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第34話『炎の後に立つもの(前編)』
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ゼノス・アーチの瞳が、ぐらりと揺れた。
否定された現実に、何かを失ったような目でテオさんを見つめている。
けれど、次の瞬間にはその空白が怒りで塗り潰された。
「ならば──力で黙らせるしかあるまい」
その声は、静かだった。静かであることが、かえって異常だった。
ゼノスは剣を構えたまま、すっと構えを低くする。次の一手を仕掛ける構え。
まるで己の中にまだ誇りが残っているとでも言うように。
いや実際、残っているのだろう。ただそれは歪んだ誇りだろうけれど。
しかし、その一歩を踏み出す前に、イーサン団長が前に出た。
強靭な肉体に纏った黒の軍服が、風ではためいている。
「テオに手を出すなら、まずは俺を超えていけ」
その声に、ゼノスの唇が歪んだ。
「……やはりオメガは守られることしかできないようだ」
皮肉めいた声に、イーサン団長は目を細めた。
だけどその表情には、怒りも恥じらいもなかった。
「いいや。テオは強い。下手をすれば俺などよりずっと。ただ──俺が、俺の番を守りたいだけだ」
風が吹いた。地面に舞う砂埃の中で、二人の獣人が火花を散らすように睨み合う。
次の瞬間──金属の衝突音が砦の中心に響き渡った。
イーサン団長の剣と、ゼノスの剣がぶつかり合う。
重厚な剣筋に火花が散り、空気が裂けるような音が響く。
ゼノスの力は強い。だけど、イーサン団長はそれを力で受けるのではなく、身のこなしで受け流す。
手練同士の応酬が、目の前で繰り広げられていた。
「団長、援護を──!」
僕が叫びそうになった、そのとき。
横からルースさんが走り出た。剣を抜き、一直線にゼノスへ向かっていく。
「どこまであんたは歪んでるんだ……っ!」
ゼノスはイーサン団長との剣を交わしながら、横合いから迫る息子に気づいた。
だけど、ルースさんの剣が届く寸前、ゼノスは体をひるがえして、その剣を弾き返した。
「お前は……ただの失敗作だ!」
言葉と共に剣が振るわれる。
受けたルースさんの腕から、血が飛んだ。
そのまま体勢を崩し、地に膝をつく。
「ルースさん!」
駆け寄ろうとした僕を、ロナルドさんが押し止めた。
「行くな、レン。今は下がれ。あれは……あいつ自身の戦いだ」
「でも……!」
「見てろ。……騎士の戦いなんだ」
ルースさんが、立ち上がる。
腕から血を流しながら、片手で剣を構えた。
「俺が、浅ましい雑草なら──お前の根はもう腐ってんだよ」
唇の端に笑みを浮かべて、もう一度踏み込む。
ルースさん、イーサン団長、そしてゼノス。
三人の動きが重なって、空気が引き裂かれるような気配のなか、剣と剣が火花を散らしていた。
……僕はただ、立ち尽くしていた。
何もできない。いや、してはいけない。
この戦いは、正義を語りながら人を支配しようとした男の最期の足掻きであり、それを否定して、乗り越えようとする人たちの、意志の戦いだから。
空がわずかに白み始めて、砦の上に吹く風が冷たさを変える。
この戦いが終われば、何かが変わる。
いや、変えなければならない。
そして、ゼノスがふたたび剣を振り上げた、その瞬間──
「下がれ、レン!」
叫びと共に、ロナルドさんが僕をかばうように前に出た。
その直後、何かが──大きく、動いた。
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否定された現実に、何かを失ったような目でテオさんを見つめている。
けれど、次の瞬間にはその空白が怒りで塗り潰された。
「ならば──力で黙らせるしかあるまい」
その声は、静かだった。静かであることが、かえって異常だった。
ゼノスは剣を構えたまま、すっと構えを低くする。次の一手を仕掛ける構え。
まるで己の中にまだ誇りが残っているとでも言うように。
いや実際、残っているのだろう。ただそれは歪んだ誇りだろうけれど。
しかし、その一歩を踏み出す前に、イーサン団長が前に出た。
強靭な肉体に纏った黒の軍服が、風ではためいている。
「テオに手を出すなら、まずは俺を超えていけ」
その声に、ゼノスの唇が歪んだ。
「……やはりオメガは守られることしかできないようだ」
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だけどその表情には、怒りも恥じらいもなかった。
「いいや。テオは強い。下手をすれば俺などよりずっと。ただ──俺が、俺の番を守りたいだけだ」
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手練同士の応酬が、目の前で繰り広げられていた。
「団長、援護を──!」
僕が叫びそうになった、そのとき。
横からルースさんが走り出た。剣を抜き、一直線にゼノスへ向かっていく。
「どこまであんたは歪んでるんだ……っ!」
ゼノスはイーサン団長との剣を交わしながら、横合いから迫る息子に気づいた。
だけど、ルースさんの剣が届く寸前、ゼノスは体をひるがえして、その剣を弾き返した。
「お前は……ただの失敗作だ!」
言葉と共に剣が振るわれる。
受けたルースさんの腕から、血が飛んだ。
そのまま体勢を崩し、地に膝をつく。
「ルースさん!」
駆け寄ろうとした僕を、ロナルドさんが押し止めた。
「行くな、レン。今は下がれ。あれは……あいつ自身の戦いだ」
「でも……!」
「見てろ。……騎士の戦いなんだ」
ルースさんが、立ち上がる。
腕から血を流しながら、片手で剣を構えた。
「俺が、浅ましい雑草なら──お前の根はもう腐ってんだよ」
唇の端に笑みを浮かべて、もう一度踏み込む。
ルースさん、イーサン団長、そしてゼノス。
三人の動きが重なって、空気が引き裂かれるような気配のなか、剣と剣が火花を散らしていた。
……僕はただ、立ち尽くしていた。
何もできない。いや、してはいけない。
この戦いは、正義を語りながら人を支配しようとした男の最期の足掻きであり、それを否定して、乗り越えようとする人たちの、意志の戦いだから。
空がわずかに白み始めて、砦の上に吹く風が冷たさを変える。
この戦いが終われば、何かが変わる。
いや、変えなければならない。
そして、ゼノスがふたたび剣を振り上げた、その瞬間──
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叫びと共に、ロナルドさんが僕をかばうように前に出た。
その直後、何かが──大きく、動いた。
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