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第21話『僕の意思で選ぶもの』
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補給部の帳簿を閉じたあと、僕はペンを置いて、ふぅっと息を吐いた。
(……やっと、全体が見えてきたかも)
この砦の補給システム──正直、最初は「面倒くさい」と思ってた。
書式も管理方法も、人によってバラバラで、誰がどこで何を管理してるのかすら曖昧だったから。
けど、それを「誰かがやること」だと思って放っておくのは、もう違うと思った。
(誰のために、っていうより──僕が、やりたいからやってる)
今の僕には、役割がある。
ちゃんと、自分の意志で決めて、動けてる。
提出書類をまとめて、副官室へ行くと、テオさんがすでに報告書を読んでいた。
「この数、正しいか?」
「はい。納品記録と一致してます。現場からのフィードバックももらいました」
「……ふむ。人員配置の再調整も必要だな。班の教育計画まで考えてあるとは、思ったより徹底してる」
「すみません。先回りしすぎましたか?」
「いや。良い判断だ」
テオさんの言葉に、僕はようやく笑えた。
それから数日間。
僕は正式に補給・記録関連の業務を受け持つようになった。
戦うわけでも、前に出るわけでもないけれど。
この砦に必要な“何か”を、僕はちゃんと担えている──そう思えた。
※
「……お前、最近やけに自信ついてきてない?」
倉庫の搬入口で、そう言ってきたのはルースさんだった。
相変わらずの軽口だけど、なぜか今日は、ほんの少しだけ“探る”ような視線が混ざっていた。
「そう見えます?」
「うん。てか、前みたいに“どうせ僕なんか”って顔、しなくなったよなーって」
「……まあ。そうかもしれません」
「何かあった?」
「いえ。別に。強いて言えば……誰かのためじゃなくて、“自分のため”にやってます。……今は、そっちのほうが大事なんです」
一瞬、ルースさんがきょとんとした顔をした。
けど、それはすぐに──薄く笑った表情へと変わった。
「へえ……言うようになったじゃん」
「……そういう時は、素直に褒めてください」
「褒めてんだけど? それでも照れてる感じ出すの、可愛いよね。番候補にされるぞ?」
「やめてください」
苦笑して肩をすくめると、ルースさんはちょっとだけ楽しそうに目を細めた。
ルースさんこそ、早く告白すればいいのにと思ったが、それは黙っておいた。
※
──夜。資料の整理を終えた僕は、ふとロナルドさんの姿を探していた。
理由は、わからない。
何か話したいわけでも、報告があるわけでもないのに。
でも、きっと心のどこかで“確認したかった”のだと思う。
今の僕が、ちゃんと見えているかどうか。
けれど、その姿を見つける前に──自分の胸の内側が、先に答えを出した。
(……違うな)
今の僕は、誰に見られるためでも、褒められるためでもない。
「あ……なんだ、僕……自分の意思で、やりたいことをやってるじゃないか」
“誰に選ばれるか”じゃなく、“何を選ぶか”。
僕は、番になる誰かの所有物じゃない。
そもそも現代世界に生きてきた僕には薄い観念。
自分の人生を、自分で選びたい。
たとえ恋をするにしても、守られるにしても──
それは、僕が「選んだ相手」とじゃなきゃ意味がない。
そのとき初めて、本当の意味で“並んで立てる”気がするから。
(……ああ、ようやく分かった)
自分の人生を、自分の手で選ぶって、こういうことだ。
その夜、窓の外に浮かんだ月はやけに大きくて、きれいだった。
きっと明日も、やることはたくさんある。
間諜の尻尾はまだ掴めてないが、それだって僕の業務の一環だから、気を引き締めて望まねばならない。
緊褌一番──。
……やっぱり、社畜の癖は抜けそうにない。
でも。それでも。自分で決めたことだ。
———————
投稿は毎日21:30前後です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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(……やっと、全体が見えてきたかも)
この砦の補給システム──正直、最初は「面倒くさい」と思ってた。
書式も管理方法も、人によってバラバラで、誰がどこで何を管理してるのかすら曖昧だったから。
けど、それを「誰かがやること」だと思って放っておくのは、もう違うと思った。
(誰のために、っていうより──僕が、やりたいからやってる)
今の僕には、役割がある。
ちゃんと、自分の意志で決めて、動けてる。
提出書類をまとめて、副官室へ行くと、テオさんがすでに報告書を読んでいた。
「この数、正しいか?」
「はい。納品記録と一致してます。現場からのフィードバックももらいました」
「……ふむ。人員配置の再調整も必要だな。班の教育計画まで考えてあるとは、思ったより徹底してる」
「すみません。先回りしすぎましたか?」
「いや。良い判断だ」
テオさんの言葉に、僕はようやく笑えた。
それから数日間。
僕は正式に補給・記録関連の業務を受け持つようになった。
戦うわけでも、前に出るわけでもないけれど。
この砦に必要な“何か”を、僕はちゃんと担えている──そう思えた。
※
「……お前、最近やけに自信ついてきてない?」
倉庫の搬入口で、そう言ってきたのはルースさんだった。
相変わらずの軽口だけど、なぜか今日は、ほんの少しだけ“探る”ような視線が混ざっていた。
「そう見えます?」
「うん。てか、前みたいに“どうせ僕なんか”って顔、しなくなったよなーって」
「……まあ。そうかもしれません」
「何かあった?」
「いえ。別に。強いて言えば……誰かのためじゃなくて、“自分のため”にやってます。……今は、そっちのほうが大事なんです」
一瞬、ルースさんがきょとんとした顔をした。
けど、それはすぐに──薄く笑った表情へと変わった。
「へえ……言うようになったじゃん」
「……そういう時は、素直に褒めてください」
「褒めてんだけど? それでも照れてる感じ出すの、可愛いよね。番候補にされるぞ?」
「やめてください」
苦笑して肩をすくめると、ルースさんはちょっとだけ楽しそうに目を細めた。
ルースさんこそ、早く告白すればいいのにと思ったが、それは黙っておいた。
※
──夜。資料の整理を終えた僕は、ふとロナルドさんの姿を探していた。
理由は、わからない。
何か話したいわけでも、報告があるわけでもないのに。
でも、きっと心のどこかで“確認したかった”のだと思う。
今の僕が、ちゃんと見えているかどうか。
けれど、その姿を見つける前に──自分の胸の内側が、先に答えを出した。
(……違うな)
今の僕は、誰に見られるためでも、褒められるためでもない。
「あ……なんだ、僕……自分の意思で、やりたいことをやってるじゃないか」
“誰に選ばれるか”じゃなく、“何を選ぶか”。
僕は、番になる誰かの所有物じゃない。
そもそも現代世界に生きてきた僕には薄い観念。
自分の人生を、自分で選びたい。
たとえ恋をするにしても、守られるにしても──
それは、僕が「選んだ相手」とじゃなきゃ意味がない。
そのとき初めて、本当の意味で“並んで立てる”気がするから。
(……ああ、ようやく分かった)
自分の人生を、自分の手で選ぶって、こういうことだ。
その夜、窓の外に浮かんだ月はやけに大きくて、きれいだった。
きっと明日も、やることはたくさんある。
間諜の尻尾はまだ掴めてないが、それだって僕の業務の一環だから、気を引き締めて望まねばならない。
緊褌一番──。
……やっぱり、社畜の癖は抜けそうにない。
でも。それでも。自分で決めたことだ。
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