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6 戻れない
潤は風呂から上がり部屋に戻ると、テーブルでパソコンを開いている健吾を見る。やはり相当な男前だと思ってしまった。
スーツを脱いでワイシャツの袖をまくる手が逞しくて、ついつい見とれてしまう。その手に先ほど後ろから抱きしめられていた。子どもの頃は何とも思わなかったが、五年ぶりに再会して触れ合うとあの頃とは明らかに違う気がした。潤の視線に健吾が気づく。
「潤? そんな恰好で湯冷めするぞ」
「え、ああ、うん」
潤はボクサーパンツ一枚にバスタオルを肩にかけていた。家では風呂上りにこんな格好をして、湯冷めするから服を着なさいと父からよく注意されている。健吾はいつも夜遅くに帰ってくるので、風呂上がりの潤の姿を見たことがなかったのだろう。驚いた顔をしていたが、言うことが父親と一緒だと思うとなぜか安心する潤だった。
潤はホテルのブランド名が刺繍された膝まである薄手のパジャマを着る。その間に、健吾はシャットダウンをしたノートパソコンを閉じた。
「仕事?」
「ああ、少しだけな。もう終わったよ」
「じゃあ、健吾もお風呂入ったら? あ、健吾どっちに寝る?」
部屋のベッドを指さして、潤は健吾に問う。
「どっちでもいいよ」
「じゃあさ、久しぶりに一緒に寝ちゃう?」
「え?」
「だって、このベッド大きくない? 二人でも余裕で眠れるよ」
潤はそう言って手前のベッドの布団をめくると、その中に入って手を伸ばしてみた。その潤を見た健吾は一瞬だけ時が止まったように動きが固まる。そして、まるで甘い蜜に誘われるように、条件反射で近づく健吾は誘われるままに潤の手を取ると、潤は微笑む。
「なんか昔を思い出さない? 二人きりだと、あの頃を思い出しちゃう。僕の本当の両親が亡くなったばかりの頃、寂しくて僕いつも泣いて、健吾が一緒に寝てくれたのがすごく嬉しかったんだ」
「潤……」
「お父さんとお母さんは優しかったけど、今思うと二人は僕との距離の取り方に悩んでいたよね。だから年の近い健吾がずっと僕と一緒にいてくれた。僕、ほんとに健吾が好きなんだ。だから、この旅行一緒に来てくれてすごく嬉しい」
そこで健吾がハッとしたように、潤の手を離す。
「悪い。俺、お前とこれ以上一緒にいれない」
「え?」
今までいい雰囲気だっただけに、いきなりの拒絶に潤は驚く。
「部屋もうひとつ取るから、お前はもうここで休め」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ごめん、ふざけすぎた。もう一緒に寝ようとか言わないから」
急いで出て行こうとする健吾を、潤は引きとめようと起き上がり腕を取る。さすがに成人した男が一緒に寝ようと言ったことで気分が悪くなったのかもしれないと思い、すぐに謝った。すると思いっきり腕を払われてしまい、潤はバランスを失いベッドに倒れる。その力強い拒絶に、潤は本気で驚いた。
「な、なんで」
「お前とは、もう同じ部屋にはいられない」
健吾の言葉に、潤は血液が一気に下がっていくような感覚になる。
「どうして、だって、僕たち仲のいい兄弟だったじゃん。なんで今さら引き離そうとするの? 大人になったら他人になっちゃうの? 同じ部屋にいられないくらい、疎ましく思ってるの? 僕は本当の弟じゃないから、だから、健吾は僕を――」
潤は疑問をまくしたてた。
「違う!」
自分から振り払った手を健吾は見つめて、苦しそうに大きな声で言う。潤はベッドに座り込み、健吾を見上げて縋った。
「じゃ、じゃあなんで? どうして健吾は日本に帰ってきてからそんなによそよそしいの? もう元には戻れないの?」
「ああ、戻れない。初めから俺たちは兄弟なんかじゃない」
「え……」
潤にとって、その言葉はあまりにも衝撃的だった。自然に涙が出てくる。
血の繋がった兄弟よりも、本当の兄弟だと思っていた。よその家庭より断然仲がいいと、周りに自慢するくらい二人の関係は良好だった。それなのに、そこまで拒絶される理由がわからない。少なくとも、出会った頃から健吾がアメリカに行くまでは、いつも一緒にいた。
