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第二章 思惑だらけの結婚式
12 作戦会議 1
先程から狭いバスルームで父と二人きり、神妙な顔で向き合っている。そこへ心配になったジュリが控えめにノックをしてきた。音は聞こえないが、魔術をかけた本人には振動検知するらしい。父が遮音の魔法を一時解いた。
「入りたまえ」
「失礼致します。旦那様、薬湯をお持ちしました。リリアン様は大丈夫ですか?」
「ああ、ジュリありがとう。息子は平気だ」
ジュリがバスルームに入ってきた。父がドアを閉めると、また遮音をかけた。ジュリが不思議な顔で見ていた。
「実は重要な話があり遮音をかける必要があった。ジュリにも聞いてもらいたいことがある」
「は、はい!」
ジュリが姿勢を正す。
今度はジュリも参加した会議が始まる。ここ、バスルームですけどね? でもさすが辺境伯夫人の部屋、バスルームはかなり広いので不便はない。社畜の俺のワンルームマンションより広いバスルームです。どこも格差社会が存在するのね。
父がジュリに魔道具のことを説明すると、ジュリは納得した。
「さすがに手鏡はないと思ったんです。たぶんリリアン様はそういう恋人同士のことに疎いので、ただ単に貰ったものを受け取っただけだとは思ったのですが、後で旦那様にお伝えしようと思っておりました。報告が遅くなり申し訳ございません」
「いや、ジュリのせいじゃないよ。リリアンをそういうことに疎く育ててしまった私の責任だ。まさかそこに付け込まれるとは思ってもいなかったが」
なるほど。ジュリが朝、手鏡を見て不審な顔をしたのはそういうことだったのか。
「今は王宮内でもごく身近の者しか知らされていないが、国王陛下は病に侵されている」
「「ええ!?」」
リリアンとあうんの呼吸でジュリが驚く。
いくら宰相でも、王家のことは外でばらしたらイケナイ。それを一介の侍女であるジュリに言ったことに、彼女は驚いたようだ。父は話を続けた。
「本来ならもう少しお前の側についていてやりたいのだが、式が終わったらすぐに王宮に戻らなければならない。宰相として王の補佐が山ほどあるんだ。それもあり、馬を走らせたんだ。馬車で来る時間がなかったので、お前の母を連れてきてやれなかった。あの人を一人ここに置いて帰るなど私にはできないからね」
父は溺愛夫なので、母を家に囲っていたい人だから仕方ない。
俺はその裏事情を知っていたが、王が病に侵されているなどという話はアニメで父がリリアンに話していない。俺がこうしてバスルームに父を呼び秘密の話をしたから、病気を暴露した。歴史が少しだが変わっている。
だから事情を知らないアニメのリリアンは、日帰りで帰ってしまった父に泣いて縋った。母も兄もこの式に来ない。たった一人の身内はその日の内に帰ってしまう。リリアンは不安の中、ガリアードとの初夜を迎えたのだった。と、回想シーンを頭の中で繰り広げていると、父がリリアンに声をかける。
「リリアン、大丈夫か?」
いけない、いけない。可哀想なリリアンを回想して憐れんでいたので、大事なところでぼうっとしているように見られてしまう。
「あっ、はい。お忙しいのに、僕のためにお時間作っていただきありがとうございます」
「愛する息子のためだ、当たり前だろう?」
父が言うには、国王陛下は第一王子の悪政を少なからず知っているが、第一王子の母である王妃の家の力が強く、第一王子を支持する貴族が多くて下手なことができないらしい。
第二王子は慕われているが、母親の身分が王妃より低く、第二王子派の貴族だけでは太刀打ちできない。そんな政治的な策略が水面下ではあった。
リリアンの実家である公爵家は中立だが、うちが味方に付いたらきっと一気に風向きは変わる。そう説明された。
「それで第一王子は、ワインバーグ家を取り入るために、リリアンを使おうと何か考えられているのだろう」
「そんなことが……」
知っていたけどな、驚いたふりも大事なお仕事です。ジュリは遮音をかけなければいけない内容だと悟り、静かに話を聞いていた。
父はこれらのことを踏まえて、推測したことをリリアンとジュリに話し始めた。凌辱はさすがに思いつかなかったのだろうけど、父が語る内容はいい線を辿っている。
一つ目は、リリアンに最初からガリアードを裏切らせる。
それはあのときの医者が媚薬を使い、リリアンを犯して手垢がついた状態で嫁にいくということ。しかも自分から求めるような媚薬なら、リリアンが結婚前に違う男を誘ったということになる。それを知っても王命だからガリアードからはこの結婚を破棄できない。公爵家次男がそんなふしだらなことをするのは、かなりのタブーらしい。
怒ったガリアードは、リリアンを罵る。結婚後リリアンは相手にされず、辺境に閉じ込められるだけの存在になる……パパの想像は清いね。本当の話は、怒ったガリアードが凌辱夫になったんだけどね!
