「ふふっ、もうないと思うけど嬉しい!」
僕たちのいつもの夫夫ラブラブ会話が始まると、空気を読める息子は一人でパフェを頬張っていた。その時、桜がふと窓の外を見ていたので、僕もそこを見ると遠くの方で幼い子供が一人、桜の食べているパフェを見て目を輝かせていた。だけどすぐに寂しそうな顔でこちらを見た。
「桜、うまいか?」
「ん? うん、おいしい、お父さんは食べないの?」
「父さんは、お前と由香里の幸せそうな顔を見ているだけで満足だ」
桜の目線に気付かない楓が桜に話をふると、桜は父親を見て答えた。そこから二人はなにか難しい話をしていた。アルファとは何たらとかいう良く分からない楓のスパダリ論だった。幼い息子は真面目な顔で真剣に聞いていた。ほんとこの子真面目だな、そんなことを耳だけ傾けて、僕はその窓の外が気になってしまった。
すぐに大きな荷物を持った小柄な女性がその子に近寄り、子供は手を繋がれた。彼女はその子供が見ていた先を追うと、僕と目が合った。気まずそうに頭を下げた、子供は嬉しそうにその人を見上げたのできっと母親だろう。
その女性は子供と手を繋ぎ去っていった。日本人形という言い方がしっくりくる黒髪の美しいまだあどけない女性、子供は桜より幼くとっても可愛らしいが服に年季が入っていて擦り切れていた。もしかしたら貧困層なのだろうか。
きっとあの女性はオメガだ、オメガなら十代で子供を産むのも珍しくない。あんな可愛い子が子供と二人、大きな荷物を自分で持つということは、きっと番はいないのだろう。僕は楓といて荷物など持ったことがない、大体のアルファは過保護だ。それを考えると片親なのかもしれない、子供の切なそうな顔が僕の脳裏から離れなった。
もしかしたら僕だって、祖母があの時小湊に養ってもらうという決断をしなければ、あの親子のように祖母と二人ファミレスにも来られないような生活をしていたかもしれない。そう思うと祖母の決断には感謝しかなかった、愛する夫を亡くしたばかりに元婚約者を頼るなどしたくなかったはず、僕がいたからその決断をしてくれた。
もし楓が亡くなっても、僕一人なら達夫を頼らない。でも桜を露頭に迷わせてしまうと考えたらたとえ体を差し出しても桜を守る決意をしただろう、親になって初めて理解できた。プライドは必要ない、子供を守るためにはなんだってする、息子が出来たことにより、また祖母の偉大さを感じられた。
「由香里、どうした?」
「ん、なんでもないよ。桜にはどんな番ができるのか、今から楽しみだな」
隣に座る、パフェを食べ終えた桜の頭をぽんぽんって撫でた。
「そうだな、こいつも俺の子だ。きっと凄い運命と出会えるさ」
「運命か。僕みたいに運命と出会って幸せしかない、そんなオメガの子だといいな」
「任せろ、運命を見つけたらどう落とすか、俺が躾けるから」
「楓のやり方は、喧嘩にしかならないからやめてね。僕だってあの時の流れは怒っているんだからね。まぁ結果今は最上級に幸せだから許したけど、根には持っているからね」
「由香里――ぃ」
楓はオロオロとしだすと、たちまち桜が笑って仲裁に入ってくれる。
「お母さん、お父さんが外でもこんなんじゃ僕恥ずかしいから、許してあげて」
「桜はいい子だね、もう許してあげることにするよ!」
「由香里ぃ、桜も、ありがとう! 愛している」
とまあこんな具合に、ヤンデレアルファも躾けたらただの番に甘いだけのアルファに成長するんだよね。
『ヤンデレも 躾次第で あまえんぼ』
うん、おばあちゃん! 今日も僕の俳句のセンスはまるでないけど、上手くまとまったと思わない? 僕はもうおばあちゃんに守られるだけのオメガじゃないよ、もう大丈夫。おばあちゃん、おばあちゃんがいなくて寂しいけど、僕には新しい素敵な家族がいるからね。
おばあちゃんは、天国でおじいちゃんとお母さんと幸せに過ごしているよね?
目の前の愛おしい夫と息子を見て、僕は今日も幸せをかみしめていた。
―fin―
あなたにおすすめの小説
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った
こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。最後におじいさまの番外編を追加しました。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。