だからこそ、あの頃から兄弟ではなかったなどと言われたくなかった。
スーツを脱いでワイシャツの袖をまくる手が逞しくて、ついつい見とれてしまう。その手に先ほど後ろから抱きしめられていた。子どもの頃は何とも思わなかったが、五年ぶりに再会して触れ合うとあの頃とは明らかに違う気がした。潤の視線に健吾が気づく。
「潤? そんな恰好で湯冷めするぞ」
「え、ああ、うん」
潤はボクサーパンツ一枚にバスタオルを肩にかけていた。家では風呂上りにこんな格好をして、湯冷めするから服を着なさいと父からよく注意されている。健吾はいつも夜遅くに帰ってくるので、風呂上がりの潤の姿を見たことがなかったのだろう。驚いた顔をしていたが、言うことが父親と一緒だと思うとなぜか安心する潤だった。
潤はホテルのブランド名が刺繍された膝まである薄手のパジャマを着る。その間に、健吾はシャットダウンをしたノートパソコンを閉じた。
「仕事?」
「ああ、少しだけな。もう終わったよ」
「じゃあ、健吾もお風呂入ったら? あ、健吾どっちに寝る?」
部屋のベッドを指さして、潤は健吾に問う。
「どっちでもいいよ」
「じゃあさ、久しぶりに一緒に寝ちゃう?」
「え?」
「だって、このベッド大きくない? 二人でも余裕で眠れるよ」
潤はそう言って手前のベッドの布団をめくると、その中に入って手を伸ばしてみた。その潤を見た健吾は一瞬だけ時が止まったように動きが固まる。そして、まるで甘い蜜に誘われるように、条件反射で近づく健吾は誘われるままに潤の手を取ると、潤は微笑む。
「なんか昔を思い出さない? 二人きりだと、あの頃を思い出しちゃう。僕の本当の両親が亡くなったばかりの頃、寂しくて僕いつも泣いて、健吾が一緒に寝てくれたのがすごく嬉しかったんだ」
「潤……」
「お父さんとお母さんは優しかったけど、今思うと二人は僕との距離の取り方に悩んでいたよね。だから年の近い健吾がずっと僕と一緒にいてくれた。僕、ほんとに健吾が好きなんだ。だから、この旅行一緒に来てくれてすごく嬉しい」
そこで健吾がハッとしたように、潤の手を離す。
「悪い。俺、お前とこれ以上一緒にいれない」
「え?」
今までいい雰囲気だっただけに、いきなりの拒絶に潤は驚く。
「部屋もうひとつ取るから、お前はもうここで休め」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ごめん、ふざけすぎた。もう一緒に寝ようとか言わないから」
急いで出て行こうとする健吾を、潤は引きとめようと起き上がり腕を取る。さすがに成人した男が一緒に寝ようと言ったことで気分が悪くなったのかもしれないと思い、すぐに謝った。すると思いっきり腕を払われてしまい、潤はバランスを失いベッドに倒れる。その力強い拒絶に、潤は本気で驚いた。
「な、なんで」
「お前とは、もう同じ部屋にはいられない」
健吾の言葉に、潤は血液が一気に下がっていくような感覚になる。
「どうして、だって、僕たち仲のいい兄弟だったじゃん。なんで今さら引き離そうとするの? 大人になったら他人になっちゃうの? 同じ部屋にいられないくらい、疎ましく思ってるの? 僕は本当の弟じゃないから、だから、健吾は僕を――」
潤は疑問をまくしたてた。
「違う!」
自分から振り払った手を健吾は見つめて、苦しそうに大きな声で言う。潤はベッドに座り込み、健吾を見上げて縋った。
「じゃ、じゃあなんで? どうして健吾は日本に帰ってきてからそんなによそよそしいの? もう元には戻れないの?」
「ああ、戻れない。初めから俺たちは兄弟なんかじゃない」
「え……」
潤にとって、その言葉はあまりにも衝撃的だった。自然に涙が出てくる。
血の繋がった兄弟よりも、本当の兄弟だと思っていた。よその家庭より断然仲がいいと、周りに自慢するくらい二人の関係は良好だった。それなのに、そこまで拒絶される理由がわからない。少なくとも、出会った頃から健吾がアメリカに行くまでは、いつも一緒にいた。
だからこそ、あの頃から兄弟ではなかったなどと言われたくなかった。
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