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第四章 番
81、夏休み 4
しおりを挟む先輩との情事は奇跡的に一回で終わった。
満足したのかなって思っていたら、それに気づいた先輩がまだ夜もあるからねって言った。なんだ、昼にやったら夜はやらないという選択肢はないのか……。だったら断れば良かった。
すごく疲れた。
先輩は一回でも俺は何回出したかわからない。ぼうっとする。
「大丈夫? 軽めに抱いたつもりだったけど、海はまた明日にして今日は部屋でゆっくりしようか?」
軽めに、ってなんだ? というかそんなことしたら、ゆっくりどころじゃなくて、限界まで泣かされるのは目に見えている。俺はだるい体を起こして答えた。
「大丈夫です、せっかくだから海行きたいです」
「そう? じゃあ支度しよう。一応良太の水着も用意しているから、シャワー浴びたらそれに着替えようね」
シャワーは一人で浴びることができた。一緒に浴びると海に連れて行けなくなるって言っていた。どういう意味だろう? 時間がなくなるってことかな? 俺は急いで浴びた。用意された水着を着て浴室からでると、先輩が興奮していた。
「せっかく一緒のシャワーを我慢したのに、そんな姿見せられたら自信ないな、なんて可愛いんだろう」
「可愛い……ですか? よくわからないな」
俺は自分の姿を上から眺めてみたけど、いつも通りの白くて貧相な体くらいしか見えないし、何が先輩の自信を無くしたんだろう。こいつが番で恥ずかしいとか思ったのかな。
「その姿を見たくて水着にさせたけど、俺以外の前で水着姿になったらだめだ」
「えっ、でも海」
俺は少し泣きそうな声で言った。
こんな貧相な体を先輩の隣で晒すような悪態をつくなということだろうか。だったらなんで海に連れてきたんだよ。いつも見ている俺の体だから、水着でどんな結果になるかくらい想像ついただろうに、酷い。無駄に喜ばせただけとか。
「いや、違う、そんな悲しい顔しないで。そうじゃなくて、水着の上に着る物も用意あるんだ。素肌が綺麗すぎて他の奴に見せたくないんだよ? 俺の独占欲だから、海を禁止したんじゃないよ」
「へ? じゃあ、海入ってもいいですか?」
「ああ、もちろんだよ。良太が綺麗だから悪い奴の目線に晒されないか心配なだけで、俺の側を離れないのと、上着を着るなら問題ないよ」
「良かった。僕みたいのと一緒に居るのを見られたら恥ずかしいから、海に連れて行ってもらえないのかと思いました」
先輩が不思議そうな顔をした。
「俺は良太と一緒にいるところを、世界中の人間に見てもらいたいくらいだよ。なんでそんな考えになるのか疑問だな、俺がお前に夢中なのは誰が見てもわかるのに、本人だけは認めてくれないなんて悲しいな」
「ははっ 先輩でもそんなこと言うんですね」
夢中、そうか先輩の独占欲か。
俺はかなり好かれているらしい。でもそれを真面目にとるほど俺はおめでたくない。きっとアルファ特有の、自分のものを他人に取られたくないという支配欲だろう。話半分に聞いておいて、とりあえず海には行けるみたいで安心した。
先輩が半裸の俺を抱き寄せてぎゅっとした。
「そんなことって?」
「えっ」
少しむっとした口調になったので驚いた。
「本当にわかってないよね。俺はいつも良太が誰かに取られないか不安でしょうがない」
「誰が取るっていうんですか? もう僕は、先輩の番なのに……」
抱きしめられながら、困惑した言葉を返した。
「その番に、番の自覚が無いからね。他人が見たらただの俺の片思いだ。いや、実際にそうかもしれないが」
「先輩? どうしたんですか? 誰もそんなの思いませんよ。先輩みたいな素敵な人が僕みたいな平凡に片思いしているなんて。僕はお付きの人間くらいにしか周りは思っていませんって」
何を言っているのかわからないから、とりあえず明るく笑いながら返した。
この意味の無い会話を早く終わらせて海に行きたいなって本気で思っていたし、それに俺みたいなのがこんなかっこいいアルファといれば、なんて身分知らずのバカ、そう思われるのが世間からの見え方だろう。
「お前は平凡なんかじゃない、とても可愛い。それに番なら通常は周りも気がつく、二人の雰囲気が違うから。でもお前は番になる前と変わらずに、ずっとただの同室の先輩としてしか接してこない。だから他の人間が付け入るスキが出てくる可能性があるんだよ。俺は、お前が誰かに奪われたりでもしたらどうなるかわからない」
オメガだから多少は見られる顔かもしれないけど、真顔で可愛いってこんなイケメンに言われても……。番補正が入っていると思う。先輩の周りのオメガは、俺なんかよりもとってもオメガらしい綺麗な人が多いから。
それに俺なんかを奪う奴なんているはずない、今はまだジジイとの血縁も誰にも知られてないのに。ただの貧乏オメガを、誰がこんな完璧なアルファから奪おうとするんだよ。
「そんな起きもしない心配しても無意味ですよ」
