運命の番は姉の婚約者

riiko

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第二章 男を誘う

15 初体験の後

 隆二はすやすやと、爽を抱きしめながら寝ていた。彼の体温を背中に感じながら爽の目が開く。今は、夜中? まだ朝の光が入ってこない。窓にカーテンがないのは、高層過ぎて誰もこのベッドルームを見ることができないからだろうかと考える。外はネオンがキラキラと光り輝いていた。
 一体どれだけの人間が、今現在こうして誰かと事後をすごしているのだろうかと、変なことを考えてしまう。
 隆二のリズムのいいスウスウという寝息を聞いていると、また夢の世界に戻ってしまいそうになる。体は確実に今まで経験したことのない疲れを感じている。ベッドの住人になりたいという気持ちもあるし、なにより隆二に包まれているのが心地よかった。しかし、恋人でもない一夜の関係の相手と朝を迎える勇気は爽にはない。文字通り一夜の相手にするためには、まだ夜が明けない今この場を離れるべきだった。
 目覚めの朝を一緒に過ごすなど、互いに心臓に悪いだろう。
 それにしても初めてだというのに、痛さはあったものの、全てが気持ちよかった。このまま隆二の胸で一生を過ごしてしまいたいと思ってしまうくらいに、爽は安心して快楽に身を任せることができた。
 隆二と体を合わせている間、運命の男を思い出すことがなかったことに驚いた。心は運命の男を求めているわけではないのだろうか。
 違う男に抱かれるとき、もしかしたら運命の男を求めて泣くのかと思ったら、そんなことはなかった。いや泣いたのは確かだが、それは初めての快楽に心も体もついていかなくて、ただの自然現象の涙だった。昨夜の爽は、必死に心も体も目の前の隆二に向かっていた。
 きっと初体験の相手だから、なにか心がバグを起こしているのだろう。そう思うことにして、隆二の腕を体からそっと外した。互いに裸、しかも体からは石鹸のいい香りがする。最後は風呂で気を失った記憶があるので、髪に寝癖がついていないとこを見ると、ドライヤーまでかけてもらったらしい。随分と丁寧に扱ってもらったことに、爽は急に気恥ずかしく感じた。
 隆二から開放されると、ベッド脇に掛けてあった服を着た。下着まで畳んである。帳面な男なのだろうか? 勢いよく脱いだはずの服は、シワひとつなく整っていた。
 ベッドルームを出るときに、そっと隆二の寝顔を見た。運命の男に負けないくらいの美男子と寝ることになるとは、人生わからないものだ。そこら辺の適当なベータを捕まえるつもりが、ひょんなことから上位の男をひっかけてしまったらしい。というか引っかかった? 爽からは特になにもしていないような、流れに身を任せて誘ったくらいだから。爽こそがむしろひっかかったオメガだ。それならと、罪悪感に浸る必要なく、きれいサッパリこの場を去ることができるだろう。
 心の中でそっと「さようなら」とつぶやいた。そしてその部屋を出た。

 日曜は疲れた体を癒すために寮に引きこもり、翌朝にはすっかり体調も戻ったので、予定通り月曜の朝は出勤した。そこで、金曜にバーに一緒に行った同僚の小高と会った。
「おはよう、三上君」
「おはよ」
「三上君、金曜の夜はどうだった? 僕はもう最悪だった! あのベータいきなり変な薬出してきてヒートエッチしたいとか言ってきたんだよ。僕は怒ってすぐ帰ったけど、そっちはどうだった? 一応電話したけど繋がらないから心配していたんだ」
「そうだったんだ。ごめん、電話放置していて見てなかった」
「ううん、でも昨日は寮にいたみたいだから安心はしていたけどさ」
 一緒にバーに行った小高は、相手の質の悪さに怒っていた。爽の方も酒を飲まされて酔い潰したところホテルに連れ込まれそうになったことを話した。小高はその話を聞くと泣きそうな顔をしてきた。責任でも感じたのだろうか。爽は慌てて急いでその続きを話した。揉めているところ通行人に助けられことなきを得たということまで言うと、小高は安堵の顔を見せた。
 奔放な割にまともでいい人らしい。
「良かった。僕のせいで三上君の処女があんな奴らに奪われたかもって思ったら、僕。でも良かった、純血は紳士な通行人に守られたんだね」
「……」
 守られてはない。翌日に全く別の男と初体験をした。そこまでは流石に言わなくてもいいだろうと思い、爽が苦笑いをすると始業のベルがなった。
 小高にまた週末、男漁りしに行くかと誘われたが、もう一人で大丈夫だと言って断った。また変な男をひっかけることになって、心配させるのも悪い気がするし、一人経験したのだから、しばらくは彼の子供が着床するかを待てばいいと思っていた。
 なんとなく、あの男の遺伝子ならすぐに妊娠しそうな気がした。
 あれから、すぐにいつものヒートがきた。ということは、男のモノは着床しなかったらしい。オメガはヒート中なら百パーセント妊娠できるのだから、このヒート期間に男漁りに行けば良かったものの、今回のヒートは少し酷かったので外出するのは怖くてやめた。
 いつもの通り、ヒート中は姉の男を思い出していたのだが、それは最初だけでだんだんと一度だけしか寝ていない隆二が思考の中に入り込んできた。
(爽、いやらしい爽のお尻、可愛い蜜がでてる)
「あ、だ、だめええ」
(僕のキスと愛撫だけで、そんな感じちゃうの?)
「あん、気持ちいい、もっと強くっ、」
(もっと、声聞かせて、そう、可愛いよ)
「あ、あん、あん、あああ、りゅうじぃ」
 最中の会話の彼の声を思い出していた爽は、なんども前も後ろもいじった。初めての経験は、ヒート中の思考にも変化を与えていた。それは喜ばしいことなのかわからない。ただ、ヒート後の罪悪感が少し和らいだ。いつもは、姉の彼を想像して抜いていたので、ヒートが終わって冷静さを思い出した時、死にそうな気分になっていた。それがないだけましだったのに、発情自体は前よりも強くなった気がした。
 オメガのこの体の仕組みが、爽にはいつまでもよくわかっていなかった。

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