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最終章 それぞれの選択
224、最終章 14
しおりを挟む「良太君おはよう、いい目覚めになったかな?」
「良太!」
「良太?」
勇吾さんの声とともに俺は目を開けた。
藤堂さんも驚いた顔をしている、そして目の前に来て、俺の名前を呼んだ桜は真っ赤な目をして涙をたくさんたくさん流していた。
俺は動きの鈍い手を必死に動かして、桜の頬を触った。
「さ、くら」
「うっ、うぅ 俺は お前がいないとダメなんだ! お願いだ、俺を置いていかないで。お前だけだ、良太を愛している」
また桜が泣き出した。
こんなに綺麗な男の人が、顔をぐしゃぐしゃにして大泣きしている。ほっぺにおいた俺の手をしっかり握りしめて、唇もあててきて、でも涙が止まらない。
もう命を絶つのはやめよう。こんな綺麗な人に、涙を流させるのは良くないよね? 昨日までの頑なな俺の考えは桜の先ほどの会話と、そしてその顔を見た瞬間にそう思った。
「ありがとう、俺も桜を愛しているよ。いい子だから、泣かないで? 桜は自信に満ちていて笑っている姿の方が似合っている」
桜の頭をぽんぽんってあやした。そしたら桜は驚いた顔で俺を見た。
前にも一回だけ桜が大泣きした時も、まだ十代の少年なんだったなって思った。アルファという性が桜を早く大人にしてしまっただけで、本当は俺と一つしか違わない子供だったのになって思ったな。ふふっ、桜は普段絶対涙を見せないから、泣き出したら止まらないんだった。こんな大きなアルファだけど、とても愛おしい。
「俺は、お前を死なすために手放したわけじゃない! できれば俺のそばで生きて欲しいけど、でもお前が幸せになれるならどこでもいいんだ。お前を何よりも大切に思っている。だけどお前の本心をお前からではなかったが、この二人が教えてくれたんだ。もう遅いかもしれないけど、お願いだ。死を選ばないで。どうか俺と生きる道を選んで欲しい。じゃなきゃ俺も一緒に死ぬのを許して」
俺はびっくりした。
桜は本当に俺と死ぬつもりなの? 俺は最愛の番にそんなことまで言わせている。そして、最愛の人を悲しみの淵に立たせている。
「桜には、始めから嘘ばかりついて騙してきたけど、これだけは信じて、桜を愛している。最初に愛した人も、最後に愛した人も桜だよ。その間には色々あったけど、でもこれだけは本当。だから、最後は桜に抱かれたこの体で死にたかった。だけどっ、そんな最愛の人が自分のせいで死ぬなんてとても許せない……」
「良太」
「ごめんね、話は全部聞こえていたんだ。桜の本当の気持ち、俺も知れて良かった。俺のせいでたくさん辛い思いさせてごめんね、まだ許してくれるなら、俺は今度こそ、貪欲に生きたい、桜と一緒に……生きたいっ!」
桜は俺に向かい合って、俺の手を握って真剣な眼差しをした、そしてまた泣いた。
あんなに死にたい死にたい連呼されていたから、まさか俺の口からそんな言葉を聞けるなんて思わなかったんだろう。その顔も可愛いな。
あぁ、俺は、どうしたってこの人が好きなんだな。俺の頭はどことなくふわふわしていた。
そして大好きな番と一緒に同じ空間で話している、お互いのことを深く話している、そんな状況にとても幸せな気持ちを覚えて、微笑んでいた。
ちょっとおかしな光景だ。
「良太、愛している。ありがとう、ありがとう、俺と生きてくれると言ってくれて。お前が、俺を許してくれるなら俺の隣にいて欲しい。一生だ。もう離したくない! お前が、欲しいっ……愛してる」
いつになく真剣な桜だった。俺はもう深刻な状況は無くなったのだろうと思い、真剣な番とは逆に、笑顔で答えた。
「うん、俺の一生を桜にもらって欲しい。あなたが、好きです……愛してます」
そして二人でキスを交わした。
深くも浅くもない、学園時代に毎朝起きたてにしていた、いつものキスを。
それはとても幸せな一日の始まりを予感するような、目が覚めて一番にいつもしていた当たり前の行為だった。
みんなに見守られる中、いつもの俺たちの始まりのキスをした。
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