「……やっぱり閉じ込めておこうか」
俺は首元でぼそっと呟いた言葉にビクってしたし、体も固まってしまった。この男は何を言った? 閉じ込める? それって、あの絢香のアルファが言っていたセリフだった。
怖い 怖い 怖い! 俺の体が震え始めた。
「良太?」
先輩は俺の異変に抱きしめていた腕を緩め、顔を覗いてきた。俺はそんなアルファと目も合わせられずにそらした。
「ごめんね、冗談だ。お前を閉じ込めるなんてしない、驚かしてすまなかった」
「………」
先輩への不信感が一気に加速した。やっぱり怖いし、冗談には聞こえなかった。
「帰りたい……」
「良太……。ごめんね、帰るなんて言わないで。俺が悪かったから、機嫌なおして海へ行こう」
俺を両手で掴んでいるその手を離して、俺は目も合わせずに部屋の隅にある荷物をみて、そこへ行ってスマホを取り出した。
このアルファが、どこでスイッチが入るかわからない。やっぱり寮以外で一緒に過ごすなんて無理だった。十日間監禁なんてあり得る話だったのに、なんで信じたんだろう。
「もう…いいです。海も、先輩も。もう帰りたい。勇吾さんに連絡します」
「ダメだ」
俺はその声にまたビクってなった。
怖い。どうしてこのアルファを怖い存在として認識しなかったんだ? 怒鳴っている声ではないのに、その低い声と威圧感に息がうまく吸えない。でも俺の意思はしっかりと伝えてなければ、また同じ繰り返しでは困る。
「僕は、アルファに閉じ込められて喜びは感じないし、嫌悪感しかありません。昔のこともあって、冗談でもアルファからその言葉を聞かされると怖いんです。すいません、もう番解消とかは言いませんから、この夏は諦めてください。夏休みが開けたらまた会いましょう、とても一緒に過ごすには安心できません、ごめんなさい、あっ!」
先輩が俺の持っているスマホを取り上げて、そのまま俺の視線を捉えた。
「どうしてお前は、いつもたった一言で目くじらたてるんだ? お前の地雷を俺は全て把握している訳じゃない、だめならだめとその都度教えてくれればいいだけだろう、なんで完全拒否になるんだ」
「先輩とは経験してきたことが違います。僕は、アルファが怖いんです。冗談でも毎回恐怖に陥れられてからでは身がもちません。学園内で付き合う分には大丈夫だと思うんで、それで許してもらえませんか?」
「じゃあ、お前は学園の中だけの番でいるということか? 卒業したら? もしかして始めから俺とは別れるつもりであの条件を、桐生から出させた?」
「えっ」
鋭いな……。
「そんなの、その時にならなくちゃわかりません。それにまだ先輩と番になったばかりで、わからないことが多いから、学園の外でまで一緒にいたくない」
先輩が、ますます怪訝な顔をした。
「その時にならないと、わからない? それじゃぁ、俺と別れる選択肢もあるってこと?」
俺の表情は、そうだと言ったようなものだった。
「そ、それは。でも、学園でのお互いを見ていれば、それでよくないですか? その方が先輩もいちいち僕の言葉にイライラすることもないでしょ?」
「俺はイライラなどしていない」
「じゃあどうして先輩は僕の言葉を拾っては、怒るんですか? アルファの考えなんて、僕にはわからない。そういう不毛なやりとりが嫌なんです」
「他人同士なんだ、話をしなければわかり合えない。今の話はアルファだからとか関係なく、俺と良太の人との付き合い方の問題だ。そうやって話をして解決していってお互いを知るしかない。離れたら何も進展しない」
「進展……、しなくてもいいです」
もうこんな話は嫌だ。早く終わらせたい、それだけを思って話を返していたら、いつの間にか先輩がもっと食いついてきた。
「それはどういうこと? 岩峰とは仲良いよね、どうして俺とはそういう関係になれないんだ」
「勇吾さんは家族です。先輩とは違う、それに先輩みたいに僕を否定しない」
「否定しているんじゃない、ただ俺のことをもっと理解して欲しいだけだ。俺とだって卒業したら家族になるんだよ? 番だからいつまでも岩峰に甘えられると、いい加減、怒るのは理解できる?」
「先輩と、家族になるなんて言ってない」
その言葉に、先輩の顔が曇った気がした。
だって、そんな話までしてないし。まだ好きとも言ってない、卒業までは一緒に過ごす。それだけしか決まってないはずだ。
俺は先輩の話を聞いていてどっと疲れた。こんなに演技しているのに、確信をつかれた気がした。いい加減水着一枚の姿に心もとなくなり、かけていた服を取って着替え始めた。シャツに袖を通して、急いでボタンをはめた。
だけど先輩から腕を掴まれてそのままベッドまで連れていかれて、押し倒され上から抑えられる。せっかく止めたシャツのボタンを外された。
「まだ話の途中だ」
「……寒いので、服を着ただけです」
「だったら、暖めてやるよ」
「やっ、い、嫌だ!」
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