それはさておき、パパ想像世界の続きは――
父は手鏡により、二人の不仲を第一王子から知らされる。リリアン可愛がりすぎる公爵家は、息子をないがしろにした辺境伯を恨む。そこで第一王子が力を貸し、ガリアードを陥れるのに成功する。第一王子は宰相という強い味方を得て、第二王子は貴族の支持を得られず蹴落とされる。という結末だけど、これは上手くはいかなかった計画だった。
手鏡の魔道具は、リリアンを相手にしない夫を投影するためで、白い結婚の証拠集めのただの道具。有力だと思ったこの考えは、すでに第一王子の知らぬところで、最初の段階で医者の失態が見つかってしまい終わったのだから。
ここまで、ほぼ当たっている。凄い想像力! 何度も言うが、ガリアードは妻を罵り、夫としての役目を放棄するではなくて、相手にして罵る、が正解だけどね。これはアニメ世界の凌辱エンドのお話だけど。
そうすると二つ目の推測が有力だろうと、父は言った。
それは医者が失敗した場合、根気強く手鏡からの情報を得て、何かガリアードの失態を探す。もしくは手鏡の存在をガリアードに知らせる。
リリアンが第一王子の愛人だという噂をガリアードに聞かせて、リリアンを侮辱する夫を作る。リリアンを助けたい公爵に、自分が王位に就いたら王命で離婚をさせることができると言い、第一王子派になってもらい第二王子を蹴落とす!
とにかく宰相がどちらかに付けば、パワーバランスは崩れて、宰相が味方した方が貴族の支持を得られるらしい。
ワインバーグ公爵家って、凄いのね。
「入りたまえ」
「失礼致します。旦那様、薬湯をお持ちしました。リリアン様は大丈夫ですか?」
「ああ、ジュリありがとう。息子は平気だ」
ジュリがバスルームに入ってきた。父がドアを閉めると、また遮音をかけた。ジュリが不思議な顔で見ていた。
「実は重要な話があり遮音をかける必要があった。ジュリにも聞いてもらいたいことがある」
「は、はい!」
ジュリが姿勢を正す。
今度はジュリも参加した会議が始まる。ここ、バスルームですけどね? でもさすが辺境伯夫人の部屋、バスルームはかなり広いので不便はない。社畜の俺のワンルームマンションより広いバスルームです。どこも格差社会が存在するのね。
父がジュリに魔道具のことを説明すると、ジュリは納得した。
「さすがに手鏡はないと思ったんです。たぶんリリアン様はそういう恋人同士のことに疎いので、ただ単に貰ったものを受け取っただけだとは思ったのですが、後で旦那様にお伝えしようと思っておりました。報告が遅くなり申し訳ございません」
「いや、ジュリのせいじゃないよ。リリアンをそういうことに疎く育ててしまった私の責任だ。まさかそこに付け込まれるとは思ってもいなかったが」
なるほど。ジュリが朝、手鏡を見て不審な顔をしたのはそういうことだったのか。
「今は王宮内でもごく身近の者しか知らされていないが、国王陛下は病に侵されている」
「「ええ!?」」
リリアンとあうんの呼吸でジュリが驚く。
いくら宰相でも、王家のことは外でばらしたらイケナイ。それを一介の侍女であるジュリに言ったことに、彼女は驚いたようだ。父は話を続けた。
「本来ならもう少しお前の側についていてやりたいのだが、式が終わったらすぐに王宮に戻らなければならない。宰相として王の補佐が山ほどあるんだ。それもあり、馬を走らせたんだ。馬車で来る時間がなかったので、お前の母を連れてきてやれなかった。あの人を一人ここに置いて帰るなど私にはできないからね」
父は溺愛夫なので、母を家に囲っていたい人だから仕方ない。
俺はその裏事情を知っていたが、王が病に侵されているなどという話はアニメで父がリリアンに話していない。俺がこうしてバスルームに父を呼び秘密の話をしたから、病気を暴露した。歴史が少しだが変わっている。
