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エピローグ
226、幸せの箱庭で
しおりを挟む「はい、あ――ん!」
「あ――ん、あっ美味しいっ」
「ふふっ、ママ可愛いっ!」
「雫ありがとう」
海の香りと、夏の風が爽やかに入るテラスに近いその大きなソファでは、向かい合う席から可愛い息子の雫が大好物なはずなのに、そのスイーツの最初の一口を俺の口に入れてくれた。
なんてできた息子なんだろう。ほんとに可愛いっ! そこでカシャカシャとシャッター音がやたらとうるさい。
「もう! 何しているの? 早くこっちおいでよ」
「パパはね、ママがパフェを食べる姿を写真に撮りたいって言うから、許してあげて?」
息子はなんて寛大なんだろう。こんな嫁バカな父親にまでも温かい顔を見せてくれる。六歳なのにすでにアルファとしても優秀だった。
「良太! 最高に可愛かった! 雫も偉いぞ! さすが俺の息子だ。良太ラブなとこも俺にそっくりだ」
そう言って息子の頭を撫でてから、俺の隣にどさっと腰をかけたのは、最愛の番で旦那の桜だった。
あの時、俺のお腹にいた雫は問題なく育っていった。俺たちの子供がお腹にいると知った桜は大喜びだった。俺の妊娠生活はつわりが酷く、産後も弱り切ってしまった俺に代わり、雫はほとんど桜が育ててくれた。文字通りなんでもできるスパダリへと成長していき、俺よりも家事も子育ても得意になっていった。
あれから七年。
俺は育児をしながら、と言ってもほとんど桜がしていたけど医学部に通い医師免許を取った。
今は夏休みで、上條家恒例のバカンスに来ている最中だ。毎年、俺と初めて夏を過ごした海に来るのがお決まりだ。そして思い出の詰まったいつものホテルへと来ている。滞在中は決まって、ここのパフェを家族水入らずで食べているんだ。
桜はほとんど食べないから、息子と二人で色んな味を楽しんでいる最中だった。これこそ俺の夢見ていた家族像そのもの。それを毎年、桜は実現させてくれる。
「良太、今年は残念だけどもうやめとこう、体が冷えちゃう。ほらっマシュマロ入りのあったかいココア用意してもらったから」
「う――ん、そうだよねっ、でもあと一口だけ!」
「しょうがないな、ほらっ」
そして、いつもの桜からの「あ――ん」が始まった。許してくれたのはこれがしたかったからか?
「ねぇ、ママ、そっちに行っていい? 雪ちゃんのそばに行きたいな」
「うん、そうだね。雪も雫にきて欲しいみたいだよ」
そうして、桜と並んでいた反対側の俺の隣に雫がきて、少し膨らんだお腹に抱きついた。すると、ほのかに自分から甘い花の香りがしてきた。
「ふふっ、雪も雫が大好きだって言っているね」
「うん! ママのお腹にいる雪ちゃんが凄くいい匂いさせているよ!」
雫は桜の子供だけあってすでに上位種アルファらしい能力がある。今お腹には桜と俺の第二子がいる、雪というのは俺の母さんからもらう予定の名前だ。すでに雪という文字だけ先に決めて、お腹の子供に呼びかけている。
「この子は雫の時と全然違って、毎日、桜が欲しくなっちゃう」
そうして桜にもたれかかった。
「ああ、妊娠してからは良太からも毎日濃厚な香りがしてくるね。だからアルファである俺も雫も良太から離れられないんだよ。きっとこのお腹の子はかなり強いオメガだな」
「雪ちゃんはママと同じだね! 僕がもっともっと力をつけて二人を守るから安心してね」
「ありがとう、雫、大好きだよ」
「僕もママが大好き!」
我が子ながら、本当にかっこよくて可愛い。桜にそっくりな顔をしているが、まだ小さいからかとても愛らしい。俺のことは、オメガで大切にしなければいけない存在だと幼い頃から桜に教育されて育ったので、将来はオメガにも優しい立派なスパダリになること間違い無いだろう。とにかく優しい子だ。そんなやりとりを、でれっとした俺の旦那が見ている。
「二人の世界にならないで、俺だって二人ともすんごい愛してる」
俺と雫はクスクスと笑った。すぐに拗ねてしまう俺の可愛い旦那の口を、俺の口で塞いだ。そして、そっと舌を入れて、大好きでたまらない旦那の口内を堪能した。しつこいくらいに念入りに彼を味わった。口づけが終わって、彼の目を見つめて俺は話した。
「桜、愛している。ここに連れて来てくれて、毎年俺の夢見た世界を見せてくれてありがとう、それに可愛い子供を二人も! いつも任せっきりでごめんね。俺、んんっ、クチュっ」
俺の唇を今度は俺の最愛の番が貪る番だった。ああ、桜に初めて会ってから今日まで、辛いこともたくさんあったけど、でもそれ以上に幸せなことで塗り替えられてくる。
「んっさくら、愛してる! 愛してる」
「良太、俺もお前を愛してる」
「うんっ、嬉しいっ」
妊娠して、お腹の子が桜を必要としている。オメガはお腹にいる時から強いアルファを求めるのかもしれない。そんな言い訳を頭に、息子がいるにも関わらず桜が欲しくてたまらなくなった。十代の頃は理解できず、いつも真っ赤な顔で義両親のことを見ていたけど、お義母さんが子供の前でもいちゃつくのが、今ならわかる。
「ママ――。もうパフェ食べたよ――、続きはお部屋でしたら? 僕、由香里ちゃん達と遊んできてもいい?」
いつまでも終わらない口づけに、長男がはやしたててくる。俺たちのこういう行為は幼い頃から見ているので慣れている。さすが桜の息子だ、そういう教育も抜かりない、雫は気を遣ってくれた。
前半は三人ホテルで過ごして、後半は別荘で桜のご両親とも過ごすのがいつものパターン。先ほど到着して、テラス席で愛犬と戯れているお義父さんたちに気づいた雫は、大好きなオメガの祖母、由香里さんのところに行くと言った。
俺と桜は思わず笑った、俺たちの了解を得ると雫はそのまま走ってお義母さんたちのいるテラスへと行ってしまった。あの子はお腹にいた時からお義母さんが大好きだったからな、一緒に過ごすのが楽しみで仕方なかったみたい。親離れされたようでちょっと寂しいけど、でも今夜は気兼ねなく桜とイチャイチャできるっ!
俺は桜の手をギュッと握る、優しい顔をする最愛の旦那、たった一人の運命の番。
彼の唇にそっと、もう一度キスをした。
「大好き!」
優しい旦那は俺に微笑みかけ、可愛い息子はそんな俺たちを見ていつも笑ってくれる。
ローズゼラニウムに混ざる彼らのたくましい香りに包まれて、優しくてあったかい人生の箱庭を見つけた。
最高に幸せだ!
――ローズゼラニウムの箱庭で fin――
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