29 / 31
番外編
愛妻家上條楓の日常 1
早朝の外の明かりが寝室に入り込んでいた。目が覚めると隣には寄り添うようにくっつく最愛の妻がすやすやと夢の中にいた。いつも思う、この瞬間が幸せだって。
「ん――、かえでぇ」
「ん?」
「今夜のデザートはねぇ、むにゃむにゃ」
ふふっ、いつもの寝言か。何を買って帰れば良いのか、たまに教えてくれるから助かる。そしてそれを仕事帰りに持って帰ると、なんで僕の欲しかったものが分かるのって、由香里が喜ぶ。
俺は番だからだよっていうけど、由香里がこうやって教えてくれるのからだ、それは秘密だけど。さて今夜のデザートは何がいいのかな?
「ふふふ、僕だよぉ」
「ぐほっ」
「かえでぇ、好きぃ――」
またモゾモゾと俺に擦り付いてくる。こいつは確信犯じゃないのか!? 今夜食べてくれと言っている。今夜と言わず、今すぐ襲いたい。だめだ、それをしたらまた怒られる。
前に寝起きにすぐはじめたら、その時は由香里もノリノリでつい会社に行くのも忘れて、というかその日は重要な案件がなかったから午後からでいいやと早々と、由香里と午前中いっぱい致すと決め込んだ。
そして午前10時、由香里がうっとりした顔で俺を見ながら言った。今何時? そして俺は普通に時間を告げると。
「なにやってんの!? 桜は! 桜の朝ご飯、それに幼稚園も!! あぁ大変だ、楓のバカァ! あ、動けない、楓ぇ、息子ほったらかして朝からなにやってんの!!」
由香里が泣き出した。
「ゆ、由香里、落ち着け」
抱き過ぎた自覚はある、さすがに由香里の今日はベッドで過ごすことになるだろう。由香里が動かない体で涙を溜めながら俺を恨めしそうに見る、その顔もたまらなくセクシーで好きだ。いや、由香里をなだめなくては!!
「楓の魅力に負けた僕も悪いけど、僕たちは親なんだよ、それなのに大事な息子にご飯もあげずにスルことじゃないでしょ!! 早く桜を見てきて!」
「桜はもう幼稚園に行った。飯も食わせた、由香里がイッて少し落ちている間に、桜の支度は済ませていつものように伊藤に幼稚園に送らせたから大丈夫だ」
俺の魅力に負けた? 可愛いことを言う。俺の方が負けっぱなしだけど、体力があるし俺の方が状況判断能力も高い、もちろん一人息子も愛しているからネグレクトなんてするはずない、そこは抜かりなくこなしておいた。聡い桜は母親が起きてこないことは、俺の執着度が高い日だと分かっているから、母と会えなくとも変わらず朝を過ごし、運転手の伊藤と仲良く幼稚園に行った。本当に出来た子だ。
「そうなの? ありがとう、ごめん。言い過ぎた」
「いや、いいよ。俺こそ由香里の魅力に負けて朝から無理させてごめんね。今日は一日ゆっくりしていて」
「う、うん。でも僕、桜に今日会ってないから寂しい。幼稚園にこっそり見に行こうかな」
「だめだ! いや、いつも言っているだろう? 俺がいない時のお出かけはダメだって」
「でも伊藤さんの車で行くならいいでしょ? 毎朝愛おしい楓の遺伝子を見ないと、僕の朝は始まらない。楓と桜を愛しているから、分かるでしょ?」
いや、全然分からん。俺は由香里さえ見られればそれで満足だ。そりゃ、桜は可愛いけど俺にとっての一番は由香里だから、でも由香里は俺も桜もと一番が二つある。解せない。子供はいつか巣立つのに、どうしてそんなに毎日確認しなくてはいけないのだ。
「ねぇ、かえでぇ」
「ぐっ、その顔で見るな。可愛すぎる、じゃぁ俺が会社に行く前に一緒に幼稚園に訪問しよう。桜は可哀想だけど今日は早退させて、由香里と家に帰す。それなら今日のお外を許すよ」
「えっ、そんなことしたら、桜に嫌われちゃうじゃん!!」
「でも、迎えに行く以外に幼稚園に行くなんて、勝手な保護者と思われて桜が幼稚園で肩身の狭い思いするぞ、だったら家の用事で迎えにきたって言うしかないだろ」
「う――、じゃあ桜が帰ってくるまで我慢する」
悔しそうに由香里はぶすっとして言った。そんな顔すら愛おしい。俺は由香里の顔を撫でた。
「くすぐったいよ」
「由香里はいい子だ。俺の息子を愛してくれてありがとう」