だから事情を知らないアニメのリリアンは、日帰りで帰ってしまった父に泣いて縋った。母も兄もこの式に来ない。たった一人の身内はその日の内に帰ってしまう。リリアンは不安の中、ガリアードとの初夜を迎えたのだった。と、回想シーンを頭の中で繰り広げていると、父がリリアンに声をかける。
「リリアン、大丈夫か?」
いけない、いけない。可哀想なリリアンを回想して憐れんでいたので、大事なところでぼうっとしているように見られてしまう。
「あっ、はい。お忙しいのに、僕のためにお時間作っていただきありがとうございます」
「愛する息子のためだ、当たり前だろう?」
父が言うには、国王陛下は第一王子の悪政を少なからず知っているが、第一王子の母である王妃の家の力が強く、第一王子を支持する貴族が多くて下手なことができないらしい。
第二王子は慕われているが、母親の身分が王妃より低く、第二王子派の貴族だけでは太刀打ちできない。そんな政治的な策略が水面下ではあった。
リリアンの実家である公爵家は中立だが、うちが味方に付いたらきっと一気に風向きは変わる。そう説明された。
「それで第一王子は、ワインバーグ家を取り入るために、リリアンを使おうと何か考えられているのだろう」
「そんなことが……」
知っていたけどな、驚いたふりも大事なお仕事です。ジュリは遮音をかけなければいけない内容だと悟り、静かに話を聞いていた。
父はこれらのことを踏まえて、推測したことをリリアンとジュリに話し始めた。凌辱はさすがに思いつかなかったのだろうけど、父が語る内容はいい線を辿っている。
一つ目は、リリアンに最初からガリアードを裏切らせる。
それはあのときの医者が媚薬を使い、リリアンを犯して手垢がついた状態で嫁にいくということ。しかも自分から求めるような媚薬なら、リリアンが結婚前に違う男を誘ったということになる。それを知っても王命だからガリアードからはこの結婚を破棄できない。公爵家次男がそんなふしだらなことをするのは、かなりのタブーらしい。
怒ったガリアードは、リリアンを罵る。結婚後リリアンは相手にされず、辺境に閉じ込められるだけの存在になる……パパの想像は清いね。本当の話は、怒ったガリアードが凌辱夫になったんだけどね!
それはさておき、パパ想像世界の続きは――
父は手鏡により、二人の不仲を第一王子から知らされる。リリアン可愛がりすぎる公爵家は、息子をないがしろにした辺境伯を恨む。そこで第一王子が力を貸し、ガリアードを陥れるのに成功する。第一王子は宰相という強い味方を得て、第二王子は貴族の支持を得られず蹴落とされる。という結末だけど、これは上手くはいかなかった計画だった。
手鏡の魔道具は、リリアンを相手にしない夫を投影するためで、白い結婚の証拠集めのただの道具。有力だと思ったこの考えは、すでに第一王子の知らぬところで、最初の段階で医者の失態が見つかってしまい終わったのだから。
ここまで、ほぼ当たっている。凄い想像力! 何度も言うが、ガリアードは妻を罵り、夫としての役目を放棄するではなくて、相手にして罵る、が正解だけどね。これはアニメ世界の凌辱エンドのお話だけど。
そうすると二つ目の推測が有力だろうと、父は言った。
それは医者が失敗した場合、根気強く手鏡からの情報を得て、何かガリアードの失態を探す。もしくは手鏡の存在をガリアードに知らせる。
リリアンが第一王子の愛人だという噂をガリアードに聞かせて、リリアンを侮辱する夫を作る。リリアンを助けたい公爵に、自分が王位に就いたら王命で離婚をさせることができると言い、第一王子派になってもらい第二王子を蹴落とす!
とにかく宰相がどちらかに付けば、パワーバランスは崩れて、宰相が味方した方が貴族の支持を得られるらしい。
ワインバーグ公爵家って、凄いのね。
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