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第九章 運命の二人
194、新生活 3(桜 side)
しおりを挟む先週、良太が発情期に入った。
仕事中、良太の監視をしている部下から発情期に入ったと連絡がきたので、仕事を中断してすぐにマンションへと向かった。
俺の番の良太は妻になった。夫夫になり初めて一緒に過ごす発情期を、俺は楽しみにしていた。
いつもは強がっている良太も、この時期だけは自分を隠しきれない。俺は番だ、偽りの婚約者としての関係だった岩峰ではなく俺を本能から求めて止まないだろうと確信をしていた。
俺の匂いのする物を抱き抱えて、一生懸命に俺の帰りを待っている良太を想像してエレベーターに乗り込む。最上階につくと家の鍵が空いている?
部屋の奥から言い争うような声が聞こえる。この部屋に入れるとしたら、部下かメイドしかいないはず。何事かと思い寝室へ向かうと、良太が喚き散らして錯乱している所を部下に押さえつけられていた。あわてて近付くと、良太は俺を見て一言発してから、意識を失った。
「早く、俺を、コロシテ」
衝撃的な言葉を聞いた。
とりあえず、いったん寝ている良太を寝室に縛り付け、リビングで先程のことを部下に問いただしていた。
「何があった?」
「いつものように良太様を監視していたら、珍しくリビングにいました。それに呼吸が荒かったので、もしや発情期かと思って副社長に連絡しました」
「ああ、だからすぐに帰宅したんだ。それがなぜあんな状況に?」
男は黙々と話を続けた。
「その後、カラトリーをばらまき、食器を割って包丁を手にとってじっと見ていたので、不穏に感じて直ぐに鍵を使用して部屋に入ったところ、ご自身の腹を刺そうとしていたので包丁を奪いました」
な……んだと。
「良太は自殺を図ったと?」
「そのように思われます。発情したくない、死なせて、殺してと言っていました。発情を起こしかけていたので、無理やり寝室へと運んでいた時、副社長が入室してきました」
「そうか、止めてくれてありがとう」
俺は、良太の監視管理のためだけに隣の部屋も購入していた。そこには料理人やメイド、警備会社の人間を出入りさせていた。そして良太の安全を考えて、俺のいない時間だけは全部屋を見られるように、監視カメラを設置し俺の信頼している部下二名だけにそれを見るように言っていた。
いつものように、良太は何もしていなかったと報告を受けていた。そう、何もしていない。
この一ヶ月、良太は俺が出かけた後ずっとソファに座っているだけ。何時間もずっとそこを動かない。たまにトイレに行くくらいしか動かない。はじめは毎晩抱いているから、疲れ切って動けないのだろうと思っていたが、そうではなかった。
暇つぶしに本を読み、テレビを見るでもなく、何にもせずに目もつぶらずに前を見て、たまに窓の外を見てボーっとしているだけだったと……報告を受けていた。
俺がいない時は水も食事もとらない。かといって俺といる時だって自分から食べたいというそぶりも見せないから、俺が無理やり食事をさせているようなものだった。
俺は最近、父の会社の副社長に就任したばかりで、やる事は多かった。在宅ばかりにするわけにもいかず、なるべく短時間で済ませて早く帰るようにはしていたが、日中は家を空けることが増えた。
昼、良太が一人でいる時は、時間になると食事を持って部屋へとメイドを出入りさせていた。食べないと出ていけないという命令を受けていると言われると、良太はしょうがないというように、ほんの少しだけ食事をとる。動いてないからそれ以上は食べられないと言い、その後またソファへ座り、俺が帰宅するまでひたすらボーっとしている。
俺といる時は俺の話を聞いて微笑んで、たまに時間が来たらしゃべる機械のように『桜、好き』という言葉を発する。それは、以前にその言葉を言えと教えたからだと思う。自主的に言っていないことくらい俺にだってわかる。
俺は最近そのセリフか、セックスの時の喘ぎ声しか聞いてない気がする。
風呂に一緒に入ることも、抱くことも拒まれない。抱けば快楽に身を委ねてされるままになる。俺は人形と過ごしている、そんな気分になっていたが、可愛い番の全て手にいれたのだから、隣にいてくれるだけでもそれで幸せではあった。
良太の心がどこかにいってしまったことなど、些細な問題だと思って。
だが、今思えば良太の心はとうの昔に壊れてしまっていたのだろう。まさか死にたいと思っていたなんて。昔死ぬことを覚悟していると言っていたことがあったのに、気を付けなければならなかったのに、俺はそこまで頭が回っていなかった。
ふと良太の香りがリビングまで届いた。
「これから一週間は、良太の発情期だから俺の仕事は白崎に振ってくれ、緊急時以外は連絡をしないように」
それを聞くと、その男は部屋を出ていった。そして俺は寝室に向かい、寝ている良太の頭を撫でた。
「んんっ」
良太が目を覚ました。
俺はもう何も考えさせたくないので、そのままキスをして快楽に溺れさせることにした。俺自身も毎日抱いているにも関わらず、番の発情フェロモンを浴びせられてラットが始まってきたようだ。
「さ、くら? あんっ、あれ?」
良太は、今の状況がなんなのかわかってないみたいだ。それでいい。
「良太、愛しているよ。お前を抱いていいか?」
「えっ、あっ、うん、さくら、すきっ」
そう、それでいい。
俺が愛しているといえば、良太が好きという。たとえ決められていたセリフでも良い。俺がお前をどれだけ愛しているかわからなくてもいい。お前さえ、この手の中にいれば。
そして良太が何も考えられなくなるように抱き潰した。それでもいつもとは違い、発情しているから目が覚めては俺を求めてくる。たまらなく愛おしい。
良太が発情して三日が経った頃、ふと良太の目が覚めたようだった。
「なんで、俺、生きているんだ?」
「どうした? 良太」
ここにきてからずっと虚ろだった目が、出会った頃のあの目に戻っていた。ずっと俺に媚を売っていた目ではなくて、俺には無関心で、誰にもなびかない優等生だった頃の目に。
「あぁ、また俺、死に損なった? 俺、狂っていたよな。ねぇ、先輩はこんな狂ったオメガがまだいいの?」
「良太? お前」
「いいや、もうめんどくさいから。ごめんね先輩、先輩が好きだった俺はもう死んでいる。たぶん、もう会うこともないよ。さよなら、俺また狂うから、この人形の体に飽きたら適当に捨てといて……」
そう言うと、また良太は目を閉じた。
今のは、いったい。
そして寝ている良太からローズゼラニウムの香りが強くなった。目が薄く開くと、俺を見て微笑んだ。
「あっ、さくら、すき、キスして」
俺は戸惑いながらもキスしたが、あれが本来の良太? あんな冷めた顔……。初めて番にした日、良太の了承なく桐生に番の報告をしたと伝えた時、人が変わったように口が悪くなり、激しく怒っていたあの時の良太とも少し違う。
それが本来の性格なのだろうか、怒っている時にしか良太の激しさは見たことがなかった。今のはその激しさが無い、あっさりと話をする冷めた顔。
番にしてから見ていた良太は、全て俺のために作られた存在だったと言うのか?
そして、もう会えないと言った。
まともな良太は自分が狂っていると自覚していたようだった。では、目の前にいる良太は?
俺が作り出した番の良太は今、夢の中に生きているとでもいうのか。俺はそれでも、自己満足のためにでも、この関係を続けていくべきなのか。初めて迷いが生じた。
「さくら? 早くっ、グチュグチュにして」
「りょ……うた」
そして俺は、目の前の肉欲に溺れた。俺もまた考えることをやめたのだった。
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