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第八章 束の間の幸せ
184、決着 8(桜 side)
しおりを挟むあれからだいぶ調べが進んだ。
闇組織のオークションは、俺個人ではどうにもならず、父親の知り合いの警視総監に相談をした。
警察も前から手をつけたいものの、大物のアルファが絡み、中々手が出せずにいたところ正親の証言を取ることで、一斉に検挙に乗り切った。
正親は協力者として安心していたようだ。今はまだその時ではないが、今後上條クリーン化の生贄になってもらうのは父とともに決定していた。上條は悪行を許さない、たとえ身内でも見せしめにする。上條グループの親族を世間に差し出すことで、この取引は成立した。
顧客情報の提示も要求できたが、ただあまりにも大物が絡み過ぎているので、顧客情報は公にはできなかった。そんなことをしたら流石の上條グループも潰されてしまう。
俺はただ桐生が絡んでいるという事実だけを手にいれた、取引材料には十分だ。オークションは今後のオメガのためにも潰す必要もあるし、なにより良太の暗い過去を払拭してあげたかった。そんな想いから無事に壊滅できた。
そして絢香さんの調査も根強く進めた。
桐生といるところを目撃した、と言ってもほとんど厳戒態勢であったが本人の確認だけなら問題なかった。良太はずっと隔離されているようで、全く見つからなかった。この頃から岩峰の息子の幼稚園に何人か保育士として、俺の目のかかる人員を入れていた。そこで子供と仲良く話すうちに、家のことや良太の存在も、ぼんやりだが確認することができた。
良太はずっと岩峰の家にいる。
岩峰がある日、都内の高級ホテルを予約した。上條の諜報部に張らせていると、良太と現れたという連絡がきた。その日はレストランで食事をとると岩峰に抱きしめられて部屋へ行ったとの報告だった。
そして翌朝から俺はホテルで待機していると、二人が現れた。良太は照れながらも自分から岩峰にキスをしていた。
まさか二人には肉体関係がすでにあるのか?
そんな距離感だったし、何より良太から喜んでキスをしている。あのキスからわかることは、拒絶反応が全く無いということだった。
俺は頭に血が上りそうになるも、良太の周りには明らかに護衛がいたので、我慢をして耐えた。そして良太がラウンジに一人になった瞬間に会いに行くも、すぐに捕らえられた。俺がいることをまるで予期したのか、もしくは知っていたのか、岩峰には動揺は見られなかった。
良太は一言も言葉を発してくれなかった、ただ俺に怯えていた。
やはり良太は絢香さんを人質に取られて脅されているのだろうか? 俺が必ずお前を救い出す。そして岩峰とのキスに拒絶反応がないところを見ると、きっとオメガ用の画期的な薬を開発したのだろう。
そんなまやかしで俺の番をモノにできると思うな、俺は岩峰が憎くてたまらなかった。
それから数日後、桐生は孫の婚姻届けをだしたその日に、岩峰との提携そして新薬発表の記者会見をすると業界で話題になった。
その日が勝負だ。
ただ良太をさらうのではなく、確実に良太が俺のオメガであるということを世間的に認めさせるためにもう一仕事した。
絢香さんと岩峰の息子を人質にする。
そっちが良太を脅すなら、俺がお前らを脅してやる。会見の日はあの二人を連れ去るという奇襲をかけた。別に警察に見つかってもいいくらい、大胆にやった。会見まで粘れればいいだけだ。
後のことは正親に罪をかぶせばなんとでもなる。とにかくあの二人をさらうことは必須だ。俺は良太奪還の準備中に正親に毒された子会社を潰し、本社の副社長に就任していた。名実ともに確かな地位を手に入れた。桐生の孫の旦那としても申し分ない。
そして、舞台は揃った。
◆◆◆
「彼を見た時、一目で運命だと気付き、彼も私を認めてくれました。岩峰先生には申し訳ないけれど、本能にはお互い逆らえなかったんです。運命の番とは触れ合うだけで世界が変わる。そんな尊い存在でした。彼を心から愛しています」
「「わ――」」と会見場が盛り上がった。
この手の話はマスコミの大好物だし、世間でも美談にされやすい。世間に俺と良太の仲を認めてもらえた。もう俺から良太を奪うことは誰にもできない。
正親を、身内を捕まえる協力をしたことも、上條のクリーンさを世間に知らしめることが成功した。俺は見事に桐生総帥の恋人である絢香さんを救ったとして讃えられ、そして番に捨てられた絢香さんと結ばれるためにこの薬の開発をした、という桐生の愛情ゆえの努力も世間は喜んだ。
番解除されても他の人と付き合えるという薬は、本当に画期的なものだった。そしていろんな意味で今回は世間を騒がせ、もう誰からも逃げられないように、俺というアルファのフェロモン、サンダルウッドの箱庭を良太に揃えた。
憎い桐生との握手で会見は終わった。さあ、良太、俺との新しい生活の始まりだ。まずはその体が誰のモノなのか、もう二度と俺を裏切ることなど考えられないくらいの罰を体に与えてやろう。そしてそれ以上に愛することを誓う。
やっと誰にも邪魔されない、二人だけの生活の始まりだ。
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