「何言っているの、僕の息子でもあるし。もちろん最愛の楓の子供だから特別愛おしいんだろうな――。あの子は本当に可愛くてカッコいい!! でも楓にそっくりすぎて将来が少し心配になる」
「なんで心配なの?」
「だって、楓かっこいいし。モテたし、将来楓みたいに手当たりしだい遊ぶような子になったら僕泣いちゃうよ」
「え、あっ、でもそれ由香里と出会う以前の話だし、今では誰もが認める愛妻家だよ?」
「そうなんだけどね、ふふ。桜はほんと可愛いよね、いつも僕と過ごしてくれて楓がいない時でも僕寂しくないのは、桜のおかげだよ」
「あまり桜のことばかり褒めると、実の息子でも嫉妬はするんだよ」
由香里は桜を溺愛しすぎている。それは俺にも責任はあるけど、由香里が美しすぎて心配なんだ。子供を産んでからもどんどんキレイになる、だから俺は俺と一緒じゃなければ外出は許していない。桜に構うしかない状況は俺が作ったようなもんだ。
由香里の親友二人はそれを知っているから頻繁に我が家に遊びに来てくれる、それは俺も許している。みんな結婚をしても、子どもを連れてお茶をするような可愛らしいオメガ同士の交流はいまだ続いている。もちろん我が家の中での限定だけど。たとえ親友三人でもオメガだけでは外に出さない。あの二人の旦那ともそこはタッグを組んで決め込んでいる。理解あるアルファ男性とアルファ女性が二人の番で助かった。
由香里は一人での外出を許されなくても、すねたことはない。俺がいない間は、それなりに家でも楽しめるようにはしている。俺が休みの日は由香里も桜も疲れるくらい外に連れ回して楽しませるから、それでまた平日家に籠もっても問題ないようだ。俺の休日の家族サービスは抜かりない、それは愛する家族が家で過ごしても満足するように休日で疲れさせる計画だが、それなりにみんな仲良く楽しめるのでそんな一週間の流れは悪くなかった。
でも愛する妻を占領する桜にはたまに嫉妬する。俺は少し不貞腐れた顔をしてそう言うと、由香里は笑った。
「もう、可愛いヤンデレさんだね。そんな心配いらないの分かるでしょ。愛してる、楓」
「俺も愛してる」
***
そんな懐かしいことを思い出していたら、俺の愚息もオッキしてきた。すると目覚ましのベルが鳴ったので俺は急いで目をつむった。
「ん、んん――」
由香里が起きたようだ。俺に気を遣ってすぐに目覚ましを止める。いつも寝ている俺にギュッて抱きついてから、まだ眠そうな吐息を吐いて起きる準備をするのが毎朝の流れ。そして俺の唇に由香里の唇が軽く触れる。毎朝の寝起きのキスは俺が寝ていてもしてくれる。実は、俺はそれが楽しみで由香里よりも早く目が覚めてしまうのだ。
由香里は寝ている俺にキスをしているのを知られていないと思っている。前にその流れで濃厚なキスをし返したら、由香里が驚いていた。それを察知してまた寝たふりをしたら、由香里がホッとしたので、これはオメガの嫁が秘密にしている行為なのだと悟った。知られたことで毎朝のこの行為がなくなるのは辛いから、知らないふりをして毎朝寝起きの由香里の唇を味わっている。たまに舌をこっそり入れてきてくれる日もあるが、今日はバードキスの日だったらしい。
由香里はささっとベッドを出て、俺たちのために美味しい朝食を作ろうと頑張って起きてくれた。きっと眠い目を擦っているのだろう。少しして寝室を後にした。
そんな上條家の朝の習慣に、今朝の俺も大満足だ。いつもと違うのは、寝言のせいで朝から自己処理をしなければいけなくなったことくらいだったが、それも由香里を想う時間なので幸せだった。
あなたにおすすめの小説
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った
こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。最後におじいさまの番外編を追加しました。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。