204 / 237
第九章 運命の二人
203、命より大切な想い 3 ※
しおりを挟む「んっ、んっ、あっ、もうイッて……」
俺はたまらなくなってそう言った。それをもう達したと勘違いしてくれた桜は、俺の中にどくどくと甘い液体を注いできた。
どうしようもない嫌悪感と吐き気と戦いながら、俺は体をびくびくっとさせて耐えた。バックから責められていたので、顔を見られなくて良かった、今、相当辛い表情になっていると思う、後ろから回ってくる腕を握って、俺はまだ大丈夫そう思って、必死に悟られないようにした。
「良太、疲れちゃった? 寝たのかな、ふふっ、かわいいな」
そして寝たふりをした。
寝てしまえばそれ以上は最近してこない。俺の体力が落ちていることは桜もわかっていて、俺の体を労ってくれる桜に申し訳なかったけど、これ以上したら、本当に挿れられている最中に嘔吐するだろう。
桜がそっと、俺の体をタオルで拭いてくれて、そのまま寝室を出ていった。
「うっ、はぁっ、はぁっっ」
体に残っている精が、俺をまだ苦しめている。でもこれをかき出すには風呂に行かなければいけないし、桜の前でそんな動作を見せられない。冷や汗が出てきて、そのまま俺は深い眠りについた。
そしてなんと次に目覚めたのは丸一日経った後だった、目が覚めた時に見たのはあの医者。ひどい熱が出て番に運ばれてきたと言われた。そのまま点滴をして、ここに入院したのだとか。
「良太さん、どうしてこんなに弱っているか、心当たりはありますか?」
点滴を外しながら医者は俺に問いかけてきた。多分、ある。あるけど、今の俺の幸せを壊さないで欲しいから知らないふりをして欲しかった。
「では、私から医者として報告します。血液検査の結果から貧血による衰弱を起こしています。フェロモン値が異常に低い、これはオメガとしての機能が最低限にまで落ちていることを示します。そしてオメガ分泌液を採取することができなかった。この意味はわかりますか? それから最後に、アルファに対する拒絶反応の値も基準値を大幅に超えてます。ここから、私が推測することをお話ししても?」
俺は改めて言われて、涙が出てきた。
「先生の思っている通りだと思います……俺は番を解除されました」
「えっ? いったい何が」
医者が言う前に遮った。するとその医者は驚いた顔をした。
「これは二人のことなので、あと自分の体もわかっています。番解除の末期症状……日中、起きていられないのと味覚がないのは、番解除で死んだ俺の母と同じ症状です。濡れない、発情もしない、そして番の匂いもわからない。それから、俺からも、もうフェロモンの香りも出ていません。元番だから大丈夫なのかと思っていたけど、俺の体は桜をもう番ではないアルファとして認識しているようです。口付けも、性行為も全て受け入れられなくなってきています」
先生は、悲しい顔をした。
医者なんだから事実だけをサクッと話してそれでいいのに、こんな哀れなオメガにそんな顔しなくてもいいのに。
「桜の新しい番がここを離れている間だけ、俺といてくれているんです。桜とならセックスできるし、そうしていれば生きていられるからって言われて、まだ俺のことを恋人みたいに扱ってくれていました」
そして先生は、ベッドの隣に椅子を置いて腰をかけた。
「普通、解除してもそんな関係を続ける番はなかなかいないので、事例が少ないから例外もあるのかも知れませんね。あなたの場合、これ以上は上條さんを受け入れられない。次に体を繋げたら体力が低下するより前に、命を落とす危険があります」
「次が、最後のチャンスなんですね」
俺は乾いた笑いを口にした。
先生は予想外の言葉に驚いていたみたいだった。本当に終わりが見えたと思って、そして俺の本心をこの人に伝えた。
「腹上死なんて、オメガにとっては最高の最後じゃないですか。俺はもう長くないなら、最後は桜と繋がって死にたいです」
「良太さん、そこまで酷い扱いをされているのに、まだ彼にこだわるんですか? あなたは洗脳させているんですよ。わかっていると思いますが、あなたが助かる道はまだあります。なんのために岩峰のもとにいたんですか? 今こそ番に捨てられたオメガの希望になるべきではないのですか? あなたはもうアルファでは無理でしょうから、岩峰なら、あなたを救える」
先生は本当に俺を想ってくれているんだろう。それに勇吾さんとも交流があるから、本気で俺に勇吾さんのもとに戻る手助けをするつもりなんじゃないかと思う。でも、そんなことしても桜を嫌な気持ちにさせるだけだし、みんなに迷惑がかかる。それに俺はもう桜を裏切れない。
「先生、ダメですよ。そんなに都合のいい時ばかり勇吾さんを頼れない、それに知っているでしょ? 岬を苦しめた元凶は俺ですよ。俺さえいなければあの親子は何も知らずに幸せに生きてこられたのに。最後くらい穏やかに終わらせたいんです」
先生が言葉に詰まっている。
「これ以上桜を裏切りたくない。最初の人も最後の人も桜でいたいんです、お願いします。あの薬を一つ貰えませんか? 最後は痛みを伴わずに、穏やかに抱かれたいから。それで俺の人生が終わっても悔いがないし、俺がいない方が桜も番と幸せになれると思うんです」
「死ぬために、あの新薬を処方しろと医者の私に言うんですか?」
ハッとしたが、でも俺も譲れなかった。
「ごめんなさいっ、でも薬の使用は誰にも言わないからっ。だからっ、患者の俺が穏やかな死を望んでいるんです。どのみち放っといても死ぬなら、最後にいい思い出を経験させてください、そして安らかな最後を選ばせてくれませんか?」
医者はしばらく黙ってから、俺のために涙を流した。
「それが、本当にあなたの望みであなたの幸せなのですか? それを知った上條さんも岩峰も、桐生氏だって悲しみますよ。それでもそれを選ぶんですね?」
この人、医者なのに泣いている。本当にいい人だ。
「先生は俺なんかのために、そんな綺麗な涙を流さないで。それに俺は幸せだから罪悪感も必要ありません。本当のことは俺とあなたの秘密にして、ただ衰弱死したとだけ医者として伝えてくれればそれでいいんです。オメガなんてイレギュラーな出来事がつきものです。元番にさえも拒否反応を起こすとか。新しい症例として扱ってもらえば、今後のオメガ研究に役立つし、それでお願いします」
こんなことを頼むなんて俺は最低だと思う。それにすらすらとよくこんな考えが出てくるものだ。久しぶりに頭の中がスッキリしている。モヤがかかっていた日々が嘘のように晴れやかだ。
俺の辛くて悲しい人生の終わりが見えて、少し前向きになれた。
桜を受け入れる苦しさを味わって、自分の体が変わっていいくどうしようもない不安から今やっと解放されたのだから。番解除による衰弱。はっきりとそうわかって、ホッとした。
「わかりました。薬は秘密裏に調達するのでしばらく待ってください。それまでは性行為はしないこと、これは上條さんにも伝えておきます」
「ありがとうございます! じゃあ先生、俺のこれからのことは黙っていてくれるんですよね」
「なんとかごまかしましょう。医者から言われれば、彼も無理はしないでしょう、たとえ口付けでさえも、もう辛いのでしょう? 唾液を絡ませた濃厚なのはやめてください。ただでさえ体力がないのに、死が早まりますから」
「わかりました。薬が手に入るまではおとなしくしています。本当にありがとうございます」
じゃあ、私は上條さんと話をしてくるので、あと一日入院して明日退院になります。そう言って部屋をでていった。
71
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる