ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第四章 番

79、夏休み 2

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 勇吾さんとジジイのスケジュールが既に組まれていたと言い、なんとか夏休みの全てを先輩に捧げなくて済んだ。

 かという先輩も仕事が目一杯入っていて、どちらにしても俺と過ごせるのは夜だけになるって話だったから、お互いに擦り合わせて、先輩がなんとか休みを勝ち取ったという十日間を一緒に過ごすという話でまとまった。

 しかし先輩がどうしてもそれだけじゃ嫌だと言い、先輩の仕事が終わったら迎えにきてもらって、週一でお泊まりをするという約束までさせられた。

 俺は旅行経験が無いという話をしたら、ぜひ自分のお気に入りの場所に連れていきたいと言われ、マンションに囲われることは無くなったのでホッとした。

 ん? でも十日間、俺、旅行先で部屋から出してもらえるのか? そっちも不安になった。

 修業式が終わるといったん勇吾さんの家へと帰った。先輩との旅行は月末の約束なので、少しの間は性欲大魔王から開放だ! 俺はるんるんで勇吾さんの家へと向かった。

 岩峰家に着くと俺の最愛の人、絢香が俺の帰りを今か今かと待っていてくれた。

「絢香! 岬!」

 上機嫌の俺は岩峰邸に入ると同時に、俺を玄関で迎え入れてくれた二人に抱きついた。

「きゃっ、りょう君、お帰り――」

 俺に抱きつかれた岬が、少し驚いていたがそのまま俺をギュってしてくれて、絢香もクスクスと笑って俺を包み込んでくれた。

「良、夏の間やっとあなたと過ごせるのね。あなたの十代は、私が全て独占するつもりだったのに! 高校生になってくれて嬉しい反面、寂しいわ。これからは毎日抱きしめさせてね」
「もちろんだよ、絢香! また一緒に過ごす日々が楽しみでしょうがなかった! 愛している」
「ふふ、私もよ!」
「僕もだよぅ――」

 すかさず岬も食いついてきた、可愛いな。

「あぁごめんね、岬も大好きだよ! 二人に会えば、俺の幸せはここにあるんだって実感できる」

 俺も初めて絢香と離れて暮らし、学園に入ってからは少ししか会えなくて寂しかった。安心する絢香の優しい香りが、俺の精神安定剤にもなっていたのを思い出した。

 最近では先輩の濃厚な深い香りに落ち着いてしまっていたが、この優しい絢香の匂いはとても懐かしかった。

「週末は帰ってきているのに、なんだかすごく長い間離れていた気がする……高校入る前は絢香とはずっと一緒だったからかな」
「そうね、あなたは濃厚な日々だったし、私も華の子育てで追われていたから。でもまた毎日一緒にいられるわ! 忘れないでね、良は私のお薬で良の薬も私よ」
「ふふ、そんなの忘れるはずがないよ。あ――絢香の匂いが一番落ち着く」

 夜には勇吾さんも帰ってきて、みんなで楽しく過ごす。俺と岬は夏休みで絢香も家にいるけど、勇吾さんは仕事だから普段通りだってぼやいていた。

 その夜、俺は勇吾さんの部屋を訪ねた。そこには風呂上がりの清潔感あふれる大人の男がいた。濡れていてとても愛らしくもある。

「良太くん、どうぞ、座って」
「ふふ、勇吾さんまだ髪濡れているよ? ちゃんと乾かさないとだめだよ、だから寝癖つくんだよ――、ははっ!」
「……それ、よく看護師長にも言われるんだよね、どうも僕は仕事以外がダメな人間のようでね、君たちには感謝しているんだよ。こんなダメ親父と二人じゃ岬の教育にも悪いしね。あの子はどんどん明るくなる。良太君と絢香さんのお陰だよ」

 そう言いながらも、タオルでガシガシと拭き取るだけって、また勇吾さんっぽくて可愛い。

「勇吾さん、俺この夏休み学園から出られてホッとしているんだ。叶うことならずっと勇吾さんの家に居たい……無理な話だけどね」

 勇吾さんは隣に座って少し濡れた手で、俺の頭を撫でてきた。

「良太君が望むなら、それでも構わないよ」
「ふふ、勇吾さんは俺に甘いよね。でもそれはもう無理だって。つがいになって初めての週末に帰れなかった時、先輩からは逃げられないって自覚した。勇吾さん達に危険が及ぶようなことを俺は選べないよ」
「やっぱり、あの時彼に脅されていたんだね。良太君、君は本当になんて人に捕まってしまったんだろう。もう少し待っていて、必ず薬を開発して君を救いだすからね」

 撫でていた手が、頭から顔、そして首元に下りてきて、俺を猫でも触るかのようにさわさわと撫でている。思わずピクっとしたら勇吾さんが笑った。

「ごめんね、あまり無防備な顔して僕をその気にさせないで。君が手に入るのはまだ先だから」

 俺は首を撫でている手を握りしめて頬をすり寄せた。そしてその手に口づけをして、勇吾さんにそのまま抱きついた。

「勇吾さん、好き」
「嬉しいこと言ってくれるね、僕も好きだよ」

 なんだか俺の中で男に抱きつく、甘えるという行為のハードルが下がった気がする。

 勇吾さんが首元で囁いた時に、少し勇吾さんの唇が俺の首元にあたってしまい、俺はどうしようもない寒気に襲われた。それに気づいた勇吾さんがあわてて俺を引き離した。

「あっごめんね! つがい持ちのオメガにとってうなじの近くはダメだった。気持ち悪くなったよね? 大丈夫?」

 つがいをもったオメガは、たとえどんなに好意を寄せている相手でもつがい以外がうなじを触るとたちまち嫌悪感でどうしようもなくなる。勇吾さんはオメガ専門の医者だからよく知っている。それなのに二人の睦言で、お互いに忘れていた。

 良い雰囲気だったのが、たちまち医者と患者に変わってしまう。

「大丈夫、ごめんなさい。俺、勇吾さんを受け入れたいのに、気持ちは大好きなのに、なんで体はこんなに拒絶しなくちゃいけないんだろうね、悲しくなる……」
「僕も好きだよ。大丈夫、いつかきっと触れ合える日がくるから、僕を信じて待っていて」
「うん」

 本当はまだくっつきたくないって、俺の体が拒絶を起こしているけど、頑張って勇吾さんに触れるだけのキスをした。

「良太君……」

 触れ合うくらいなら大丈夫なのは、初めて勇吾さんにキスされた時に知った。だけど、それ以上はとてもできない。きっと拒否反応が出るに決まっているし、医者の勇吾さんがそれを許すはずもない。

「いつか、もっと、濃厚なキスできるように頑張ってね、旦那様!」
「ああ、君と夫婦になるために薬の開発頑張るからね、辛いのにありがとう。キス、気持ちよかったよ」

 勇吾さんの優しさと、その言葉に俺は嬉しくなって、また、好きって言って微笑んだ。
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